「第14回地域クラスター・セミナー」議事概要

  • 日時 / 場所:
    2004年12月17日(金)18:00-20:00/(独)経済産業研究所 1121セミナー室
    テーマ:
    「首都圏におけるITベンチャーのクラスター形成について~ネットワークがコンテンツビジネスを成功させる~」
    講師:
    川口洋司氏(株式会社コラボ 代表取締役)
    講演概要:
    首都圏にはコンテンツ、ソフトウェア、電子デバイス等のIT系企業が多く集積している。近年インターネットの普及により、これまでにはない新しいITビジネス、コンテンツビジネスが生まれ、数多くのITベンチャーが誕生している。今回、ITベンチャーの支援・育成をしている「首都圏情報ベンチャーフォーラム」の活動について紹介し、コンテンツビジネスの実際とフォーラムの役割、ITベンチャーのビジネス創出についての事例などを解説する。
    主催:
    独立行政法人経済産業研究所
    文部科学省科学技術政策研究所
    研究・技術計画学会地域科学技術政策分科会(東京地区)
    出席者数:
    88名(日本側参加者81名、海外アタッシェ7名)

[開会の辞]

原山優子(東北大学教授/研究・技術計画学会地域科学技術政策分科会東京地区幹事(以下「原山教授」))

  • 主催者側から本セミナーの趣旨の説明と講演者である川口洋司氏の紹介がなされた。

[講演 (18:05~19:00)]

  • 本講演では、ITベンチャーの支援・育成をしている「首都圏情報ベンチャーフォーラム」のキーパーソンである川口氏から、ITベンチャーの実情について解説があり、続いて同フォーラムの概要および活動が紹介された。同フォーラムはITベンチャーの集積する首都圏の環境整備を行い、IT産業のモデルとなる新事業を創出する場を創り出すことを意図し、平成11年に創立され、関東経済産業局などのサポートをうけながらITベンチャー企業の支援のためのネットワーク構築、マッチングなどを手がけている。平成16年度にはコンテンツ産業における産学連携体制の構築にむけてのトライアルプログラム等の活動を行った。また、コンテンツビジネスの実際が解説され、テレビアニメ、テレビゲームのビジネススキーム事例などの解説がされた。

[質疑応答]

モデレータ:児玉俊洋(独立行政法人経済産業研究所上席研究員)

  • これまで地域クラスターセミナーでは個別の事例としては製造系を多く取り上げてきた。ITのソフト・コンテンツ系を正面から取り上げるのは今回が初めてであり、新鮮で、また、噛み砕いたご説明をしていただいた。本日は首都圏情報ベンチャーフォーラムの運営委員会の中でも中心的なサポート機関である関東経済産業局からもご参加をいただいており、同局からも是非ご発言をいただきたい。
Q1:
  • 産学連携の課題として(資料 スライド12)コンテンツビジネスと大学や研究機関との連携のお話があったが、アニメやゲームなどのコンテンツビジネスに関与している、又は関与を期待するのはどのような分野の先生か。たとえば、美術、音楽、デザインなどの芸術分野との連携を期待しているのか。
A1:川口氏
  • 私の知る限りでは、コンテンツビジネスに積極的に関与されているのは、東京大学の浜野先生ぐらいで、他にはほとんど知らない。この教授の講座は、実際にビジネスのマネージメントができる人やプロデュースができる人材を輩出するという方向である。芸術分野でも商業的なところに落とし込めるような人材の方がいればよいのだが。
Q2:
  • 首都圏情報ベンチャーフォーラムに参加する約260社のうち何社位が積極的に参加しているか。また、フォーラムへの参加企業の主な利点は何か。実際にビジネスに繋がった、あるいは利益が上がった等の具体的事例があれば紹介いただきたい。また、推進体制について改善したい点はあるか。
A2:五十嵐氏(関東経済産業局、以下省略)
  • 数字的な根拠はないがイメージ的には259社の半分くらいがセミナーなどに積極的に参加しているのが現状である。
  • フォーラムに参加したメリットについては、我々もアンケートなどを取って調べている。東京コンテンツマーケット2004ではアニメやゲームを制作するコンテンツ・ベンチャー企業96事業者が出展し、コンテンツを活用したい企業とのBtoBのマーケットを開催した。出展者からは、こういう場の出展費用は通常50万円位かかるが、今回は無料でコンテンツを広くPRする場を与えてもらい大変良かったとの声も多く聞かれ、大変好評であった。来場者はコンテンツの流通、配信、配給に関わる事業者やコンテンツ資金の提供者等であり、これらの事業者と具体的な商談を進めており、成約になりそうなところもあると聞いている。
  • また、マーケットトライアルとしてオンラインゲームのパブリッシャーの会社に3社出展していただいた。オンラインゲームは消費者に対してPRしないとマーケットとしては伸びていかない。オンラインゲームには倫理の問題など、親が悪いイメージを持っていることが多く、親子で参加していただくことでそのような問題点を払拭してもらう。実際に体験した後にオンラインゲームの加入数が増えたという話もある。
  • 大手企業の知的資産の活用などにおいても、単なる勉強会ではなく、実利のあるビジネスを前提にして活動していきたい。
  • 推進体制としては、(資料 スライド3)中小企業投資育成(株)が事務局を務め、関東経済産業局がサポートを行っている。さらに運営委員会では先輩ベンチャーや東京商工会議所など、いろいろな方のご意見を賜り事業に反映させている。また、アドバイザリーボードは、IT支援のキーパーソンにボードメンバーになっていただき、我々とともにこの事業を展開していき、我々と問題意識を共有していくことにより、首都圏情報ベンチャーフォーラムの自立的な発展を目指している。
C2:モデレータ
  • TAMA協会と比較すると、TAMA協会は組織が確立されていているが、首都圏情報ベンチャーフォーラムは組織的に発展的な段階であると考えていいのではないかと認識している。五十嵐氏からご説明があったが、アドバイザリーボードがキーパーソンの集まりであり、その中でも今回ご講演をいただいた川口氏がキーパーソン中のキーパーソンであり、コンテンツを中心にご活動されている。
Q3:
  • 福岡では県の補助でマルチメディア・アライアンス福岡(MAF)が設立され、クリエーターが集まるもののビジネスまで繋がらず、大きなマーケットを求めて東京や関東に出てくる。筑波でもニーズはある程度あるが、同様なことをしてもだめだと思う。福岡はひとつのモデルであるが、福岡の動きをどのように評価するか。関東圏で筑波などにはどのような期待値があるか。また、パイロット事業(資料 スライド6)におけるコーディネーターというのはどのような人たちか。
A3:川口氏
  • 地方公共団体がやっているものに限らず、台湾でも同様なものがあるが破綻しかかっているところもある。これはビジネスのディレクションをする人がそこにいないことが多いからではないか。つまり、コンテンツを作りそれをどのようにビジネスにするかというプランニングを含めた営業レップの出来る人材が日本にはまだまだ少ない。米国では役割分担ができていて、流通とコンテンツの制作の間のパイプになる人材がいるが、日本ではディレクターと呼ばれる人達がこの辺りをカバーしている。ビジネス全体をみられる人材が必要であり、クリエーターだけの集約ではだめだと考える。
  • コーディネーターとしてはベンチャー支援でインキュベータ的なことをやっているような民間会社が代行していることが多い。
Q4:
  • アニメビジネスについて(資料 スライド8)テレビアニメの制作が日本から流出しているとのことだが、テレビアニメは知的財産をストックで持っている。版権の問題で売れていないとのお話だったが、将来的にこの財産を活用できるか。それともデッドストックあるいは宝の持ち腐れにしかならないと悲観的に見ているか。
A4:川口氏
  • デジタル化以前のアニメは、契約書の段階からそのようになっておらず、難しい。ブロードバンドの配信をどうするかとなった時に、新しく制作委員会等を作ってコンテンツ配信に対応している。各社もアニメが北米やアジアでビジネスになるのは分かっているので、ようやく権利関係を一本化しようという動きがでている。バンダイなどは自社に権利関係を一本化しようという事で自社のコンテンツとして管理しようとしているようだが、そのような動きも出ている。
  • 制作会社の抱える問題としては、アニメの受託製作費がほかの受託制作費に比べてあまり上がっていないことがある。現状は半分ボランティア的に成り立っている会社が圧倒的に多い。では、制作会社は日本のお家芸的産業となりえないのかというと、ブロードバンドが彼らにチャンスを与えるフェーズが出てきている。実際下請けをしていた会社が自分でリスクをとって、ブロードバンドの配信の全ての権利を自分のところに集約する会社も出て来ているので、あながちネガティブな動きばかりでもない。
  • しかし、この業界では会社を運営するマネージメントのできる人間が圧倒的に少ない。まずこういった人材とのマッチングが必要ではないか。
Q5:
  • もの造りという観点で、コンテンツ産業の代表的な分野としてアニメとゲームに絞ってみた場合、この産業は組み合わせ型産業か、それともすり合わせ型産業か。すりあわせ型ならばクラスターの形成に強みが生まれるのではないか。
A5:川口氏
  • ゲームにしろ、アニメにしろ、携帯コンテンツにしろ、組み合わせ型はほとんどありえない。ゲームなどを上海で制作する場合でも、ディレクターは必ず日本から派遣しており、工程の管理もしている。一番難しいのはクリエーティブなイメージが食い違っていることがあることだと、アニメ制作会社からよく聞く。イメージを共有するための空間なりスタッフィングがどうしても必要である。そういう意味ではすりあわせ型なので、コンテンツビジネスは都市集積型になっているのではないか。
Q6:モデレータ
  • ネットワークの形成が本日のキーワードだが、コンテンツ産業におけるネットワークあるいは首都圏情報ベンチャーフォーラムが推進しようとしているネットワークはどのようなものか。製造業のクラスターにおけるネットワークは、技術と技術あるいは開発と製造・加工を組み合わせるというのがイメージしやすいが、コンテンツ産業においてはコンテンツのパーツとパーツを組み合わせるのか。それともディレクションが出来る人材を外部に求めるなどのサポート的なネットワークのパートナーを求めるということか。
A6:川口氏
  • 全てを含めたネットワークではないかと思う。ものを造るという点ではコンテンツ同士の融合があり、それを作る人と人との融合、ブロードバンドについては集客力を持ったポータルつまり流通との連携、その先にある海外のコンテンツ・プロバイダーとの連携などが考えられる。ネットワークという言葉が多重化しており、一言で言い表しにくい。
Q7:
  • ご説明のあったビジネスモデルの中では、このビジネス分野での基盤であるクリエーティビティについての観点が抜けているのではないか。
A7:川口氏
  • 今回はビジネススキームについての説明であり、その原動力となるコンテンツの生まれるまでのプロセスは省略している。
  • 日本の現状はクリエーターというのはどこかの会社に所属している。そこから企画が生まれてくる。企画の出所はデベロッパーや制作会社であるが、各社各様のスタイルで製作しており、人材確保も各社各様である。本質的な答えにはならないが、この程度しか申し上げられない。
Q8:
  • 今の質問に関連しているが、PBL(資料 スライド5)についてはコンテンツを作る意味での学習の場としてのトライアルか。それともビジネス化にフォーカスしたトライアルか。また、このプログラムがターゲットとしているのはどのような人材か。
A8:五十嵐氏
  • コンテンツ版でトライアルをした理由は、特にテレビアニメ制作会社などの取引環境が前近代的であり、この業界が経営の合理化の面で課題を抱える業界であったため、前向きに業界あるいは会社を変えていこう、そのために、まずトライアルをしていこうとなったからである。
  • 早稲田大学が関与している理由は、このプロジェクトではNPOコミュニティサポーターズの理事長がキーパーソンとなっており、その理事長が早稲田大学との接点があったためである。また早稲田大学のビジネススクールは墨田区などのものづくり支援に関わってきたという実績もあり、大学を活用して、経営の合理化を図り、会社の近代化を目指してこのトライアルが始まった。具体的には、早稲田大学のビジネススクールの大学院生の方にご協力いただいき、この方が週1回アニメ制作会社に出向いていろいろサポートを行っている。
Q9:
  • 成功モデルが出来上がれば、実際にビジネスモデルを変えていくことができるか。
A9:川口氏
  • ひとえにコーディネーターの力量次第と思う。現実問題としてどのような成果がだせるかはイメージとしては掴めるが、現状ではプロデューサーの頭の中でしか形になっていないのではないか。
Q10:モデレータ
  • 最初のプレゼンテーションで、資金的あるいは人材的な制約があるというご説明があったが、成功モデルがあってもそれをフォローするのは難しいということか。
A10:川口氏
  • アニメ業界は流通チャネルから制作フローまで、40年間ほとんど変わっていない。ディレクターの力量というのはそれをどこまで打破できるかにかかっているのではないか。
Q11-1:
  • パイロット事業(資料 スライド6)に関して、バイオの分野では既存の大企業とベンチャーの関連というのはイメージし易いが、ITの分野での大企業とITベンチャーの補完性についてコメントをお願いしたい。
Q11-2:
  • 最初にも質問がされたが、産学官のなかでも特に大学に人材がいないという話だったが、産学官連携に何を求めているのか。企業は大学に何を求めるのか。
C11:モデレータ
  • 産学官連携はクラスターにとって核心であるが、製造業系とバイオ系、IT系など分野によって産学官連携の位置づけが違うと、今日のお話を伺って感じた。
  • バイオでは大学発ベンチャーなどが成り立つほど、大学の研究成果が重要性を帯びている。IT系ではベンチャー系の企業が活躍するという点は共通しているが、企業間連携のウェイトが大きいのではないか。大学の役割もあるが、企業間連携によるネットワーク形成の比重が大きいという印象をもった。
A11-1:川口氏
  • 産学官連携に何を求めるかという点では、クリエーターを求めているのではないといえる。一番足りないのはコンテンツをビジネスにしていく人材である。アニメの会社もゲームの会社も資金調達や効果的な流通チャネルを選択するところまで考えているディレクターがいない。この状況で、大学に何を求めるかについてはマネージメントができる人材を育てる事が急務ではないか。コンテンツに限らず、IT産業全体をみてもディレクターがいない。勿論、インフラ・技術などがわからないといけないが、集約してお金に換えていく人材がどの企業にもいない。コンテンツに興味のある、マネージメントのできる人材の育成を支援していただくのが第一歩である。
A11-2:五十嵐氏
  • 大手企業とITベンチャー企業のパイロット事業について(資料 スライド6)ご説明したい。この事業はコンテンツベンチャー支援ではなく、ソフトや通信技術の開発等を行っているベンチャーの支援の1つである。
  • 大手企業ではニッチマーケットやスピードが求められているビジネスシーズを事業化したい場合、ITベンチャーとの連携は有効であると考えている。
    一方でITベンチャーは、大手企業の知財を活用して何か今後事業を進めていきたい、あるいはベンチャーが持っているコア技術を大手企業が持っている技術と融合し新たな製品を開発する、あるいは大手企業の販売ルートにのせたい等の要望がある。
    このことから、新規事業を創出していくためには大手企業とITベンチャーとの連携の促進が必要ではないか、連携するためには、大手企業とベンチャーのWin-Win方程式を構築していく必要があると思う。また、この方程式がIT分野で構築できれば、製造業の分野にも適用できるのではないか。この場合、大手企業とベンチャー企業との仲介役を務めるコーディネーターが大変重要だと考えている。本事業では、仲介役としてサンブリッジ社などいろいろな方にその中に入っていただいている。具体的には2005年の初めからパイロット事業を進めていきたい。

[閉会の辞]

原山教授

  • 次回の当セミナーは、韓国の事例を取り上げ、来年(平成17年)2月3日に開催を予定している。
    また、斎藤統括上席研究官からオンラインジャーナル「産学官連携ジャーナル」が独立行政法人科学技術振興機構(JST)より平成17年1月15日に創刊される旨説明があった。

この議事概要は主催者の責任で編集したものである。
なお、質疑応答参加者で要修正箇所を発見した方は、主催者までご連絡願いたい。