中国経済新論:実事求是

慎重に進めるべき資本取引の自由化
― 緊急対策として規制強化もやむを得ない ―

関志雄 経済産業研究所

中国では、資本流出が加速し、それに伴って人民元安が進む中で、資本移動に対する規制が強化されている(注1)。これは、政府が進めてきた資本移動の自由化に逆行するものだが、緊急対策として止むを得ないであろう。安定成長を維持しながら、資本移動の自由化を実現するために、金融システムや為替制度の改革を先行させなければならない。

資本移動の自由化を巡る賛否両論

一般的に、資本移動の自由化により、国民の投資対象の選択肢が増え、分散投資を通じてリスクを抑える余地が広がり、企業も海外からより低コストで資金を調達することができる。中国の場合、次の理由からも、資本取引の自由化を加速させるべきだとの議論が盛んになっている。

まず、政府は人民元の国際化を進めており、流動性の高い金融市場の整備などに加え、資本移動の自由化は、その前提条件となっている。

また、中国は企業の対外進出を奨励しており、そのために、資本移動を妨げる規制を緩和しなければならない。

さらに、資本取引を経常取引に装うなどの違法な方法で資本規制を回避する動きが広く見られ、資本規制の有効性が低下している。

しかし、その一方で、金融システムが未熟である発展途上国の場合、資本移動の自由化は、経済の不安定化要因になりかねず、慎重に進めるべきであるという認識は、経済学者と各国の政策当局の間に共有されている。

まず、資本移動の自由化と金融危機とは、密接な関係にある。1997〜98年のアジア通貨・金融危機の経験が示しているように、金融システムが脆弱で、マクロ政策の遂行力が不十分である国では、早すぎる資本移動の自由化は、経済発展に甚大なダメージを与える恐れがある。

また、資本規制は、行き過ぎた投機がシステッミクリスクを引き起こしかねないときに、緊急手段として有効である。実際、アジア通貨・金融危機に対応するために、マレーシアは厳しい資本規制を導入し、成功を収めた。

さらに、資本移動が盛んになれば、特に固定相場制の場合、金融政策の自由度が大幅に制限されてしまう。国際金融のトリレンマ説が主張しているように、どこの国も、資本の自由移動、独立した金融政策、固定為替レートの三つの目標を同時に達成することができない。資本移動の自由化が進めば、固定相場制を維持するためには、金融政策の独立性を放棄しなければならない。

これらの問題は、経済発展と計画経済から市場経済への体制移行が同時に進んでいる中国の場合、より顕著である。

まず、中国の金融システムは依然として脆弱である。特に間接融資への依存度が高く、企業債務の急増により、銀行が抱えているリスクが高くなっている。こうした中で、資本の大量流出は、国内の信用収縮を通じて、金融危機を誘発しかねない。

また、中国は、2005年に従来の事実上のドルペッグ制から管理変動相場制に移行したが、人民元レートが依然として当局による為替介入や中間レートの設定などによって厳しくコントロールされている。変動相場制への移行が完了するまで、金融政策の独立性を維持するために、資本規制が必要である。

さらに、中国における所有権の保護はまだ不十分である上、腐敗の問題も依然として深刻である。資本移動の自由化は、資本逃避とマネーロンダリングを助長しかねない。

最後に、米国はリーマンショック後に導入された超金融緩和の出口戦略として、利上げを実施しており、これをきっかけに、新興国から米国への資金流入が増えている。中国は世界最大の外貨準備保有国であるにもかかわらず、大規模の資本流出とそれに伴う為替の切り下げ圧力に直面している。

資本移動自由化の前提条件

このように、資本移動の自由化を進める際、その歩調を国内の金融システムと政策能力の強化の進展に合わせなければならない。中国の場合、特に次の点に注目すべきである。

まず、資本移動の自由化に備えて、金利の自由化を進めなければならない。国内の金利水準が人為的に抑えられたまま、資本移動が自由になれば、より高い金利を求める資金は海外に流出してしまうだろう。幸い、中国では、銀行の預金金利と貸出金利の上限と下限に関わる規制がすでに撤廃されているなど、金利の自由化が大きく進展している。それに伴う競争の激化を受けた銀行の倒産に備えるための預金保険制度も確立されている。

第二に、資本移動の自由化が進むにつれて、金融政策の独立性を確保するために、為替レート弾力性を高めなければならない。最終的には、当局が市場介入を控え、為替レートの決定をできるだけ市場に任せることを意味する完全変動制に移行しなければならない。

第三に、金融システムを強化しなければならない。企業の銀行への過度の依存体質を是正するため、直接金融を通じて資金を調達できるように、資本市場のさらなる発展が必要である。また、中国の株式市場は、主に個人投資家によって構成されるがゆえに投機色が強く、市場を安定化するために、機関投資家の育成が急務となっている。さらに、銀行自身のコーポレート・ガバナンスの確立を急ぐ一方、借り手である国有企業の改革も加速させなければならない。そして、銀行の監督体制に加え、近年膨張しているシャドーバンキングへの規制も強化しなければならない。

最後に、中国は、資本移動の自由化を進める際、これまでとってきた慎重な姿勢を貫くべきである。具体的に、「①資本流入が先・資本流出が後、②長期取引が先・短期取引が後、③直接投資が先・間接投資が後、④機関投資家が先・個人が後」という順序を守らなければならない。

中国は、このような改革を貫くことを通じて、金融危機を回避し、安定成長を持続させることができれば、10年後には、GDP規模が米国に匹敵する水準に達すると予想される。その頃には、人民元はすでに資本取引を含む完全な交換性が確立され、国際通貨として、周辺諸国にとどまらずに、他の地域においても広く使われるであろう。

脚注
  1. ^ 2016年以降実施された資本規制には、①銀行を通じた国境を跨ぐ人民元の流出量を流入量の一定比率内に制限、銀行の外貨売りが外貨買いを上回らないよう指導、②外国企業の中国現地法人が本社に資金を貸し付ける「親子ローン」を自己資本の3割に制限、③企業の外貨購入計画、実績を定期的に報告、④高額な海外送金は事前報告、⑤外貨建て債務の繰り上げ返済の原則禁止、⑥企業買収などの海外投資を事前に審査、1件500万ドル以上の両替は事前認可、⑦個人の外貨両替に申請書を提出、資金使途などを申告、⑧香港など海外における運用目的の保険商品の購入を制限、などが含まれている(「中国、資本流出阻止に躍起」、『日本経済新聞』、2017年1月6日付、「人民元、海外流出額を制限」、『日本経済新聞』、2017年2月1日付)。その中には、当局による口頭通達を通じて伝えられ、明文化されていないものもある。
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2017年2月15日掲載