企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第3回研究会

実施報告

  • 日時:2003年5月19日
  • 場所:独立行政法人経済産業研究所1121会議室
  • 参加者

議事録

質疑応答

川村:
山本さんは、「CSR格付け」という言葉を使っているが、そのCSR格付の対象は企業なのか、事業なのか。何を対象としているのか。

山本:
CSR格付については、CSR規格と言った方が正確かもしれない。ISO規格と同じように、CSR規格を取得するときに、目標設定をし、それに向けて取り組み成果を上げるというような基準を考えている。

水口:
山本さんは、“銀行におけるCSRパフォーマンス評価スキーム将来像”について説明しているが、企業信用リスク評価とCSRリスク評価というのは別のものなのか、それとも相互に関連する概念なのか。また、この評価スキームは民間の金融機関の株主や預金者に対して説明できるような一般的な評価スキームなのか、それとも政策投資銀行に限られた評価スキームなのか。

山本:
全ての金融機関がこの評価スキームを取り入れていくべきだと考えている。しかしながら、それには時間がかかるので、公的な機関が積極的にこういったスキームを取り入れていくべきだと考えている。

理由は2つある。1つは、金融機関自身も社会的な責任を果たすべきであるということ。もう1つは、企業の評価を財務的な評価だけではなく、CSRなどを含めたあらゆるパフォーマンスを含めて企業の信用リスク評価としてやっていくことが重要である。

これまでの金融機関の評価方法は、通常財務諸表を評価するような財務格付を行なっているが、それとは別に企業の業歴、経営理念なども評価している。しかしながら、これは非常に曖昧で、客観的・科学的な評価や評価の仕組みが必要であると考えている。

水口:
現在、民間の金融機関でCSRが評価されていないことの理由は、評価スキームが固まっていないというところに原因があり、それさえ確立すれば次々に導入されていくであろうという理解で良いか。

山本:
その点は難しいところで、短期的な収益と長期的な企業の信用性、どちらを見ていくのかという問題がある。政策投資銀行では、長期融資をやっているので企業の長期的な信用性を評価しているが、民間の金融機関では短期的に評価をしている機関もある。つまり、金融の仕方が違うので、一律に論じられない。しかしながら、企業がコンプライアンスマニュアルを作っているかどうかや情報開示をしっかりしているかどうかを評価する仕組みというのはなかなかまだ金融機関としては確立されていないと思うので、評価スキームを作ることは重要である。

美原:
欧米では、当たり前にその企業CSRリスク評価みたいなものは、事業リスクの1つの要素として民間事業者、すなわち借入人が要求されており、今まで日本の金融機関があくまでも財務体質の側面のみに注目していた方がおかしいと思う。私はCSRリスク評価の要素は本来、融資契約の中に入るべきだと思う。山本さんのお話の中で、社会貢献パフォーマンスというのが入っていない。政策投資銀行の優遇措置と絡んでどうなるか、また、ここに政策性があるのではないかと思う。

山本:
その通りだと思う。政策投資銀行でもプロジェクトファイナンスをしているが、欧米の金融の仕組みを使って、コベナンツ契約をかなり入れている。そのコベナンツ契約の中に法令遵守の規約も入っている。その意味では既に日本の金融世界に入ってきていると思う。しかし、リスクマネジメントでなくて、ポジティブな評価をしていくというのはこれまで欧米と異なり日本の金融の仕組みにはなかった。更に、SRIの大きな動きの中でもそのような評価の仕組みが求められている。しかし、日本の一般の金融契約などにはよく入ってきてないので、そこをこれからどのようにしていくのかということは非常に難しく、今後の1つの大きな課題であるだろう。

村田:
マクロ的な視点から考えると、SRIと言っても主体によって違う意味で使っている気がする。

たとえば本日発表された3人の方は、投資対象となる方々が得た資金は投資に回るのかそれとも消費に回るのか、それともどっちでも構わないものなのか、ということについてどう考えているのかを尋ねてみたい。それにより意味の違いを確認したい。

山本:
私どもの銀行の名前が日本政策投資銀行とあるように、私どもの融資は基本的に投資に回る資金であり、社会的に望まれる投資活動を支援するということで、CSRやSRIというものを捉えられるだろう。

奈良:
基本的には、投資に回る資金を回すということとして捉えられる。しかしながら、投資した結果、得られた利益、内部留保の積み立てについては、会員のためだけに存在するのではなく、地域社会全体のために存在する、不分割積立金という概念がある。そこから考えると、利益計上分については、社会的に有用な消費に回すことも考えられる。

多賀:
基本的には、全部投資である。しかし別の見方で言えば、労金が融資をした資金がどのように使われているかを考えると、投資も消費もありうると考えられる。たとえば、NPOなどに融資をする場合は投資だが、障害者の自立支援などへの融資は消費に回っているといえる。結局どれだけ社会的な有用性があったかという部分で評価されるものと考えられる。

田中:
現実に活動している側として申し上げれば、結構、難しい面も多いと感じた。たとえば、政策投資銀行でも行われている家庭用燃料電池リース事業では、系統連携スキームが必要だが、それが認められていない。さらには発電と給湯のアンバランスがある。家庭内で必要なのは電気で、それに合わせて発電するとお湯が使いきれないほどできてしまうことになる。また、生分解性プラスチックについては値段が高く、石油から作った方が実際安いということがあって、これもなかなかある程度方向性が出されない限り動きにくい。また、バングラディッシュのグラミン銀行の話もあったが、実際には多くの多重債務者が発生しており、社会問題となってきている。そして、労金の話で、NPOについての話があったが、NPOの一大欠点というのは資産が持てないことにある。なぜならば、NPOは公益の会員組織なので、意思決定方法に基づいて、そのNPOをNPOの持つ大きな資産も合わせて乗っ取ることができるからである。そこで、中間法人の利用などがベターだと考えられる。

CSRなどを進めていくためには1つ方向性を決めることが重要。しかし現在は長期的・社会的方向性がない。一方、SRIの側からみると、非営利性に対する支援は重要なファクターだが、さまざまな規制のせいでそれが育つ環境がない。条件付けの部分をもう少し実体的に条件付けとしないと、CSRもSRIも育たないのではないか。その点を検討することが重要。

河口:
価値の評価という点で、「財務的な価値」というものと「非財務的な価値」の区別があるが、さらに踏み込むと、「非財務的な価値」にも知的財産などの「事業領域に近いもの」と環境や人権のような「社会性の強いもの」とに区別ができるのではないか。その部分がかなり混在していると思うので、整理する必要性があると思う。

また、「パフォーマンスとしての評価のスキームの将来像」についてであるが、この場合も、この中心にCSRのリスク評価と社会貢献パフォーマンス評価と2つがあり、ネガティブな評価とポジティブな評価がある。基本的には、投資ではポジティブな評価をするし、融資ではネガティブな評価をする。そういう意味で、投資と融資の性格を捉えた上で考えていく必要があると思われる。

山本:
非財務的な価値という言葉にも「事業領域に近いもの」と「社会性の強いもの」とに分けられるのではないか、ということについて、その通りだと思うが、現在、企業が設備投資を控え、資産を持たないような企業構造に変化してきている。知的財産権とかブランドなどがまさに本業の基礎として、企業活動をささえていくと考えた場合、知的財産権やブランドというのは、むしろ財務的な価値ではないかとも言える。そのような意味で、私が言いたい非財務的な価値というのはソーシャルな、環境とか社会とか倫理とか広い意味のソーシャルなものを捉えている。

次に、リスク評価は融資に馴染んで、パフォーマンス評価は投資に馴染むだろうというお話もそのとおりだと思う。ただ、それは旧来の考え方で、おそらく今後は、融資の分野でもリスク評価だけをしていったら、必ず失敗していくだろう。ポジティブな評価も含めてトータルで評価が融資の分野でも必要。投資と融資とは、そういう意味では連動していくのではないかと考えている。

横山:
今日の話の中で、金融機関自身のCSRと融資先企業の行動について、どのように整理していけば良いのか。つまり、金融機関自身がどのような行動をとることがその機関そのもののCSRなのか。または、融資先企業に対して、CSRに関する評価をし、融資先企業の選定をして融資をすることがご自身の機関のCSRなのか。ということについて整理が欲しい。

山本:
金融機関は投融資という活動を通して、世界の環境活動に大きな影響を与える。金融機関自身が法令遵守マニュアルを作ることや不良債権処理を進めるということも重要であるが、投資や融資の活動を通じ、日本全体や世界全体の企業活動を通したCSRを進めていくことが今求められていると思う。

多賀:
労働金庫の場合、基本的には資金の使途に決定的にこだわろうということなので、融資先の社会性や行動に主な視点があるといえる。また、同時に労働金庫という事業体自体のCSRという側面もある。

熊野:
先ほどから消費資金と事業性資金の区分けみたいな話ができるという前提で話が進んでいるが、実際には、運転資金などの2分法的な区分けできないようなところにあるファイナンスについての議論も必要。そういう運転資金を供給するスキーム自体も事業を長引かせるスキームとして、併用されるべきだと思う。

多賀:
NPOの事業活動には運転資金も設備資金も必要なのだから、労働金庫ではどちらにも今は対応している。ただ、運転資金ということでは、コミットメントラインのようなものが利用できればより柔軟に資金供給できるが、現状ではそこまで対応できていない。そこで、審査スキームの簡略化など、いろいろなバリエーションを今後商品性を上げていく中で考えていきたい。

加藤:
投資と融資をやっている金融機関はCSRとかSRIを考えた行動を取るためには、2つのインセンティブが重要。1つは、CSRとかSRIをあまり考えなかったがために損をしてしまう、というわけであるが、すぐに出てくるような話ではない。もう1つは、監督官庁からもたとえば通達とかというのが出れば、すごく耳を傾けるだろう。今後そういった予定とかはあるのか。

福永:
強制的手法、あるいは社会的仕組みというものが大事だというのはあるのかもしれない。しかしながら、強制的な手法というよりは、もちろん社会的メカニズムというのはうまく使ったほうがいいとは思うが、何か民間の自発的なインセンティブを湧き起こすような方向性を主導したい。そこで、自主的なインセンティブを湧かすためにはどうしたらいいかということと、そこにインセンティブを与えて加速するような仕事をどのようにしたらいいのかということを考えていきたい。

水口:
この場でCSRとかソーシャルという時に、ソーシャルのイメージが共有されているのか。おそらく環境問題などは比較的、コンセンサスが得られているのだろうと思う。そこからソーシャルの幅を広げていった時には、そもそもソーシャルって何なのかということが重要なポイントになるだろうと思う。

ソーシャルの中に非常にコンセンサスの高い分野と、非常にコンセンサスのない分野があって、そこをどうとらえるかということが重要。ソーシャルの分野というのは市場の、いわば投票的なものに任せる必要がある。つまり、そういう部分を、ソーシャルの中身までを政策的に考えていくということのリスクというのが多分あるのかなと思っている。

植杉:
まさにおっしゃるとおりだと思う。政府と民間との役割の、フレーム分けというか、どこまでをというところはまさに何について合意を取るのかというところで決まってくると思う。