企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第8回研究会

実施報告

  • 日時:2003年9月9日(火)18:00~20:00
  • 場所:独立行政法人経済産業研究所1121会議室
  • 参加者

議事録

[質疑応答] 金井氏のプレゼンテーションについて

中井:
SRI投資は株式投資と同じで、投資収益が上がるからこそ受託者責任が果たせるので投資価値があるという論理展開だったが、SRIは必ずしも投資収益と結びつかなくても存在価値があると思うし、実際に投資収益と離れた形のSRIというものも存在する。これまでの利潤追求から離れているのがSRIそのものの価値と考えると、投資収益と常に結びつかなければいけないという問題はどのように考えられるのか。

金井:
SRIが持つ訴求ポイントというのは、投資家によって違っている。しかし、どの投資家も必ず何らかの訴求ポイントを持っていると感じている。その中で企業年金の場合は、一定の収益を上げないと、受益者に対しての受託者責任の問題が出てくるので、収益性の問題は無視できない。しかし、確定拠出年金などの個人の年金や富裕層では、個人の感性や篤志家マインドのような部分で、収益性が劣後する場合もある。収益性がゼロになることはないが、どこまでその優先順位を高めるかは投資家によって変わってくると思う。ただし、企業年金については、収益性が重要視されると言ったが、それと同時に年金ファンドが投資をすることによって、社会の変革につながるような思想性のようなものもある。その両方が満たされれば年金の場合は良いのかなと思う。

川村:
資料の「主な信託目的」のところで、「元々信託目的は社会性・地域性に富んだものが多い」と書かれているが、なぜ、信託だと地域性・社会性が多いのか。

高田:
その意味は、信託の場合、年金信託や公益信託、またはある特定の貸付信託のように特定の地域にだけ貸し付ける信託が存在していることや、そもそも信託目的は1つだけではないということ。また、個別性のある信託としては、公益信託や障害者特定贈与信託のように、元本の受益権は持つけれども収益の受益権は持たない、さきほどの話にあった収益を追求しない商品もある。

川村:
公益信託の部分で、カトリック・マリア会のセント・ジョセフ奨学育英基金が挙がっているが、このファンドの運営基準は、米国の教会がSRIを行う際の基準と同じようなものか。

高田:
彼らの運用指図の中には、そのような基準は含まれていない。普通に金銭信託をされて、その収益金の分配の方法について指定されているという形。

朝倉:
資料では、企業年金は多様な評価軸を採用したSRIファンドでの運用となっているが、、シングルイシューもしくはダブルイシューのSRI型年金ファンドを作ることに何か問題はあるのか。採用するイシューと収益性との関係性について説明してほしい。

金井:
シングルイシューでも全然おかしくないと思っている。ただし、収益性が求められる企業年金については、現段階では分散投資をして幅広くテーマを持った方が、受託者責任やネガティブ・スクリーニングとの関係を考えると無難だという意味。たとえば、環境だけのファンドについて考えてみた場合、収益性の高さとの関連性が証明できないと、そのようなテーマを絞ったファンドは受託者責任上投資しにくい。しかし、そこで収益が上がることがわかってくれば、ポジティブスクリーニング的に環境をテーマとしたファンドが売れてもおかしくない。

横山:
企業年金の信託とそれ以外の信託の顧客層があると思うが、どれくらいのウエイトなのか。そのファンドの大きさは、企業年金が一番大きいのか。

金井:
現在のファンドの規模は25億円。普通の企業年金ファンドであれば、数百億、1000億、1兆円単位のファンドもある。通常のアクティブファンドと同じ感覚でSRIを捉え始めれば、100億とか1000億、1兆円になってもおかしくない。

横山:
その25億円が社会的責任のスタイルでやっているということか。また、富裕層や個人投資家でSRI的な信託を行っているものはあるのか。

金井:
企業年金の中で投資をしていただいた基金が2つあって、その合計が25億円。富裕層や個人投資家も視野に入れているが、まず最初は企業年金からスタートしたということ。

矢野:
企業年金の収益性について時間軸としては、どのように考えているのか。

金井:
通常は、1年単位でベンチマークと呼ばれる東証株価指数などの指標との比較で、どれだけ勝ったかということがチェックされる。ただ、評価期間については、1年ということではなく、長期投資性の高い年金の場合は3年か5年くらいのロングスパンで判断される。ただ、株価が良くない状況では時間的なスパンが短くなってきている。

浜辺:
ファンドの運用手数料、受託手数料は高いのか、低いのか。

金井:
コストから考えると、普通のアクティブファンドよりも多分かかっている。アクティブファンドとしてのコストとリサーチに時間がかかるので、その分が上乗せされ、少し高めになっている。

渡辺:
手数料が高いということは、収益がその分差し引かれて低くなる可能性が高いということか。コストが1%多くかかるのであれば、1%多いリターンを取って初めて成り立つという理解で良いか。

金井:
全体としてはそのようになる。ただ、通常のアクティブファンドと比べてとても高いかというと、それ程高くはない。「全体でゼロ以上の超過収益で、ベンチマークトントンであれば問題ない、やることに意義がある」という年金ファンドもある。さすがにマイナスの超過収益が続くようになると、受託者責任の問題が出てくる。

[質疑応答] 浜辺氏のプレゼンテーションについて

横山:
NPOの会計基準について、業界団体などで統一化しようとする動きはあるのか。

浜辺:
最近、NPOを顧客とする税理士や公認会計士のネットワークができ始めていて、ある程度比較可能な会計基準や帳簿のつけ方を考えていかなければいけないという動きがある。問題は、公益法人、学校法人、社会福祉法人などそもそも基準が違うという点と、そもそも帳簿のつけ方と作り方が全くできていないという点。特に後者の方は、前の年の翌年度繰越金と次の年の前年度繰越金の金額が違っている場合などがある。動きは出てきているが、統一した会計基準を作ることについては若干慎重になっている状況。

植杉:
NPO法には「税制優遇措置の欠如」の問題がある。これは寄付控除の税制優遇だが、元々NPO法人には法人非課税というものもある。その両方の優遇措置の背景にある考え方は違うと考えていいのか。

浜辺:
非課税については、公益性があるから非課税にしているという考え方と利益分配の原理として非営利だから非課税という考え方があり、そこはNPOサイド、公益法人サイドで微妙に使い分けている。今取ろうとしているのは、そもそも非営利法人だから非課税であって、それは優遇措置ではないという考え方。これまでの日本の法人制度には、公益タイプの法人制度や役所の認証・認可が付いた法人制度しかなかったので、行政から公益性を認められているから非課税だろうという認識が背景にあった。今後、公益性や行政の関与を取り払ったとき、原則課税なのか非課税なのか、という点について議論が分かれていると思う。

米国の場合は原則課税だが、160万団体が基本的に免税、法人税は非課税になっている。つまり申請すれば即非課税になる。非常にその基準が緩い。寄付優遇税制を使って寄付や会費をたくさん集めても、その集めた寄付の30%が税金として取られてしまうのであれば、何のために民の流れを作っているのかがわからなくなるので、非課税の話の方が寄付優遇税制の話よりも大きい問題ではないかと思う。

足達:
これまでは公益性の担保を行政がするという論理だったと思うのだが、それを政府セクターなり第三者機関でも良いのだが、公益性がある・ないを判断する拠り所について何かお考えはあるか。

浜辺:
1つの基準としては、公益性または社会貢献性という名前を付けるなどいろいろあると思うが、何がしか優遇するとか、そこに社会的な資本を集中するなど、そういう意味での支援措置のターゲットを選ぶ上での基準があるだろう。

米国では501(c)の中で、慈善活動やチャリティーの要素が高いものを事業分野として1つにくくってある。また、寄付控除を受ける団体の中でも控除の限度額は所得の30%・50%と段階を設けて、収入に占める寄付の割合が3分の1以上の団体には、より高い優遇税制を与えようということで、財務状況、収入の構成比でもって、その団体のスクリーニングをしている。1つは事業分野、1つは活動実績、他には公益的な活動に何%支出割合を割いているか、という見方もあると思う。

現在の認定NPO制度は、分野というよりも総収入に占める寄付の割合が20%以上であることというのが要件になっている。また、たとえば、米国のAIPという団体の評価基準の中に、効率性を見る基準がある。これは団体の支出として、一般管理費とファンドレージング(資金調達)コスト、事業費があって、事業費が60%以上でないと非効率になるという考え方をしている。

渡辺:
公益法人の問題として、たまたま公益法人の経営者が高額収入を得て儲けてしまったケースもあると思うが、役員報酬の妥当性と税制上の措置に関する問題についてはどのように考えているのか。

浜辺:
非営利ゆえに非課税を主張する場合は、本当に非営利なのかということを詰めていくわけで、その際に役員が過大な報酬を得ていないかどうか、あるいは報酬を得ている役員が何%いるのかということもチェック項目に入れていくべきだろう。たとえば、米国のAIPやBBBの基準では、報酬を得ている役員が1割以上いる団体は彼らが推奨する団体のスタンダードに合わないということを言っている。

渡辺:
生協や信用金庫や協同組織に法人税の軽減税率が行われていることが少し理解できない。利益つまり税率の低い部分について、利用者に対して供給するサービスを手堅く供給してしまうという点で、利益を最大化せず、事実上の株主に相当する利用者に配分してしまうということが起きているのではないか。

浜辺:
その原理は、協同組合というのは利潤を上げない、利潤を上げるぐらいであれば、組合員に還元しなさいという思想に立っているということだろう。営利企業は利潤を上げてそれを資本家に分配しなさいということなので、全く立脚点が違う。そこは利用者の利用量に応じた割戻しというのは割引と同じだ、損金算入すべきだということで、日本の法人税法では、非課税にしている。だから、ご指摘の点は協同組合が利潤を上げることが目的ではなく、利潤を上げるくらいなら割引をしなさい、ということだと理解できる。

関連して言えば、SRIの利潤原理はどこを目指すのか。利益を上げることなのか、手数料収入は手堅く儲けるけど、規模を拡大することで社会を変えることなのか。どちらの原理を取るかで、SRIの議論も変わってくる気がする。

守山:
コミュニティビジネスを伸ばしていくという点で、NPOの事業モデルは営利性を目指していないため、サービスを安く提供して浸透していくということを考えれば、通常の営利を追求する企業と比べて有利な参入ができるという指摘をされる方も多くいる。

そこで、ある一定の収益しか期待されないような新規のコミュニティビジネスがあったときに、NPOとそうでない人たちが一斉に競争したとするならば、NPOが先に市場を席巻してしまう可能性があるのではないかと考えられるが、どうだろうか。

浜辺:
私のイメージだと、NPOが市場を席巻したりすることはないと思う。なぜならば、利潤を分配しないので、資金が集まりにくい。つまり製品は安く提供できるかもしれないが、資金調達に苦労するからだ。その点で、生協はかなり大きくなっているが、寄付や会費で資金を集めるという点で、基本的には小規模なメカニズムであろう。

[質疑応答] 研究会論点メモについて

瀬越:
信託業法や有限責任組合法の議論は示唆されているが、なぜ証券取引法の議論はないのか。ある人が社会的に意義のあるものに投資するという観点からいえば、証券取引法をベースにするのが一番確かであると思う。

熊野:
社会的責任投資について、企業の中のニーズをどのように掘り起こすのかが大きな課題ではないか。概念として社会的責任というのは存在すると思うが、実際の融資として拡大しないのは、やはりデッドオーバーハングのような形で、そもそも存在するニーズが出てこないからではないか。なぜ出てこないのかということを考えなければ、いつまでもミスマッチが続くのではないか。

また、CSR的な案件には採算が取れるものと取れないものとの2種類があると思う。その2つを明確に分けて議論を進めた方が良いのではないか。

川村:
社会的責任とは何かという概念的な整理がもう少し必要ではないか。

横山:
資金のミスマッチについては、なぜ実際の融資が本格化しないのかあるいは顕在化しないのかということに関する現状分析を足達さんのプロジェクト研究の方で加えていただきたい。どのようなミスマッチが起きているのかということについての現状把握をした上で、それを埋めるためにはどのような政策対応が必要なのかというリンケージを付けておく必要がある。

また本研究会は、どちらかといえば企業の社会的責任の定義をするものではなくて、むしろそういうものを1つの手がかりにして、新しい資金の流れをどのようにすればエンカレッジできるのかという点に力点を置きたいというのがそもそもの問題意識であろうと思う。その意味では、社会的責任の定義や概念整理については、ご意見があれば補足ないし補論という形で、これまでの先行研究を整理する形でも、新たに付け加えて、研究会としての定義を少し詰める必要があろうかと思う。