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※本プロジェクトは、終了しております。

総論

ここでは、報告書II「基本的な戦略」について、執筆者の村上敬亮情報政策課長補佐、森川毅情報経済課係長が解説します。ここでは、基本的に報告書第II部で論じている、戦略Iとしての、新しいイノベーションを核とした収益モデル構築への戦略、そして戦略IIとして、従来から強みを発揮してきた部分をどう伸ばしていくかについて、議論を進めていきます。

2004年12月18日 これまでの意見の整理1: 当方からのテーマ設定と主立ったコメント

しばらくエントリーをさぼりました。すいません。実は、PhishingMail対策連絡会議のセットアップと、もう一つ別の会議の準備に忙殺されて、倒れそうになってました。この間、二週間だったのですが、あっという間にネット上のアクセスが減っていくのが良くわかり、ネットの反応の早さに、改めて感服した次第です。・・

閑話休題。10月、11月と大体月間3万くらいのアクセスを頂戴し、ネット上はもとより、ネット以外の様々なところで大変貴重なコメントを多数賜りました。その全てを、たった一回のエントリでご紹介するのはとても無理なのですが、とりまとめをお約束した12月も半ばに入ってきたので、このエントリでは、一度、全体の議論を整理してみようかと思います。

まず、今回は、このブログがベースとしたレポートについての自分の所見と、それに対するおおよその反応を整理したいと思います。たくさんいただいた意見を、驚くほど簡潔に整理してしまっていますので、かなり乱暴なまとめとなってます。それでも「読んでいただくには長いエントリだな」、という感じがしてますので、何卒、お許しください。
 概観するテーマは以下のとおりにまとめてあります。読みやすさを考えて、個々の内容は、役所の割には崩した書き方をしてますが、失礼をお許しください。

     テーマ1:現状認識 「このままで情報家電は儲かるのか」
     テーマ2:方針    「量の戦略」と「ハイエンドローカルを掘り起こす戦略」のどちらをとるか
     テーマ3:アプローチ 「キラーアプリ」、マーケティングとの対話
     テーマ4:アプローチ 異業種との連携、台形ふたっつ。
     テーマ5:アプローチ 可視化と「参照モデル」
     テーマ6:アプローチ 「成長力」と「収益力」
     テーマ7:結 論   どうして家電はネットワーク化しないのか。そもそも、情報家電とは何か。

なお、今週日経デジタルコアさんの方で、自分の講演録をまとめたものをアップしてくださいました。10月1日に発表したレポートを自分が講演させていただくときの内容が大体網羅的に再現されていますので、併せてこちらをご参照いただければと思います(本講演録中、IT投資促進税制の期限が来年3月と書いてありますが、再来年の間違いです。申し訳ございません)。


テーマ1:現状認識 「このままで情報家電は儲かるのか」

このブログ最初のテーマは、このままで情報家電は儲かるのか? ということでした。
この点については、「このままで儲かり続けることはないだろう」というのが大方の反応であり、異論は全くありませんでした。特に印象的だったのは
・ 高付加価値型の商品は、量販流通を通じては成立しない。家電量販店流通構造だけでは、家電に未来はないだろう。
・ 中国というフロントと、そこで育ってくるライバル企業の強さを考えると、今のままでは敗北感を味わい続けることになるのではないか
といったご意見でした。


テーマ2:方針  「量の戦略」と「ハイエンドローカルを掘り起こす戦略」のどちらをとるか?

で、次に提起したのが、「どちらの戦略をとるか?」ということです。結論は、「両方必要だろう」、若しくは、「両方追いかけてもなお破綻しないような最適化された生産体制の確立が、この業界の生き残りの鍵を握るだろう」ということでした。これも、既に業界共通認識といっても良いような感じがします。
この点に関し、加えられた貴重なコメントをいくつか足すと、以下のような感じでしょうか。
・ 機器の電子制御化、ソフトウエア化が急速に進んだため、ソフトウエア開発の質の低さが製造業全般にとってボトルネックとなっている。ソフトウエア工学をきっちりと導入し、機器製造の時と同じように、ソフトウエア開発にも「改善」活動が持ち込めるような基礎を作らないと、両戦略を両立させるような生産体制の確立は決してあり得ない。
・ 量を売り抜くという意味では、中国は必須の市場。そのためには、製品の質が良いだけでは済まされない様々な戦略が必要。
・ ハイエンドローカルに投資をするロジックは、今の家電メーカにはなかなか生まれてこない。むしろ、かつて家電メーカ自身がかなり真剣に取り組み、死屍累々を積み重ねた歴史でもある。村上の言うように、「モノ」、「ヒト」、「カネ」は経営の中で独立的に扱える要素なんだから、もっと異業種と組んで、投資戦略を駆使して柔軟なサービスを実現する取り組み方もあるはず、という指摘は分かるが、現実には難しい。


テーマ3:アプローチ 「キラーアプリ」、マーケティングとの対話、月曜日組vs.火曜日組

経済産業研究所でBBLをやったときに、Tナビをやっておられる大野さんに、「このレポートは『コンテンツ』と言っていないところが良い。」とのコメントを頂戴しました。第一印象は、「???」と感じたのですが、要は、「コンテンツを探せ」という発想の裏には、「キラーアプリ」の囲い込み、という考え方が常につきまとう。しかし、「勝負はキラーアプリの囲い込みで決する」という思いこみは、「囲い込みさえ上手く行けば、技術は負けるはずがない」的な発想に立っていて、極めて技術シーズ志向的な考え方だ。しかし、実際には、どの技術シーズが勝つかは、色々なコンテンツを試してみて始めて決まるもの。だから、家電のマーケティングを議論するときは、「コンテンツ」という表現は敢えて避けた方が得策だ。そういう指摘だなと思い直したら、すっとオチました。
そう。そう思って整理し直してみると、「キラーアプリを探して囲い込む」。この発想が市場競争の質を滅茶苦茶にしている。そういう指摘が、今回の一連の議論の中で非常に良く出てきたことに気づかされます。

この2か月くらいの間、実に様々な場で、月曜日組vs.火曜日組と勝手に称して、多くの方に失礼を申し上げてしまいましたが、

   「男は道具にしか興味がない。女は道具で何が出来るかにしか興味がない。
    両者ともに重要だが、両者が話さないことに一番の問題がある。」

このコメントは、最後まで重くのしかかりました。別途伺った、ビバレッジや服飾関係といった分野では、厳しいマーケティング競争を既に経験してこられているので、この対話の葛藤経験を多くお持ちでいらっしゃいます。しかし、こうした分野と家電の分野と双方でマーケティングをしておられる方から、

    「家電の分野では、技術屋さんのプライドが強すぎる。マーケティングが何か言おうものなら、
     『じゃ、何の技術が売れるのか持ってこい』という話になる。ここを技術屋とマーケティング屋
    とで延々と話し合うプロセスが重要なのに、家電ではそうはならない。これが、この産業の
    一番の脆弱性なのではないか。」

といった指摘が出たときには、思わず唸ってしまいました。


テーマ4:アプローチ 異業種との連携

ローカルハイエンドを探せ。そのフロントは、遠隔医療をとっても、遠隔教育をとっても、ホームセキュリテイや地域コミュニティサービスをとっても、様々な形で存在している。また、それぞれに驚くような金額をだすプロシューマも確実にいる。そういう心強いサポートを月曜日組の方からは頂戴しました

問題は、その全てを家電屋が自ら探そうとしても無理がある、ということです。餅は餅屋に任せろ。それが、この市場で成立するのか。例えば、テレビを例にとった場合、結局、放送屋の枠組みを超えた発想は出来ないのではないか。でも、テレビの商品設計を放送屋と全く関係ない人と組んで進めることが出来るのか。ましてや、それを自分のブランドによるサービスにこだわらずに実行できるのか。そこに、情報家電がネットワーク家電としてフライしない大きな原因がある。どうやらそういう話になるようです。

サービスの価格弾力性やレントの分配の問題も、やはり同じように議論になりました。「サービスにいくらの値段がつくのか分からないのに、ビジネスとしてコミットできるか!」。でも、そんなこと言ってたら、いつまでたっても新しいことは出来ませんよね。僕には何か、社内でプロジェクトを否定するための理屈として使われているような気がしました。やる気があるか、やる気がないのか。それが問題になるわけだし、そこで、その世界での価格リーダをやっている餅屋さんとちゃんと組んで商売しようとしないから、その不安からも抜けられなくなるのではないか、と思いました。


テーマ5:アプローチ 可視化と参照モデル

さて、仮に異業種と組まなくちゃいけないとした場合、何が必要か。それは、自分を他人に分かり易く見せることだと思います。あるベンチャー企業からこんな指摘をいただきました。

「自分は、BB端末でいろいろなサービスを展開するときのシステム開発・サポートをやっている。携帯電話会社さんにも言いたいことはたくさんあるけれども、とにかくもう、家電屋さんとは仕事をしたくない。何故なら、携帯電話屋さんは、いろいろ厳しい条件は言うけれども、最後は、その上でサービスをやりたいに人に、何が問題で、何をどうすればやりたいことが出来るようになるか、一緒に考えてくれる。でも、家電屋さんは、いくら話に行ってもたらい回しにあうだけで何の進捗もない。」

重たい一言でした・・・。だからBB端末を使いたい電子商取引やサービスのビジネスは、どんどんパソコンと携帯電話に流れる。当然ですよね。家電は、本当にそれで良いのか。言い訳がありません。家庭のネットワーク化・ソフトウエア化はこれから確実に進みます。その時に、この路線を放棄することは、自ら歩むべき道を自ら狭めていることを意味するでしょう。
この点についての僕の思いは、第二章Blogのエントリで延々と語っていますので、是非そちらをご参照いただきたいのですが、一か所だけ引用してみたいと思います。

「その時にビジネスをリードするのはどちらか。僕は、ITの側ではないと思うんですね。なのに、ITの世界の場合、まあ難しいからなんでしょうが (正確に言えば「市場における情報の非対称性」が生み出す外部不経済ということなんでしょうが)、ITの側の方がおおきな顔をしてしまう。だから、通信サービスとしての価格・採算であるとか、自分が売り出したい技術や、ソフト組むときに必要な人月積算だとかにこだわりすぎてしまう。
でも、重要なことは、ITの側は黒子に徹して、それをサービス提供の手段として取り込みたいと思う人の要望に徹底して応えることだと思うんです。それに応える選択肢を出来るだけたくさん備えることだと思う。それが、なかなか出来ない。

じゃあ、何で出来ないかというと、そもそも、ITをビジネスに使いたいと思っている人から、IT側の事情が今全く分からないからなんです。もう携帯にしか出口がない、そういう人は、それでも携帯会社さんに頭を下げてでも行かれるでしょう。でも、普通に店頭販売や訪問販売ができる人達は、どうして中身も良くわからないリスクの高いものに、無理をして手を出すでしょう?・・・」

このエントリに続くエントリで、参照モデルとEAについて延々と論じていますので、その繰り返しは避けますが、参照モデルが必要という考え方自体には、全く異論は聞かれませんでした。むしろ、メーカサイドからも、いい加減、こういう取り組みをせざるを得ないという反応の方が多かったのには、ちょっと勇気づけられました。


テーマ6:アプローチ 「成長力」と「収益力」

こうした議論の最中に新たに出来たのが、この論点でした。実は、ある集まりで「成長力は収益力を食う」というお話を聞かせていただいたのが、きっかけになっています。これは、こだわりを持って高収益をあげている企業が、ステークホルダーに巻き込まれて量での成長を求められた途端に歯車を狂わせ、結局成長力のある企業に買われてしまう、若しくは食い物にされてしまうことを表した言葉です。
成長力という視点から見えれば、どんなに収益力の高い良いビジネスも、当然市場のパイの食い合いになる。量の成長を後押しする観点からは、収益性を維持するビジネスモデルに限界を感じ、今のビジネスモデルを変更せよとの圧力に晒される。そうこうしていくウチに、オリジナルの発想は無くなってゆく。

でも、収益力の高いパイを分け合うという発想になれば、また別の姿が見えるのではないのでしょうか。確かに、収益力と、多くの企業経営者が追求する成長力とは本質的には両立しないのかもしれません。また、収益力の高いビジネス同士でパイを取り合うためには、そもそも、問題意識とニーズの尖った消費者がそれなりにたくさんいて、「何となく全体について行きます」みたいな大衆的な消費者がそれぞれバラバラに彼らに感化されているような状況が必要なのかもしれません。そうだとするなら、ここは、もう一度、作り手や消費者による市場参加が産業の成長に不可欠だということになります。

この話の示唆は非常に重たいと思いました。顧客価値が創り出す市場、といえば非常に簡単に整理されたように聞こえます。しかし、産業ばかり見てきた「産業」政策にとっては、単に消費者保護といったエゴな視点からではなく、別の観点から政策をもう一度再点検しなくてはいけない。すなわち、消費者という視点からだけでなく、調達者、ユーザといった様々な視点から、作り手ではなく使い手を見直していかなければならないことを示唆します。この点は、産業政策に新たな、かつ、重要な疑問と問題意識を、新たに目覚めさせていただいたような感じがします。

なお、この議論の中で、プロ向けの用途から入ろうという議論も触発されました。詳細は、ある回の第二章ブログのエントリに詳述されていますが、一部だけ引用しておきます。

「ちょっと前ですけれど、CDだってDVDだって、最初は、どれだけソフトが集められるかが鍵って言ってたじゃないですか。だからプロ向け用途のデジタル音源から、一般用途に降りてこれたわけですよね。情報家電も一緒で、最初はすごく特定のプロ向けに特化した形態から始まって、最後は、いろいろなサービスをビジネスプラットフォームとしてのユビキタスなIT利用環境により多く引き込めた方が勝ち残る。そういう競争が、BB端末としての情報家電について、もう既に始まっていると思うし、その競争に乗れるか乗れないかが、家電がネット化するかどうかの境目なんだと思ってます。逆に言うと、最初に手をつけたプロ向け用途の潜在的なポテンシャルが高ければ高いほど、用途として尖ったものを持っていればいるほど、一般化されたときに広くいろいろな可能性を示すことになる。

それが普及フェーズに降りてくれば、リファレンスって、当然必要ですよね。
CDにだって、DVDにだって、リファレンスはちゃんと整ってますよね。家電だって、同じじゃないですかと。まずは、超プロ向け用途を呼び込みましょうと。それを懐に収めながら、同時並行的に、きちんとリファレンスも整備していきましょうと。
ちょっっと時間が無くて焦っているので、議論が圧縮されてしまっているのですが(大分?)、そんな視点から、参照モデルってやっぱり大事なのあではないかと、思っているんです。」

テーマ7:結 論   どうして家電はネットワーク化しないのか。そもそも情報家電とは何か

さて、結論です。家電は、どうすればネットワーク化・プラットフォーム化するのか。問を裏返せば、ネットワーク化、プラットフォーム化することによって、デジタル家電から情報家電に変化できる家電は、いったい何なのか? 収益力強化の「道筋」はどこにあるのか。

正直に申し上げます。「道筋」は、今回は特定できませんでした。というか、もう少し言い訳がましく申し上げ直しますと、その詳細は特定できる類のモノではないということがはっきりしたような気もします。少なくとも、「キラーアプリを探せ」という問いかけが、技術が市場を囲い込めるという間違った発想に業界を追い込んでいる、ということは、もはや疑う余地もないでしょう。また、そのパスから抜け出すためのいくつかのヒントは、明確になったのではないでしょうか。すなわち、

一、 家電屋は、もっと積極的に異業種と組むこと
一、 そのために自分を可視化し、説明責任を市場に対してしっかりと果たすこと、
一、 キラーアプリの発想を捨て、様々な異業種との連携やプロ向け用途と出会う努力をすること

そして、企業にとっても、社会、経済にとっても、大事なことは、

「収益性ということに、企業が最後までこだわり抜くこと」

ということ。さらに、そのために、

「創造性の高いユーザの市場参加を積極的に促すこと」

が不可欠になりそうだ。ということです。

これが、結論??  というところで、このブログを止めると申し上げたら、少し逃げてるような気もします。また、これが結論だとするなら、あまりに現実感がない、というご指摘もあろうかと思います。そこで、せっかく始めたブログなので、もう少し議論を引き続き起こしてみたいと思います。

実は、そのための第二弾を、なんと審議会という形で、昨日から始めました(本来、本ブログは、審議会行政批判から始まったんですけど・・・。裏切り者っ~?? (苦笑))。
この点については、別のエントリできちんと紹介しますが、今回の審議会は、資料を同時並行的に全て公開していきます。即日、ぜーんぶです。このうち、資料4に、ちょっと量の多いPPTが公開されていますが、その中に、今回の議論のエッセンスも組み込んだ形で、「情報経済」ということを語ってみようとしています。時間がないと読みにくいと思いますが、よければ早速ご参照ください。

資料4の解説も、別途きちんとさせていただきたいと思っていますが、先週は、2時間睡眠*5nightという感じの業務だったので、今日のところは、この辺で失礼させていただければと思います。お許しを。。。

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2004年12月18日掲載