中国経済新論:実事求是

底入れを探る中国経済
― 3月のマクロ経済指標の改善に注目 ―

関志雄 経済産業研究所

2016年第1四半期における中国の実質GDP成長率は前年比6.7%と、前四半期の6.8%をやや下回り、リーマンショックを受けた2009年第1四半期(同6.2%)以来の低水準となった。しかし、3月の主要な経済指標の大半は1−2月と比べて大幅に改善しており、景気がすでに底を打ち、上向き始めている兆しを示している。

まず、製造業購買担当者景気指数(PMI)は、3月に50.2と、景気判断の節目となる50を昨年7月以来、8ヶ月ぶりに上回った。調査項目の中で、生産をはじめ、受注、仕入れ、輸入、原材料仕入れ価格など、広範囲にわたって改善が見られている。3月の非製造業のPMIも前月の52.7から53.8に上昇している(図1)。

図1 製造業と非製造業PMIの推移
図1 製造業と非製造業PMIの推移
(出所)CEICデータベース(原データは中国国家統計局)より作成

また、生産の面では、工業生産(付加価値ベース、一定規模以上の企業を対象とする)の前年比伸び率は、1−2月の5.4%から3月には6.8%に上昇している。

さらに、内需の面では、固定資産投資の伸びは、1−2月の前年比10.2%から、3月には同11.2%に上昇している。これは、主に住宅価格が一級都市を中心に高騰していることを背景に、住宅開発投資が増え始めていることを反映している。3月の住宅開発投資は、前年比7.8%伸びており、これを受けて、これまで低迷していた鋼材生産(1−2月の前年比−2.1%から3月には同3.3%へ)や、セメント生産(1−2月の前年比−8.2%から3月には同24.0%へ)、発電量(1−2月の前年比0.3%から3月には同4.0%へ)も持ち直しつつある。一方、消費の指標である社会消費品小売売上の前年比伸び率は1−2月の10.2%から3月には10.5%に上昇している。

そして、外需の面では、3月の輸出(ドルベース)は前年比11.5%増と、昨年6月以来9ヶ月ぶりにプラスに転じた(図2)。昨年夏以降の人民元の切り下げや、ユーロと円の対ドル上昇を反映して、人民元の実効レートは低下しており、このことは、中国の製品の国際市場における価格競争力の向上につながっていると見られる。一方、3月の輸入(ドルベース)は前年比−7.6%と、1−2月の−16.7%と比べてマイナス幅が縮小している。

図2 輸出と輸入の推移
図2 輸出と輸入の推移
(出所)CEICデータベース(原データは中国税関総署)より作成

最後に、需要の回復を背景に、3月の消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は2月と同じ2.3%と、2014年7月以来の高水準となった。3月の生産者物価指数(PPI)の前年比上昇率も−4.3%と、ボトムだった昨年12月の−5.9%から下落幅が縮小している(図3)。

図3 消費者物価指数と生産者物価指数の推移
図3 消費者物価指数と生産者物価指数の推移
(出所)CEICデータベース(原データは中国国家統計局)より作成

経済のファンダメンタルズの改善を背景に、株価のベンチマークである上海総合指数は1月28日の2656ポイントを底に上昇に転じており、4月下旬には2900ポイント台で推移している。また、3月の外貨準備は昨年10月以来5ヶ月ぶりに増加に転じ、一時急落した人民元の対ドルレートも落ち着きを取り戻しつつある(図4)。このように、昨年夏以降に株価の急落をきっかけに起きた金融市場の混乱は収束に向かっている。

図4 人民元レートと中国の外貨準備の推移
図4 人民元レートと中国の外貨準備の推移
(出所)CEICデータベース(原データは中国国家外為管理局および中国人民銀行)より作成

今後の景気動向を展望する際、住宅市場の行方に注目したい。住宅販売面積と住宅価格は、住宅開発投資の先行指標として有効である。この二つの指標は、いずれも高い伸びを示しており、住宅開発投資が今後加速することを示唆している(図5)。住宅市場の回復は景気の下支えとなろう。もっとも、住宅価格はすでにバブルの域に達しており、最近の急騰により、中長期的にはバブルの崩壊に伴って中国経済が大きな打撃を受けるというリスクはむしろ高まっている(関志雄「急騰する住宅価格― 中国にとって福かそれとも禍か」『中国情勢レポート』No.16-03、2016年4月7日を参照)。その上、鉄鋼や石炭をはじめ、多くの産業は依然として過剰設備、過剰債務、過剰雇用からなる「三つの過剰」を抱えており、これらを解消するには時間がかかる。そのため、リーマンショック後のようなV字型回復は期待できない。

図5 住宅の販売面積・価格・投資の推移
図5 住宅の販売面積・価格・投資の推移
(注)販売価格は70大中都市の単純平均で、2010年12月までは新築住宅販売価格指数、2011年1月からは新築商品住宅販売価格指数。販売面積は商品住宅。販売面積と住宅開発投資の各年の1月と2月のデータは2ヶ月まとめた形でしか発表されないため、図の作成に当たり、同じ計数を使用した。
(出所)CEICデータベース(原データは中国国家統計局)より作成

こうした中で、財政拡大など、景気対策の実施を求める声が高まっているが、次の理由からそれが実現される可能性は小さいと思われる。まず、「三つの過剰」をもたらしたのは、まさにリーマンショック後に実施された4兆人民元に上る内需拡大策に伴う企業の投資拡大である。また、労働力不足など、供給側の制約により、中国の潜在成長率が従来の10%程度から現在7%前後まで下がっていると見られ、それを基準とすれば、足元の6.7%という成長率は決して深刻な不況を意味しない。実際、潜在成長率の大幅な低下を反映して、2016年第1四半期には、低成長にもかかわらず、都市部の求人倍率は1.07倍と、完全雇用に近い高水準を維持している(図6)。

図6 実質GDP成長率と都市部の求人倍率の推移
図6 実質GDP成長率と都市部の求人倍率の推移
(注)中国の都市部の求人倍率は、約100都市の公共就業サービス機構に登録されている求人数/求職者数によって計算される。
(出所)中国国家統計局、人力資源・社会保障部の統計より作成

このような認識に立って、政府は大規模な内需拡大策の実施には消極的である。今後、景気の底入れが確認されれば、このスタンスは一層鮮明になってこよう。

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2016年4月28日掲載