中島厚志の経済ルックフォワード

世界の経済成長は新たな盛り上がりを迎えているのか
~鍵を握る知財投資~

中島 厚志
理事長

世界経済の成長減速の一因をなす世界人口増の鈍化

世界経済を超長期で見れば、経済成長は一巡してきているように見える。たとえば、米国の経済成長トレンドは、1940年代後半以降の盛り上がりがリーマンショックで一巡したような展開となっている(図表1)。

図表1:米国:超長期の実質経済成長率の推移
図表1:米国:超長期の実質経済成長率の推移
(注)赤線はトレンド線
(出所)米BEA

これほど超長期で見なくても、世界経済の成長率は傾向的に鈍化している。主たる要因として指摘できるのが、世界の人口増加率鈍化と高まらなくなってきた総固定資本形成である(図表2)。

図表2:世界:経済成長率、総固定資本形成と人口増加率
図表2:世界:経済成長率、総固定資本形成と人口増加率
(注)前年比。経済成長率と総固定資本形成は実質
(出所)世界銀行

とくに、近年では世界経済の成長率と人口増加率との相関度が高まっており、人口増加の鈍化が世界経済成長率鈍化に与える影響度合いは増大している(図表3)。しかも、世界の人口増加率鈍化の背景には、1990年代以降中国の一人っ子政策、インド等途上国での家族計画普及、医療・衛生改善による乳児死亡率低下と多産の必要性低下、都市化の進展などがあり、今後も人口増加率低下の傾向は持続することが見込まれる。

図表3:世界GDP成長率: 人口・総固定資本形成増加率の相関係数
図表3:世界GDP成長率: 人口・総固定資本形成増加率の相関係数
(注)相関係数は20年期間で計測
(出所)世界銀行

知財投資で測る産業革命

もっとも、ここ1年あまり、世界経済は回復している。堅調さを持続する米国経済や景気回復に向かう中国経済そして原油価格回復もあって、世界の貿易は伸びを高めており、鉱工業生産も増加している。

その大きな要因がリーマンショック後の主要国での積極的な財政金融政策であり、雇用環境などの改善である。加えて、最近の世界的なハイテクブームも見逃すことはできない。実際、世界的にハイテク製品の生産販売が急増している。

世界の半導体需要は急増しており、それに伴って世界の半導体製造装置出荷金額も好調に伸びている(図表4)。また、日本のロボット出荷を見ても、韓国や台湾の需要増を受けて輸出中心に急伸している。

図表4:世界:半導体製造装置販売高
図表4:世界:半導体製造装置販売高
(出所)日本半導体製造装置協会

さらに、ここ1年半あまり内外経済の回復を背景に主要国の総固定資本形成も回復に転じているが、注目されるのは知財投資の高まりである(図表5)。とくに伸びが大きいのが米国とドイツであり、知財投資がイノベーションにつながる研究開発投資やソフトウェア投資などを含むことを勘案すれば、AI、IoTやインターネットを軸とした第四次産業革命とインダストリー4.0に向けて両国が先行しているようにも見える。

図表5:主要国:知財投資増減率の推移
図表5:主要国:知財投資増減率の推移
(注)前年同期比でトレンド。米国のみ民間非住宅分
(出所)Eurostat、内閣府、米BEA

もっとも、米国について見れば、知財投資が伸びているといっても未だ6.3%の伸び(2016)に止まっている。1960年代以降の技術革新期には知財投資が10%以上伸びていた年も多く、知財投資の伸びで技術革新の度合いを測るとすれば、未だ第四次産業革命が本格化したとは言いにくい状況にも見える。裏返せば、仮に知財投資が持続的に10%以上の伸びとなれば、第四次産業革命の到来と新たな超長期景気循環入りの可能性が高まるということにもなる。

日本は一段と知財投資を高める局面

残念ながら、日本は第四次産業革命に向けての競争にやや出遅れているように見える。図表5で示したように、日本は知財投資で伸び悩んでいることが一因である。しかし、一方でR&D投資では高めの伸びとなっており、ソフト面では出遅れていてもハード面では競争力を維持しているようにも見える(図表6)。

図表6:主要国:研究開発投資増減率の推移
図表6:主要国:研究開発投資増減率の推移
(注)前年比、実質。米国のみ民間分
(出所)OECD、米BEA

いずれにしろ、歴史的低金利の局面にあっても日本の設備投資の伸びは緩やかで、設備年齢は過去最高水準にある。設備投資が長期で見れば企業の生産性を高め、産業競争力を向上させることから言えば、今後日本は一段と研究開発投資と知財投資を高め、それを新たな設備投資につなげていかなければならない。

世界経済は現在大きな変革期にある。その中で、知財投資や研究開発投資の高まりは第四次産業革命の本格到来をより確かにする。産業革命は世界経済を超長期の好況に導く大きな契機となるものであり、現在がちょうど新たな産業革命の入口にあるとすれば、それを見逃すことはできない。

とりわけ、少子高齢化が世界最速で進む日本においては、人口減少が経済にもたらすマイナスの影響をイノベーションとそれに基づく生産性向上で補っていくしかない。世界経済が人口増鈍化を第四次産業革命でブレイクスルーする必要に迫られているのであれば、日本こそその先頭に立たなければならない。

2017年9月20日掲載