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第二章 コンシューマレポート戦略

※本プロジェクトは、終了しております。

情報家電は、高度にIT 化された情報機器である一方で、幅広いユーザ層が日常的に利用する家電機器として位置付けられる。これまでコンピュータの分野で一般的であった、ある程度リテラシーの高いユーザを想定した利用方法(ユーザインタフェースの使い易さ、セキュリティへの配慮等)では、十分に消費者のニーズに叶わない可能性がある。
このため、メーカ、サービス提供事業者、行政等が協力しながら、消費者の潜在的なニーズを十分に把握し、製品やサービスに関する情報を提供して消費者の期待や不安に応えることが必要不可欠である。
2003 年4 月に経済産業省が公表した「情報家電の市場化戦略に関する研究会(e-Life 戦略研究会)」の基本戦略報告書「e-Life イニシアティブ」では、情報家電の普及に向けた具体的な7 つの行動計画を提示し、その中の「行動III:情報家電コンシューマレポートの作成・公表」において、情報家電に関するユーザニーズを的確に把握し、消費者に対して情報家電に係る情報提供を客観的な指標を用いることの必要性を指摘している。
また、情報家電コンシューマレポートには、消費者への情報提供だけではなく、市場に眠る消費者の感性を基本に情報家電が提供すべきサービスや機能を抽出し、各メーカの企業戦略に結びつけ競争力強化を図っていく側面があると考えられる。

<目次>

1. 消費者の購入プロセスの変化

昨年末、日経BP がHDD 搭載DVD レコーダに対してどのような購入意識を持っているか等を調査した「デジタル家電の購入プロセス調査 第2 回」によると、機種の選択から最終的な決定に至るまで「価格」よりも「HDD 容量」で製品を選ぶ消費者が急増しているという結果が得られている。
これは、大容量のHDD を搭載した機種が多くなってきており、DVD レコーダでは消費者が満足できるHDD容量を搭載しているかどうかが判断の決め手になっている。
また、HDD 搭載レコーダを購入する際に製品のスペックを確認・比較するのに活用する情報源としては、「メーカのWeb サイト」、「カタログ」という順となっており、最終的に決定段階では「店頭で見て」が最も多く、次いで「価格情報系Web サイト」となっている。
消費者は製品のスペックの確認・比較を行う情報源として「メーカのWeb サイト」や「カタログ」であり、メーカは消費者に対して適正かつ正確な情報を開示することが求められる。
しかし、本来、情報家電はスペックで選択すべきものではなく、情報家電によってもたらされる、新しい生活のシーンやサービスから製品を選択すべきであり、メーカもスペックやテクノロジーだけで製品をアピールするのではなく、その製品を使った新しい生活シーンやサービスを提示すべきである。

2. 情報家電普及の共通要件

情報家電の普及を進めていく上で、情報家電が的確に国民のニーズを満たすことが必要である。野村総合研究所が行った情報機器やサービスの利用に関するアンケート(「情報機器やサービスの利用に関するアンケート」2002 年9 月)結果では、情報化の進展について、生活の利便性の向上といった期待を示す回答が見受けられる反面、犯罪、プライバシー漏洩についての不安を示す回答も見受けられる。

情報家電が広く社会に受け入れられ、爆発的に普及していくためには、こうした国民の期待や不安に的確に対応していくことが必要不可欠である。
このアンケート結果に基づいて、e-Life 戦略報告書において情報家電普及のために具備すべき要件として以下の共通要件をまとめている。

(1)安心して使えること
新たな機器やサービスの利用により、新しい犯罪の増加やプライバシーの侵害について、不安を抱くユーザの存在が指摘されている。ユーザが安心して情報家電を利用するためには、ネットワークの接続状況が、常に安定し、高い信頼性が確保されるとともに、プライバシーの保護を含めた安全・安心の確保について、制度的、技術的に十分担保されることが不可欠である。
そうした安全・安心について、必ずしも十分な技術的知見を有していないユーザに対しても、その必要性が分かりやすく説明されることが重要であり、これによりユーザ側においても、セキュリティ意識が涵養されることになる。

(2)誰にでも使いやすいこと
コンピュータや携帯電話等をはじめとする情報機器は、我々の身近な製品となってきたが、その操作やインターネットへの接続方法等は、必ずしも簡単ではない。技術について知見や興味のないユーザにとっては、必ずしも使いやすいものではない。製品の機能を全て理解し、十分に使いこなしているユーザは、極めて少ないと考えられる。上述のアンケート結果でも、情報を上手く使いこなせる人と、使いこなせない人の格差が拡がることに対する懸念が指摘されている。かかる状況の下、情報家電が、広く社会に受け入れられるためには、年齢・性別、専門的知識の有無を問わず、誰でも容易に使えるものでなければならない。したがって、家電が持つ容易な操作性が損なわれることなくネットワークに接続できることが必要である。また、家庭内等においては、過去の製品(いわゆるレガシー機器)が普及していることを踏まえ、これらの既存の製品も含めて、容易かつ確実にネットワークに接続できることが重要である。さらに、新たに追加される機能についても、これまで以上に簡便な操作性を確保したユーザインタフェースを備えておくことが必要である。
また、故障時や操作に行き詰まったときなどに、直ちに専門家への問い合わせを行い、具体的アドバイスを得ることが可能となるような体制整備も重要である。
加えて、情報家電が利用される生活シーンは、単に屋内や屋外に止まるものではなく、自動車等での移動空間も、考慮すべき重要な生活シーンの一つである。かかる移動空間における使いやすさについても、利用者の安全性等に配慮しつつ、適切に確保することが重要である。

(3)ユーザから見て価格が適正であること
情報家電が幅広いユーザを対象にしていることを考えると、価格は、その普及において極めて重要な要素となる。アンケート結果においても、必要な情報や知識を手に入れることにお金を支払うことを当然と考えている回答は多くなく、国民が、情報家電の費用対効果について、厳しい見方をしていると考えられる。
技術の標準化を進めるとともに、適正な競争環境を整備することにより、製品・サービスのコストを引き下げ、ユーザから見て適正な価格で多様なサービスの提供を実現することが極めて重要である。
また、製品・サービス提供事業者側においては、個々の製品やサービスの価格のみならず、享受する便益に応じて家庭が負担することとなるトータルでのコストに関し、自ずと限界があることにつき認識することも必要と考えられる。

(4)時間・場所・空間の制約を受けずに使えること
必要な情報を簡単に入手でき、便利な生活を実現するためには、家庭内の様々な場所や、自動車等の移動空間、駅等の公共施設等幅広い地理的空間で、情報家電が気軽に使えることが重要である。
したがって、こうした様々な場所において、可能な限り、同じような手順・条件で情報家電を利用したり、サービスを受ける環境が整備されることが必要である。また、移動しても、ネットワークが途切れることなく他のネットワークにスムーズに移行できることが求められる。これにより、時間や場所等の制約を受けることなく、様々な活動を行うことが可能となり、情報家電の利便性は一層向上するものと考えられる。
特に、様々な場所で利用される情報家電(いわゆるモバイル機器)については、連続的な使用が十分可能となる電源機能の充実が、ますます重要となる。
また、電源を入れれば、直ちにネットワークへの接続を含めて使用可能な状態となり、使用後には、面倒な手順なしに、電源を切るだけで直ちに終了できること等の即時性を確保することも重要と考えられる。
としている。

3. 情報家電に関する製品評価指標

消費者に対して適切に情報を開示していくためには、それらの情報は客観性を持った評価項目や評価基準であることが望ましいが、消費者ニーズに沿った評価項目や評価基準を策定するためには、まず評価指標を消費者ニーズから導出することが重要である。
このため、昨年度、独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じて、情報家電に関する製品評価基準の策定にあたって「情報家電製品に関する製品評価指標の試作」を行った。
e-life 戦略報告書に記載された事例から、情報家電製品・サービスを利用していく上で、消費者のマインドにおける情報家電への不安要素のあり方が分野別・機能別でどのように変化するのかを探るため、以下の11 事例について具体的にサービス事例を提示して不安要素の調査を実施した。

(1)情報家電の各分野別の利用意向(上位順)
[1] 「業務」-「情報提供」 分野による違いを探る
[2] 「学習・自己啓発」-「情報提供」
[3] 「医療・介護・健康」-「情報提供」
[4] 「家事」-「情報提供」
[5] 「環境調整」-「情報提供」
[6] 「買い物」-「情報提供」
[7] 「エンターテイメント・アミューズメント」-「情報提供」
[8] 「家族や友人とのやり取り」-「情報提供」
[9] 「防犯」-「情報提供」 分野による違いを探る
機能による違いを探る
[10] 「防犯」-「コミュニケーション」 機能による違いを探る
[11] 「防犯」-「制御」

(2)不安要素(気になる点)の抽出結果
情報家電機器やサービスごとに回答者に不安要素(気になる点)を聞いたところ、ほぼすべての事例において8~9 割が「気になっている」(とても気になる+気になる+どちらかといえば気になる)と回答しており、今回提示した不安要素はすべての分野・機能の情報家電サービスにおいて注目度が高いことが確認できる。

表1 不安要素(気になる点)
情報家電の分類 不安要素
(気になる点)
説明
「情報全般」に求められる事項 「匿名性」 個人に関する情報(IDや個人属性情報)は安全か。
「情報品質」 情報家電のやりとりする情報の品質が保たれるのか。
「情報管理」 取り扱うデータなどの情報管理は十分か。
「情報家電サービス」を構成するシステム全般に求められる事項 「判断容易性」 サービスの利用条件(料金、利用可能な時間帯、使用する機器など)がよくわからないのではないか。
「利便性」 機器の操作面を除き、機能やサービスが不便なく利用できるのか。
「接続性」 機器同士や機器がインターネットに問題なくつながるのか。
「情報家電機器」に求められる事項 「操作性」 機器の使い勝手が悪いのではないか。
「信頼性」 機器がすぐ壊れたり、動かなくなったり、誤作動しないか。
「負荷の低減」 環境全般(屋内環境を含む)に負荷をかけるのではないか。

(3)不安要素(気になる点)のプライオリティづけ
情報家電の分野別の不安要素について、上位5 つをみると「匿名性」、「情報管理」、「情報品質」、「信頼性」、「判断容易性」、「操作性」の6種類の不安要素が挙げられる。さらに上位3 つは「情報品質」、「匿名性」、「情報管理」となり、各分野・各機能による不安要素は共通している。特に「匿名性」と「情報品質」は、家事分野を除くすべての分野において5~8 割が選択しており、他に比べて大きな不安要素となっているとともに、「情報全般」に求められる事項である。消費者からみると、情報家電という新たな機器がネットワークを介して情報のやり取りをいうという機能についての不安が現れる形となっている。
なお、家事分野の不安要素を並べると、「匿名性」(51.1%)、「情報管理」(43.7%)、「情報品質」(40.0%)、「操作性」(30.9%)、「信頼性」(30.4%)となった。他の分野に比べると「匿名性」や「情報管理」の選択率が低くなり、回答が分散しているのが特徴である。これは、家事分野の情報提供事例が家庭内でクローズしていること、主に家電機器間の情報のやりとりだけとなっていることに起因していると考えられる。
また、不安要素として「情報家電機器」に求められる事項「操作性」が4 位に入ったのも特徴である。
さらに、情報家電における製品評価指標を策定する際には、すべての分野において注目度が高くなった「匿名性」と「情報品質」、「情報品質」については製品評価指標を早急に用意し、利用者の不安要素を取り除けるような情報提供体制づくりが必要である。
また、次に回答率が高くなった「信頼性」、「判断容易性」、「操作性」の不安要素に対する製品評価指標については、情報家電の適用される分野と機能ごとの特性を踏まえた上で適切な指標の検討をいうことが必要であると考える。

(4)評価指標(案)策定への指針
不安要素抽出調査の結果、評価指標策定の指針として次の2 点が得られた。 ・ 消費者はいずれの分野
・機能においてもすべての不安要素に対して高い注目を示した。
従って、すべての分野・機能において、今回提示したすべての不安要素を解消するのに有効な評価指標を策定する必要がある。
・ 情報に関する不安要素は、分野・機能を問わず特に注目が高い。従って、これらの不安要素を解消しうる評価指標提示の優先度が高い。

(5)評価指標調査の結果
以下の3 つのセルについて、詳細なケーススタディを行い、消費者のマインドにおける具体的な不安の存在、及び、各評価指標提示による不安解消の有効性の確認を行った。
[1] 「家事」-「情報提供」
[2] 「防犯・防災」-「制御」
[3] 「医療・介護・健康」-「コミュニケーション」

(6)消費者に提示すべき評価指標
今回の調査で消費者にその提示意向を尋ねた評価指標は、いずれもその提示意向(「提示するべきである」「提示してほしい」「どちらかといえば提示してほしい」との回答)が8~9 割に達しており、消費者の大多数が必要性を感じるものであることがわかる。
また、同時に収集した自由回答意見からは、上記指標の裏返しである不安の声が多く、情報家電製品及び、サービスの普及を図る上で、これらの不安を解消しうる評価指標提示の必要性がある。

4. コンシューマレポート戦略

これまで述べてきたとおり、消費者の購入プロセスが「価格」から「性能」へと変化してきていることや、消費者がメーカやサービス事業者に開示を求める内容として、「匿名性」「情報管理」「情報品質」といった不安要素が優先度として高いことが分かる。
さらに、消費者ニーズは、年齢、性別やライフステージ等によって、製品やサービスに対する価値観など多種多様である。
したがって、現状では、メーカの製品戦略と消費者の潜在的なニーズとは必ずしも一対一対応していないことから、メーカの製品戦略と消費者の製品ニーズとの間のギャップを生み出す要因となっていると考える。
そうした消費者の情報家電に係る様々なニーズ等の情報を、コンシューマレポートという形で提供していくことにより、メーカは消費者の潜在的なニーズを見出すことが可能となり、競合他社に先んじて当該ニーズへの対応を適切し、競争上の優位を確保・強化することも可能となると考える。
日本には、品質や性能に最も厳しい消費者の基準を持つ国であり、そうした上質な消費者を通じて図10 「在宅介護支援」機能の評価指標提示意向生活分野でのイノベーションを体現するサービスや製品を消費者とともに作り上げていくことが情報家電市場の大きな成長の鍵となると考える。
そのためには、情報家電に係る様々なニーズ等の情報と併せて、製品やサービスが多様化し複雑になっていくことから消費者が製品を購入する際の参考になるような製品機能のイノベーションの中立的な説明も含めたコンシューマレポートの作成・公表が重要な戦略となると考える。
(参考) 米国の動向
1936年に設立された非営利団体の米国消費者同盟(Consumers Union。以下「CU」という。)が、商品テストの実施、商品・サービス・家計についての情報提供や啓発活動を行っている。
団体の運営は、基本的に雑誌の購読料、寄付等でまかなっている。寄付は個人や企業からも受け付けているが、CU の趣旨に賛同して行われるものであり、寄付した個人や企業の特定の意向等がCU の活動に反映されることはない。
CU が出版している「Consumer Report」誌(以下、「CR 誌」という。)は、広告収入ではなく購読収入に依存していることから公平なレビュー記事が読めるということで、4000 万人以上の購読者がいることから消費者から高い信頼が寄せられている。また、製品の試験結果と消費者に対する助言を提供する著名な出版物として評価されている。
CR 誌には、毎月1 回発行される通常号、2 つのニュースレター(「Consumer Reports Travel」と「Consumer Report Health Lettrer」)などがある。この中には自動車や電気製品などの大型製品から、食品や清掃剤などの日用品に至るまで、各種の製品を試験した結果が記されており、銘柄別に定量的かつベンチマークによる評点やCU の推薦が記載されている。
情報サービスを行っている製品等の分野としては、「Autos」、「Appliances」、「Electronics & Computers」、「Home & Garden」、「Health & Fitness」、「Personal finance」、「Babies & Kids」、「Travel」や「Food」である。
情報サービスの内容としては、

  1. Main report
    (1) 概観
    商品選びをするときに鍵となるトレンドや形状は何か、対価を支払う本当の価値は何か等、主な製造のトレンドを分類し、購入に関する最善の情報を提供
    (2) 製造型式
    製造型式による詳細な検討
    (3) 偏りのない推奨
    各種型式の中で、特定ブランドやモデルに偏りのない推奨
  2. 格付け(Ratings)
    試験対象にした全モデルの包括的かつ相対的な調査と、それらの試験時における公正さの根拠を提供
  3. Repair history(修理履歴)
    どのブランドが長期にわたり最高の性能を維持するか等ブランドの信頼性比較
  4. Key features(主要な特徴)
    商品の特徴を探すための詳細な記述

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