開催日 | 2022年10月20日 |
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スピーカー | 金丸 剛久(ブラウンリバース株式会社 代表取締役社長 & CEO) |
コメンテータ | 佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター / 経済産業省大臣官房参事) |
モデレータ | 木戸 冬子(RIETIコンサルティングフェロー / 東京大学大学院経済学研究科 特任研究員 / 国立情報学研究所研究戦略室 特任助教 / 日本経済研究センター 特任研究員 / 法政大学イノベーションマネジメントセンター 客員研究員) |
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開催案内/講演概要 | 世界で日本が勝てるDXはあるのか? − 完全バーチャルの世界はこれまで米国企業が圧倒的に優勢だが、モノづくり日本の「現場力」とデジタルを組み合わせれば、世界でも十分勝てるのではないか。 |
議事録
現場の課題を解決するデジタルツイン
国内プラントの操業現場は、共通課題として、設備の高経年劣化、労働環境、エネルギー市場の変化という三重苦を抱えています。それに対してわれわれは、こうした現場が、重大事故や計画外停止を起こさずにプラントライフをまっとうできるようにすることをミッションとしています。
われわれのお客さまは、いわゆる投資の世界でいうブラウンフィールド(新しく設備を作るグリーンフィールドではなく既存設備を対象とすること)で、この分野にリバースエンジニアリングをかけることによって新たな社会的な価値を見いだすことを企業理念として、この社名になっています。
われわれが3年前に立ち上げた統合型のスマート保全サービス「INTEGNANCE」は、Integrated Maintenanceからの造語で、データを一元管理する「データ基盤」、データを用いて高度な分析を行う「分析モジュール」、プラントの外観に属性データや分析結果を表示する「ビューア」の3点セットで構成されています。
このビューアで、現場の事業所にいる製造課、設備管理課、保安課の方が同じ絵を見て作業することで、正確なアクションにつながっていく。さらに、ビューアで、事業所だけではなく施工業者や本社の人間も同じ絵を見ることによって、コミュニケーションロスを防ぐことができます。このサービスをいち早く現場に導入することで、現在の作業が劇的に改善されるとわれわれは考えました。
ファストデジタルツインで時間とコストを圧縮
デジタルツインのこれまでのアプローチは、緻密で重厚長大なものを構築しようとするものでした。つまり、精度の高いレーザースキャナーを使って、点群データをモデリングしてCADで表現するという、設計で使うようなツールを既設のプラントにも持ち込もうとしていたのです。
しかし、これではお金と時間が相当かかるため、低コストで即運用を始める、ファストに行うのがわれわれの仮説です。現場でスケッチしたり写真を撮り直したりしなくても、ビューアで作業が楽になることをまず体感してもらうことが重要で、一度使ってみると現場はもっと精度を高めようとするので、その動きをとらえてデータの民主化や複合現実を実現することがわれわれの根本的な提案です。
このため、モビリティ型のスキャナーでレーザーを飛ばしながら現場を歩いて、その日のうちに画像を提供しています。これにより、例えば床面積1万m2のモデルの場合、精緻なデジタルツインだとコスト700万円、納期60日であるのに対し、われわれのファストデジタルツインではコスト100万円、納期は最短3日に圧縮できるようになりました。
主な用途としては、定修の工事計画、検査計画、日常保全です。現場の方々は過去どうなっていたか、前回何をやったかという情報を収集する、検索する、入手するところに1日1時間使っています。それが大幅に削減でき、例えば時給5000円の人が10人いたら、削減効果として1200万円はあります。
われわれのサービスは大手のCADのビューアと比較すると、価格でゼロが1つ、2つ違っていますが、現場の裁量で導入を判断しやすい価格に設定しています。おかげさまで、とにかく安くて早い、ファストな3Dモデルを構築できるファストデジタルツインが業務に活用できる、というイメージを非常に持ちやすいと高く評価を頂いています。
デジタルツインのロードマップ
われわれのビューアでは、2020年頃には2次元画像上の物体を面でとらえ、ディスプレー上で2点間の距離を測長する機能がすでにありました。それが今は距離だけでなく、3次元のオブジェクトをVR上に自由に配置してシミュレーションできるようになっています。
次の段階では、定期修理工事の履歴を場所・時間・業者単位で3次元的に管理できるようになります。例えば2028年の次回定修のときに、前回どこで何をしたかという情報をすぐに呼び出せるような使い方を想定しています。
また、配管ナビゲーションという機能を、来年(2023年)春ごろの実装を目指して開発しています。私は配管を制する者はプラントを制すると思っていて、どのお客さまも配管を1つ1つ管理したいという要望があります。配管Aを抽出すると配管Aの絵が浮き出て見える。それをぐるぐる回して閲覧できるような世界ですね。それを実現するために、3次元情報と2次元画像を組み合わせて配管を立体構造物として自動的に識別する手法を取っています。識別率はまだ低いですが、学習速度を上げることで識別力は上がっていくと考えています。
これによって、管理者の関心や目的(配管の損傷度、余寿命、コスト、環境影響度)に応じた配管の可視化ができるようになり、迅速に意思決定ができると想定しています。プラント上の濃淡のない配管をカラーコーディングすることで、自分が対象としている配管の形状や状態を見られるようにすれば、作業性は非常に上がるでしょう。
こうした技術は、事業活動におけるCO2排出量の削減につなげられると思っています。20年間のプラントライフについて、設計、調達、輸送、建設、保守、操業という各フェーズでどれだけCO2を排出しているかを見ると、ほとんどは操業時の排出です。増改築やプラントを廃棄するときにもCO2が発生しますので、そのときにどういう基準で判断したらいいのかなども可能になると考えています。
最初は工場単位でそういった最適化が行われていき、それが企業全体、さらには業界全体で「競争力」ではなくて一緒にやっていくという「協創力」が重視される世界になるでしょう。今まで10人でやっていた作業が5人できるようになって、操業活動における環境影響度評価もできるようになり、バリューチェーンの見える化が進んでいくでしょう。
そして2024~2025年ごろには、デジタルツインを活用するフェーズが訪れると思います。設備保全の情報と生産運転の情報が融合し、運転や予知保全などにおいてより精緻なシミュレーションが可能となり、現実と仮想空間のシンクロ率がアップする世界が来るでしょう。プラントは非常に多変数で操業されているので、今のコンピュータレベルではなく、最適化問題が得意な量子コンピューティングを使えば、常に最適な判断ができるようになると思います。それがデジタルツインのあるべき姿だと考えています。
こうしたプラント設備保全のDXを実現するための過程を、われわれは2DI~6DIの5段階で表しています。自動運転の5段階を当てはめ、DI(Dimensional Integrity)という単位を定義しました。
2DIは現在の世界です。それぞれのアプリが独立していて、業務システムは業務ごとに完結しており、業務間の連携がなく全体的な最適化は頭打ちの状況です。これを打開するために、今まさに3DIを実現するファストデジタルツインをわれわれは市場に導入しています。特徴としては、没入感のある仮想空間を実現し、ウォークスルーによって現場にいるような感覚を生み出して、リモートワークができる世界を実現できると考えています。
その次の世界が4DIで、データの民主化が行われます。業務ごとにファストデジタルツインを使うのですが、組織横断的にデータを活用できるようになります。それによってデータの垣根がどんどんなくなっていくでしょう。そのときに、データを人の手で一生懸命整理するよりも、機械側で自動的に整理させるところにコンテキスト化のような技術が使われていくと思います。
5DIでは、皆さんが描いている高度なデジタルツインの世界になります。現実とのシンクロ率がアップして、運転もシミュレーションできるし、ダッシュボードとしてどこで何が起こっているのかも一目瞭然になります。初めてここで機械学習、深層学習が生きてくるでしょう。
6DIではどういった世界になるか、私自身もよく分かりませんが、循環型経済が進行して設備のシェアリングが行われたり、CO2排出量が見えるかされたりして、効率の悪い工場の淘汰が加速していくと思っています。ここまで来ると、事業所内で抱えている人や知識がボーダーレス化され、みんなで共有する世界になっていくでしょう。
身近になりつつあるデジタルツインの世界
このロードマップのベンチマークは、Googleマップの進化でした。約15年前にGoogleマップが最初に出たときは、道路もろくに載っていないし、こんな地図が使えるのかと思ったのですが、今となってはこの地図があることでいろいろな情報を取得できます。レストランが何時から営業しているかといった細かい情報までピックアップできますし、目的地までの所要時間がかなり精度高くシミュレーションができます。こうした世界がプラントにおいても実現できるのではないかと考えています。
デジタルツインを身近に感じられる事例としては、「Mini Tokyo 3D」といって、東京の公共交通のオープンデータを使って電車の運行状況を全部シミュレーションできるサービスがあります。
それから、米国のMatterportは、もともと不動産内覧用に作られたものなのですが、アカウント登録すると、カメラで撮った場所の3Dを自動で作ってくれます。こうした世界がかなり浸透してきていることを体感してほしいと思います。これは少し公共性が高く、プラントのような秘匿性の高いところにはあまり適用できないので、こうして提供されている機能をわれわれは横目で見ながら、Matterportのような世界を目指しつつ、事業を展開しています。
コメント
佐分利:
デジタルツインは日本や世界を救えるのではないかと思っています。デジタルツインとはサイバー空間内に現実空間の環境を再現することであり、まったくの仮想空間であるメタバースではありません。つまり、デジタルツインはリアルとつながっていて、現実世界を変える力があるのです。
デジタル世界に国境はないので、この分野で日本が強くなれば世界中の問題が解決できると思います。あらゆるものが可視化されればシミュレーションも可能になりますし、社会的なインフラはもちろん、教育や福祉、人々の幸せについても分かるようになるでしょう。また、デジタルでシミュレーションができれば、人の移動も不要になりエネルギー消費も減らせます。
質問ですが、日本がデジタルツインの世界(6DI)で卓越するには何が必要でしょうか。Winner takes all なので、最初に日本が勝てればそのまま勝ち続けられると思うのですが、実際に勝ち続けるための方策があれば教えてください。
金丸:
6DIの世界を実現できる公算はかなり高いと思って私はこの事業を推進しています。なぜなら、現場の力は非常に強いからです。ただ、現場の力が強いのに、最適のツールが渡されていなくて、2次元の世界で止まったままなのです。そこを3次元に転換させることで、非常に変わっていくでしょう。現場で3Dを使った業務を早く浸透させていくことが鍵になると思いますので、ユーザーの皆さんのご支援を頂きたいと思います。
質疑応答
- Q:
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プラント内の改造や設備の新設が行われた場合、再撮影・測定をすることでアップデートが可能でしょうか。その場合、入力データは引き継がれるのでしょうか。
- A:
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引き継がれます。1回入力した情報は3次元の座標にひも付いているので、写真は差し替えるだけです。
- Q:
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写真から3Dを作成した場合、タグ付けを簡単にできる方法はあるのでしょうか。
- A:
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これは大変な作業で、まずお客さまで管理されている台帳なり機器リストなりをシステムに流し込み、その機器がどこにあるかは最初に定義付ける必要があります。これは人がやればすぐにできることなので、まずはデータ基盤とその機器がどこにあるかをひも付けし、そこから優先度を付けながら登録作業をすればいいと思います。そうした登録作業をどんどん学習させることで、半自動的に場所とデータ基盤をひも付けるような仕組みもいずれは実装していきたいと考えています。
- Q:
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機密が含まれる写真などにアクセス情報の制限を付加することは可能でしょうか。
- A:
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誰でも何でも見られる状況を作るのはまずいので、この協力会社にはこの部分しか見せないといったアクセス権限はできるようになっています。
- Q:
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化学プラントの配管以外のモデルとして、老朽工場・家屋の改築判断にデジタルツインを利用してはいかがでしょうか。
- A:
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いろいろな業種によって何をモデル化したいかというのがあるとわれわれは認識しているので、とにかく一度やってみて、それが使えるかどうかを確認するのもいいと思います。管理している会社が大きければ大きいほど、そのメリットは出てくるはずなので、ぜひ試してみることをお勧めしています。
- Q:
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デジタルツインに関して、日本はこの分野に進出すれば勝てるのではないかというものはりますか。
- A:
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われわれは親会社の日揮が取引しているリファイナリーや化学プラントのお客さまとある程度信頼関係を築けているところがアドバンテージだと思っているので、まずはそこからどんどん事例を作り、成功事例を発信しています。その発信の仕方も、事業所内で完結させるのではなく、オープンなマインドでやっていけると、われわれの勝ち筋は一層濃くなると考えています。
- Q:
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海外で稼働中のプラントの遠隔保守への活用事例や現地人材の指導訓練用の事例はありますか。サプライチェーン強靱化の観点から今後もますます需要が高まると思いますが、事業発展上の課題はありますか。
- A:
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海外でいくつか事例が進行しつつあります。ただ、どんなメリットが生まれるのか、これから検証していくところなのですが、来年(2023年)早々にはそうしたことを世の中に発信できたらと思っています。
- Q:
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プラント保有者からすると、大規模工事後の撮影をするというイメージでしょうか。撮影頻度はどの程度とお考えでしょうか。毎月の保守費用はクラウド利用料ということになりますか。
- A:
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大規模工事後にその姿をいったん撮り、どこか変わったら、その部分だけ撮影し直すという運用にはなります。頻度はお客さまのニーズ次第であり、定修が4年に1回、8年に1回だったらそれで十分かもしれないし、外面の腐食状況もデジタル的にモニタリングしたいのであれば、その都度撮って蓄積していく運用もあると思います。毎月の保守費はクラウド利用料となり、毎月1人あたり4000円程度になります。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。