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※本プロジェクトは、終了しております。

競争ルール戦略

情報家電のネットワーク化が進み、通信を生かした用途が広がってくれば、放送、通信、遠隔医療、遠隔教育などサービス事業者のサービスを実現するための一定のハードやソフトの仕様の共通化が必要になる。その際、情報家電全体のアーキテクチャデザインの育成に失敗すれば、サービス事業者はPCにこぞって流れ、情報家電としての競争力を失う可能性もある。 本当に大切なことは、メーカー同志の技術競争ではなく、ネットワーク化後の情報家電に「何が出来るのか?」、「それはどういうシステムとサービスをどう組み合わせているからなのか?」を、消費者や各種サービス事業者にしっかりと提案しサービス参入を促進することではないのか。これらを実現するための方策を提示する。

2004年11月23日 参照モデルへの二つのアプローチ

参照モデルと呼ばれているものにも、色々なアプローチがあります。今回、僕自身が着想するきっかけとなったエンタープライズアーキテクチャ(以下「EA」という)における参照モデルにも、大きく二つのアプローチがありました。では、情報家電の参照モデルはどちらに行くべきでしょうか?その説明をしていくに当たって、今回はEAについて、簡単に触れておこうと思います。

なお、この分野は、自分がこの数年、確信犯になって普及に努めてきた分野でもあります。情報家電の分野の皆さんから見ると大変わかりにくいドキュメントで恐縮ですが、EAそのものについて深くお知りになりたい場合は、以下の文書をご参照ください。もう間もなく、EAをもう少し分かり易く概説した文書を公表する予定です。

EA策定ガイドライン 概説
EA策定ガイドライン 導入編 パワーポイント
EA策定ガイドライン

残念ながら、EAは、家電やコンシューマ市場で活用されたことはありません。主に、ビジネスソリューションの世界で育てられ、電子政府で話題になったことをきっかけに広く知られるようになりました。
特に、その普及の中心になったのは、米国です。電子政府推進のため、1996年の段階で、米国連邦政府が各府省にEA策定を義務づけ、2000年前後から矢継ぎ早に必要なガイドライン等のリリースを始めたことで世界中に拡がり始めました。

EAとは、各政府が、組織全体として無駄なく効果的に行政サービスを提供していくために、「誰か」、「どこで」、「どういうシステムを使い」、「どういうサービスを提供しているのか」、組織全体の業務とシステムを共通言語で可視化した行政業務の構造設計図のようなものです。これを企業で言えば、経営戦略を様々なレベルで効果的・迅速に実践していくために、「誰が」、「どこで」、「どういうシステムを使い」、「どういうサービスを提供していくのか」、企業全体の業務とシステムを共通言語で可視化した構造設計図、ということになります。

例えば、経済産業省を例にとって考えてみましょう。通常は、経済産業省の中でも、特許は特許、調査統計は調査統計で勝手にシステムを設計し勝手に業務改革を進めていきます。それくらいならまだ構いませんが、実際には、経済産業省の中でも数十あるいろいろな統計それぞれが、それぞれを処理するためにバラバラな統計システムを作り、バラバラな統計業務を作ってきてしまったのが現状です。それは、政府統計を政府刊行物というアナログで提供する時代には許されたことかもしれません。要は各統計の印刷物がしっかりしていれば良かったわけで、その過程でどんなバラバラな業務方法をとっていようが、報告書させしっかりしていればよいと。しかし、Web化の進む今、せめて経済産業省の統計くらい、キーワードで簡単に検索して複数の統計を同時に簡単に比較できるようなサービスをWeb上で提供してくださいよ。といった話になる。論理的には簡単ですよ。技術的にも出来ない相談ではありません。しかし、実際にそうしようとすれば、各統計毎にバラバラであった業務処理方法やデータモデルをそろえていって、システム相互が連動するような業務・システムを構築していかなければなりません。そうなれば、例えば、企業コードや売上高の定義、数字の単位といったデータモデル的なものから、どこをアウトソース先にしてどういう手順で業務を処理するのかといった業務モデル自体を、各統計バラバラなものから変えていかなくてはいけませんし、つまらない話、各統計毎にメーカーも内容もバラバラだったシステムの相互運用性を改めて保証しないといけないということになるでしょう。

大概の場合、そこで気付くんです。いざ具体的に業務やシステムを組織内で連動できるようにしなくちゃいけなくなった瞬間、そもそもお互いの統計が、どういう業務フローとどういうデータモデルで何をしようとしていたのか、お互いに全く知らないと言うことに。ひどい場合、各業務担当自身も無意識のうちに修得していて、自分が業務をどうやっているのか書いて見ろと言われてもすぐには書けない。ましてや、そのシステムの設計書も残ってなかったり、ベンダ毎にバラバラで役に立たなかったり、といきている。組織の中の業務とシステムというものはかくも、不透明なまま放置されていたものだったのかと。

供給者優位の構造であるうちは、報告書さえ、成果物さえちゃんと市場に提供していれば、文句は言われません。これが部分最適の時代の出来事です。しかし、市場が徐々に顧客優位の構造に変わり、顧客ニーズの変化に組織全体がいかに迅速についていけるかが競争力の源泉、そういう時代に入ってくると、供給側の事情で、「そこはバラバラにやってきたので変えられません。」は、通用しない。そうすると、まず、自分の組織の業務・システムがどういうことになっているのか、そのアーキテクチャを共通言語で全員が理解できるようにする必要が出てくる。加えて、どの顧客ニーズに対して、どのようにコミットしていくのか、そのためには、業務・システムを中長期的にどのように変えていこうといしているのか、全体を書き下していく必要がある。
つまり、各業務現場の合理化・改善活動で済まされていた部分最適の時代が、ITという新たなツールの実現によって、SCMができ、CRMができといった顧客から生産サイドをまでを一気通貫で変えられる仕組みが出来てしまったことで、市場に応じて組織全体を迅速に変えて行かねばならない、全体最適の時代に変わっていってしまったということなんです。電子タグなんかも、そこにダイレクトに効いてくるからこれだけ話題になるわけですよね(電子タグに最初に火をつけた政府の報告書は、こちら。)。

そのための組織全体の可視化の作業を、まず個々のシステムの発注作業を始める前にやっておかなくちゃいけない。組織全体でその可視化のプロセスを踏まないから、いつまで経っても、各業務部門が自分の都合で勝手バラバラなシステムの導入をして、結局、全体が訳が分からなくなってしまう。後から最適化しようにも、もう手の着けようがない。実は、ビジネスソリューションの世界で、今ほど、組織全体の可視化が求められている時代はないんです。今までのIT化は、部分最適で、現場の合理化だけしてくれば良かった。でも、そこが根本的に変わろうとしている(この点を、企業のIT投資ステージ毎に分類して調査した結果は「情報技術と経営戦略会議」報告書を参照)。
ただし、ここで大切なことは、組織全体のシステムの構造をコチコチに決めてしまうことではありません。ニーズの変化に対応して後から柔軟に変えうるようなアーキテクチャをあらかじめ設計しておくこと、本質を捉えたアーキテクチャの更にその骨格を組織全体として抑えておいて、その上で、各業務・システムにおける実践を通じて得られる知見を全体のアーキテクチャに緩やかに反映させて、組織を常に市場に対して最適な状態にあるようにデザインする。そういうことをEAは目指しているわけです。

日本政府も、昨年来、全府省で業務・システム最適化計画という名の下、業務・システム全体の再設計作業を始めています。実際には、各府省の中にも全く性格の違う業務もありますし、逆に各府省共通の業務もあるということで、21の府省横断的なEAと、54の各府省独自業務のEA作りが始まっています。このアプローチを、情報家電の市場にも導入しようということなんです。
もちろん、情報家電の市場全体を一つの行政組織や企業になぞらえているわけではありません。しかし、異業種連携を進めながら有機的な事業活動を、企業の枠を超えて活発化させていこうと思うと、実は似たような活動が必要になると思うんです。そこの思惑が、経済産業省の統計作業部隊の中でバラバラだったのと同じように、台形の上下でバラバラになっているからこそ、我々は、その全体の可視化をするための手段を持つ必要がある。そのためには、EAということ、そしてEAにおける参照モデルの考え方をもう少し深く解説する必要があるのですが、この続きは、また次回にします。。

なお、EAの根本は、1980年代にザックマンという人が作り上げています。この方は非常に哲学者的な一面も持った希有な方です。EAの背景にある思想のエッセンスを知りたい方は、日経BPさんがまとめられた「EA大全」の中の彼のインタービューが日本語で読める唯一のリソースだと思います。また、ご本尊の活動が直接知りたい方はこちらのページを、ご覧いただくと良いと思います。モデル自体の当否は別にして、非常に示唆的なように僕は思います。

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2004年11月23日掲載