「第5回地域クラスター・セミナー」議事概要

  • 日時 / 場所:
    2003年9月29日(月)18:00-20:30/ 独立行政法人経済産業研究所
    テーマ:
    「現場から見た産業クラスターの形成」
    講師:
    井上裕行(いのうえ・ひろゆき)氏(経済産業省地域経済産業グループ産業クラスター計画推進室長)
    講演概要:
    経済産業省では地域再生を目指し、2001年より産業クラスター計画を実施している。現在、産業クラスターの形成を目指し、全国9地域で19のプロジェクトを進めている。本講演では、日本において産業クラスター計画を実施するに至った背景、先行的なプロジェクトにおけるクラスター形成過程、各プロジェクトの具体的な取り組み状況、今後の産業クラスター計画の課題等について述べる。
    主催:
    独立行政法人経済産業研究所
    文部科学省科学技術政策研究所
    研究・技術計画学会地域科学技術政策分科会(東京地区)
    出席者数:
    日本側参加者65名、海外アタッシェ11名
    使用言語:
    講演は日本語(簡易システムによる日英同時通訳付き)、質疑応答は日英逐次通訳付き

[開会の辞]

児玉俊洋(独立行政法人経済産業研究所上席研究員/地域科学技術分科会東京地区幹事)

  • 司会進行役として、本セミナーの趣旨説明および共催団体の紹介、並びに今回、試験導入するに至った簡易同時通訳システムに関する連絡事項を行ったのち本日の講演者である井上裕行室長の紹介を行った。

[講演 (18:05~19:05)]

  • 本講演では、多極分散化を図る従来の産業立地政策から内発的な発展を図る1990年代の産業集積活性化政策への転換を経て「産業クラスター計画」に至る地域産業政策の変遷について解説がなされた。その上で19の現行プロジェクトを概観するとともに、より理解を容易にするためにTAMA、北海道、近畿の先進的3事例を具体的に、その地域性を含め紹介することで産業クラスター計画の狙いと性格を示すプレゼンテーションが行われた。

[質疑応答 (19:08~20:02)]

モデレータ:原山優子(独立行政法人経済産業研究所ファカルティフェロー/東北大学工学研究科教授)

Q1:
  • 産業クラスター計画ではネットワークを形成する観点から、会議への出席も活動に含まれるが、各地域経済産業局の所轄が広いため、時としてかなり遠方から皆「手弁当」で参加しているのが現状である。しかしながら、大学からの基盤校費、たとえば旅費は年間10万円程度と非常に少ない。将来的に、産業クラスターで事業関係の経費を計上する予定はありうるのか。
A1:井上裕行産業クラスター計画推進室長(以下、「井上室長」)
  • 現在、産業クラスター計画に特定して我々がつぎ込んでいる予算はネットワーク形成のための補助金である。とはいえ、年間5、6億円と小規模であり、また、補助金というシステム自体が難しく、どちらかというと今後拡大していくことは難しい。我々としては、各地でなるべく早い段階からプロジェクトが自立的に動くよう進めており、将来的には参加企業等にとって目に見える具体的成果が挙がることによって、企業等の会費で成り立つ会員的な組織で回ってゆき、その中で必要な経費が手当てされるようになることを期待している。いわば「地域おこし」的な動きが出てきてくれればと思っている。
Q2:
  • クラスターの意義は、その中の情報、技術等の経営資源が集まって相乗効果を生み出すことにあると思うが、クラスターの外への働きかけであるマーケティング面で政府の支援やクラスターの取り組みとして工夫している点があれば教えてもらいたい。
A2:井上室長
  • 最終的に決めるのはマーケットであり、今具体的に実施している取り組みとしては地域ごとにクラスター企業を束ね、東京、大阪等の需要の大きいマーケットへと経済産業省等のネットワークを活用してマッチングすることや、専門商社レベルでのネットワークへの参加を促している。実感としてネットワークを作ってすぐ商談という例はまれであるが、そこで確認された人間関係の中から新しい製品について相談が始まることを期待している。いずれにしろ時間のかかる問題であり、単にマッチングの場を設定して終わりというのではなく、経済産業局の職員が企業経営者と日常的にネットワークを形成してゆくことが重要と考える。
Q3:
  • クラスター計画の「評価」に関して、今後どのような分析ツールを使って、どのように実施してゆくのか。
A3:井上室長
  • 昨年途中から我々としても政策評価を意識するようになってきた。しかしながら、もともとプロジェクトは経済産業局ごとに異なるため、経済産業省としてのパフォーマンスの測定ということが困難な仕組みであることも事実。たとえば、産業クラスター計画全体の売り上げを何%伸ばすことを目標に、といった課題設定は非常に難しい。なぜならばバイオやものつくり系などで異なる性質を持つため、一律にプロジェクト全体の平均値を出しても意味がないと考えている。その代わり、個別の支援策の評価や、局ごとの課題設定等、それらを含めて単年度でどういった形でフォローできるかを調整中である。
  • 経済産業省地域産業グループのHPでは各局の問題設定・自己評価等の紹介をしており、各局HPでも独自の過去2年間の政策評価のペーパーを公表中である。
  • ただ、そもそもポーターが指摘したように、本来は10年単位で見ないといけないため、現在、政策評価との関連を内部で勉強中である。
C4:モデレータ
  • ネットワークを目玉にすると、直接効果を計ることが困難なことから政策評価は難しい。産業クラスター計画は他の政策の補完的役割を果たしているのが特徴。そのため効果が出てくるのは10年後である。これまでこのような試みが存在しなかったことから、産業クラスター計画においては、政策評価システムをつくることも大きな課題となってくる。
Q5:
  • テクノポリス構想の反省をふまえたアプローチであるとの点に感銘を受けている。ただ、テクノポリス構想の反省をふまえるというのであれば、テクノポリス構想は具体的にどこに問題があったのか。
A5:井上室長
  • 問題点の1つとして、政府は旗振り役で、地域がお金を出していた「安上がりの政策」という見方がある。その反面、産業クラスター計画は地域ごとに地方自治体の関与レベルも異なる。危機意識が高い、やる気のある地域が生き残っている。経済産業省としても、ひとたびシステムを作ってしまったからそこに形式的に関わり続けるということはせず、実際にうまくいっている地域もある以上、効率よく他の可能性を探るという形で関与してゆきたいと考える。
Q6:
  • 海外の成功した産業クラスターでは行政のイニシアティヴなど非市場的な要因もあるという議論もあり、我が国の産業クラスター計画においても、必ずしも市場指向的性格のみ強調するのではなく、コーディネーター役やイニシアティヴをとる主体としての国の役割をはっきりと認めるべきではないか。
  • 大学のCOEが選ばれると光栄なように、クラスターも選ばれた地域について経済産業省を通じてもっと宣伝をして良いのでは。
  • 産業クラスター計画に利用可能な政策パッケージのうち、よく利用される政策を具体的に紹介して欲しい。
A6:井上室長
  • 国の関与が曖昧なところが産業クラスター計画の特性であると考える。特に、中央の本省が全面に出ていいことはない。むしろ、地元にいる、地元企業を日々相手にしている経済産業局がアンテナとして動くことに意義がある。最終顧客である、企業と大学研究者の成果につながれば本省がどこまで関与したかはそれほど評価の対象にはならない。
  • クラスター自体のPRにはかなり神経を使っている。メディアを通して、クラスターの求心力を高めるためにも企業として本計画に参加することに実際にメリットがある点を強調したい。
  • 政策パッケージの例としては、地域の中小企業向けの技術開発援助がある。たとえば、1億円位のコンソーシアムを組んでやる技術開発プログラムや、数千万円単位の中小企業向けの技術関係補助金等がある。これらはホームページでも紹介しているのでご参照願いたい。
Q7a:
  • アメリカでは連邦政府よりも州の関与が大きいが、日本では九州の福岡県などを除いて県の関与が少ないように思われるがどうか。
Q7b:モデレータ
  • それに追加して、経済産業局と地方自治体との関係についても説明していただきたい。
A7:井上室長
  • 広域的に県の範囲を超えたブロック単位でおこなっているので、県によっては自県の範囲の分について参加する場合と、基本的に既存予算の利用なので県によっては「自分の所にうまみが少ない」として計画参加に消極的な場合もある。我々としてはどんなレベルでも自治体との連携を進めていきたいので、今後はこれまで2年間分の情報発信をしつつ、ある程度の実績を見せ、県レベルのより積極的な参加を促したいと思っている。
C8:
  • 浜松市の場合、静岡県や市より、商工会議所に力がある。地方自治体は担当者も2年で替わることもあってあまり期待はしていない。むしろ、商工会議所の方が実際に中小企業と接していることから、期待できるのでは。この現実はどこの地方でも一緒ではないかと思う。
C9:
  • 今日の講演を通して気づいた点として、クラスターには色々な種類があるということ。海外を見ても同じ。それなのに、いつもクラスターというとTAMAと、近畿のバイオと、北海道の3つの成功事例しか表に出てこない。もっとこういう形でもいい、ああいう形でもいいと他のクラスター、色々なパターンのクラスターも情報発信がされるとよいと思う。また、日本のクラスター事例は殆ど世界で知られていない。もっと日本の技術を世界に売るためにも、日本のクラスター事例を内側だけでなく外に向かって発信してゆくべきである。また大企業に対してもアピールする事に意味がある。大企業がリストラの結果、人材やシーズなど足りない部分をクラスターから借りてくるということも考えられる。マーケティングの力を既に持っている大企業を利用するのもいいのではないか。
A9:井上室長
  • 特に、大企業との関係については同感。とりわけ、販路の部分で大企業と連携をはかってゆきたいと思っている。国内販路開拓に伴う企業間の障壁を克服するために、経済産業省のネットワークを活用して、大企業と中小企業をつなげる必要性も認識している。まだ量的な成果は出ていないが、最近、ネットワークに大企業がはいることで販路拡大した例が結構出てきている。
C10:モデレータ
  • 我々が「地域クラスターセミナー」を企画した目的がまさに今の話に現れている。情報発信もその1つであり、ネットワークをつくることもその1つ。また、これまでは公の立場からの現状紹介だったので、次は具体的なクラスターの紹介を模索中である。先述の3つのクラスター以外に、各地の事例紹介をメールで良いので事務局宛にお願いしたい。それをもとに、事例紹介に努めたい。
Q11:
  • 現場からの要望として、2点ある。1点目として、隣の地域経済産業局管内にまで乗り入れ可能にしてもらいたい。たとえば、関東経済産業局管内の浜松と中部経済産業局管内の豊橋は仲がよい。2点目として、地域のコーディネーターは、OBだけでなく出来るだけフットワークの軽い、若い人をもっと採用するよう、政策パッケージに取り込んで欲しい。
A11:井上室長
  • 局間の境目をなくすことには同意。浜松と豊橋は「三遠南信プロジェクト」という局の行政区域を越えた良好事例として活用させていただいている。また、北海道については、東京など最終需要地との連携を図るなど、局を超えたネットワーク形成は可能性があればどんどん進めてゆきたい。
  • コーディネーターは不可欠。ボランティアベースで参加してくれるコーディネーターが多いことに感謝している。動きやすいコーディネーターの確保のための制度に関しては、既に存在するクラスター向けのネットワーク形成のための補助金や中小企業向けのコーディネーターの制度が利用可能であり、そのために新たな制度は作る必要はないと考える。地元のニーズを把握した、「ノウハウを持った人」に声をかけ、まさに「動ける人」に参加してもらっている状況であると認識している。
Q12:
  • 知的クラスターと連携するとしている点、大変重要であり、また金融庁や特区との関係が議論されていることにも意義がある。
  • クラスターにとってクリエーティブな人材を集めることが重要であるが、そのためには住環境や子弟の教育環境を含めた広い意味でのアメニティを整備することが重要。そのようなアメニティについてはどこまで検討しているのか。
A12:井上室長
  • 今のところ、既存のアメニティ内で出来る範囲で対応している。アメニティはハードの要素があるので財政的には対応が難しいが、たとえばNPOの活用などボランティアベースでどこまでアメニティの向上が可能かなどソフト面で意見を言うことが今のところ可能な範囲である。
Q13:
  • カナダも20年来のクラスター形成の経験がある。モントリオールは北米4位のバイオクラスターであり、トロントはITの一大集積地である。カナダ政府は2002年からクラスター政策に着目し、「イノベーションストラテジー」の中で、2010年までに国際的に競争できるクラスターを10カ所作ると宣言した。日本の経済産業省のクラスター政策においては国際市場との協調や競争をどのように考えているか。
A13:井上室長
  • 国際的展開は重要であり、クラスター毎に段階が異なるので、一律にどうこうとは考えていないが、近畿のバイオ、九州のシリコンクラスター計画は海外展開、海外交流の計画があり、その中で、ものつくり系はアジア市場の開拓を視野に、また、先端医療技術で立ち上げている神戸は海外からの企業受け入れが課題となっている。手法としては国際展開までは局レベルでは対応が難しくなってくるので、今後はJETROのような組織を通じたクラスター企業の海外販路拡大・海外企業との提携を検討している。
Q14:
  • 観光産業など、非製造業クラスター計画に着手する予定はないのか。
A14:井上室長
  • 経済産業省の蓄積がものつくり系であることもあり、どうしても製造業系中心になってしまう。とはいえ、将来的には対事業者系サービス業等を含めた、より厚みを増したクラスター形成の支援を考えたい。
C15:モデレータ
  • 産業クラスター計画はまだ広がりつつある段階にあるので、今後もまた発展段階でのご報告をお願いしたい。

[閉会の辞] 児玉俊洋

  • 今後の日程は決まり次第、メールでお知らせする。次回以降、TAMA(技術先進首都圏地域)から現場の人も呼んで報告することを現在、検討中である。TAMAについて深く理解することも有益と考えている。行政の役割は明らかにあるが、主役は民間だということが分かる事例である。

この議事概要は主催者の責任で編集したものである。
なお、質疑応答参加者で要修正箇所を発見した方は、主催者までご連絡願いたい。