ノンテクニカルサマリー

企業の社会的責任と男女均等

執筆者 加藤 隆夫 (コルゲート大学)/児玉 直美 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト ダイバーシティと経済成長・企業業績研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「ダイバーシティと経済成長・企業業績研究」プロジェクト

これまでの政権では、女性活躍推進は福祉政策やCSRの一環として、あるいは人権の問題として捉えられてきた。しかしながら、安倍政権において、女性活用は、経済を活性化する経済政策、企業の活力を高める経営戦略の一環と位置づけられている。

女性活躍とCSRには関係があるのだろうか? また、女性活躍推進のために行われるワーク・ライフ・バランス施策はCSRの1つとして行われているのだろうか?

この点を明らかにするために、我々は、2006-2014年の日本の上場企業1492社が含まれるCSRデータを使って、企業の社会的責任(CSR)が男女均等に与える影響について分析した。企業文化などの企業固定効果を考慮した分析によると、CSRの取り組みは2、3年後に男女均等にプラスの影響をもたらす。そのようなCSRの効果は、伝統的な日本的雇用慣行を持つ企業でより大きい。これは、CSRの効果は、相対的に強い力を持つ利害関係者がCSRに関心があるかどうかに依存するという理論にほぼ整合的である。最大の利害関係者がCSRに関心がなければ、CSRは形式主義に終わる。伝統的な日本的雇用慣行を持つ企業における最大の利害関係者は従業員であり、従業員が望む方向にCSRは進む可能性が高い。

実証結果によると、CSRの効果は、決して小さくもないし、信じがたいほど大きいわけでもない。日本的雇用慣行を持つ企業では、CSRに取り組んで3年後には、CSRスコアが1標準偏差分増えると、平均女性採用者数が17.5人に対し0.8人女性採用者数が増え、平均女性管理職数が26.2人に対し1.7人女性管理職数が増え、平均女性部長数が1.69人に対し0.16人女性部長数が増える。ワーク・ライフ・バランス施策をコントロールしても、CSRが男女均等に及ぼす影響はほとんど変わりがない。これは、CSRがワーク・ライフ・バランス施策を経由してではなく、直接的な効果があることを示している。女性活躍を推進するための政策を考える際には、政策立案者はCSRが男女均等に及ぼす潜在的な役割や、雇用慣行の違いによって、CSRの効果が違うことに留意する必要がある。

図:CSRが女性管理職に与える影響
図:CSRが女性管理職に与える影響
注1:CSR指標が1標準偏差分増えた場合、大卒男性離職率が平均的な企業と離職率が第1四分位(下から25%に位置する)の企業の女性管理職数を比較している。
注2:女性管理職数の平均値が26.2人に対し、CSR取組3年後には、離職率が平均的な企業では0.65人、離職率が低い企業では1.66人女性管理職が増えることを示している。
注3:推計結果は、ワーク・ライフ・バランス施策、年固定効果、企業固定効果でコントロールされている。