国際ワークショップ

Frontiers in Research on Trade Costs(報告書)

イベント概要

  • 日時:2016年8月4日(木)10:00-17:50
  • 会場:RIETI国際セミナー室(経済産業省別館11階)
  • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)
  • 共催:一橋大学社会科学高等研究院、および、科学研究費補助金基盤(S)(課題番号26220503)

報告書

2016年8月4日、RIETIにおいて、プロジェクト「貿易費用の分析」(リーダー:石川城太ファカルティフェロー)のワークショップ"Frontiers in research on trade costs"が開催された。この分野の先端的研究を行っている4名の外国人研究者(Alan Deardorff (U. of Michigan)、Andreas Moxnes (U. of Oslo)、Dennis Novy (U. of Warwick)、Yi Lu (Hitotsubashi U. & National U. of Singapore))とプロジェクトメンバー2名が報告し、プロジェクトメンバーが討論者を務めた。そこで報告された6本の論文の概要、および成果は以下のとおりである。

Alan Deardorff氏は、"Rue the ROOs: Rules of Origin and the Gains (or Losses) from Trade Agreement"を報告した。この論文は、3国・3セクターの簡単な理論モデルを用いて、原産地規則のある自由貿易協定は全く貿易協定のないケースよりも経済厚生が悪化する可能性があることを例示している。

Andreas Moxnes氏は、"Multinational Firms and Export Dynamics"を報告した。この論文は企業レベルの詳細なFDIと輸出に関するデータから、FDIの退出率が輸出の退出率よりも極めて低いという新たな事実を提示し、既存のFDIのモデルに、サンクされるFDIの参入固定費用を導入した新モデルを提示した。そのモデルを用いて、FDIの参入費用は輸出の固定費用の60倍以上にもなるという驚くべき推計値を得た。本論文はFDIの参入費用を推計する新手法を提示しており、政策的にも大変興味深い。

Dennis Novy氏は、"Currency Unions, Trade, and Heterogeneity"を報告した。多くの先行研究では通貨統合がどう貿易の流れを変え、またどれくらいのインパクトなのかを計量分析している。この論文はトランスログ型のグラビティモデルにて、通貨同盟の貿易に与える効果を実証分析し、通常の推計とは一線を画し、国により効果が大きく異なることを発見した。小さい国ほど通貨統合の影響は大きく、大きい国ほど小さいことが分かった。さまざまな国際間の協定や同盟は貿易に大きな影響を与えるが、一筋縄では効果を測定できず、参加国間で影響が異なることを示唆しており、今日のTPP推進にも重要な示唆を与えているといえる。

石川城太・早川和伸両氏は、"What goes around comes around: Export-enhancing effects of import-tariff reductions"を報告した。Ishikawa & Tarui論文(RIETI DP: 16-E-006)の理論モデルから得られた結論を実証的に検証し、関税引き下げがその国からの輸出の輸送費を引き下げて、輸入のみならず輸出も増加させるという理論的結論をサポートする結果を得た。関税引き下げの新たな効果を実証的にも指摘した点は、政策的にも大変興味深く、貿易自由化の1つの根拠となり得る。

Yi Lu氏は、"Does Trade Liberalization with China Influence U.S. Elections?"を報告した。この論文では、2000年10月に米国が中国に与えた永続的な正常貿易関係 (Permanent Normal Trade Relations, PNTR)に注目し、貿易政策の政治的な影響を検証している。具体的には、PNTRの付与により、中国との競争により晒された地域において、議会選挙での民主党候補への投票が有意に増えていることが、群レベル (county-level)のデータを用いて実証的に示された。また、当選した民主党候補が実際に保護貿易措置や経済支援措置に賛成していることも明らかにされた。貿易政策が選挙に有意な影響を及ぼしているとの結果は、米国大統領選挙を控えるなかで非常に興味深いといえる。

武智一貴氏は、"The quality of distance: quality sorting, Alchian-Allen effect, and geography"を報告した。この論文では、貿易コストが高い市場に対して高品質財が供給される傾向にあるという関係が、どういったメカニズムにより生み出されるか検証している。従量型の貿易コストの存在が重要な要因であり、そのコスト低減効果が厚生に与える影響も大きい点を明らかにしており、総合的な輸送インフラの改善政策の重要性を示している。