企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第6回研究会

実施報告

  • 日時:2003年7月23日(水)18:00~20:00
  • 場所:独立行政法人経済産業研究所1121会議室
  • 参加者

議事録

[質疑応答] 美原氏のプレゼンテーションについて

瀬越:
大阪証券取引所に2000年に開設されたPFI市場の正式名称は「社会資本整備市場」。この市場が上場銘柄として予定しているのは、第1にPFI事業を含む社会資本整備事業であり、第2に非常に長期の契約をベースとして社会資本整備事業を行うベンチャータイプの企業、の2種類である。前者については法制度または市場がある程度の経験・実績を積んだ段階で実現されるものと位置付けられている。むしろ、後者が主たるターゲットと見なされている。

たとえば、新エネルギー事業あるいは省エネ事業を展開する会社がそれである。これらの会社は通常、東証や大証の新興市場に上場を目指すハイリスク・ハイリターン型の所謂ベンチャー企業とは異なり、ミドルリスク・ミドルリターン型で、インカムゲイン型であり、ベンチャー企業とは峻別される必要がある。これが、大証のPFI市場である。本研究会で紹介されたESCO会社等は、成長のためのエクイティ・ストーリーを考えると、東証や大証の新興市場(ベンチャー市場)を目指すのは不向きであろう。ハイリスク・ハイリターンのベンチャー企業と同列に評価されるのは合理的でない。むしろ、収益性の観点から不利益が発生する場合もある。このような銘柄は、未だ認知度が不足しているが、大証の社会資本整備市場の方が向いている。

熊野:
投資家の立場から見たコメントをしたい。PFI事業については、up side potentialがないという前提で、投資収益についての一定の枠を作るということだが、多くの公共事業や公益事業では、受益と負担の原則から見て、アンバランスな価格設定をしており、赤字の部分を自治体が補填をしなければいけなくなるので、up side potentialに枠をはめないほうがいいと思う。そうした自治体による収支補填を防ぐには、up side potentialに制約を設けず、競争をさせる方がよいと思う。PFI事業に関して、価格を縛ったり、収益が上がったときにそれを自動的に還元しないメカニズムを組み込むのは投資としての魅力がなくなり、問題だと思う。

美原:
それは投資家の観点からは非常に合理性があるが、事業自体の安定性にも影響するので、慎重になるべき。大半のPFI案件は、今後も行政が事業者からサービスを購入するという形で、一定のパフォーマンスを事業者に約束させている。あるいは付帯的なパフォーマンスを入れることで、付帯的なpotentialを付けさせる。つまり付帯事業、営利事業のようなものとなる。これは、事業者がリスクを抱えることにもなるので、リスクがコントロールされた状態におくためには、up side potentialを認めることは、公共の立場からは必ずしも好ましくないということにもなる。

杉田:
大事なポイントは、公共財をどうみるのかということ。純粋公共財なのか、クラブ財なのか、私的財なのか。PFIの世界では、公共財と私的財の境目が微妙になってくる。重要なのは、その境目の問題と価格設定の問題。価格をむやみやたらに上げられないので、英国では、ボーナスやインセンティブを与えている。英国の合理的なところは、公共財を国が独占せずにタイムシェアリングをして、一定の時間帯だけ買う点。残りの時間は、民間事業者が一定の契約の下に第三者に貸したり、第三者の仕事をしてもいいことになっている。たとえば、空中給油機をPFIでやっているが、余っている時間帯にDHLの荷物を運んで、得られた収益を国と事業者で折半している。日本の制度だと、儲けたお金は国庫に返したり、予算が一部減らされるが、英国ではその収益を予算とは別に使えるので、PFIを進めるインセンティブになっている。

ところで、社会的責任投資について、たとえば、企業が談合や刑事上の反社会的行為をしたら、投資ファンドは、すぐにその企業に対する投資をやめるなどの制裁を加えるものなのか、そうした点についての評価はしているのか。

朝倉:
ファンドによるが、まず、コンプライアンスに係る企業の取り組みについて事前にスクリーニングする方法がある。企業の事件・事故案件は、毎日必ずウォッチしている。該当するものがあった場合は、ファンドによって対応が異なるが、公募型投資信託の場合は、ファンドマネージャーと相談して、影響が大きい場合は、即時即売ということもある。当該企業の担当アナリストが事件・事故に関して背景を調査し、対処方法や今後の体制について企業側からの情報収集を行い、保有したまま様子を見ることもある。また、海外のステークホルダーの見方も判断材料の1つと考えている。

杉田:
米国のカルパースと意見交換をしたことがあるが、今の朝倉さんがお話されたことを非常にしっかりと行なっていたという印象がある。

PFI事業者に公共サービスを行ってもらうのであれば、しっかりしたレギュレーターが必要。たとえば、その役割を経済産業省が果たすのか、FCCのように外部の機関が果たすのかという議論は重要だと思う。社会的責任においても、レギュレーター機能を行政が果たすのか、それとも第三者の評価機関もしくは格付け機関が果たすのかという議論は重要。

山崎:
企業が問題を起こしたときの対応については、機関投資家が株主総会で議決権を行使する場合も考えられる。また、PFIを行うときに、投資組合を日本国内で作るのか、あるいはSPCを海外で作るのかという話については、タックスヘイブンの問題も含めた税法の問題も考えられる。

瀬越:
2~3年前、海外のインフラストラクチャー・ファンドやインフラストラクチャー・マーケットのような特殊な証券市場について調査したことがある。当時、5~6カ国の証券取引所に存在していたと思う。3証券取引所(ロンドン、香港、豪州)は既に存在し、残りの3証券取引所(シンガポール、バンコク等)は創設検討中であった。最も進んでいたのは、オーストラリア。インフラストラクチャー・ファンドの数は正確な把握は難しいが、当時、公募型・私募型を含めると既に100を超えているだろうという意見があった。公募型とは証券取引所に上場されているので確認が容易であるが、私募型は確認が難しい。現在のところ、豪州証券取引所に上場されているインフラストラクチャー・ファンドは6銘柄。インフラ投資に注力しているある大手投資銀行の場合には、手許に20本程のファンドがあるといわれている。ファンド数は年々増加傾向にある。我が国でも、本格的な社会資本整備市場の創設に向けた官民の動きが出てきても良い時期だろう。

[質疑応答] 研究会の論点整理について

村田:
「コミットメント機能の向上」の部分について、例として「税制によるコミットメント強化」と書かれているが、金銭的なリターンやインセンティブを与えることで、民間企業の普通の部分に資金が回らず、クラウディングアウトのような状況を心配する必要がある。リターンに対してではなく、資金を出すこと自体に意義を持てるような刺激を行ったほうがいい。また、何をもって社会的責任とするのか、その基準をどのように考えているのか。基準がはっきりしないと、無駄な橋を作ることも社会的責任だと、理屈として言えなくはない。

植杉:
クラウディングアウトの可能性はあるが、どのような経済状況の下で考えるのかということが重要。今は金利が上がっても民間投資が減るという状況ではないので、今の状況下ではある程度、税のインセンティブは意味がある。誰が社会的責任を果たす主体かという点については、予算の仕組みとして実行と事後の検証や評価の仕組みと組み合わせて議論をした方が良いと思っている。加えて、このペーパーで述べたいことは、政府調達や規制緩和、もしくは地方自治体における行政サービスの他主体への代替を通じて、事業が創出できるのではないかということ。

杉田:
民間事業でやろうとすると、多分橋はできない。民間にある程度任せるのであれば、市場原理が働いて多分橋はできなくなってくる。橋の事例はどこの企業の部分についての話なのか。

村田:
ペーパーに社会の責任の担い手は多様になっているとあるので、政府も本来的に社会的責任を果たすもの、主体として政府も当然ある、ということを前提に話をした。このペーパーからは、社会的責任を果たすという部分での基準がなく普通の公共投資との違いが見えないので、橋の事例を話した。

杉田:
本来の公共財のあり方ではないが、公共財としてインフラを作るのか、作らないのかという、社会的責任以前の問題ではないか。

村田:
その通りだと思う。そこで社会的責任と公共財との線引きが重要ではないか。

杉田:
どういうインフラを作る、または行政サービスをやるのか、ということは、一度市場に出してみて官民で競争すればいい。そうしたマーケティングテストを本当は1回やらないといけないと思う。それで公共財とするのか私的財あるいはクラブ財とするのか区別がつく。これは乱暴ではあるが、創造的破壊のようなことも必要。

村田:
マーケットメカニズムが、社会的責任と公共財とを分けるときの1つのキーワードなり手法として使えるのではないか。PFIとはまさにそのやり方を具現化したもの。

杉田:
その時に市場の失敗があるので、レギュレーターがチェックする機能がパッケージとなっていることが必要。

村田:
レギュレーターを置いてしまうと行政の裁量が入ってしまうので、資金の出し手がそこを判断する考え方もある。

杉田:
レギュレーターは国や行政ではなく、社会的に認知された一定の資格を持った第三者にアウトソーシングしてもいい。いろいろなやり方がある。

藤井:
どうも、社会的責任の主体の議論と対象の議論(公共性等)が混在しているように思える。CSRは必ずしも公共性のためにやるわけではない。全体的な印象を言うと、PFIの議論とも混在しており、CSRが公共性を確保するための資金の流れなのか、それとも結果として公共性のあるところに新たに資金を流していくことになるものなのか、ということを仕分けした方が良いのではないか。

植杉:
CSRとそれ以外の本来公共性のある事業は違うということは、明確に表現していきたい。

これまで行政がやってきたことを、行政が財政的な制約でできなくなるかもしれない。その時に他の主体がその役割の一部を担えるかもしれない。それを評価して資金を流すやり方というのは、社会的責任を果たす企業を評価して資金を流すのと同じような議論ができるのではないかと考えている。

藤井:
その場合、民間の担う公共的な役割は非常に限られてくると思う。ここで公共財としての分類がされている環境や雇用の問題と、PFIや公共的機能も民間的な手法で活性化する問題との間の距離感について、もう少し説明がいると思う。

欧州などは、雇用問題はもはや政府だけではできないので、企業というものをもっと使おうという動きがある。実際にEUでは、1国の力が相対的に落ちてきているので、民間企業の力というのは、特に雇用・環境等を解決するに当たって、国よりも大きなウェイトを持つような実態もある。

足達:
公共財というものを供給するのに、その時に政府が税金という資金調達をして、政府の意思決定の中で公共財の配分をする。そのメカニズム自体がもう機能しなくなっているのではないか。むしろ、企業が保育園や託児所を作れば従業員が喜ぶし、その企業は良い企業だということで、皆が支持して商品を買ったり、株に投資をする。その企業はもっと従業員に託児サービスをやっていこうと考える。そうすると、政府は託児所を作る必要はなくなるので、その分減税をする。このようにして、資金の流れが変わってくる。

研究会の問題意識の原点は、「企業」の社会的責任というところからスタートしている。このような企業の社会的責任というものに、政府のセクターがこれまでやっていたことを代替してもらおうという期待感にあるのではないか。その意味で、このペーパーでは、政府が違う手法でこのような形の公共財を供給すればいい、資金の流れを作ればいい、という部分まで含まれてしまう。

植杉:
企業の社会的責任としていわれるのは、必ずしも公的なセクターの代替ではないと考えている。そもそも、通常の企業活動があって、それと密接不可分かもしれないが、付随的に果たされるものが社会的責任であって、公共性のある事業を企業が代替するために企業の社会的責任が唱えられているのではないというのが私の認識。

横山:
企業の社会的責任と言ったときに、企業の定義を明確にすると議論が一層明確になると思う。政策投資銀行のお話や信用金庫のNPOへの融資のようなことも企業という範疇で考えられるのか。この研究会で考えている企業は、一般の営利法人の主体としての企業、なおかつ、金融仲介をしない主体なのかどうか、または金融仲介をする主体やNPOのような主体も入ってくるのか、その辺を整理してほしい。

その上で、企業の社会的責任というものをどのように取り扱うのか、ということを考えてほしい。