IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第45回「企業に円滑なIoT導入を促す中長期的対策」

岩本 晃一 上席研究員

波多野 文 リサーチアシスタント/高知工科大学客員研究員

IoTを円滑に導入するには、さまざまな対策が必要である。IoTの恩恵を得るために、企業側にどのような準備が求められるかについて、ボストン・コンサルティング・レポート(2015)やマッキンゼー・レポート(2016)、WEFレポート(2016)などが対策を提言している。

1 社内の仕組みやIoT事業の枠組みに関する対策

このうち、マッキンゼー・レポート(2016)は、IoTの導入状況、導入障壁について、アメリカ、ドイツ、日本の産業専門家300名(会社規模50名以上)に調査し、調査結果に基づき円滑なIoT導入に向けて企業がとるべき行動を具体的に呈示している。

①自社のどの部分にIoT技術を取り入れるかを限定する
まず重要なのは、IoTの応用先を限定するという点である。IoTの導入に成功している製造業者は、IoTが可能にすることのうち、何を優先的に自社に適用するかを限定している。IoTは、企業の活動を初めから終わりまで全てカバーする潜在能力を持っているが、それらを一度に適用する必要はない。同レポートでは、製造業者が既に所持しているデータをどのように使えるかに焦点をあてた診断的アプローチを推奨している。

このアプローチは4つのステップから構成されている。1つ目のステップでは自社に特徴的な価値の流れや生産拠点を分析し、自動化の状況に加えてデータの生成、拡大、利用量に関しても現状を把握し、無駄や改善点がないかを評価する。2つ目のステップはアイデアの生成と、その優先順位付けである。前のステップで明らかにしたデータの利用状況とKPIや財務データに基づいて、現状を改善するためのアイデアを生み出す。出されたアイデアは、それが与えるインパクトや導入の難しさや必要とされる時間などを考慮して優先順位をつける。3つ目のステップでは、優先順位の高いアイデアが会社に与えるインパクトを計算する。最後のステップでは、これまでのステップで生み出されたアイデアをもとに、目標とKPIを明確化し、焦点を絞った導入計画を作成する。

導入計画では、IoTを製造業の作業風景の一部に溶け込ませる必要があるとともに、IoT導入の提携企業に発注する見積もり要求や見積もり依頼の具体化、IoTがもたらす変化についての説得力のあるストーリー作り、専用のプロジェクトチームの設置を行う必要がある。

②IT基盤を固める
次に、堅実なIT基盤を固める必要がある。IoTの恩恵に預かるには、どんな場合でもいくつかの運用上のハードルを打破しなければならない。成功する企業は、データの欠陥、システム不具合などの困難な状況下でもなんとかプロジェクトを完結させる事ができている。膨大な紙データをデジタル化したり、データへの投資(データの収集や積み重ね)を正当化することは難しい。しかし、これらの投資は将来、IoTを試験的なレベルから実用レベルにするためには本質的なものである。また、データへの投資に加えて、デバイスや顧客に関連するデータを適切に管理するためのIoT事業の所有権を明確化できるような土台を構築することも必要である。使用しているセンサーや機器から得られるマスターデータをより進化した分析に利用できるよう統合することも、複雑なイベントにリアルタイムで対処することと同じくらい重要な課題である。

③自社でやるべきことと他社に任せるべきことを明確化する
また、IoTを導入する時は、自社の強みとは何か、他社にまかせてもよいデータ・能力とは何か、をしっかり考えなければならない。現在、IoTソリューションを提供できる第三者機関は増えてきており、選択肢は多い。たとえば、新たに提供が開始されるシーメンス社の「マインドスフィア(MindSphere)」は製造業者のデータを統合するプラットフォームを供給する事ができる。既にあるソリューションを上手く利用してIoTの導入を始めることで、導入にかかる時間を節約できる。製造業者は、このような第三者の技術提供企業が提供可能な技術とその組み合わせパターンをまとめたリストを入手し、技術提携に向けたアプローチをしていかねばならない。この時しっかり管理しなければならないのが、OEMとの相互作用が生じた際のデータの所有権の確保である。契約締結の前に、自社がどのデータにアクセスする必要があるかを把握しておかねばならない。

④専門チームの設置
4つ目のポイントは、自社内に頭の回転の早い内部チームを作ることである。IoTの恩恵を得るには、自社の内部にIoTを扱う能力のある強いチームが必要である。具体的には、ITに強いデータサイエンティストなどがいることが望ましい。このチームは、自社の他の部門とも連携できる必要がある。IT専門家と、ビジネスの専門家、オペレーションの専門家が緊密に共同して動くことで、IoTに関する戦略を明確化し、実行することが可能になる。

⑤新しいビジネスモデルの模索
最後のポイントは、新たなビジネスモデルを試すことである。IoTは、オペレーションの効率化だけでなく、新たなビジネスモデルを推進するようなデジタルデータの統合や収集したデータによって内容を変化させるデータ駆動形サービスをもたらす(例 プラットフォーム・エコノミー型やサービス供給型のビジネスモデル)。目先の利益だけでなく、この先のマーケットの変容を見越して新たなビジネスモデルを構築、試用する必要がある。

以上、まとめると、①IoTを活用して自社の改善したい点を明確にし、会社が持つ資源を集中させる、②多少困難であってもIT基盤をしっかり固める、③自社内で行うべき作業とアウトソーシングすべき作業を明確化する、④多部門と連携して動くことができる専門チームを構築する、⑤新たなビジネスモデルを模索する。マッキンゼー・レポート(2016)は、上記の5つのポイントが、今後IoTを円滑に導入する上で必要であるとしている。

2 人材管理・雇用への対策

これに対し、 WEF・レポート(2016)では、人事評価・採用活動の見直し、現雇用に対する教育、社員の管理方法の見直しなど、主に人材管理や採用に関する対策が掲げられている。これは、今後人材が不足し、企業にとって採用活動が困難になるという予測が立てられていることが関係している。特に、IoT技術の発達により需要が高まるコンピュータ・数理関係の人材やデータサイエンティストなどは、技術進歩のスピードが速く人材の育成が難しいこともあり、良い人材を得るための競争はますます激しくなると見込まれている。

このような人材不足に対応するには、多様な労働力を受け入れることが不可欠である。性別、年齢、人種、性的嗜好などは多様性を取り扱う上でよく知られている問題だが、データを用いた人事評価を行うことで、無意識にもつ偏見を除外した採用が可能になるだろう。

また、労働者の働き方や管理に対する考え方を変えることも必要になる。どこで仕事をしたかではなく、どのような仕事をしたかを重視した管理を取り入れ、遠隔での仕事やデジタルプラットフォームを使った外部の専門家との共同作業に対応していかねばならない。既に、ウーバー(Uber)やアマゾン・メカニカル・ターク(Amazon Mechanical Turk)などを始めとするプラットフォーム技術の普及により、雇用関係のある仕事を主として持ちつつ、他の収入源を持つ多角的労働者が増加している。しかしながら、現在の労働協約はこのような労働者をほとんどカバーできていない(OECDレポート(2016))。従来の雇用形態や慣習、従業員の管理方法を見直し、新しい働き方に対応する必要がある。

同様の指摘は、ボストン・コンサルティング・レポート(2015)でもなされている。採用に関しては、全ての労働力に関するデータを体系的に収集・分類し、労働力を提供する側と、雇用する側のマッチングを高めることが可能になるようなモデルの構築と、能力重視の採用姿勢を取りいれる必要がある。肩書や資格を持っている技術者よりも、IT関連の能力や経験の有無を重視すべきである。

現雇用者への再教育も、IoTがもたらす社会の変化に対応していく上で必要である。IoTの普及により、今までこなしていたタスクが変化し、従業員は意思決定や問題解決能力など、より水準の高い、幅広いスキルが求められるようになる。そのため、彼らに対して、現場教育(拡張現実を利用し、あたかも現実場面で作業しているような環境の中で学習する、熟練労働者の作業観察など)と座学を組み合わせた、より実践的な場面で利用可能な能力が身につくような再教育が必要となる(ボストン・コンサルティング・レポート(2015))。このような再教育は、少子高齢化社会への対策にもなりうる。

また、より長期的には、教育システムの再考も課題になるだろう。前述の能力重視型の採用とも重なるが、従来の二分法的な教育(文系対理系、応用対基礎)や、何を学んだかよりもどこで学んだかを重視するような価値観やシステムは、改善が必要である(WEFレポート(2016))。

以上が、先行研究で提案されている企業がIoTを円滑に導入するための対策である。前半で述べた、IoT導入先の明確化やIT基盤固め、専門チームの育成、そして、後半に述べた多様性や新たな働き方への対応は中期的対策、新たなビジネスモデルの模索や教育システムの再考は長期的対策にあたるといえる。

参考文献
  • Bauer, H., Baur, C., Mohr, D., Tschiesner, A., Weskamp, T., Alicke, K., ... & Wee, D. (2016). Industry 4.0 after the initial hype–Where manufacturers are finding value and how they can best capture it, McKinsey Digital., McKinsey & Company
  • Lorenz, M., Rüßmann, M., Strack, R., Lueth, K. L., & Bolle, M. (2015). Man and Machine in Industry 4.0. Boston Consulting Group, 18.
  • Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD). (2016). Automation and independent work in a digital economy: policy brief on the future of work.
  • World Economic Forum. (2016). The future of jobs: Employment, skills and workforce strategy for the fourth industrial revolution. Geneva, Switzerland. Retrieved from http://hdl.voced.edu.au/10707/393272

2017年4月10日掲載

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