ノンテクニカルサマリー

企業の最適化戦略によるコモディティ現物価格、先渡し価格と先物価格

執筆者 中島 克志 (立命館アジア太平洋大学)
研究プロジェクト 商品市場の経済・ファイナンス分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「商品市場の経済・ファイナンス分析」プロジェクト

本研究では、連続時間の設定の下で、商品現物、先渡し価格と先物価格の関係を研究する。本研究のモデルでは、企業はインプットとなる商品を使用して、アウトプットの商品を生産し、その間、インプットの商品を在庫として保持し、商品先渡しの売買も行う。こうした事業を通して企業は利益最大化を行う。ハミルトン・ヤコビ・ベルマン方程式とファインマン・カッツ公式を用いて、現物と先渡し価格との関係を導出した。重要なインプリケーションとしては、現物価格は先渡し価格の割引現在価値、限界在庫費用の現在価値と現物の在庫、先物のポジション、取引量に対する制約のシャドー・プライスで説明されることが分かった。特に、シャドー・プライスは既存のモデルにおける商品の現物価格と先物価格の差として表されるコンビニエンス・イールドと解釈することができることが分かった。なお、先渡しを用いた場合だけでなく、先物を用いた場合、差金決済の場合、アウトプットの商品に対する先渡し取引の場合でも類似する関係式が得られることが分かった。そして、最適生産計画および最適取引戦略の解についても導出した。さらに、投機家・消費者を導入すると、投機家・消費者の商品現物の評価と企業の商品現物の評価の差がコンビニエンス・イールドの一部を表すことが分かった。

本研究の結果を既存のモデルと比較することもできる。既存のモデルとして挙げたのはGibson-Schwartzモデル(1990)、Schwartzモデル(1997)、Casassus and Collin-Dufresneモデル(2005)、Miltersen-Schwartzモデル(1998)であり、本研究のモデルとある種の対応関係を導いた。特に、Gibson-Schwartzモデルに対しては数値解析を用いて、Gibson-Schwartzのコンビニエンス・イールドと本研究のコンビニエンス・イールドに解釈しなおすことができる。たとえば、図からGibson-Schwartzのコンビニエンス・イールド(x軸)が10%のとき、本研究のモデルでは約3ドルのシャドー・プライスが制約に対して課されていることが分かる。

図:Gibson-Schwartzのコンビニエンス・イールドδ(t)に対する本研究のモデルのシャドー・プライスλ(t,T)
図:Gibson-Schwartzのコンビニエンス・イールドδ(t)に対する本研究のモデルのシャドー・プライスλ(t,T)

製造、加工、輸入などに携わる企業、とりわけ商社、石油、電力会社などのエネルギー関連企業、加工メーカーなどは、インプットとなるコモディティの購入契約からアウトプットの販売に至る間の価格変動の影響を常に受ける。こうした企業においては、利益最大化を目指すために、先渡し・先物を権利として購入するか意思決定する必要が生じることがある。本研究では、そのための数理モデルと実際の最適生産・取引戦略を導くものであり、実際のビジネスにおいて応用されうるものと考える。

文献
  • [1] Jaime Casassus and Pierre Collin-Dufresne. Stochastic convenience yield implied from commodity futures and interest rates. The Journal of Finance, 60(5):2283-2331, October 2005.
  • [2] Rajna Gibson and Eduardo S. Schwartz. Stochastic convenience yield and the pricing of oil contingent claims. The Journal of Finance, 45(3):959-976, July 1990.
  • [3] Kristian R. Miltersen and Eduardo S. Schwartz. Pricing of options on commodity futures with stochastic term structures of convenience yields and interest rates. The Journal of Financial and Quantitative Analysis, 33(1):33-59, March 1998.
  • [4] Eduardo S. Schwartz. The stochastic behavior of commodity prices: Impli- cations for valuation and hedging. The Journal of Finance, 52(3):923-973, July 1997.