IoT, AI等デジタル化の経済学

第28回「中小企業がIoTビジネスに参加する形態」

岩本 晃一
上席研究員

約1年前のある講演会で、私は以下のような内容をしゃべった記憶がある。

「もう調査はやめましょう。あるドイツ人から聞いた話ですが、日本から、調査ミッションが入れ替わり、立ち替わり、やって来る。そして、みんな同じ質問をして、帰って行く。その後、何も連絡が無い。次の関係に進んだ日本人は、誰もいない、とのことです。調査はやめて、実行に移す段階に入っています」

この言葉が示すように、約1年前、私は、ドイツに多くの調査ミッションを出して勉強することには熱心だが、一向に、現実の世界に反映させようという企業がなかなか現れてこないことに、やや苛立っていた。日本人の勉強熱心さもあって、もしかしたらドイツ人よりも日本人のほうが、インダストリー4.0に詳しいのではないかとさえ思えた。

この1年を振り返ると、昨年に比べて、今年の講演依頼は激減した。ネットを見ても、もはやIoTに関するセミナーの数は大きく減った。IoTに関心を持ち、その内容を知りたいと思った人は、ほぼ全員、何らかの形で、勉強は終えたのであろう。

その証拠に、昨今、新聞を見ると、毎日のように、どこかの企業が、IoT導入を検討している、という記事が載っている。バスに乗り遅れまいとする日本人的な「横並び経営」が、今、IoT分野で始まっていると感じられる。

恐らく、大企業は、独力で、何らかのIoTは導入するのだろう。自社内で抱えているエンジニアが、上司からの命令で、どのようなIoTシステムを導入すればいいか、と考えている段階と思われる。

中小企業は、そうした世間の潮流から大きく遅れているが、中小企業が、IoTビジネスにどのように関わっていくのか、少数ながら具体的な動きが見られ始めた。

本稿では、その動きを、分類し、紹介したい。

1 IoTシステムのサプライヤーとユーザー

中小企業が、中小企業向けの、低廉で技術的に簡易なIoTを販売するサプライヤーとなる。また、そのIoTシステムを導入し、自社の生産性を上げるユーザーとなる形態である。

ロボット革命イニシアティブ協議会RRIは、中堅・中小製造業向けIoTツール募集イベントを行い、選定されたツールを公開している。また、企業規模に関係なく、「IoTユースケースマップ」β版を公開した。この試みは、中小企業によるIoTシステム開発を促し、かつIoTシステムの導入を促すものである。

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2 大企業が作るIoTシステムに組み込まれる形態

大企業といえども、IoTシステムを自社のみで構築することは難しい。そのため、たとえば、センサーを外部の中小企業に発注したり、ある一部のソフトを外注するといった形で、中小企業が大企業が作るIoTシステムの生産過程のなかに組み込まれる形態がある。

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3 大企業が作るプラットフォームの稼働のなかに参加する形態

大企業が、オープン・プラットフォームを公開し、接続部分を公開すると、そのプラットフォームに接続して使用可能な機械、設備、部品などを中小企業が生産販売する形態がある。

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4 中小企業間のシステム・オブ・システムズ

中小企業同士(サプライヤー側のみ)の複数のIoTシステム同士が接続されて、1個のIoTシステムが形成され、より大規模な企業並の競争力を発揮できる形態である。

各企業の「部分最適」から「全体最適」達成を実現できる。

接続された複数社があたかも1つの企業として稼働し、その結果、複数社の規模を持った中堅企業と同等の競争力を発揮することができる。

「つながる町工場」プロジェクトがこれに当たる。「つながる町工場」プロジェクトは、今野製作所、西川精機製作所、エー・アイ・エスの3社が参加し、東京都の補助金により2014年9月にスタートした。ドイツが、2013年に発表したIndustrie4.0構想のなかの企業間「水平統合(vertical integration)」に相当するものである。

EDIなどの疎結合とは異なり、複数企業においてビジネスプロセスやビジネスルール、ITシステムを密結合し、3社があたかも1つの企業のようにマーケティング、販売、提案・見積、設計・試作、製造、品質管理、出荷・回収を行う。

日本に於いて中小企業が初めて行う「水平統合」プロジェクトであり、マーケティング、人的販売・受注(いわゆる営業)、設計・試作、調達、生産、出荷、顧客サービスに関し、3社のプロセスを共有・連携する。

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5 親企業を頂点とする系列間でのシステム・オブ・システムズ

大企業と中心とした系列間の工場の生産ラインのIoTシステム同士を接続するものである。世界中にある大企業の工場のみならず、サプライチェーン、バリューチェーン上にある全ての工場をネットに接続すると、各工場ごとの「部分最適」から「全体最適」を実現することが可能になり、「生産性」が大幅に向上する。

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そうすると、ネットに接続された全ての工場がバーチャル上あたかも「1つの工場」として、全体が1つのシステムとして稼働する。

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以上、これまで公になったIoTシステムの形態から、中小企業がそこにどのように関わっていくか、それらを分類した。今後、ここに挙げた以外のさまざまなIoTの形態が出現しよう。1年後には、更にもっと多くの中小企業参加の形態が見られることを期待している。

2016年10月27日掲載

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