やさしい経済学―GDP統計の基準改定と課題

第5回 「資本サービス」の概念を導入

野村 浩二
ファカルティフェロー

国連の08SNA(国民経済計算)勧告では「資本サービス量」の測定も推奨されています。資本サービスとは生産に使用される資産(ストック)の各期における生産への貢献(フロー)を意味します。研究開発(R&D)や防衛装備品のように、直接的な利用が必ずしも明確ではない資産を資本化する背景には資本のサービス概念の導入があったものと考えられます。

生産には資本と労働が投入されます。日本の国民経済計算(JSNA)では雇用者の投入労働時間は測定されていますが、基準改訂後は自営業主らの労働投入時間データの開発も計画されており、JSNAとしての労働生産性指標も算定できるようになります。

潜在成長力や、現実の成長率との乖離(かいり)を示す需給ギャップの測定では、資本の投入量として実質資本ストックが使われてきました。生産分析を行う経済学者は、より望ましい投入量として資本サービス量を計測しています。自己所有している資本ストックは、それがレンタルされているかのように年間の利用量へと換算されます。

資本のストックとサービスの測定における相違は、資産ごとに異なる年次貢献分の考慮にあります。何十年も利用される資産がある一方、わずか数年で価値がなくなるものもあります。資産の除却は物的な摩耗よりも経済的要因が優勢で、R&Dストックでは陳腐化も大きな要因です。資産のもたらす実効的なサービス期間の差異を考慮し、各資産を適切に集計していくことで、より望ましい資本サービス量が測定されます。

そのためには実証的基盤の見直しも必要です。かつてJSNAの資産分類は6つに限られ、またストック測定法も国際基準から乖離していました。内閣府経済社会総合研究所は数百の資産分類に基づく資本ストック統計を新たに開発し、その成果は前回の基準改定時に部分導入されました。

新しい基準改定では実証分析に基づく詳細な償却率の反映など、さらに精度を高めた推計値が組み込まれます。資本サービス量の公表は翌年以降となりますが、潜在成長力推計の改善や生産性統計の開発の核として期待されます。

2016年9月28日 日本経済新聞「やさしい経済学―GDP統計の基準改定と課題」に掲載

2016年10月12日掲載

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