やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション

第4回 顧客企業から事業化アイデア

元橋 一之
ファカルティフェロー

大企業のように自社に大きな経営資源を抱えていない中小企業にとって、オープンイノベーションはより切実な経営課題です。日本には技術力のある中小企業が多く、大企業のモノづくり基盤を支えていると言われています。しかし、技術革新やグローバル化の波の中で、中小企業が自社技術のみで安定して経営することは難しくなっています。

その中で、外部連携を通じたイノベーションによって着実に業績を伸ばしている企業が存在します。それらの企業は社長のリーダーシップでリスクを取って新たな事業に挑戦していることが特徴です。

例えば、半導体製造部品の精密研磨加工や赤外線センサーの応用製品などを手掛けるHME(三重県桑名市)はその1つです。現社長は、メッキ中心の表面処理事業を営む会社を引き継いだ2代目社長で、外部連携を通じて多くの技術や事業を取り込み、新規事業を集めてHMEとして別会社化しました。自社開発と産学連携などの外部連携を組み合わせて、常に技術力の向上を図っていることが特徴です。また、新事業を創出するために企業間連携も常に行っており、社長は地元の中小企業ネットワークの代表も務めています。

日本のモノづくり系中小企業のほとんどは大企業などの企業を顧客としたB2Bビジネスを営んでおり、大企業の下請け体質が強いとも言われます。しかし、中小企業のイノベーションにおいて顧客企業の声は重要です。自社技術をどのように製品に生かすのか、事業化のアイデアが得られるからです。事業化プランが定まれば、外部から取り込む技術を具体的に絞り込むことができます。

従って、大学における細分化された技術をピンポイントで拾い上げて事業化する中小企業の産学連携は、大企業より経済的効果が高いと言われてます。また、既存顧客との取引から得られる事業化のアイデアをベースに、新事業の構想に膨らませて新規顧客の開拓につなげることができます。このような顧客企業との連携を軸に新規事業を開拓するやり方は、日本企業が得意とする「日本型オープンイノベーション」とも呼べるでしょう。

2016年7月14日 日本経済新聞「やさしい経済学―日本企業のオープンイノベーション」に掲載

2016年8月3日掲載

この著者の記事