国際貿易と貿易政策研究メモ

第18回「『企業活動基本調査』からのデータ構築:概要と産業分類」

田中 鮎夢
リサーチアソシエイト / 摂南大学経済学部講師

1. はじめに

前回、精確な事実認識を基にした政策立案を可能にするために、データを用いた実証研究が重要であることを指摘した。この点において、経済産業省が実施している『企業活動基本調査』(略称:企活)は、日本企業を分析する上で、最も重要な統計であるといえる。とりわけ日本企業の国際貿易・外国直接投資を分析している多くの経済学者が、経済産業研究所において、この統計から構築した企業レベルデータを用いてきた。

政策立案の上でも、この統計から得られる情報は多い。しかし、経済産業省において、この統計から企業レベルデータを構築し、政策立案に活かす知識と技術を有する職員は少ない。そこで、今回は、『企業活動基本調査』から企業レベルのデータを構築する方法の概要を説明する。

2. 『企業活動基本調査』の概要と調査事項

『企業活動基本調査』は、統計法に基づく基幹統計である。1992年(平成4年)に調査が開始され、1995年(平成7年)からは毎年実施されている。前年の値の報告を求めているため、1991年(平成3年)と1994年(平成6年)からの各年の実績値が収集されている。

調査事項は、損益計算書や貸借対照表に記載されるような基本的な財務情報の他に、貿易額、海外子会社の有無、研究開発を含んでいる。そのため、どのような企業が貿易を行っているのか、海外子会社を持っているのかといった分析が行える。

3. 『企業活動基本調査』の対象

『企業活動基本調査』は、全国の対象産業の従業者50人以上かつ資本金又は出資金3000万円以上の全企業を対象としている。そのため、この基準に満たない中小企業は対象から外れる。しかし、対象企業数、回収率の点からは、信頼性が高いといえる。最新の2012年(平成24年)調査の速報値では、調査対象数は3万7876社、回収率85.8%である(経済産業省HP)。

主な対象産業は、製造業、卸売業、小売業、サービス業である。経済産業省が所管している主要産業を網羅している。逆に農業や金融業の企業は調査対象から原則外れている。

4. 調査票

経済産業研究所(RIETI)では、松浦寿幸・慶応義塾大学講師が中心となって、『企業活動基本調査』から企業レベルのデータを構築するために必要な情報を公開してきた(補論参照)。

その中でまず見るべきなのは、第1回~第13回(平成4年~平成18年、1992年~2006年)までの調査票である。調査票を見れば、『企業活動基本調査』から何を知ることができるのか明確にわかる。なお、2006年(平成18年)以降の調査票は、経済産業省のウェッブサイトでも公開されている。

5. 産業コードのパネル化

『企業活動基本調査』から得られたデータを経年比較することは多々ある。企業レベルであれば、永久企業番号が各企業に賦与されているため、容易に経年比較できる。たとえば、ある企業Aが2000年から2001年にかけて、従業員数を何人増やしたのか分析することができる。

一方で、産業レベルでデータの経年比較を行うことは必ずしも容易ではない。というのも、『企業活動基本調査』が用いている産業分類に時々変更があるからである。そのため、そのままでは、ある産業Aの従業者数合計が2000年から2008年にかけて何%増加したのか分析することはできない。

この課題を解決するために、経済産業研究所では、松浦寿幸・慶應義塾大学講師が中心となって、経年比較可能な産業分類(変数名cind)を作成し、公開してきた。これは経済産業研究所のウェッブサイトから無料で入手できる(補論参照)。統計分析ソフトStataを用いる場合、「merge」コマンドを用いて、『企業活動基本調査』本体に経年比較可能な産業分類を付加することができる。

上記の経年比較可能な産業分類(変数名cind)は、1991年から2004年までを対象としている。そのため、2005年以降を分析対象とするときには、経済産業省のウェッブサイトより産業分類の「新・旧分類番号対応表」を入手し、継ぎ足す必要がある。

6. 終わりに

今回は、『企業活動基本調査』の概要と産業分類について概説した。経済産業研究所では、『企業活動基本調査』を用いた実証研究が数多く行われ、利用上の実際的な知識が蓄積されてきている。とりわけ、松浦・清田(2004)は参考になる。他にも、Nishimura et al. (2005) や森川(2007)、Morikawa (2010) が有益である。

企業の国際化や労働の多様化によって、『企業活動基本調査』を用いた分析には課題も出てきている。次回以降、そうした課題も含めて、概説していく。

2013年8月19日

補論

参考文献

2013年8月19日掲載