IT@RIETI

no.34: 「第4世代携帯電話」という錯覚

池田 信夫
RIETI上席研究員

「売家と唐様で書く三代目」という川柳があるが、第3世代携帯電話(3G)も各国で計画の延期や中止があいついでいる。ところが日本では、世界に先駆けて「第4世代移動通信システム」(4G)の実験が始まった。先月、RIETIでBBLセミナーを行ったカリフォルニア大学サンディエゴ校のピーター・カウイー教授(元FCC[米連邦通信委員会]国際局長)は、「4Gに未来はない。英国はやめるだろう」とのべた。私が「米国ではどうなのか」と質問すると、彼は「FCCでは、4Gなんて話題にもならない。電波は携帯電話業者に割り当てるのではなく、ユーザーに広く開放すべきだ」と答えた。

4Gとは無線インターネットでしかない

英国では、2000年に3Gの周波数オークションが行われ、巨額の免許料が支払われたが、その後のバブル崩壊で携帯電話会社が経営危機に陥り、いま実際に3Gで営業を行っているのは1社だけだ。昨年、ウォーリック大学のマーティン・ケイヴ教授を委員長とする委員会でまとめられた電波政策レビューでは、3Gに割り当てられた電波を転売する制度の創設が提言されたが、4Gについてはまったく言及されていない。

米国でも昨年、FCCの電波政策タスクフォースが、電波を「私有財産」として売買する方針と、「コモンズ」として開放する方針を両論併記した報告書を発表したが、4Gには何もふれていない。その後も、このふたつの意見の論争が続いているが、FCCは今年11月、5GHz帯で255MHzを新たに免許不要帯に開放する方針を決め、無線インターネットを中心とする戦略に舵を切った。

他方、日本政府は今年、ITU(国際電気通信連合)に4Gの規格を提案し、NTTドコモは4Gのプロトタイプを開発して屋外実験を始めた。しかし、これは技術的には無線LANと同じ「パケット無線」であり、特定の周波数を割り当てる必要はない。上り20Mbps、下り100Mbpsという伝送速度も、「次世代」を待つまでもなく実現している。無線LAN(IEEE802.11a)は最大54Mbps出るので、これを2チャンネル使う「デュアル・モード」なら108Mbps出すことができるが、日本ではデュアル・モードが禁止されている。100Mbpsが必要なら、4Gなんか開発しなくても、無意味な規制を撤廃すればよいのである。

政府が「世代」を決める時代は終わった

3GがITUに提案されたのは1990年代初めだが、特許の問題で企業が対立して各国の調整が難航し、1999年に規格が決まったときには時代遅れになってしまった。4Gも、これから10年かけて国際会議を続けても、合意に至る展望はない。もうITUに国際標準を決める力がないからだ。日本政府は昨年、総務省出身の内海善雄氏をITU事務局長に再選させるために大規模な選挙運動を繰り広げたが、結局、対立候補は出なかった。今どきITUの事務局長を取っても、何のメリットもないからだ。先月、スイスのジュネーブで開かれた展示会「ITUテレコム2003」の出展は、前回(4年前)に比べて25%減り、入場者は半減した。

政府や国際機関が「世代」を決める時代は、もう終わったのだ。インターネットの技術標準を決める主役は、IETF(Internet Engineering Task Force)やIEEE(電気電子学会)などのNPOであり、こうした組織では各国の専門家がメーリングリストで標準を決め、できたものから商品化する。「ドッグイヤー」のインターネット時代には、4年に1度の国際会議ですべての加盟国の合意を得ないと決まらないITUの出る幕はない。

総務省は、4GHz帯で現在はマイクロ回線などに使われている帯域を10年かけて返還させて4Gに割り当てる方針だというが、携帯電話が2G→3G→4Gと進化するというのは錯覚であり、4Gは無線インターネットに他ならない。したがって政府の仕事は、「次世代」技術を決めて携帯電話会社に電波を割り当てることではなく、電波を無線インターネットに免許なしで開放し、自由な技術革新を可能にすることである。

12月4日に行うRIETI政策シンポジウム「ブロードバンド時代の制度設計II」では、総務省とFCCの高官にスタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授などをまじえ、「電波の開放」をテーマにして討論を行う予定だ。ご期待されたい。

2003年11月19日

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2003年11月19日掲載