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総論

ここでは、報告書II「基本的な戦略」について、執筆者の村上敬亮情報政策課長補佐、森川毅情報経済課係長が解説します。ここでは、基本的に報告書第II部で論じている、戦略Iとしての、新しいイノベーションを核とした収益モデル構築への戦略、そして戦略IIとして、従来から強みを発揮してきた部分をどう伸ばしていくかについて、議論を進めていきます。

2004年11月04日 コンテンツ産業の育成・強化の背景

森川です。 総論で今後の方策のひとつとしてあげている「コンテンツ産業の育成・強化」について解説させください。

日本の歴史を振り返れば、江戸時代の鎖国体制において、長崎の出島を境界とした貿易統制という仕組みが存在していました。これは富の源泉となる輸出入権を徳川幕府が直接コントロールできたという事実です。ですので近代医学の基礎となった「蘭学」(オランダの文献を元にした研究)は、出島の水際で流入を意図的に止められ、幕府の蘭学書解禁政策を待たなくては、日本人が触れることのできないものでした。

この「蘭学」の部分を「海外製のコンテンツ」として言い換えれば、映画であれ、TVであれ、音楽であれ、海外製のコンテンツを扱う日本のコンテンツ産業が存在している位置は、水際で貿易物をコントロールできた徳川幕府に近いと思います。
さらにコンテンツ流通を促進するために、例えば消費者が外国語による障害を乗り越えるための手段として、コンテンツ産業が字幕や吹き替え、翻訳の付加価値サービスを提供していたとも考えられます。

これは世界地図の中で日本が置かれた国土の周囲がすべて海であるという地域性特性が、結果的に現在のコンテンツ産業のポジションを生み出したと言えると思います。

しかし、コンテンツのデジタル化が進み、デジタル通信インフラ(インターネット)を利用したコンテンツ流通をグローバルな環境で実現することが可能となる今日では、いままでの日本のコンテンツ産業が持ち得た地域性特性という優位点は失われるではないでしょうか?

そのうえ、さらなる危険性が存在していると考えます。

その危険の予兆は米国やフランスで始まっている多文化主義的な産業政策です。これらの国々では産業を担う労働力の不足に対して、国外からの移民の流入に対してオープンな政策を取り、移民に対しての公用語の強制などを行わない政策を取りつつあることです。

例えばスペイン語を話す労働者が働くアメリカの工業都市デトロイドでは、義務教育において、規制緩和の流れの中でスペイン語による公立学校の教育が実践されつつあります。
そして、これらの産業政策で生まれつつある非英語文化の消費者に対して、米国のコンテンツ産業では非英語圏の字幕放送の実現や吹き替え、さらには非英語文化の消費者の文化的なバックグランドを素材としたコンテンツの製作まで行われています。これらのコンテンツはすでに、全米で18000チャンネルと言われる地上波放送、CATVや衛星放送を流れるコンテンツとして流通しています。(その中には日本語放送もあります。)

日々生産され、巨大な流通チャンネルで消費者の特性に分けて、流通するこれらのコンテンツが日本語にパッケージ化され、インターネットをはじめとするデジタル通信インフラやAmazon.comを経て流通された場合、現在では、我々には江戸時代の出島や国土の物理的な障害は存在せず、徳川幕府のように個人の消費活動をコントロールする手だてはもうないと思います。

これは日本の消費者にとっては歓迎すべき事態ですが、日本のコンテンツ産業にとっては真に危険な事態ではないでしょうか?

まさに情報家電の普及はデジタル通信インフラ(インターネット)との融合により、いままで海外のコンテンツ産業と消費者の間に存在した長崎出島のような流通の防波堤を一気に取り払うものになっているのとおもいます。

海外のコンテンツ企業とって、現在、世界で一番高い映画チケットを購入し、世界で一番高いDVDソフトを購入している上質な消費者がいる日本市場は極めて有望な市場であると考えているに違いありません。
ですのでこの上質な消費者のそばにいる日本のコンテンツ産業は、絶好のチャンスを生かして、国際競争力を身につけることがこれからの課題であると思っております。

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2004年11月4日掲載