企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第2回研究会

実施報告

  • 日時:2003年4月21日
  • 場所:経済産業省1120会議室
  • 参加者

議事録

[未来バンクの取り組みについて](田中優氏による報告)

<第三セクターとしてのNGO・NPO>

第三セクターの役割と今後の方向性について

  • 社会のセクターを、Government Organization/Non Government Organization、Profit Organization / Non Profit Organizationと分けると、NGOとNPOが重なる部分がある。その重なりの部分を日本語で言うところのいわゆる「第三セクター」ではなく、「第三の市民セクター」して考え、成長させていくことが重要。
  • Government Organizationと Profit Organization 、そして第三セクターの間で、相互のチェック&バランスを通じて緊張感を持って、切磋琢磨していくことが重要。そのために市民事業を成長させることが求められている。
  • 第三セクターの主体としては、これまでNPOが考えられてきた。しかし、NPOは基礎財産が持てないので、事業を運営するのには向いていない。そこで、中間法人法を使ったほうが適切である。中間法人を使って、第三セクターを伸ばしていくことは、従来の株式投資を通じた形とは別のSRIなのではないか。

NGO・NPOについて

  • NGOから見ると運動の方向は、縦・横・斜めという3通りがある。「縦」は、政府側に対して要求する、自ら議員になるという形。「横」は、周りにいる人たちにどのように影響を与え、広げていくかという形。「斜め」は、縦と横の2つの要素を持つようなモデルを自分たちで作ってしまう形。縦横の動きがなかなか進まないときに、斜めの動きが重要。
  • 社会的責任を通じたお金の流れを作り出すことは、日本ではなかなか定着しづらいのではないか。なぜならば、日本人はリスクを嫌う人が多いので、リスクがゼロでなければ信頼しないという構造があり、リスクがある資金の流れはなかなか根付きにくいのではないか。そこで、自分のお金を自分の権限のもとに置く。そして自分たちのお金のことは、自分たちで考えないといけないということを習慣づける。このようなことが重要。

資金の流れを変えるには

  • たとえば、フランスのエコバンクをみると、エコロジーを対象にしたものだと融資できる金額が出資総額の10%ぐらいになってしまっていて、残りの90%は国債を買ってしまう。その国債の使途に原水爆の実験などもあるので、エコロジーと矛盾してしまうことがある。
  • 途上国でのマイクロクレジットの運動は非常に面白いので、それを参考にして、環境事業の次に市民事業というものを入れた。しかし、所得の低い人に融資をするマイクロクレジットをやると、たとえば、バングラディシュのグラミン銀行のように多重債務者を相手にしなければならないという問題がある。

<未来バンクの取り組みについて>

設立の背景

  • 未来バンクを作った理由は、財政投融資の問題にある。ダムの建設などに、口では反対を唱えながらも、お金は郵便貯金などを通じて流れてしまう。このような構造では、永遠の「もぐらたたき」みたいなものなので、こういうお金の流し方はやめよう、お金をどこへ貯金するのかという問題は投票に次ぐぐらいの問題として重要だ、というお金の流れに自分たちも責任を持とうという問題意識があった。
  • 各国の事例では、銀行として設立されているが、日本では自由に銀行を作れないし、信用組合として申請しても通らないので、貸金業登録でやっている。

未来バンクの事業内容について

  • 未来バンク事業組合は、1994年に、環境・市民事業・福祉の3つの目的だけに限定をして、出資をした組合員の人しか借りられない(融資しない)という仕組みで活動をしている。
  • 現在、出資額は1億円を超えていて、これまでに融資した額は約5億円、貸し倒れはこれまでにはないという状態である。最近、200万円ぐらい返済の遅れがある債権がやっと発生したという状況。
  • 未来バンクは、民法上の組合契約を使っているが、これだと無限責任を全員が負うことになり、非常に不合理なので、昨年の4月以降は、他の未来バンク同様のものには、中間法人法の有限中間法人を使って、資本の範囲内でリスクを背負うという形で作った方がよいとアドバイスをしている。
  • 未来バンクには、特定担保融資という制度がある。これは、出資者が「この事業は良い事業だと思うから、自分の出資金を抵当にかけてしまってもいいよ」と言ってくれた場合に、1%で融資する制度である。
    通常の3%の金利の内訳は、1%が手間賃、2%は貸倒引当金である。そこで出資金を担保提供にかけたなら、貸倒リスクはなくなるので、1%で融資するという仕組みである。
  • 太陽光発電に関する助成金のつなぎ融資、長い期間のエコ住宅融資など、NPOやNGOが自治体から事業を受託する際のつなぎ融資などの実績がある。福祉については、行政に丸抱えのところが多く、資金を返すという発想があまりないので、実績が少ない。
  • NPOやNGOに融資をしているが、具体的な資金のプランがないことが多いので、相談があったうちの3分の1や4分の1にしか融資していない。

未来バンクの今後の方向性について

  • 未来バンクは大きくなろうとは思っていない。未来バンクが東京で1つ大きくなるのではなく、各地域に未来バンクができる、というのが最も望ましい方向だと考えている。実際に、北海道でもNPOバンクができたり、東京でも3つほど同じような仕組みを作ろうということで動いている。
  • 新しいユニークな発想をしていくならば、次の資金ニーズ、そして次にやれることというのもいくらでも浮かんでくるのではないか。たとえば、太陽光発電の話がある。現在、太陽光発電は自然エネルギーの中で最もコストがかかる。そのとき、エネルギーを新たに作るより、今使っているエネルギーを減らす方が安い。太陽光発電を設置するよりも、たとえば、冷蔵庫とエアコンを買い換えた方が利益は大きい。古い冷蔵庫を買い換える際にお金を融資して、安くなった電気代を返済してもらう。そうすると、元を取れる5年後には、省エネに成功しながら、払っている電気代は現在の料金と変わらない、ということになる。そのように発想を変えると、資金ニーズはたくさんある。また、電力会社に電気を売ることは、今は電力会社から電気を買う値段と一緒だが、それがいつまでも続くかわからない。そこで家庭内でバッテリーを持って、電力会社から買う電気と家庭で作る電気を交互に使うと、電気を売る効果と全く同じになる。

議論

植杉:
未来バンクの運営については、どのように採算を採っているのか?

田中:
未来バンクはボランティアの無償ベースでやっていて、実費以外は取らない。インターネットやメーリングリストを利用していて、融資の相談なども含めて、なるべくその中でやることで、専従をゼロにしている。専従がもし1人いれば最低でも約500万円の経費がかかる。500万ということは1億5000万円ぐらいが常時回っている状態でないと、3%の金利では出せない。そうすると、拡大再生産的な多少強引な融資も含めていかないと成り立たなくなってしまう。それだと、自分たちの趣旨には合わなくなってくるので、専従ゼロで最大限のところで止めたいと考えている。私たちの希望としては、貸出残高3億から5億の範囲までしか広げたくないというような考え方で運営している。

横山:
今、組合員が317名ということだが、これが適正規模なのか?

田中:
あと倍ぐらい増えても適正規模だといえると思う。

多賀:
この20数年、新規の地域の信用組合の設立がない。未来バンクの他には、神奈川県で女性市民バンクというのが活動をしているが、なかなかうまくいっていないと聞いている。一方で、品川などでキリスト教の教会の方々が中心になって、日本共助組合というのをやっている。これはまさに海外のクレジットユニオンの日本版である。全部足しても10数億の規模しかないが、こうした組織が次々とできる場合には、自治体側でも制度的な変更を含めた対応もでてくるのではないか。また、市民側でも整理していくことがある。

千島:
市民事業といった場合、事業分野というのはどのようなものなのか? 福祉関係はだめだということだが、きちんとしているところもあるのではないか。そこで、福祉関係などの市民事業を担うNPO法人と金融機関の間をつなぐ仕組みがあればいいと思う。

田中:
市民事業というのは、行政でやることができ、民間でやることができ、第三の市民セクターでやることができるという事業であるので、環境や福祉に限るということではない。福祉の分野についても、きちんとしたところができているのはその通りだと思う。ただ、これまで融資を受けるという実績がなかったり、融資を受けることそのものを嫌うような性格であるということが、未来バンクで福祉分野への融資が少なかった原因だと考えている。きちんとしたところに対しては、喜んで融資を行いたいと考えている。

お金が返ってくるのは、「信用あるのみ」だと思う。行政が未来バンクのようなものを作ろうというプランがあったが、借り手は信用を失いたくない順に返すので、行政は最後に返すところになりやすい。だから、すぐに大赤字になってしまう。そのため「行政が表に出てはだめで、サポートに徹するべきだ」とアドバイスしている。

水口:
未来バンクにとって、あるいはこれから新しく未来バンク的なものをつくろうという人たちにとって、どういうことが政府のできることなのか、どういうことをやってくれたら役に立つのか?

田中:
重要なのは、とにかく第一に、政府は邪魔をしないことである。とにかく政府のやることやることが我々の進めている社会の妨げになっており、何もしないでもらった方が有り難いぐらいである。

そこで、政府にやってほしいことがあるとすれば、規制が既得権益優先に作られてやりにくくなってしまっているので、政府にはそうした規制をなくすサポートをしてほしい。

また、中間法人は非常に有益な制度になっていく。そこで課税が問題になってくる。非常に税率が高いので、収益事業を行っている場合にしか利用ができない。非営利で寄付を受けて行っている場合には、使いにくい。第三のセクターが成長するためには、行政の代わりをやっている場合については税を少なくする、もしくは寄附金控除を認めるということが必要だと感じる。

水口:
口では反対を唱えながらお金の方は賛成してしまうという問題意識があるということだが、未来バンクのようなものを多く作っていくことで、お金の流れを変えようという戦略なのか? どのような戦略を持っているのか?

田中:
出資者には、「未来バンクには、リスクマネーだから10分の1以上は出資しないでほしい」と言っている。しかしながらも、その人たちの手元にあるお金の10分の9に対しても10分の1を出資したことによって気を使うということが私たちの期待である。

そうした機能を持った未来バンクのようなものが、各地域の資金ニーズに応じた形で、各地に小さなものが1つあれば、社会的責任投資に対する意識の底上げがされるのではないか。

水口:
未来バンクが窓口にならなくても、未来バンクのようなものが、1つ2つ各地域にあれば、他の銀行や金融機関も変わっていくという考え方で良いのか。

田中:
そのとおりだ。1990年ごろから社会的責任投資について活動をしてきたが、本当に状況が変わってきてくれたな、という実感がある。このような方向性が伸びていくことによって、もっともっと社会は変わっていくだろうと思う。これからも経済状況がさらに厳しい状況となったり、公的な債権が破綻に近くなったりしていくことで、社会的責任投資の重要性が増すだろう。

福永:
足達さんの資料では、エコファンドから始まって上場基準の緩和まで、いろんなアイデアが出されている。
個人の家計のお金がどういったところにどうやって流れるかという、最初の第一歩をどうやって踏み出すか、ということだと思う。その中で、ポリシーメイキングをするな、というところもあるかもしれないが、どこがポリシーメイキングをする対象なのか、というところがこの研究会のテーマのような気がする。

足達:
政府がコミットするときに、プライベートなものとパブリックなものとの峻別の仕方がどうも成熟していない。たとえば、優遇をするときに、パブリックなものへの貢献というようなものを、どのように基準や認定として定めることができるのか、ということがポイント。次に内容だが、それを従来の補助金申請などのやり方ではないと思う。また、お金の流れ方というところでは、経済的なインセンティブという部分も必要だと思う。たとえばエコファンドの議論を、高い志とか、理想みたいなところの理念論だけを押しつけてしまうと、すそ野は広がらない。やはり他の株式に比べてこの投資信託を運用した方が得だという、お買い得感とやはり社会的な理念のフレーバーがセットになっているということが良いと思う。

多賀:
経済的なインセンティブも重要だが、理念的なものとのバランスも考えていくことが重要ではないか。

村田:
未来バンクというのは、田中さんの能力に依る部分が大きく、仕組みとしてうまくいっているわけではないと思う。また貸付金の規模をみれば分かるとおり、経済的に見てマクロのインパクトがないと感じた。

そこで政府ができることは、田中さんのような人材が生まれるような環境を作るということであり、それはやはり経済インセンティブのところで何ができるのかということではないか。

田中:
自分で自分のリスクを背負うというだけの非常に単純なことを広げていくきっかけとして、第三のセクターが重要になるのではないかと思っている。そのときに、リスクの意識が低下するような補助金を出すよりは、税金で取る分を少なくする形の方が良い。つまり、積極的に与えるのではなく消極的に取り上げる分を少し安くするという仕組みが、最も適切な方法になるだろうと思う。そういう意味では、税金を安くする。もしくはいったんは取ったものを戻し税にする。たとえば消費税を「省エネ製品購入の戻し税」に使うのは適切ではないか。

また、日本の中ではとにかく財投機関債などが法的な保障を受けている。これが大問題だと思う。公的分野がリスクマネーになっていかない限り、民間分野にはカネが流れてこないと思う。

横山:
中間法人のような社会的な制度設計は、公の役割だと思うが、中間法人の体制なり、または望ましい法人組織というイメージはどのようなものか。

田中:
中間法人というのは、株式会社もしくは有限会社法をそっくりそのままで配当だけ許さないというような形にできているので、これは事業向きのはずである。事業向きに関してはこの仕組みでいいと思う。NPOの方がむしろ「公」寄りの部分だと思う。そこで、NPO法の部分についてもっと活動のしやすいような、たとえば自己資本が持てるであるとか、そこに寄附をした場合についてはその分の税金が控除が受けられるとか、そういうようなものが必要ではないかと思う。

横山:
相互チェックや3つのセクターの協働関係と言ったときに、相互の補完的な関係や競合的な関係について、どのように全体を構成するのか。

田中:
公共、NPOというのはP・O、G・O、そしてNPOを分けるときに、P・Oというのは「私益」の世界、一方でG・Oというのはこれは「公益」の世界、もう1つのNPOの部分は公共の「共」、すなわち「共益」だと思う。この「共益」の部分に、企業が入ってくる可能性が日本の場合はあり得ると思う。日本の従来の非常に真面目な企業というのは、かなり「共益」に近いものを持っている。従業員や地域社会に対する責任というような形の。このようなところが「共益法人」にすんなりと移れるような仕組みがあったとしたら、むしろ日本企業の良さを、経済のグローバリズムの中で壊さずに済むのではないかと思う。

池田:
現実を直視しなければいけないと思う。欧米でSRIが広がった背景には、株式市場がそのころものすごい勢いで伸びていったときに、うまくそれに乗っかったということがある。日本のSRIの投資残高は650億円しかない。海外では1年前か2年前だと300兆円であり、日本は世界と比べて何分の1か、計算できないくらいである。このままで行くとSRIの火は多分消える。

SRIは「儲け過ぎることを目的としていない」産業だが、パイが小さくなりすぎて、これだけの人を養うことはできなくなるという危機感を持つべきだと思う。ここで消えたら多分10年ぐらいは火がつかない。なので、この火を消さないようにするのは政府の役目。

たとえば、エコ産業に各種の優遇[補助金、税制上の措置、投資に対する優遇(研究開発のようなものも含めて)]を政府はやるべきだと思う。

未来バンクがなぜ成功したかというと、規制をうまくよけたビジネスの仕方にあると思う。政府の立場から、政府の方からいうと枠を取り払うということを、国策でやっていただきたいと思う。

角野:
まさに第三者とか、NPO、NGOがまさに地域のニーズをくみ取って分別してそこにお金を補助的に流すことができれば、うまく回るのではないかという気もする。そのとき、エクイティに当たる部分をどこが取るのかという疑問がある。そのような切り口で考えたときに、どのような考え方があるか。

田中:
特定担保融資という仕組みは、出資者が「この事業は良い事業だから、自分の出資金を抵当にかける」というもので、エクイティに近いと思う。要はリスクを取るという姿勢さえ形成できれば、地域ニーズによって、いろいろな社会的責任投資の形や面白い組み合わせが作られるのではないか。