中国経済新論:実事求是

中国の台頭で激変する世界経済の勢力図
― GDP規模の国際比較を中心に ―

関志雄
経済産業研究所

1970年代末期から始まった改革開放政策の実施をきっかけに、中国経済は高度成長期に入り、1980年から2015年までの平均成長率は主要国、ひいては世界全体を大幅に上回る9.7%に達している(図1)。これを背景に、1980年から2015年にかけて、中国のGDP規模は3,029億ドルから10兆9,828億ドル(36.3倍)へ、世界全体に占める中国のGDP(名目、ドル換算)のシェアは2.7%から15.0%に上昇している(図2)。中国の一人当たりGDPも306.9ドルから7,989.7ドル(26.0倍)に、同世界ランキングにおける中国の順位は、139ヵ国・地域の中の第127位から189ヵ国・地域の中の第76位に上昇している(注1)。中国は、すでに米国に次ぐ世界第二位のGDP大国になっており、一人当たりGDPも中所得国のレベルに達している。

図1 中国の実質GDP成長率の推移
―主要国、世界との比較―
図1 中国の実質GDP成長率の推移
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2016より筆者作成
図2 世界に占める中国のGDPのシェアの推移
―主要国との比較―
図2 世界に占める中国のGDPのシェアの推移
(注)( )内は2015年の値を示す
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2016より筆者作成

ここでは、1980年以降の中国におけるGDPと一人当たりGDPの推移を、インド、日本、米国といった主要国と比較することを通じて、中国の台頭に伴う世界経済の勢力図の変化を明らかにする(注2)(表1)。

表1 中国のGDP、人口、一人当たりGDP
―主要国との比較―
GDP(10億ドル) 人口(百万人) 一人当たりGDP(ドル)
1980年 2015年 1980年 2015年 1980年 2015年
中国 302.9 10,982.8 987.1 1,374.6 306.9 7,989.7
インド 189.4 2,090.7 685.7 1,292.7 276.3 1,617.3
日本 1,087.0 4,123.3 116.8 126.9 9,308.9 32,485.5
米国 2,862.5 17,947.0 227.6 321.6 12,575.6 55,805.2
GDP比率(%) 人口比率(%) 1人当たりGDP比率(%)
1980年 2015年 1980年 2015年 1980年 2015年
中国/インド 159.9 525.3 144.0 106.3 111.1 494.0
中国/日本 27.9 266.4 845.3 1083.0 3.3 24.6
中国/米国 10.6 61.2 433.6 427.4 2.4 14.3
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2016より筆者作成

長い間、中国は、インドと同様に、人口が多いが、一人当たりGDPが低いゆえに、GDP規模はそれほど大きくなかった。1980年に中国の一人当たりGDP(306.9ドル)は、インド(276.3ドル)とほぼ同水準だったが、2015年にはインド(1,617.3ドル)の4.9倍となった。その一方で、1980年から2015年にかけて、インドの人口は6.86億人から12.93億人(88.5%増)へと、中国(9.87億人から13.75億人へと、39.3%増)を上回るペースで伸びてきたが、それでも、GDP規模(=一人当たりGDP×人口)が中国ほど伸びておらず、両者の差は1.6倍から5.3倍に拡大している。インドはやがて中国にとって代わって世界一の人口大国になると予想されるが、中国はインドより一歩先に経済大国になったのである。また、インドは、2015年の実質GDP成長率が中国を上回ったことを受けて、世界経済の新たなエンジンとして期待されているが、GDP規模がまだ小さいため、その牽引力は限定的である。

東アジアにおける日本から中国へのパワーシフトも顕著である。1980年には、中国のGDP規模は日本の27.9%しかなかったが、2009年に日本を抜いて米国に次ぐ世界第二位となった。その後、成長率の格差に加え、円安・人民元高の進行も加わり、2015年には日本の2.7倍に差が開いている。中国の一人当たりGDPも、1980年から2015年にかけて、日本のわずか3.3%から同24.6%へと上昇している。これを反映して、東アジア各国・地域全体(日本、NIEs、ASEAN4、中国を指す)に占める日本のシェアはピークだった1987年の74.1%から2015年には21.2%に低下する一方で、中国のシェアはボトムだった1994年の8.3%から2015年には56.5%に上昇している(図3)。また、中国の躍進により、東アジアのGDP規模は米国と欧州連合(EU)を上回るようになった(表2)。

図3 東アジアに占める各国・地域のGDPのシェアの推移
図3 東アジアに占める各国・地域のGDPのシェアの推移
(注)NIEsは韓国、台湾、香港、シンガポール、ASEAN4はインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイを指す
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2016より筆者作成
表2 米国とEUを上回るようになった東アジアのGDP規模
1980 2000 2015
米国 GDP(10億ドル) 2,862.5 10,284.8 17,947.0
世界GDPに占めるシェア(%) 25.8 30.9 24.5
EU GDP(10億ドル) 3,755.4 8,829.6 16,220.4
世界GDPに占めるシェア(%) 33.8 26.5 22.2
東アジア GDP(10億ドル) 1,733.5 7,588.0 19,451.6
世界GDPに占めるシェア(%) 15.6 22.8 26.6
(注)EUはいずれの時点においても、現在の28の加盟国を対象としている。東アジアは日本、中国、NIEs(韓国、台湾、香港、シンガポール)、ASEAN4(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ)。
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2016より筆者作成

中国のGDP規模は、米国に次ぐ世界第二位になったとはいえ、一人当たりGDPではまだ中所得国の域を超えていない。今後、いつ中国のGDPが米国を抜いて世界一になるか、またいつ一人当たりGDPが先進国並みの水準に達するかが注目されている。

1980年には、中国のGDPは米国の10.6%、一人当たりGDPは米国の2.4%しかなかったが、2015年には、それぞれ61.2%と、14.3%に上昇している(注3)。中国の実質GDP成長率は、今後も米国を大きく上回ると予想される。中国製品の国際競争力の向上を反映して、人民元はドルに対して緩やかに上昇すると見込まれることを合わせると、米中間のGDP格差はさらに縮小し、あと10年ほどで、中国のGDP規模は米国を抜いて世界一になるだろう。しかし、人口の差を考えれば、その時点においても、中国の一人当たりGDPはまだ米国の四分の一に届かず、先進国の水準に達するまでにはもっと長い時間がかかりそうである。

脚注
  1. ^ 本文で使われる各国のGDPと人口のデータはすべてIMF, World Economic Outlook Database (April 2016) によるものである。同データベースは、2015年にはほとんどの国・地域を対象としているが、過去のデータについては、古い時期ほど、欠落する国・地域が多い。そのため、1980年代に遡ると、比較可能の国・地域の数が減り、すべての対象国・地域の合計に当たる「世界」のGDPと人口が過少評価される度合いが拡大することになる。
  2. ^ 経済規模の国際比較は、対象国の名目GDP(自国通貨ベース)を(自国通貨の対ドルレートで)ドルに換算して行うことが一般的である。名目GDPは、実質GDPと物価の変動を示すGDPデフレーターに分解できることを考慮すると、ドルベースのGDPは、①実質GDP成長率、②デフレーターの上昇率、そして③自国通貨の対ドルレートの変化率に比例して変化する。
  3. ^ 中国では、1970年代末期に改革開放に転換してから、GDP成長率が一貫して米国を大幅に上回っているにもかかわらず、1994年まで人民元の対ドル切り下げが繰り返されたため、中国と米国の間のGDPの格差は一向に縮小しなかった。中国のGDPが米国GDPに対して本格的に上昇し始めたのは、人民元の切り下げが一段落した1995年以降のことである。特に、2005年から2014年までの人民元高・ドル安の局面において、米中間のGDP格差が一気に縮まった。
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2016年7月7日掲載