経済を見る眼 始動する公共部門の働き方改革

佐藤 主光
ファカルティフェロー

働き方改革の波は、地方自治体を含む公共部門にも押し寄せている。自治体では2020年度から新たな雇用制度として、「会計年度任用職員制度」(以下、任用職員制度)が導入される。

自治体職員は正規職員と嘱託などの非常勤職員に大きく分けられる。ただし非常勤であっても正規職員と同様の職務(仕事)をこなすなど、両者の仕事の違いはあまり明確でなかった。一方で給与や昇給を含む待遇面は大きく異なっていた。「同一労働・同一賃金」にはなっていなかったのである。

従前の一般職非常勤職員は、新たに定められた会計年度任用職員に換わる。さらに新制度で採用される職員については、①正規職員と職務を分ける、②これまでなかった期末手当(ボーナス)を支給する――などが要請されている。

筆者は自治体関連の仕事をする機会があるが、民間委託のほうがかえって行政コストが高くつくという話を聞いたりする。その背景には非常勤職員を比較的安く雇用できる状況があった。公共部門の「ブラック化」といわれるゆえんでもある。

実際、自治体は正規職員の数を減らす一方、福祉や子育て支援など人手の不足する分野に非常勤職員を多く充ててきた。しかし、期末手当の発生する任用職員制度では人件費が増加することになる。とはいえ、任用職員を減らすと正規職員の業務が増加しかねず、多くの自治体は対応を迫られている。

また、地方圏では人口の減少が深刻だ。このことは自治体が非常勤を含め職員の確保に苦慮することを示唆する。総務省の研究会も、人口減少で40年には今の半数の公務員で行政を支える必要があるとする。

ヒト・モノ・カネでいえば、自治体は総額21兆円の基金を抱え、地方交付税などを通じた国からの手厚い支援もあって、カネ=財源を必ずしも欠いているわけではない。モノ=公共施設・社会インフラも整備されており、むしろ、その集約化が必要なくらいだ。今後欠くのはヒト=人材であろう。地方の人口減少は、公務員の「働き方改革」を求めているのである。

ではどうするか? これまでのように非常勤職員(20年度以降は任用職員)を充てるなど行政サービスをすべて自前で提供することには限界がある。そこで考えられるのが、正規職員と業務を切り分けたうえで、住民票交付などの窓口サービスや公共施設の運営を民間事業者に任せることだろう。

インフラ管理を担う技術職など専門性の高い人材を欠く、人口規模が小さく民間委託は難しいといった自治体であれば、近隣自治体と連携して専門人材を共有したり共同で委託したりしてもよい。総務省も連携中枢都市圏構想など広域連携を推し進めてきた。窓口サービスを含む業務で不足するヒトは機械(情報通信技術=ICT)に置き換えていくのも手だ。

このように任用職員制度を改革の「入り口」とすれば、民間委託や広域連携、ICT化はその「出口」になりうる。公務員の業務量抑制で、それらの人々のワーク・ライフ・バランスに寄与するとともに、行政を効率化して財政再建につながることも期待できる。

『週刊東洋経済』2018年10月27日号に掲載

2018年11月14日掲載

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