執筆者 | 孟 健軍 (客員研究員) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1978年の改革開放以来、中国経済の高速成長を支えてきた重要な要素の1つは大規模なエネルギー供給および大規模なエネルギー消費にある。これをエネルギー構成でみると、1980年から2014年までの三十数年間、標準炭換算のエネルギー構成の70%以上は石炭であった。とりわけ、2001年末の中国のWTO加盟によって中国経済では再び重工業化が開始されたことによって石炭生産量は14.1億トンから39.74億トンまで大幅に増加した。このように、石炭産業は中国の経済社会構造転換そのものであり、伝統社会から近代社会への変化、計画経済から市場経済への移行の象徴的産業である。そして、石炭産業の隆盛の特徴は長い間、政府権力と地方利権の対立と妥協のなかに存続してきたことにある。本稿はこれを国有企業、地方国有企業および郷鎮企業などの所有形態別の石炭生産量の変化から読み取っている。
石炭産業問題の本質は中国経済発展の背後にある経済基盤、制度環境および産業組織の3つの相互関係の問題であろう。石炭産業の健全な発展が最も注目されるなか、競争と寡占、市場と政府、技術の自主開発と導入、企業所有の方式と産業の規模などの針路と位置づけが中国の経済発展および制度変化を決定づける。このような課題を解消するために、市場化への改革深化に向かって科学的根拠に基づいた体系的な石炭産業の発展政策が不可欠である。つまり、このジレンマを如何に乗り越えていくかという大きな制度設計が必要である。この制度設計に成功すれば、今後とも石炭産業が中国のもっとも重要なエネルギー供給の主体として、長期に亘って中国の新型都市化や工業化を支えていくであろう。
もう1つ重要なポイントは、エネルギー消費について、低炭素社会に向けたコミットメントと石炭利用の抑制による中央政府の環境重視政策に基づき、より環境負荷が小さい非化石燃料への移行が進められていることである。これによって、石炭供給構造の高度化が要請される今日において、効果的な過剰生産能力の解消、産業構造の最適化、産業集中度の向上、クリーンコール技術の積極的導入、石炭の生産と消費の効率化推進、石炭企業自らの技術イノベーションなど様々な研究課題がある。また、石炭企業への融資需要への対応などの産業政策、金融政策および財政政策という政策環境をいかに整備するか、という政策課題も無視できない。
また、石炭採掘業に従事している企業は2014年時点、6850社に上り、現状は過度な競争下に置かれている。炭鉱事故の減少や石炭資源の有効利用のために石炭産業の集中度向上および再編が必要である。目下、中央政府の中期目標として石炭企業が2020年までに3000社以内に整理されることを要請し、石炭企業の所有形態はその制度設計として、純国有企業、純民間企業、混合所有制企業で再構築していく方向にある。
もっとも重要なのは、中央政府が2013年から石炭価格に対する政府指導政策を全面的に停止することを宣言したことである。これによって中国の石炭価格の形成メカニズムは、政府より決められた統制価格から市場により形成される価格へと本質的な脱皮を遂げた。今後、中国におけるエネルギー消費構造転換や石炭産業の国際競争力変化などと伴い、これからの石炭産業および採掘企業の再編の鍵が市場化への改革を深めていくことであれば、その核心は石炭産業における新しい市場価格の形成メカニズムが如何にして構築されるかにある。
年度末 | 生産量 | 消費量 | 石炭バランス | 輸入量 | 輸出量 | 輸出輸入差額量 |
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1980年 | 620.2 | 610.1 | 10.1 | 2.0 | 6.3 | 4.3 |
1985年 | 872.3 | 816.0 | 56.3 | 2.3 | 7.8 | 5.5 |
1990年 | 1079.9 | 1055.2 | 24.7 | 2.0 | 17.3 | 15.3 |
1995年 | 1360.7 | 1376.8 | -16.0 | 1.6 | 28.6 | 27.0 |
2000年 | 1384.2 | 1356.9 | 27.3 | 2.2 | 55.1 | 52.9 |
2005年 | 2365.1 | 2433.8 | -68.6 | 26.2 | 71.7 | 45.5 |
2010年 | 3428.4 | 3490.1 | -61.6 | 183.1 | 19.1 | -164.0 |
2013年 | 3974.3 | 4244.3 | -269.9 | 327.0 | 7.5 | -319.5 |
出所:国家統計局編『中国統計年鑑』と石炭工業協会編『中国石炭統計年鑑』各年版より筆者作成 |