IoT, AI等デジタル化の経済学

第47回「AI/IoTが雇用に与える影響」

岩本 晃一
上席研究員

波多野 文
リサーチアシスタント/高知工科大学客員研究員

1.仕事の自動化が雇用に及ぼす影響

AI/IoTが普及し、多くの仕事が自動化されることが、これからの雇用にどのような影響を与えるのか。この問題については、アメリカ、ドイツなどで盛んに研究がなされている(Autor, 2015; Frey & Osborne, 2013; Lorenz, Rüßmann, Strack, Lueth, & Bolle, 2015; OECD, 2016)。これらの研究の端緒となったのが、Frey and Osborne (2013) の研究である。彼らは、機械学習やビッグデータによるパターン認知の進展により、これまで機械には代替されないと考えられてきた非ルーティン作業の仕事も、機械が担う可能性が高まっていることを指摘した。そして、O*NETというアメリカの職業データベースにもとづき、アメリカに存在する職業1つ1つについて、その職業がどの程度機械に代替されにくい性質を持っているかを数値化し、各職業の自動化可能性を算出した。非ルーティン作業も含めたモデルをもとに、「社会的知能」「創造性」「知覚と操作」を、機械が人間の仕事を代替する上でのボトルネックとなる変数としてモデルに組み込み、2010年のアメリカの全雇用の代替可能性を算出した。その結果、アメリカの職業の約47%は、今後10から20年のうちに自動化可能性が70%を越える可能性があることが推計された(図表1、図表2)。

図表1:機械が人間の仕事を代替する上でのボトルネックとなる変数の略図
図表1:機械が人間の仕事を代替する上でのボトルネックとなる変数の略図
出典)Frey and Osborne (2013)
図表2:2010年時点で存在するアメリカの全職業の機械化可能性の分布
図表2:2010年時点で存在するアメリカの全職業の機械化可能性の分布
出典)Frey and Osborne (2013)

Frey and Osborne (2013) が発表された後、これに追随するように多くの研究機関から仕事の自動化によって雇用が将来的に増加するのか、減少するのか、また、どのような職種が機械に置き換わりやすいのかを検討したレポートが発表された。いくつかのレポートでは、自動化により労働者がこなすタスクは変化するが、Frey and Osborne (2013) の予測するほど極端な雇用の減少は生じないと予測している。たとえば、Arntz, Gregory, and Zierahn (2016) は、労働者がこなす仕事は多くの場合さまざまなタスクに細分化されるため、職業ごとに機械化可能性を推計するのではなく、タスクごとに検討し、各職業に還元して考えるべきだと主張した。彼らは、タスクベースでOECD加盟国(21カ国)の職業の自動化可能性を推計した場合、自動化可能性が70%を超える職業はわずか9%であることを報告した。彼らの報告では、最も自動化される職業のシェアが高いオーストラリアでは12%、シェアの低い韓国では6%である(図表3の灰色の部分)。そして、大半の職業は、自動化可能性が50%程度の職業、すなわち、職業を構成するタスクのうち、半分程度が自動化され、残りの半分は従業員が自らこなすようなタイプの職業である(図表3の紺色の部分)。OECDレポートでは、彼らの研究結果にもとづき、自動化による雇用の大幅な減少は生じないが、多くの仕事は自動化により仕事内容が変化する可能性が高いため、労働者は仕事内容の変化に適応する必要があると指摘している(OECD, 2016)。

図表3:自動化リスクが高・中程度の職業に就いている労働者の割合
図表3:自動化リスクが高・中程度の職業に就いている労働者の割合
出典)OECDレポート(2016)

自動化に伴う生産性の向上によって、新たな雇用が創出されるとの見方もある。ボストン・コンサルティング・レポート(Lorenz, M., Rüßmann, M., Strack, R., Lueth, K. L., & Bolle, M. ,2015)では,ドイツの産業労働が、2014年から2025年にかけて自動化によりどのように変化するかを、自動化の普及率と自動化による売り上げの年平均成長率をもとに予測した。この分析から、売り上げの年平均成長率が1%、自動化の普及率が50%の段階で、35万人の雇用が新たに創出されるという結果が得られている(Lorenz et al., 2015) (図表4)。ただし、分野によって雇用の成長が見込めるかどうかが異なる点に注意が必要である。同レポートによると、労働の自動化・機械化の普及によって雇用の増加が期待されるのはITやデータインテグレーション分野、研究開発、ヒューマンインターフェース関連分野である。これに対し、生産や品質管理、メンテナンス関連の職種は雇用の減少が見込まれる。

図表4:自動化によるドイツ国内の雇用の増減(シナリオ別, 2014-2025年の変化)
図表4:自動化によるドイツ国内の雇用の増減(シナリオ別,2014-2025年の変化)
出典)ボストン・コンサルティング・レポート(2015)

Bessen (2016) も、ボストン・コンサルティング・レポートと同様に機械化による雇用の増加と減少が同時に生じるとする結果を報告している。Bessen (2016)は、コンピュータを頻繁に利用する職種は業務の自動化度合いが高いと仮定し、各職種・産業内で労働者がコンピュータを利用する頻度を独立変数として、産業全体の職業別雇用需要の単純モデルを構築した。その結果、コンピュータを利用する職種は利用しない職種に比べて雇用成長率が高い(標本平均で1.7%の増加)ことが明らかになった。ただし、雇用の成長と同時に雇用の代替効果も存在し、同一産業内にコンピュータを利用する別の職業がある限り、雇用成長率は低下する傾向があることも明らかになった。これは、その産業内において、コンピュータを使用しない職業が、コンピュータを使用する職業に代替されるということが生じるためである。そのため、コンピュータによる雇用の増加は雇用の代替効果に相殺され、年間0.45%の成長に抑えられる。コンピュータを使いこなす技術を習得できるかが、この先仕事を失うかどうかに影響する可能性がある。

以上をまとめると、仕事の自動化が雇用を奪うのか、創出するかに関しては、Frey and Osborne (2013)が予測したほど極端な事態には陥らないとする見方の方が多い。Arntz et al. (2016) は、テクノロジーが実際にどこまで実用化されるかと、研究者が述べる可能性には乖離があること、労働者が新たなテクノロジーを学ぶことで、自動化に関連する新たな仕事に適応できる可能性が十分にあることを考慮した上で自動化と雇用の未来を考える必要があるとしている。ただし、教育レベル間の格差が増大し、低スキルの労働者に対する教育訓練や時間のコストがテクノロジーの進歩を上回る可能性があることも同時に指摘されている。また、機械が苦手とする相互作用、環境に対する反応の柔軟性、適応力、問題解決能力は、Googleの自動運転や人工知能のWatsonなど、環境の整備や機械学習によって着実に機械化の試みが進められていることも事実である(Autor, 2015)。雇用創出を予測するレポートでも、基本的にはすべての職業で雇用が伸びるわけではなく、雇用が増える業種と減る業種が出現するという結果を報告している。具体的には、自動化技術を提供する業種(IT分野など)は雇用が増大するが、生産、物流部門は雇用が減少することが見込まれている。ドイツの労働・社会政策省がまとめたWhite Paper Work4.0 (2016) でも、同様の見通しがなされている。それゆえ、過度に楽観視せず、状況の変化に対応する準備が必要になる。

2.仕事の自動化に伴う職業構造の変容

自動化によって影響を受けるのは、雇用の増減だけではない。ボストン・コンサルティング・レポートが指摘するように、雇用の増加は職種による。それにより、労働者を取り巻く雇用状況も変化する。OECDレポートは、労働の自動化により雇用が高スキルの仕事と低スキルの仕事に二極化すると指摘している(OECD、 2016) (図表5)。すなわち、専門的な技能を必要としない低スキルの仕事と技能を要する高スキルの仕事は需要が高まるが、中程度のスキルを要する仕事の需要は低下する。このような雇用の二極化は、2000年代前半から2010年代後半にかけてすでに生じており、中程度のスキルを要する雇用はこの20年で減少している。OECDレポートでは、高次の問題を解決する認知技術は機械による置き換えリスクは比較的少ないとしているが、Autor (2015) は、中スキルの仕事で生じた雇用の減少が、2007年から2012年にかけてより専門的な高いスキルを要する仕事にも広がっていることを指摘しており、機械技術の進展がどの程度のスキルを要する仕事まで影響を及ぼすかは不明確である(図表6)。

図表5:EU, 日本, 米国の被雇用者割合の変化(2002-2014年)
図表5:EU,日本,米国の被雇用者割合の変化(2002-2014年)
出典)OECDレポート(2016)
図表6:1979年から2012年にかけての職業能力別にみた雇用割合の変化
図表6:1979年から2012年にかけての職業能力別にみた雇用割合の変化
出典)Autor (2015)

また、職種だけでなく、雇用形態も二極化する可能性がある(OECD, 2016)。具体的には、インターネットの普及により、労働者、製品、タスクのマッチングが効率的になされることで、労働者の雇用形態が流動化する可能性がある。近年、ソーシャルコミュニケーションを行う場やデジタルマーケットプレイスを提供するプラットフォーム(Facebook,Twitter,eBayなど)に加え、UberやAirbnbなどの中間プラットフォーム、Amazon Mechanical TurkやUpworkなどのクラウドワーキングプラットフォームが発展している(White Paper, 2016)。中間プラットフォームやクラウドワーキングプラットフォームでは、プラットフォーム提供企業が複雑なタスクを細分化して労働者に割り当てる。労働者はより単純化された、安価な労働を請け負うことになり、キャリアアップにも弱くなる。また、労働者とプラットフォーム提供側の企業に明確な雇用関係がないにも関わらず、パフォーマンスの評価基準が細かく規定されており、労働者の自由が実質的に制限されやすいなど、雇用形態の安全性の問題も指摘されている(White Paper, 2016)。このような、プラットフォームビジネスに従事する労働者は、雇用関係のある仕事を1種類だけこなすのではなく、主たる仕事に加えて別の収入源も持っていたり、非正規雇用の収入源を複数持っていたりするなど、雇用形態が流動的である。もちろん、このような多角的労働者が、この先労働市場にどのような影響を及ぼすかは、現時点では明らかでない。しかし、正規雇用と非正規雇用の二極化は、高所得、低所得という給与形態の二極化を招くおそれがある。このような非正規タイプの労働形態は、通常の法定労働時間、最低賃金、失業保険などが、単一の雇用関係によってモデル化されているため、多くのOECD国家で保護の対象になりにくい。このような公的サービスも、今後は労働の流動化に対応し、保護が及びにくい労働者への対応を検討する必要がある。

Autor (2015)は、需要の弾力性の観点から、低スキルの労働と高スキルの労働に生じる賃金や需要の変化について検討している。高スキルの労働者は、大学や大学院での高等教育を要する。それゆえ、高スキルの職業を求めて教育を受けている間、人材の需要に対して供給がすぐに増加することはない。このことが、結果としてIT関連の高スキル人材の需要をさらに高めることになる。これに対し、低スキルの労働は教育が必須の高度なスキルを伴わないため、他分野から労働者が流入しやすく、生産性が高まっても単価が低くなる傾向があるために賃金の上昇は抑制されやすい。つまり、雇用は高スキル・低スキルの労働の需要の上昇という形で二極化するが、賃金は高スキル労働でのみ上昇し、低スキルの労働では上昇しない。

米国経済白書(2016)では、インターネット利用環境の格差を是正する必要も指摘されている。同レポートの調査では、ブロードバンドの普及率が10%上昇すると、1人あたりの所得の伸び率は0.9から1.5%上昇するとの指摘があり、さらにインターネットの利用率が高ければ所得が高くなり、逆に利用率が低いと所得も低くなることが明らかになっている。インターネットを利用できないと、就職活動やその他のサービス、教育面でさまざまな不利益を被る可能性があり、これらの情報格差を縮小する必要がある。

自動化による雇用の増減には、他にも教育レベルや賃金水準との相関が指摘されている。Frey and Osborne (2013)は、平均年収や教育レベルが低いほど置き換えリスクが高くなると指摘している。同様の指摘は他のレポートや研究においてもなされている(Arntz et al., 2016; OECD, 2016)。教育レベルが低い労働者は、低スキル・低収入の仕事に従事していることが多く、彼らの仕事は機械への置き換えリスクが高い傾向にある(図表7)。

図表7:教育レベルと自動化による代替リスクの関係
図表7:教育レベルと自動化による代替リスクの関係
出典)Arnz, Gregory, & Zierahn (2016)

3.労働者に求められる仕事内容の変化

これまでに指摘したとおり、仕事が自動化されることにより、労働者に求められる能力が変化する可能性がある。OECDレポートは、自動化のリスクが比較的低い職業であっても、その職業を構成するタスクの多くは自動化が可能であり、労働者はこれらのタスクの変化に適応する必要があると指摘している。同様の指摘はWEFレポート(2016)でもなされている。多くの産業で、社会的スキル(感情のコントロール力やコミュケーション能力)に加え、ITリテラシーやコンピュータを操作するための認知能力、情報処理能力が中核的スキルとして必要になる(図表8)。これに伴い、採用活動にも影響が生じる。需要が高まるコンピュータ・数理関係や建築・工学関係、その他の戦略的・専門的職業は、人材獲得の競争が高まり、状況は2020年までにより悪化する可能性がある(World Economic Forum., 2016)。特に、雇用の需要が高まるとされる高スキルの職業は、人材育成に時間がかかる。さらに、近年ではテクノロジーが変化するスピードが速いこともあり、育成がより困難なため、需要の高まりに対して供給が追いつかず、競争はより困難になることが予測される。

White paper (2016) では、このような仕事内容の変化が労働者の職業人としての成長を阻害する可能性も指摘されている。たとえば、労働の機械化により、人間の担当するタスクが過度に簡素化されれば、労働者の問題解決能力が衰える要因になりうる。反対に、自動化が人間の仕事をより複雑化させる可能性もある。いずれの事態においても、人間の仕事に新たな精神的ストレスをもたらす可能性がある。熟練の労働者が必要とする知識や経験を損なうこと無く運用可能な人工知能が必要である。

図表8:従業員に求められるスキルの変化
図表8:従業員に求められるスキルの変化
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出典)World Economic Forum.(2016)

また、技術の進展により、労働者が働く時間や場所にも変化が生じることが予想される(White paper, 2016)。情報通信技術の進展により、自宅や職場の外で仕事を遂行することが容易になる。性別に関係なく仕事を持ち、家事をこなすことが一般的になる中で、労働時間や職場場所の流動化はより進むことが予想される。ただし、それに伴い仕事とプライベートの境界が曖昧になるといった懸念もある。また、企業側は労働時間の流動化にコスト削減や業務の効率性、スタッフの利用可能性の向上を期待するのに対し、労働者は時間に対する決定権の保持とワーク・ライフ・バランスの向上を期待している。それゆえ、両者の利害を慎重にすり合わせ、制度化する必要がある。

4.自動化への対策

上記のように、技術革新に伴う仕事の自動化は、雇用の需要や労働者の仕事内容、雇用形態に至るまで、さまざまな影響が指摘されている。これらの変化に対応し、労働者の生活水準をいかに保つか、自動化の恩恵を企業が最大限享受するにはどのような対策が必要かについても、先行研究において議論と提言がなされている。ここでは、自動化の円滑な導入に向けた対策と、人材管理、雇用への対策に分けてレビューしていく。

4-1.自動化の円滑な導入

マッキンゼー・レポート(2016)は、企業が自動化を円滑に導入するためにとるべき行動を複数のステップに分けて提案している(Wee, Kelly, Cattel, & Breuing, 2016)。

①自社のどの部分に自動化技術を取り入れるかを限定する
まず重要なのは、自動化やAI技術の応用先を限定するという点である。これらの技術は、企業の活動を初めから終わりまで全てカバーする潜在能力を持っているが、それらを一度に適用する必要はない。同レポートでは、製造業者が既に所持しているデータをどのように使えるかに焦点をあてて、下記の4つのステップを踏んで導入先を明確化することを推奨している。
第1に、自社に特徴的な価値の流れや生産拠点を分析し、自動化の状況とデータの生成・利用料に関して現状を把握し、無駄や改善点がないかを評価する。第2に、前のステップで明らかにしたデータの利用状況とKPIや財務データに基づいて、現状を改善するためのアイデアを生み出す。さらに、出されたアイデアについて、それが与えるインパクトや導入の難しさや必要とされる時間などを考慮して優先順位をつける。第3のステップでは、優先順位の高いアイデアが会社に与えるインパクトを明確化する。最後のステップでは、これまでのステップで生み出されたアイデアをもとに、目標とKPIを明確化し、焦点を絞った導入計画を作成する。
導入計画には、自動化技術導入の提携企業に発注する見積もり要求や見積もり依頼の具体化、自動化技術がもたらす変化についての説得力のあるストーリー作り、専用のプロジェクトチームの設置なども盛り込む必要がある。

②IT基盤を固める
次に、堅実なIT基盤を固める必要がある。自動化技術の導入に成功する企業は、データの欠陥、システム不具合などの困難な状況下でもプロジェクトを完結させる事ができている。膨大な紙データをデジタル化したり、データへの投資(データの収集や積み重ね)を正当化したりすることは難しい。しかし、これらの投資は将来、自動化を試験的なレベルから実用レベルにするためには欠くことができない。また、データへの投資に加えて、デバイスや顧客に関連するデータを適切に管理するための自動化事業の所有権を明確化できるような土台を構築することも必要である。使用しているセンサーや機器から得られるマスターデータをより進化した分析に利用できるよう統合することも、複雑なイベントにリアルタイムで対処することと同じくらい重要な課題である。

③自社でやるべきことと他社に任せるべきことを明確化する
また、自動化技術を導入する時は、自社の強みとは何か、他社にまかせてもよいデータ・能力とは何か、を明確化する必要がある。現在、自動化ソリューションを提供できる第三者機関は増えてきており、選択肢は多い。たとえば、新たに提供が開始されるシーメンス社の「マインドスフィア(MindSphere)」は製造業者のデータを統合するプラットフォームを供給する事ができる。既にあるソリューションを上手く利用することで、導入にかかる時間を節約できる。この時しっかり管理しなければならないのが、OEMとの相互作用が生じた際のデータの所有権の確保である。契約締結の前に、自社がどのデータにアクセスする必要があるかを把握しておかねばならない。

④専門チームの設置
第4のポイントは、自社内に行動力のある内部チームを作ることである。自動化の恩恵を得るには、自社の内部に自動化を扱う能力のある強いチームが必要である。具体的には、ITに強いデータサイエンティストなどがいることが望ましい。このチームは、自社の他の部門とも連携できる必要がある。IT専門家と、ビジネスの専門家、オペレーションの専門家が緊密に共同して動くことで、自動化に関する戦略を明確化し、実行することが可能になる。

⑤新しいビジネスモデルの模索
最後のポイントは、新たなビジネスモデルを試すことである。自動化技術は、オペレーションの効率化だけでなく、新たなビジネスモデルを推進するようなデジタルデータの統合や、収集したデータによって内容を変化させるデータ駆動形サービスをもたらす(例 プラットフォーム・エコノミー型やサービス供給型のビジネスモデル)。目先の利益だけでなく、この先のマーケットの変容を見越して新たなビジネスモデルを構築、試用する必要がある。

4-2.人材管理・雇用への対策

次に重要なのが、人材管理、採用、労働者の教育といった、働き方に関連する分野の対策である。WEFレポート(2016)は、今後訪れる採用難に対応するには、①人事機能の刷新、②データ分析の活用、③多様性への対処、④流動的な勤務形態や人材プラットフォームの活用が必要であると提言している(World Economic Forum., 2016)。

人事機能の刷新とデータ分析の活用は、要するに人材管理や評価をデジタル化し、より効率的な人材管理や労働計画の実現を目指すべきとする主張である。上述の通り、労働の自動化・機械化により需要が高まる人材は、需要の高まりに対して人材の供給がすぐには増えないことが予想される。そのため、人事部門はこの問題に早急に対処することが求められている。WEFレポートが提案する解決策は、これまでの評価手法や管理手法にデータ分析を取り入れ、供給される人材の傾向と企業が求めるスキルのギャップに焦点をあてる新たな分析ツールを構築することである。そして、この新たな分析ツールから、イノベーションや人材管理戦略につながる洞察を供給することである。

また、データによる人材管理は、多様性への対処にも応用できる。人材不足への対応には、多様な労働力の受け入れも必要になる。性別、年齢、人種、性的嗜好などは多様性を取り扱う上でよく知られている問題だが、データを用いた人事評価を行うことで、無意識にもつ偏見を除外した採用が可能になる。流動的な勤務形態や、外部の人材プラットフォームを活用することも、人材不足への対策として重要である。インターネット技術の進歩によって、遠隔での業務管理も容易になっている。仕事をする場所にこだわらず、フリーランサーや独立した専門家と共同することも視野に入れる必要がある。

ボストン・コンサルティング・レポート(2015)は、現雇用に対する再教育を対策として掲げている。上述の通り、技術の進展によって、労働者が今までこなしていたタスクが変化し、意思決定や問題解決能力など、より水準の高い、幅広いスキルが求められるようになる。そのため、彼らに対して、現場教育(拡張現実を利用し、あたかも現実場面で作業しているような環境の中で学習する、熟練労働者の作業観察など)と座学を組み合わせた、より実践的な場面で役立つ能力が身につくような再教育が必要となる(Lorenz et al., 2015)。これに伴い、再教育のための時間、教育へのモチベーションや意味を保証することも重要になる。再教育は、少子高齢化社会への対策にもなる。ライフサイクルを通して、現雇用の大規模な再教育が必要である(World Economic Forum., 2016)。

White Paper (2016) においても、教育、特に、職業訓練の重要性が強調されている。このレポートでは、モバイルコンピュータやオンライン上のリソースを利用する上で必要な知識(デジタルリテラシー)をはじめとする、どのような職業にも共通する基礎的なスキルが重視されている。また、専門能力の開発とライフコースを通じて能力・技術を磨くための体系的な援助と、すべての労働者がそれらの援助にアクセスする機会を確保する必要性が指摘されている。ドイツの労働・社会政策省では、労働者の雇用され続ける権利(仕事を得るための職業ガイダンスや訓練を受ける権利)を保護するために、失業保険を”雇用保険”へと発展させ、それに合わせた制度面の整備が計画されている。

4-3.プライバシー問題・労働者の健康問題への対策

White paper (2016) では、労働の自動化・デジタル化に向けて、労働者の雇用や教育機会の確保、プラットフォームビジネスで弱い立場になりやすい労働者や起業家をはじめとする自営業者の保護といった対策に加え、BigData活用によって生じるプライバシー問題への対処、働く場所・時間の多様化や労働環境の変化による労働者の健康問題への対処といった、他のレポートではあまり触れられていない問題が議論されている。以下、White paper (2016) でまとめられているプライバシーと健康問題に関する議論を紹介する。

労働を自動化し、労働者や消費者の行動をデータ化し、事業に利用することは、企業に労働の効率化や消費の行動予測といった利益をもたらす。しかし、それと同時に、労働者や利用者のプライバシーや自由が侵害される危険性や、データから誤った予測がなされたり、消費者の好みや行動が操作されやすくなったりする可能性もある。位置情報や生体データといったあらゆるデータがクラウド上で管理されるということは、人々の行動がデータを所有する側から監視される危険性がある。それゆえ、政府がデータの利用・所有をどこまで許可するかといった規制を行う必要がある。ただし、この規制によってもともと得られるはずの利益が損なわれることがあってはならない。データ利用の目的によって制限の強さを変えるなど、さまざまな方策が考えられるが、今後も調査を重ね、何をどこまで許容するかを検討する必要がある。また、デジタル化による労働内容の変化によって、労働者がより精神的なストレスにさらされる機会が増えることが予想される。さらに、労働者が自分のライフスタイルに合わせて働く時間や場所を選択できるようになることは、労働者の生活の質を高めることに繋がる反面、仕事と余暇の境界が曖昧になってオーバーワークにつながるなど、かえって健康面に悪影響を及ぼす可能性もある。そのため、雇用する側は、これまで以上にコンプライアンスに責任を持ち、労働者と労働時間や場所についてしっかりと議論できるようにする環境を整える必要がある。労働者の健康を守るための調査研究・制度の整備も必要となる。流動的な勤務形態が労働者の健康を促進するのか、それとも阻害するのか、仕事内容の変容が健康にどのような影響をもたらすのかを明らかにするために、研究を重ねる必要がある。また、労働者の健康に対するリテラシーを高めることも重要である。

5.まとめ

以上、インダストリー4.0や労働の自動化と雇用の関係を扱った研究を概観し、自動化が労働者を取り巻く労働環境や雇用環境にどのような影響を及ぼすか、企業が自動化にどのように対応すべきかをまとめた。労働の自動化が雇用を創出するか、仕事を奪うのかについては、主張内容の細かい部分に違いはあるものの、大半の研究が、機械化により雇用が減少する職種もあるが、増加する職種もあるため、全体としては増加の方向に変化するとしている。自動化の影響は、これまで機械には困難とされてきた、柔軟性や相互作用を求められる仕事にも及ぶ可能性はあるが、現実社会に適用されるには技術的・倫理的ハードルも存在する。過度に悲観的にならず、自動化に向けた労働者の再教育や、新たな技術を使いこなすための対策を用意する方が現実的であると思われる。実際に、ここで挙げたレポートの多くが、労働者の再教育を今後の重要な課題としている。

自動化によって機械に置き換わりやすいのは、ルーティン作業や、事務の補助業務に代表される中程度のスキルを要する仕事であるという見方が一般的である。そして、管理職や商取引、俳優や科学者など、創造性や意思決定を伴う職業はリスクが低いとの見方がある(Frey & Osborne, 2013)。しかし、医者の仕事や金融関係の仕事が機械によって一部自動化された事例はすでにいくつか存在しており(Stewart, 2015)、厳密にどの職業が置き換わり、どの職業が置き換わらないかといった共通理解は得られていない。ただし、教育水準が低くてもこなせる仕事や、賃金水準の低い仕事が、機械への置き換えられやすいことは複数の研究で指摘されている(Arntz et al., 2016; Frey & Osborne, 2013; OECD, 2016)。高い置き換えリスクにさらされた労働者をいかに再教育するかは、自動化と雇用の未来に対応するために、政府や企業が共同して取り組むべき課題であるといえる。

参考文献
  • Arntz, M., Gregory, T., & Zierahn, U. (2016). The Risk of Automation for Jobs in OECD Countries: A Comparative Analysis. OECD Social, Employment and Migration Working Papers, 2(189), 47–54.
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  • Bessen, J. (2016). How Computer Automation Affects Occupations : Technology , jobs , and skills, (15).
  • Frey, C. B., & Osborne, M. A. (2013). The future of emplyment: how susceptible are jobs to computerization?, 1–72.
  • Lorenz, M., Rüßmann, M., Strack, R., Lueth, K. L., & Bolle, M. (2015). Man and Machine in Industry 4.0. Boston Consulting Group, 18.
  • OECD. (2016). Automation and Independent Work in a Digital Economy. POLICY BRIEF ON THE FUTURE OF WORK - (Vol. 2).
  • Stewart, H. (2015). Robot revolution: rise of "thinking" machines could exacerbate inequality. The Guardian. Retrieved from https://www.theguardian.com/technology/2015/nov/05/robot-revolution-rise-machines-could-displace-third-of-uk-jobs
  • The annual report of the council of economic advisers (2016) Economic report of the president. (米国経済白書)
  • Wee, D., Kelly, R., Cattel, J., & Breuing, M. (2016). Industry 4.0 after the initial hype–Where manufacturers are finding value and how they can best capture it. McKinsey & Company.
  • White Paper Work 4.0. (2016). Federal Ministry of Labour and Social Affairs. November, 2016.
  • World Economic Forum. (2016). The future of jobs: Employment, skills and workforce strategy for the fourth industrial revolution. Geneva, Switzerland. Retrieved from http://hdl.voced.edu.au/10707/393272

2017年6月1日掲載

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