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政策シンポジウム他

難航するWTO新ラウンドの打開に向けて−多角的通商体制の基本課題と我が国の進路−

FTAや経済連携協定など地域経済統合が進む反面、2001年のドーハ閣僚会議以後、WTO新ラウンド(ドーハラウンド)の進捗状況は思わしくありません。しかしながら、我が国は伝統的にGATT、そしてWTOによる多角的貿易体制から多大な恩恵を受け、またこれに強いコミットメントを示してきました。また、これまでに締結された地域経済統合協定も、すべてWTO協定との整合性を謳っており、WTO協定を交渉の土台としています。このような重要性を考えれば、WTOでの議論を再活性化させなければいけませんが、そのためにはどのような視点が必要なのでしょうか。
本シンポジウムは、この困難な基本的課題を、1)地域主義との関係、2)WTO機構の強化、3)通商政策決定の国内プロセス、4)グローバルガバナンスに分け、国際経済学、国際政治学、国際法学の専門家による学際的研究を通じて検討します。ダンピング規制、農業貿易など、新ラウンドの個別イシューの研究も重要ですが、本シンポジウムはむしろこれらの個別交渉の難航の理由となる「哲学の相違」にスポットライトを当て、我が国の新ラウンドでの基本姿勢と貢献のあり方を提言したいと考えています。
1) 地域主義との関係:地域主義の隆盛は相対的に多国間通商体制の重要性を低下させるかに見え、事実WTOのサザーランドレポートもその隆盛と差別のネットワークに警鐘を発する。しかしながら、他方で我が国のFTA/経済連携協定の隆盛を見れば、地域経済統合の広がりは否定しがたい事実であり、その補完機能は否定されるものではない。その両立に向けて、両者にはどのような形態が望ましいのか。
2) WTO機構の強化:148カ国のコンセンサス方式は限界に達しており、より実効的な意思決定が望まれる。特に存在感を高める途上国、市民社会を建設的にWTOの意思決定に参加させるには、どうすればよいか。また、司法化の反面、主要国のDSB勧告不履行を生む紛争解決手続について、より正当性を高め、着実な結果の履行を確保するためにはどうすればよいか。ウルグアイラウンドで「ガット機能の強化」を交渉したように、WTOでも同様の課題を論じる時期に来ている。
3) 通商政策決定の国内プロセス:農業をはじめ、繊維、鉄鋼などの分野において伝統的課題である保護主義圧力への対処は、依然として各国に困難な課題である。更に、昨今欧米諸国では、市民社会や企業の通商交渉・紛争への関与・参加が活発だが、我が国では未発達である。こうした「民意」を、ある時は保護主義圧力とならないようコントロールし、ある時は実効的に交渉推進や紛争解決に反映させる方途を国内の政策決定過程に構築するには、どうすればよいか。
4) グローバルガバナンス:90年代の「貿易と環境」問題が起こってから後、WTOは労働基準、文化、人権などの非貿易的関心事項への配慮を求められ、更に今ラウンドでは途上国からは貧困・開発に対する注意も喚起されている。こうした取り組みは、いわゆる市民社会からの強い要請でもあり、WTOは単なる「国際貿易機関」としての枠組みを越え、もはや総合的な国際経済機関への脱皮を求められている。その場合、新しいWTO体制のガバナンスのあり方はどうあるべきか。