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総論

ここでは、報告書II「基本的な戦略」について、執筆者の村上敬亮情報政策課長補佐、森川毅情報経済課係長が解説します。ここでは、基本的に報告書第II部で論じている、戦略Iとしての、新しいイノベーションを核とした収益モデル構築への戦略、そして戦略IIとして、従来から強みを発揮してきた部分をどう伸ばしていくかについて、議論を進めていきます。

2004年12月25日 これまでの意見の整理2: Sebastian氏の問題提起について

Sebastianさん、コメントありがとうございました。本来であれば自分の方が行うべき意見の整理を、逆に、見解の相違について分析・整理をしていただいて申し訳ございません。

NEDOでの講演の内容を詳細に承知しているわけではありませんが、平井や福田とはいつも意見交換をし、意識の摺り合わせを行っていますので、互いに同じことを話していると思います。また、整理していただいた2点の相違で、更に建設的に自分の頭が整理できたような気がします。

そこで、Sebastianさんが整理してくださった2点について、このエントリでは自分の考えを整理してみようと思います。

(1) 垂直統合について

まず一点目の垂直統合ではなく、戦略提携であるべき、というコメントですが、実は同意見です。むしろ、自分が「垂直統合」という用語を多義的に用いていたために招いた混乱と、反省しました。

仮に垂直「統合」が、同一事業者若しくは事業者グループによる事業としての一体化を意味するとすれば、自分の主張も、「何でも自分でやろうとするのではなく、提携すべき専門家とノウハウを擁する異業種の事業者と組むべき」という点にありますので、事業の垂直統合には反対です。

むしろ、異業種と提携するためのビジネス文化や環境がないこと、これが、情報家電をプラットフォームビジネスに導けない最大の要因であると思っていますので、おそらく、Sebastianさんと意見が同じなのではないかと思います。

(2) 技術の標準化について

この部分も、大方賛成です。

    「製品の同質化でしかないオープンアーキテクチャ戦略では、
    製品の差別化(ブラックボックス化、技術のクローズ化)を同時に行わなければ、
    資本力のある後発企業にキャッチアップされるということ」

だと思いますし、

    「「標準」を前提に「競争」するということは、
    つまり「標準」という「ひとつの安心(保護)」のなかで「顔の見える」競争を行うことである」

とも思います。こういうと大変失礼ですが、「言い得て妙」だと思いました。

    「「競争」の結果としての「標準」、「いわゆるボトムアップ」では
    試行錯誤による「時間」と「コスト」を発生させますし、「予定調和」ではないので、
    ”技術的により優位であると思われるものとは違うものが「標準」になる”可能性もあります。
    しかしこれは消費者の「ニーズ」に合致したものになるので
    そのための「コスト」と考えるべきです」

と、全く賛成であります。この部分は、非常に重要な点なので、「キラーアプリを忘れよう」で間接的に触れたつもりでした。

    「キラーアプリがあるということは、キラーアプリをサポートする端末があることを意味する。
    中心となる端末が見えれば、ビジネス全体を先に囲い込める。したがって、
    キラーアプリ、キラーコンテンツという発想は、情報家電の中で、
    中心的位置を占める端末、機器は何か、その機器を上手く囲い込みたい
    という発想の裏返しである。」

つまり、この発想には、先に決められる「標準」が存在する、という思想が隠れていると。 しかし、Sebastianさんが指摘されるとおり、

    「つまりは「デファクトスタンダード」です。「競争」の結果としての「標準」です。     決して参照モデルといった「標準」を前提とした「競争」であってはなりません。」

なんだと思います。したがって、

    「大切なことは、最初から囲い込めるビジネスなど、スタート時点にはない。
    むしろスタート時には、複数のキラーコンテンツが特定のハイエンドな人たちの中に
    手付かずで残っているいることが多い。その複数のキラーコンテンツをサービス提供に
    引き直してくるサービス提供体制の構築が重要なのであって、
    キラーコンテンツを探せと言ってしまうと、それがサービスの手前の機器の設計とその販売
    の話に止まってしまうということなんです」

というのが、まさに自分の思いでもあります。

では、何がずれたのか。次の二つ要因があると思います。
(1) 「参照モデル」の内容に対する理解
(2) 制度設計の実現可能性

(1)は、完全に僕の説明不足であります。「参照モデル」自体は、「『参照』するモデル」というのが元々の意味ですので、それがある種の標準の策定を目指していると理解されてもやむを得ません。これは僕のミスです。この点については、最近更新をさぼっている「競争ルール戦略」のエントリの中で、延々と述べている部分があります。

あんまり上手な整理ではないかもしれませんが、「参照モデルとは何か」と題したエントリで、ビジネス・ソリューションの場合を例にとって、次のように解説させていただいています。

     「参照モデルは、システム調達をしようとする者が共通に使える辞書のようなものです。      システム調達をする人は、この参照モデルにある用語を基に、自社のシステムの将来戦略を
     描いていきます。みんなが参照モデルを参照してくれれば、特定の会社内でしか分からない
     用語は使われていないわけですから、いつどの時点の、どういう協力を必要にしたとしても、
     その時ベストと考えられる他の事業者を探すことが出来るようになります。特定ベンダのみに
     依存する必要は、もうありません。その時、一番良いと思われるビジネスや技術を提供して
     いる人と組めばよいわけです。

     で、情報家電でも、同じことがしてみたいなと。情報家電も、家電メーカはもとより、
     ソフト会社、中小製造業、サービス企業、マーケティング企業、いろんな人達が協同していく
     市場になるとすれば、各社が社内戦略を情報家電EA(エンタープライズアーキテクチャ)を
     描くときの共通の辞書として、参照モデルが整備できないかなということなんです。
      例えば、医療や教育の事業者が、既に普及している情報家電機器を端末に使って
     新しいサービスを始めたいと思ったときに、誰にどういう風に声をかければ実現するのか、
     そのサービス調達仕様書のようなものを作る際の良い辞書になるというイメージです。

つまり、僕のイメージしている参照モデルは、「標準」というよりも、ある枠組みに沿って、今市場にある技術やビジネス機能のモジュールを、辞書のように整理したもの。なんです。もちろん、参照モデルは、作り方によっては、事実上の標準集になることがあります。その点については、次のように書かせていただきました。

     「 さらに、こうした参照モデルは、将来に向けて必要な要件の
Validationをかけていくことで、
     徐々に、関連する事業者同士が、業務やシステムの統合を果たしいく手助けもすることになります。
     英国政府が電子政府調達のために作ったe-Gifというスキームがありますが、
     これも一種の参照モデルといえると思います。ただし、このe-Gifの場合は、参照モデルに
     載せる時点で、商品選択も含めて自由度が厳しく制限されており、このDTDに準じて
     このXMLスキーマに準拠したものでないと認めない、といったように、
     事実上の標準化に近いところまで、参照モデルが踏み込んでしまっています。

     情報家電の世界が、そこまで統合的な世界になるには、あと10年くらいかかると思います
     が、その時には、必要なValidationを行うプレーヤを含んだ参照モデルの共有がきっと
     行われているんじゃないかとと思うんですね。」

繰り返して恐縮ですが、「異業種を引き込むプラットフォーム」でも、技術標準が先にあるという考え方のおかしさを、たびたび強調させていただきました。そういう意味で、Sebastianさんと、思いは同じなのではないかと思います。

ただズレいてるとすると、11/28付け掲載のコメントにもあるように、「サービス先行」かどうかという点です。結論的には、創発性が重要であってサービスをめったやたらに打てばよいと言うものではない、という意味では賛成です。世の中があまりにも製品オリエンテッドに考えるので、メッセージとして「サービス先行」を打ち出していますが、理屈としては、創発性を引き込む密度の濃い場がどれだけ設計できるかが勝負なんだと思います。また、その「場」は単にオープンなら良いと言うことでは当然なく、それぞれがそれぞれの「クローズ」な部分を餅より合いながら、話し合う場。そういう場をどうしたら日本に回復できるのか、というトライアルtだと思っています。

さて、そうなると(2)ということにあると思うのですが、環境整備の方向性としては同じことを感じています。

    ■ 「オープン」のため、垂直統合による「ブラックボックス化、クローズ化」や
     「ビジネスモデル特許権」の制度が、「オープン化」と同時に必要。
    ■ 「ダイナミック」のため、「イスラム銀行」によるベンチャーキャピタルが必要。
    ■ 「ポジティブ・フィードバック」のため、「競争」は促進しながら「過当競争」に
     繋がらない制度が必要。

ということですが、論理的には賛成です。

この中で言えば、唯一一点だけ、「ビジネスモデル特許」は、特許性の希薄な特許を連発し社会的コストを増やしつつある、若しくは、特許対応の出来る大企業と出ない企業の知財デバイドを激しくし、知財弱者を不要に生み出しつつある現状を目の当たりにしつつあるので、ちょっと心境は複雑です。
自分自身、ソフトウエア特許にむしろ最初に踏み出した際の審査基準の策定作業に巻き込まれていますので、ソフトウエア特許やビジネスモデル特許については十分理解しているつもりですが、なかなか悩ましいです。(踏み出した頃の専門家による検討と言うことでは、(財)ソフトウエア情報センターが1996年3月にまとめた「ソフトウェア関連技術の保護のあり方の研究」(入手方法は、http://www.softic.or.jp/publication/reports.htmlを参照)が我が国でも最もしっかりしていると思います。)

これらを実現するための具体的アクションについて、今現在悩んでいるところですし、僕の申し上げる「参照モデル」は、ここでいうVCの人達の活動の助けにもなる、一つのツールだと考えています。

長くなって申し訳ありませんが、以上です。

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2004年12月25日掲載