ノンテクニカルサマリー

東日本大震災の地域間のスピルオーバー効果

執筆者 Robert DEKLE (University of Southern California)/Eunpyo HONG (University of Southern California)/Wei XIE (University of Southern California)
研究プロジェクト 組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「組織間の経済活動における地理的空間ネットワークと波及効果」プロジェクト

東北地方が日本のGDPに占める割合は約4%と、あまり大きくない。しかし、東日本大震災およびそれに伴う津波による生産ショックは大きなもので、1年以上にわたって日本全国の生産に負の効果を及ぼしたことが、本論文の推定から示された。この理由の1つには、東北地方が、日本のその他地域での生産に使用される、電子部品を含む中間財の主要な生産地であったことが挙げられる。

実際に、下図から、日本全体の傾向と比較して、東北地方で工業生産が低下したことが読み取れる(点線が東北地方の工業生産を表す)。3.11の震災の直後である2011年の第2四半期には、東北地方では9.2%、日本全体では4.1%の工業生産の減少が見られた。その後1年にわたり、工業生産は震災以前の水準を下回っている。

本論文では、この東北地方の工業生産へのショックが日本全国にどう伝播したか、統計的手法を用いて分析した。われわれの統計モデルでは、過去のデータを用いて各地域と各産業を産業連関構造によって関連付けており、この関係構造によってショックが空間的にどう伝播するのかについて予測する。この予測結果は、事後的な結果により検証することが可能である。

本研究により、東日本大震災が日本の他地域に与えた影響は、震災のおよそ6カ月後が最も大きく、また震災が日本全国の工業生産に与えた影響は、驚くほど大きなものであり、約2年にわたって続くこと、東日本大震災によって最も影響を受けた地域は、東北地方で生産される中間財への依存度が高かった中部地方であることが、モデルより推定された。

この推定結果は、実際に起きた事後的な結果より大きなものである。日本全国の生産は約6カ月後には、震災前の水準にほぼ戻っている。このような違いが起こる理由として、モデルによるシミュレーションでは、震災後に新たなショックがないと仮定していることにある。実際には、震災のショックを軽減させるために、政府や民間企業によってさまざまな対応が取られた。政府は、東北地方や他の地域を救うために、多くの財政的な政策を行ったし、民間企業は、サプライチェーンの破壊によるショックを減らすために、代替的な取引先を即座に探していた。シミュレーションの結果は、政府や民間企業の反応は変わらないことを仮定しているのである。

我々の研究は政策への重要な示唆を持つ。日本の地域は強く結ばれており、ある地域で生産できなくなると、他の地域へ大きな負のショックを与えうること、これらのサプライチェーンの破壊は1年にわたり続くことが分かる。このことは、ある地域の仕入先にダメージがあった場合、他の地域から仕入れることにより克服できるよう、企業は代替的な仕入先を地理的に分散させるべきであることを示唆している。

最近では、熊本地域で大地震が起き、日本全国のサプライチェーンを破壊した可能性がある。この研究で用いた手法により、熊本地震の日本の他地域に与える影響について、この先数カ月の予測をすることが可能であり、そうした分析に活用することが出来ると考えられる。

Figure: Tohoku and Nationwide Industrial Production (Tohoku, dashed line)
Figure: Tohoku and Nationwide Industrial Production (Tohoku, dashed line)係