IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第26回「IoTが雇用に与える影響;ケーザー・コンプレッサーの事例」

岩本 晃一 上席研究員

IoTが進めば、製造業はものを売るのでなく、サービスを売るようになり、サービス内容で勝敗が決まる、とよく言われる。昨年3月に訪独した際、そうした新しいIoTビジネスモデルの代表的な成功企業として、ケーザー・コンプレッサー社を挙げている人もいたくらい、同社は、この新しいIoTビジネスで成功を収めている。

同社には日本法人がある。そこで、ケーザー・コンプレッサー株式会社の河合仁代表取締役社長にインタビューしたところ以下の通り。

<以下、発言内容>

当社のIoT活用例としては、顧客先の情報(CRM; Customer Relationship Management)、納入した製品・システムの予備診断(PdM; Predictive Maintenance)、総合基幹業務システム(ERP; Enterprise Resource Planning)、協力会社の情報(SCM; Supply Chain Management)とバーチャル空間に顧客のシステムを構築して運転状態を把握するシステム(EB; Engineering Base)が代表的なものになります。

1 圧縮空気の販売事業を始めた背景

背景は大きく分けると4つある。
まず始めに、圧縮空気の販売が当社の以下の2つのミッションを達成する一番最適な方法であること。第1のミッションは、圧縮空気の費用を最小化すること。コンプレッサーとは空気を圧縮して顧客に提供する装置であり、顧客にとっては装置などの費用ではなく、圧縮空気の費用をどれだけ抑えるかが重要である。第2のミッションは、空気とは、電気や水と同じくインフラ、すなわち動力源であるため、供給を絶やさないこと、つまり信頼性が高く、何か起きた際にもバックアップをしっかりして供給することである。

第1の費用の最小化については、圧縮空気の費用の80%以上は電気代であり、コスト削減の早道は省電力化である。機械を更新していく場合、毎年1台ずつ更新すれば、更新需要に合わせたシステムになってしまい、理想的なシステムを構築することが難しくなる。その都度、一番良いものを選択しているつもりが、10年後に見てみると、本当に一番良いものとはいえないシステムが構築されることがある。そのため一括して全てを請け負い、全てを入れ替えることによって省エネ化し、顧客のコストを削減する。また省エネの技術革新、納入した装置の長期運転に伴うメンテナンス費用の増加など、顧客の装置の使用状況によって圧縮費用が最小化される年数(契約年数)が異なる。本ビジネスモデルでは、契約年数もコスト削減要因の1つとして提案している。
また装置本体や圧縮空気を冷却するため、空気を使う空冷式と水を使う水冷式の2つがあるが、冷却水の管理費用は圧縮空気の費用を算出する場合に、電気代の次に大きなファクターとなる。当社では空冷式を基本的に提案することで圧縮空気に必要なコストの低減を図る。
第2の信頼性については、基本的にメンテナンスにより装置を正常に維持管理するのだが、コンプレッサーと共にシステム構成機器となるドライヤー(圧縮空気の乾燥用)やフィルター(圧縮空気の濾過)、ドレインの処理など、すべての機器が適正にメンテナンスされていない場合がある。また、顧客の都合により、年度に予算化されず、メンテナンスが延期されたり、その延期から誘発されるトラブルが発生する場合がある。それを避けるため、一括受けでシステムを請け負い、たとえ、多くのメンテナンスが必要になったとしても、顧客に追加負担が生じないようにして、納入したシステム全体の信頼性を確保する。

2つ目の背景は、圧縮空気もガスの1つであるということ。都市ガスを例にとると、顧客は1立法メートルあたり幾ら、という風に購入している。なぜなら、都市ガスの生成設備を自宅で所有するにはコストが高く、生成技術が難しい為である。工場でも窒素ガスやヘリウムガスといった工業用ガスなどは、ガス供給業者から1立法メートル当たりで購入している。だがなぜか、圧縮空気だけは自社で機械を購入し、自社で製造している。当社の考えでは、同じガスなら同じビジネスモデルがあってもいいのではないかという大前提がある。つまり、1立法米あたり幾ら、という風にしてしまえば、顧客は、他のガスと同じように必要な量の圧縮空気を、適正な価格で提供する業者から購入することができる。

3つ目の背景は、顧客からのニーズである。装置の購入から圧縮空気の購入は、固定費から変動費への変更である。ヨーロッパでは、オフバランス、すなわち資産から圧縮空気を製造する設備を外すことができる。ROA、すなわちバランスシートの改善は銀行からの借り入れ金利を安くすることが可能になる。これにより資金調達力が上がり、顧客は本業の製造用設備に投資することができる。最先端技術に裏付けられた省エネシステムによる圧縮空気の直接的な費用低減と資金調達力の向上の両面で、コスト削減に貢献する。

最後の背景は、労働力の選択と集中、または省人化の動きである。アウトソーシング化により、人員の削減という顧客ニーズにも応えてきた。顧客は、大切なお金だけでなく人的リソースも製造側に注力させることができる。コンプレッサーシステムを維持管理する保全員は他の設備も管理していることが大半であり、従業員の教育費用なども見えないコストとして顧客に負担となっている。

2 圧縮空気販売事業のこれまでの成果

圧縮空気販売事業は、毎年+10%〜+20%成長しているが、まだ会社全体の7%程度の事業規模である。
コンプレッサービジネスは、すべての製造業が対象顧客であると共に、当社では建設用のエンジン駆動式コンプレッサーや歯科用デンタルコンプレッサー、水処理施設に代表的に使用されるブロワーなども扱っている。
販売方法も、ユーザーへの直接販売、代理店販売、プラントエンジニアリング会社経由と多岐に及ぶ。
圧縮空気販売事業は、ユーザーへの直接販売を原則として展開してきた。
たとえば、ヨーロッパでは、ドイツが直接販売と代理店販売の比率が半分ずつである。一方、オーストリアでは100%直接販売、イタリアでは100%が代理店販売と、各市場に合わせた販路開拓が行われている。
このビジネスを行う上では直間比率を上げる必要がある。これら以外にも自社の資本が入っておらず、輸入総代理店のみという国もあるが、そういう国でも自分たちのビジネスモデルを研修を通じて広めている。彼らも我々と同じビジネスモデルを展開している。

日本だけで言えば双方の形があるが、代理店販売の中でも、商社のように保守機能を有しない販売のみの形と、保全まで一括で行う形態に分かれるが、当社では直接販売や保全を一括で行う会社と共に、このビジネスモデルを普及させたいと考えている。

圧縮空気のコストや、電力使用が最適化されたシステムを導入した顧客からは、必ずリピートオーダーを得ることができる。当社では導入するシステムの省エネ性と信頼性には自身があるため、同ビジネスモデルは顧客の囲い込みが確実に行える。
今後も同ビジネスは従来型ビジネスよりも高い成長率が見込める。
当社内のコストまたは効率性を考慮した場合には、メンテナンス契約を結んでいた場合と、メンテンス契約を結ばずに突発的な電話がかかってきてメンテ職員を派遣した場合とでは、1件当たりの売上高は、50%ほど違っている。コンプレッサー単体でなくシステム全体のメンテナンスを行う点や、トラブル箇所のみの交換作業でなくなることが理由である。当社の限られたリソースを最大限に活用する上でも、同ビジネスモデルに代表されるメンテナンス契約は必要不可欠である。
装置の製造者としての観点からは、従来型の装置販売モデルでは、顧客の特殊仕様の要求も少なくない。
当社では同じ製品であっても、Aユニット、Bユニット、Cユニットと3種類に分類している。Aユニットとは標準仕様である。各国でもっとも採用される仕様を搭載した装置をAユニットとして、装置本体として在庫も有する。顧客から受注が入った段階で、在庫数を確認し、適正在庫数を下回るとERPシステムが自動的に発注する。Bユニットは、ある程度の頻度で採用されるオプションが組み込まれた装置を意味する。受注した際に、オペレーターが必要なオプションを選択するとERPが自動的に発注するようになっている。AおよびBユニットは、サプライヤーのシステムとの統合もされており、受発注処理や、あらかじめ設定された納期により製造工程も自動的に行われる。
本ビジネスモデルでは、ユーザーは装置の使用許諾契約になるために、特殊仕様であるCユニットは提案されない。これにより工場側の自動化率が高まり、製造コストの低減や、製造する仕様にかかわるエンジニアの数を最小化することができる。製品やサービスの品質を落とすことなく、コストを削減することも成果の1つである。
顧客の反応は、気に入って頂いている。実際は、このサービスが始まると、何事もなかったかのように進んでいく。

3 今後の見通し

今後の見通しも非常に明るい。イタリアのような代理店販売が100%の国でもこのビジネスが開始されているため、当社の組織も変わってきている。

現段階ではターゲット層を明確にしており、それよりも圧縮空気の需要が大きすぎるもしくは小さすぎる顧客には本サービスの提案は行っていない。1つの圧縮空気システムで、工場の圧縮空気消費量や消費パターンが把握できるサイズを対象としてビジネスを行っている。同ビジネスモデルを行うには、計測機器を用いて、ユーザーの実態調査を行い最適なシステム構成や期間を定める。小さなユーザーは事業規模と運転時間の短さから十分な効率性と収益性が得られない点や与信管理の懸念から未だサービスを提供していない。

他社の参入の可能性については何とも言えないが、現時点ではこのビジネスを始めたメーカーはないと思われる。圧縮空気の費用は、電気代と冷却水費用である。どちらも当社の製品・サービスの優位性が発揮しやすく、他社が参入する可能性は低いと見ている。

4 導入したIoTシステムの概要

ユーザーに導入するコンプレッサーシステムに使われるIoT技術としては、人工知能型圧縮空気システム管理制御盤であるSAM4.0、各コンプレッサーとSAM4.0をつなぐ安全なネットワーク環境であるSigma Connect、バーチャル空間上に導入したシステムと同じシステムを構築し、ユーザーの実運転状況とシミュレーションの差を把握することができるEngineering Baseがある。
システムの予備診断PdMが新たに導入されるIoT技術であるが、これに従来から使用しているERP、 CRM、SCMが融合される。
今後の予定は、ユーザーの実態調査を行うための計測機器やシュミレーションシステムを融合できるためにADA4.0、KESS4.0に一新する予定である。

5 ケーザー社のIoT技術

当社の考えるIoTとは、顧客から始まり、サプライヤーのマネジメント、物流、業務基幹ソフトまで一括する、と捉えている。もともと技術を導入する前に、ERPやSCM、CRMなどについては、導入済みになっている。これとシームレスにリンクするという考えである。

たとえば、なんらかの兆候があり、交換部品が必要となった場合、ワークオーダー、すなわち仕事の依頼書が自動的に発行され、部品が手配され、それが在庫管理システムやサプライヤーともリンクしているので、サプライヤーからの部品補充や納期管理が可能となっている。ここまでを見据えたIoTである。 インターネットによる高速通信が出来るようになったことが起源となり、顧客側の情報を当方のサーバーに送って当社の職員が見るという意味でのモニタリングは、2002年にはスタートしていた。だがまだこの時点では、生データというよりは、台数制御盤を通じてまとまったデータを取得する程度だった。データはまずドイツ本社を経由して各拠点に送られてくる。顧客先に台数制御盤があり、コントローラがあり、クラウドを通じドイツに、それから日本に伝達される仕組みである。
データ自身もリアルタイム性のあるものは、運転状況や運転圧力のみであり、装置内に組み込まれた各種センサーのデータは不具合がない限り台数制御盤の蓄積されるだけで、情報収集はされていなかった。
問題が発生したときのみ、ネットワークを介して台数制御盤に保存されたデータを取得していた。
当社はIoT時代に向けて、台数制御のアルゴリズムを抜本から変えることから始めていった。
従来の台数制御は人間でも理解可能な優先順位でコンプレッサーが選択されるものである。インバーター制御の装置が含まれるシステムでは、優先的にインバーター制御機が選択される。この装置で需要をまかなえない場合には、次の装置が動くシーケンスとなる。また小さなコンプレッサーと大きなコンプレッサーの組み合わせのシステムでは、小さなコンプレッサーがロード・アンロードを行い、大きなコンプレッサーがフルロード状態かモーター停止状態になるようにオペレーターが台数制御盤に制御の仕方を教え込む。しかし2010年に、3D制御と呼ばれる、いくつかのパラーメータの条件の下に、台数制御盤が今あるコンプレッサーの状態を把握した上で、システムとして最適な状況を選択するという人工知能型の制御盤に変更した。
当社では、顧客7〜8社で、従来の制御方法と、人口知能型を入れた制御に入れ替えた場合と顧客の運用実績で比較した。台数制御盤に接続されているコンプレッサーに変更は加えていない。結果として、平均3%程度の省エネを実現した。

最適制御とは、圧縮空気の需要に基づいて、消費電力量の最小化を指すことである。その中には従来、われわれが常識と考えていたものが覆ることもある。圧力が、0.1メガパスカル下がると、平均して6-7%効率が良くなると言われているため、一般に出来るだけ低い圧力で運転したほうがいいと考られる。一般に制御とは、システム全体の制御幅を小さくして、運転圧力を極力下げることが最適なシステムに近づけると考えられている。

しかし最新のものは、コンプレッサーがアイドリングする際に消費電力を下げる目的で、内圧を抜くことによる無駄(圧縮空気の微量の放出)と運転圧力を一時的に上げることによる消費電力の増加を、随時比較し、システムとして効率的な選択を行う。
コンプレッサーシステムは圧縮空気の需要を圧力という媒体を通してを見ている。圧力の高低だけでなく、圧力が変化する速度を見ながら需要の把握を行っている。
他の製品製造と比較すれば、需要予測は比較的容易に行うことができるため、製造側(コンプレッサー)の状態や性能・特性を台数制御盤が把握することでIoTの目指す需要に応じた最適なシステム運用が可能となる。
システムの予備診断PdMは、装置単体の状態監視と捉えられていることが多いが、当社ではシステム全体の診断を意味する。
圧縮空気は乾燥度も要求され、その要求値も規格化されている。圧縮空気を乾燥させるためにはドライヤーという付帯装置が用いられる。
従来、乾燥度が不十分でトラブルが発生した場合、保全員はドライヤーの不具合を第1に疑いトラブル対応しようと試みる。
当社では、台数制御盤に周囲温度、相対湿度、各コンプレッサーの状態情報(この場合は、運転温度)など各機器や設置環境の情報をリアルタイムで取得し解析する。
バーチャル上の顧客と同じシステムで入手したデータから本来あるべきシステム状態と現実のデータを比較することで、問題がどこにあるかを特定する。これにより保全員の初動の精度を上げ、ダウンタイムの最小化を行うことができる。
なお、装置単体でいえば、運転温度の上昇率が本来あるべき状態と異なれば、事前に保全員にトラブルが発生する前に確認・処置をとらせることができる。 従業員の研修向けに導入したシステムもある。
従来型の研修では補えないほどの幅広い知識とノウハウの共有が必要になってきた。
研修後でも復習のできるオンライントレーニングシステムとか、チャットやスカイプを使った情報を共有できるシステムなども随時投入してきた。
もう1つ、IoTによるデータ収集の成果として、製品開発力の強化が挙げられる。逆の言い方をすれば、製品のライフサイクルが短くなってきているという時代背景がある。昔であれば優れた製品を開発すれば、多少のマイナーチェンジがあっても10〜15年は同じ製品で競争優位性を保つことができた。開発初期不良の対策が施された後の長い期間、非常の信頼性の高い製品を提供し続けていた。

しかし競争優位性を追求し、2〜3年に1度のモデルチェンジを行っている。装置の信頼性を高めるために、顧客先での情報が重要になってくる。いち早く正確な情報をフィードバックし製品に反映していくことが重要になっている。従来は、作業員の報告書とデータを基に専門家が解析を行っていたが、同じ事象に対して、作業員の報告書にバラツキなども見受けられた。
 IoTの技術により、リアルタイムで顧客先での装置稼働状況の詳細データが入手できることにより、製品改良・対策を施す時間が削減されている。  サービスリコールなどの製品改良を行うことで、ユーザー先でのトラブルが減少してきている。

6 雇用環境について

エア売りのビジネスの比率はそれほど大きなものではないため、直接的に雇用環境が変わったということはない。ただし1回の保守訪問での売り上げ金額の違いでもわかるように、従業員1人あたりの売り上げは大きく改善されるため、事業を行う上での適正な従業員数は従来のビジネスモデルよりも少なくてすむ。
またビジネス規模と直接結びついた計画的な人員補充も可能となる。
バーチャル空間上でシステムを作ることができるビジネスモデルについては、日本でもエンジニアは非常に限られた人間に任せている。各国でも、1〜2名規模で任せている。このビジネスは専門性の高いキーになるエンジニアが必要になった。雇用環境としては、そこに大きな違いが出ている。以前は、スキルがあるかないか、といったレベルでしかなかったが、今後のシステムが適正に稼動・モニタリング・運用されるためには、エンジニアリングベースとよばれるバーチャル空間上のシステムが鍵となる。この専門性の高いエンジニアへの教育費用は他の社員のものを大幅に上回る。
今後は、専門性の高いエンジニアと保全を行うエンジニアの数は増える一方、内勤者の数は最小化又は融合化されたシステムに取って代わると見ている。
また保全員も、従来は作業以外にも報告書の作成もかなりの時間を費やしていたが、生データの収集により報告書の作成は最小化されていく。

2016年10月17日掲載

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