自動運転への社会的課題:人工知能からルール化へ

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

人工知能のルール化

人工知能が新聞記事にならない日はないほど、ブームとなっている。現在の課題は、人工知能がより使われるようになった際に、社会がいかにしてプログラムすべきルールを事前に決めるかについての議論が進んでいないことである。

ビックデータや計算速度がいかに上がろうが、合理化できる可能性が上がろうが、基本的な目的を何にするか、どう目的を合意できるか、社会的にジレンマとなりうる課題にどう折り合いをつけるかの合意なしに、人工知能で一般的に労働の半数近くが代替出来るなど大きな社会変化は起きようがない(注1)。

自動化がされていると思った消費者が、実はそこまで自動化がされておらず注意を怠り事故につながることもある(注2)。

簡易な技術から自動化への代替が進んでいき、決定の権限が人間か自動化か悩ましいものがあれば、事前にどちらに権限を与えるか決めておく必要がある。

自動運転への期待と課題

人間がハンドルを握って操作することなく、自動で目的地まで辿りつける自動運転の自動車(autonomous car;ロボットカー、ドライバーレスカーとも言われる)がメディアも含めて注目を集めている。ここでは、その自動運転について一般の人々がどのような考えを持っているか説明し、人工知能や将来的には人工生命の議論をどう考えるべきかの土台になるべく紹介しよう。

我々は、現在の日本でどの程度の受容性があるか理解を進めるために24万人超の大規模アンケートを行った。完全自動運転のユーザ受容性を判断することが第1の目的である。その上で通常進化シナリオでの完全自動運転車の市場ポテンシャルと課題、そして誰がどのような条件(価格、機能)であれば購入する可能性があるか、最後に導入・購入に関する懸念点は何かを調査した。

完全自動運転の購入可能時期の予想を一般消費者に聞いたところ、1〜15年後に回答が集中しており、平均購入可能時期予想は約9.5年後の2025年度である。70%以上の回答者がなんらかの購入可能時期を予想していることから、完全自動運転への認知度や期待値は高いと考えられる。

次に自動車を購入すると仮定して、購入者が、運転者がいなくても移動できる自動運転機能のオプションをつけるか聞いたところ、全体として完全自動運転の購入に前向きなのは47%であった。購入するとしている回答者の中では男性が女性よりも多く、大きな差がみられた。また車の保有をしていない・免許の所持なしでも、それぞれ41%・44%の購入意思があると回答し、これらは自動運転機能なしでは利用できない為、自動車メーカーとしては新たな顧客層として捉えることが出来る。

どのような状況で自動運転の利用を想定するかを聞いたところ、全体的に高速道路での利用を想定する回答者が約半数であった。交通量の多い道路より少ない道路のほうの想定が多いのは高速道路での運転と同様、複雑な運転の技術が少ない場所での利用を想定していると考えられる。男女の差が一番顕著なのは、高速道路での利用で、これは女性が高速道路を利用する機会が男性に比べて少ないのと完全自動運転の購入意思も女性のほうが低い事のコンビネーションだと考えられる。

機能別に自動走行に対する支払意思額(購入者がそのオプションのために支払ってもいいと考える額)も調べた。それらは、具体的には1)高速での自動走行 2)渋滞での自動走行 3)自動駐車 4)完全自動運転、の4分類の自動運転の機能別支払意思額である。支払意思額に¥0と回答した人を含めた平均の支払意思額は高速(約11万円)、渋滞(約10万円)、駐車(約9万円)、完全自動運転(約19万円)である。また、上乗せ価格を支払う意向のある人での支払意思額の平均は、それぞれ高速(約17万・N:153,625)、渋滞(約16万円・N:157,409)、駐車(約16万円・N:137,985)、完全自動運転(約29万円・N:163,200)であった。このように完全自動運転に対する支払意思額に対して、部分自動運転に対する支払意思額が比較的高いことが分かり、特に高速道路の平均金額は高いといえる。これらの額は現在、自動車会社が考える販売価格を大きく下回るものであり、消費者とメーカー側の販売しうる差はいまだ大きいといえる。

次に、消費者特性別に機能別支払意思額を聞いている。免許を所持していない消費者の、完全自動運転の購入意思は全体よりも消極的な結果であったが、支払意思額は全体よりも高い。また車を保有していない消費者の完全自動運転への支払意思額は、車を保有している消費者よりも低い。そして、高齢者の完全自動運転機能の支払意思額は比較的高いということが分かった。

自動運転のメリットとデメリット

完全自動運転に感じるメリットとデメリットに関する調査も行った。まず、メリットに関しては以下のとおりである。

高齢者の運転の不安が解消されることが最大のメリットであり、高齢者運転への懸念を表している。そして次に交通事故対策として完全自動運転の導入の需要があり、10%以上が運転免許が必要なくなることをメリットと感じている。この点は、現在カリフォルニアで議論されているように何らかの免許を義務化するという方向とは相いれないといえる。そしてステータスの重要度は最も低いメリットでありハイブリッド自動車の際にセレブが購入した時のようなものとは違うことも分かる。

完全自動運転に感じるデメリットとして最大のものは、技術的な不安であり、まだ不安は根強いことがわかる。これは最近のテスラの事故前の調査であり、現在であれば更に不安が大きくなっているとも考えることが出来る。そして、情報流出や法定速度以上の速度で走行できなくなることをデメリットと感じる人は少なかった。むしろ、子どもの勝手な移動の可能性についてデメリットと感じる人が40%以上と高く、受容性を高めるための免許や利用の規制などを考えていくことが必要だと分かる。

何を将来に期待できるのか

メリットを感じる消費者は多い。機能的には自動運転によって事故は減ると考えられることも大きい。しかし、消費者からすると、よく理解できない仕組みのため事故への不安をデメリットと考え、自動運転への課題ともなりうる要素も多い。

テスラの事故も厳密には、自動運転機能としてのレベルが低く、自動運転の車ではないと自動車専門家はいう。しかし販売に際しては自動運転と出して販売したため、事後に、あれは自動運転として機能は十分でないというようなことは言い訳にもならないだろう。

説明すれば伝わる、という前提で今後、商品化に向けて考えることは望ましくない。これからも複数の事故が起こってくると考えることが自然である。自動化により9割までの事故を防げる可能性はある。しかし、世界的に運行キロ数は増えているため事故自体への対処はより大きな問題になりうる。また倫理的な問題も関わりうる。自動化が機能しない状況で事故が避けられない場合、運転者の人間が壁に衝突して止まるのか、歩行者にぶつかるのか選ぶといった倫理が社会的に関与する課題に対して答えていかなければならない。これは技術の問題でなく、我々が直面する社会の問題である。早い段階から自動化を使う場合、倫理的な問題を含めどう解決し、オープンに議論を進めて理解をしていくことが今後は求められる。

最後に理解しておく必要があるのが、人の注意力である。将来ほぼ自動化が進んだ技術があるとして、その際にほぼ何もしていない昔は運転者だった人間が、急に自動化が対応できない問題が生じるまたは誤作動が起こるなどの時、人間に運転の権限を与えられてもビックリしてどう対応していいか急には分からないということが生じうる。自動化を進める際にはこういった慣れてない人間の行動まで含めてルール化を進めるべきである。なお、このルール化には人が関与するため自動化により奪われる労働がある反面、ルール化は新たな職を生むことにもなる(注3)。

脚注
  1. ^ このような問題に対応するためにRIETIにて「人工知能等が経済に与える影響研究」が立ち上げられた。
  2. ^ アメリカの電気自動車メーカーのテスラ・モーターズの自動車がトレーラーと衝突事故を起こし、5月7日に運転手が亡くなった。自動運転の機能である自動運転モードが作動中だったため自動運転による事故だったと言われている。テスラは安全の責任を負うのは運転手ということを、元から指摘していて運転手の責任と主張している。アメリカ運輸省がシステム動作に問題があったか調査中であるが、運転手の責任となる自動運転ならば自動運転と呼ぶべきでないという提案も消費者団体からもなされている。この事故からも分かることは、どこまでを運転手の人間が責任を持つべきかは、人工知能が決めるものでなく人間が決めるものである、ということである。
  3. ^ 同様の議論は、人工生命についても言える。人工知能の議論の行きつくもう1つの方向は人工生命である。言葉の通り、人工的に生命の機能を機械にもたせるということである。人工生命があれば、人間が判断してきたこれまで同様の多くのことに対して、社会的に合意を得ようとせずとも同様に使えることになる。現在の開発は基礎的なことに対応しているが人工知能と同様の現実への応用が考慮されていく方向である。そして、このような技術の可能性を踏まえた上で我々は新しい可能性をどのように社会に取り込んでいくか考える必要がある。

2016年7月26日掲載