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情報家電の現状と展望

いま、とても売れているデジタル家電とは何か?素朴な疑問からはじまり、それぞれの商品カテゴリ毎にアナログ時代のとの進化のレベルを検証する。さらに通信のデジタル化と融合することで今後どのような社会変化が起きようとしているのか?少しづつ現れているデジタル社会へのイノベーションの萌芽を見つけなから、後の章につづくためのイントロダクション的役割を担う。

2004年11月27日 iPodを考える。

先日、日経デジタルコアに出席して、Apple社のiPodブランド戦略について、前刀副社長のプレゼンを聞くことができました。今回の情報家電レポートのの中にも、総論、各論でiPodのことを取り上げて書いますが、再度、iPodを考えてみることにしました。

プレゼンでは、音楽を1曲99セントで購入できる「iTunes ストア」は今は日本以外のほとんどの国々、EU諸国などでスタートしているとこと。これは日本においてのレコード流通とレコード会社と根強くAppleが交渉をしているが、まだ、具体的にスタートできる日は決まっていないとのことでした。この発言を聞いた会場ではかなり残念そうな声が聞こえていました。

しかし、このハンディがあっても、日本ではiPodが売れているという点に着目しなくてはなりません。さらに、iPod mini(HDがたった4Gしかない)が今年登場し、爆発的に売れたことをに着目すると、「単なる機能スペックの拡大競争だけが、消費者への訴求ではない」という点が見えてきます。毎年のようにCPUの性能競争やメモリ、HDの量の競争を見慣れたPCやDVD-HDレコーダの世界とは一線を画したユーザーニーズがあることが見て取れます。やはり、デザインによる消費者への訴求はかなりの効果をもたらしていると考えられます。

さらに他社のHD型プレイヤーに比べてもHD1Gあたりの単価が安い(mini製品以外)というところも消費者への訴求点になっているところも見逃せません。ふつうはブランド力にモノをいわせて、機能スペックを他社と横並びにしても、値段を高めに設定するのがブランド戦略なのですが、どうやらiPodはそうではないようです。恐らく、Appleはワールドワイドに商品展開をしており、音楽プラットホームとして定着しつつあるため、HD製造メーカーとの価格交渉力が強いと考えられます。

このようにiPodには様々な点で、従来の他社製品とはちがう販売展開をしており、それらがすべて他社に先んずる戦略をとることで、単純な模倣を避けていると思います。

さてiPod自体の研究はここまでにしておいて、もうひとつAppleの特徴的な販売展開がありますので考えてみました。それはインターネット上で無料でダウンロードできるiTunesのことです。
iTunesは非常に優れたエンコーダソフトです。CDをMP3ファイルなどに変換し、データを圧縮するエンコーダソフトはつい最近までは有料で販売されていたものです。しかし、インターネットではフリーソフトとして、同等の機能を提供するソフトをソフト開発者が有志で、無償配布されていることも一般的になっていました。

しかし、OSメーカーやソフトメーカーは時々、みずからのプラットホームの魅力作りの一つとして配布することがあっても、ハードウエアメーカーが大々的に配布をすることはとても珍しいと思います。
このiTunesはとてもユーザーインタフェースがすばらしく、利用の仕方も簡単であるため、iPodを持っていなくても、音楽をハードディスクにためて、再生リストを作る楽しみを消費者に提供することに成功していると思います。また、Appleは自社のOSであるMac OSだけに対応したものだけでなく、Windowsプラットホームにも同じソフトを提供しているため、自社のPCであるMacの囲い込みという戦略をとっていません。ですので、自社製品であるMacの競合製品Windows PCにも魅力的なソフトを無償で提供していることになります。この企業戦略は簡単なようでなかなか取れないものではないでしょうか?

さらに特筆すべきはiTunesに付加されているラジオという機能です。ネット上にあるインターネットラジオのチューナー機能と連動し、PCでラジオが聴けます。厳密にはラジオ放送ではなく、ラジオ放送のスタイルをとった音声ファイルのダウンロードと言うべきでしょう。しかし、CDから変換した音声ファイルの再生とラジオがパソコンで実現されていると考えるとこれはラジカセであるとも言えます。Appleの宣伝に「グッバイ MD!」というCMが最近まで行われていましたが、これは「グッバイ ミニコンポ!」という見方もできます。また、従来のラジオ放送の定義も曖昧にすることも見逃せない点です。逆にいまではインターネットラジオのチャンネル数のほうが飛躍的に増えていることが解ります。(注 これらのインターネット放送には日本の局は含まれておらず、ほとんどが米国かイギリス)

これは案外、見落としているAppleの凄さのひとつだと思います。コンパクトオーディオプレイヤーという日本の家電産業が得意だった分野が、売れるものつくりにたけた海外企業に先行されただけでなく、「音楽を聴くライフスタイル」の消費者への提案もどんどんインターネットを通じて行われており、音楽を再生するという機能をまで、無償で消費者にプレゼントされ、デジタルライフの疑似体験で、消費者を魅了しているといえるでしょう。実はiPodは単に家から外で出ていくときの音楽ファイルを詰めたカバンにしかすぎないのではないでしょうか?

技術のイノベーションを伴うライフスタイルの訴求にはきわめて時間がかかると思っていました。VHSビデオの普及も、CDやMDの普及にも時間がかかっていたため、ついつい情報家電の普及には、デジタルライフの啓蒙という「早く手に入れた人の使い心地や口コミによる地味な拡がり」のプロセスが必要だと考えていました。

しかし、すでにインターネットとPCが普及した現代では、それはすでに古い考えだと思います。「インターネットとPCとソフトウエア」は情報家電の商売のための3種の神器ではないかと?ふと考えてしまいました。

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2004年11月27日掲載