中国経済新論:実事求是

中国の成長エンジンとなったインターネット産業

関志雄 経済産業研究所

インターネットを中心とする情報通信技術は、新しい産業革命の波を起こしている。その影響は、情報通信産業にとどまらず、他の産業にも及んでいる。インターネットは、米国をはじめとする先進国で開発されたものだが、その技術進歩のスピードに比例して利用コストが急速に低下していることから、途上国にとって、先進国を追い上げるための有力な手段となっている。中国は、労働力不足を背景に労働集約型製品の国際競争力が落ち込んでおり、成長率も低下している中で、インターネット技術の活用をテコに産業の高度化を図り、更なる飛躍を目指している。

インターネットの普及による経済効果

インターネットの普及は、経済全般にわたる生産性向上やイノベーションをもたらし、更なる経済成長につながっていく。その成長はインターネットサービス関連産業の発展に寄与し、やがて市場全体の需要を刺激するといった波及効果も期待できる(Deloitte, "Value of Connectivity," Thought Leader's News Vol. 2, June 2014)。

まず、インターネットは、膨大な情報へのアクセスを可能にし、それによって市場の生産性向上や効率化が進む。様々な情報は、モバイル端末を通じて交換することができ、移動時間やコスト削減により業務の効率化が可能となる。インターネットの普及に伴ってアイデアの伝播は加速し、世界規模で最新の研究結果や技術を利用することが可能となる。

また、インターネット利用の拡大は、参入障壁の緩和、業務処理コストの削減、そして透明性の向上に寄与し、市場の効率化に直結する。中小企業でもこれらのメリットを生かせば、より大きな市場に手が届くようになるのである。

さらに、インターネットは、直接的にまたは間接的に新規雇用を創出している。専門性の高い人材への需要が増加すれば、賃金上昇や労働者の権利拡大につながっていくことが考えられる。

最後に、インターネットの普及は、発展途上国の経済構造に根本的な変革をもたらす。農業や天然資源に依存している多くの国々の経済を知識経済へと転換していくのである。

急成長する中国におけるインターネット産業

インターネットによるこれらの経済効果は、膨大なコストをかけてその技術を開発した先進国にとどまらず、安いコストでこれを利用できる途上国にも及んでいる。中国も、後発の優位性を生かしながら、インターネットの普及の恩恵を存分に受けている。情報通信技術の発達により先進国と途上国の間の格差が一層広がるという「デジタル・デバイド」論が盛んだが、中国の経験はそれを否定するものである。

マッキンゼー・グローバル研究所によると、中国のインターネット経済(iGDP)の対GDP比は、2010年の時点では3.3%と多くの先進国に後れを取っていたが、2013年に4.4%に上昇し、先進国並みの水準に達し、米国、フランス、ドイツなどを抜いた(図1)(注1)。同研究所は、「インターネットは2013年から2025年の間に、中国経済の年間成長率を0.3~1.0%押し上げる」と予測している。

図1 GDPに占めるインターネット経済(iGDP)の割合の国際比較(2013年)
図1 GDPに占めるインターネット経済(iGDP)の割合の国際比較(2013年)
(注)C2Cのネット通販の規模は、ほとんどの国において無視できるほど小さいが、中国では、多くの未登録の個人事業主がかかわっていることを反映して、極めて大きい。これを考慮すれば、中国における2013年のインターネット経済の対GDP比は7%に達し、G7のすべての国を上回ることになる。
(出所)マッキンゼー・グローバル研究所「中国のデジタル化への変貌、インターネットの生産力と成長への影響(2014年7月)より作成

2014年末現在、中国のインターネット利用者は前年比3,117万人増の6億4,900万人に達し、インターネットの人口普及率は47.9%である(図2)(注2)。インターネット利用者の内、携帯電話でアクセスする人数は前年比5,672万人増の5億5,678万人(全体の85.8%)に達し、デスクトップ(同70.8%)、ノートパソコン(同43.2%)、タブレット(同34.8%)を上回っている。インターネットは、情報取得や通信の手段であるだけでなく、消費や娯楽など、人々の生活のあらゆる分野に影響を及ぼすようになっている。2014年に各種のインターネットサービスの利用率は、リアルタイム通信(インターネット利用者全体の90.6%)、情報検索(同80.5%)、ニュース閲覧(同80.0%)、音楽視聴(同73.7%)、動画視聴(同66.7%)、オンラインゲーム(同56.4%)、ネット通販(同55.7%)の順となっている。一方、ネット決済、ネットバンキング、旅行予約、資産運用などの新しい分野は、利用率は比較的低いが、高い伸びを示している(表1)。

図2 中国におけるインターネット利用者数と人口普及率の推移
図2 中国におけるインターネット利用者数と人口普及率の推移
(出所)中国インターネット情報センター(CNNIC)「第35回中国インターネット発展状況統計報告」(2015年1月)より作成
表1 アプリケーション別にみる中国のネット利用状況(2014年)
アプリケーション利用者数
(万)
伸び率
(前年比、%)
利用率
(%)
リアルタイム通信58,77610.490.6
情報検索52,2236.780.5
ニュース閲覧51,8945.680.0
音楽視聴47,8075.573.7
動画視聴43,2981.166.7
オンラインゲーム36,5858.256.4
ネット通販36,14219.755.7
ネット決済30,43117.046.9
ネット文学29,3857.145.3
ネットバンキング28,21412.843.5
電子メール25,178-2.938.8
微博(ミニブログ)24,884-11.438.4
旅行予約22,17322.734.2
グループクーポン(共同購入)17,26722.726.6
フォーラム・BBS12,9087.219.9
ブログ10,89624.216.8
資産運用7,849-12.1
(注)利用率はインターネット利用者数に占める割合。
(出所)中国インターネット情報センター(CNNIC)「第35回中国インターネット発展状況統計報告」(2015年1月)より作成

その中で、ネット通販は、利用者の数とともに取引規模も急速に伸びている。2014年の中国におけるネット通販の販売額は、前年比49.7%増の2兆7,898億元(4,542億ドル、小売売上総額の10.6%)に上っている(中国国家統計局「2014年国民経済と社会発展統計公報」、2015年2月26日)。これは米国の3,039億ドル(同6.5%)を上回っている(図3)(注3)。ネット通販の急拡大ぶりを象徴するように、中国では2014年の11月11日「独身の日」に、電子商取引最大手アリババグループのネット通販サイトの取引額が前年比約57.7%増の571億元という過去最高の水準に達した(Alibaba, "Alibaba Group Generated US$9.3 Billion in GMV on 11.11 Shopping Festival," Press Release, November 12, 2014)(注4)。その内、モバイル端末を通じた取引額は全体の約42.6%を占めた。

図3 中国におけるネット通販の販売額の推移
-米国との比較-

図3 中国におけるネット通販の販売額の推移
(出所)U.S. Department of Commerce、中国国家統計局、中国インターネット情報センター(CNNIC)のデータより作成

また、第三者決済サービスを中心に、インターネット金融も急成長している。2014年の(銀行を経由しない)第三者決済の規模は、前年比50.3%増の8.1兆元に達している(iResearch、「2014年中国における第三者ネット決済の取引規模は8兆元を突破」、2015年3月4日)。その内、ネット通販、資産運用のシェアは、それぞれ31.4%と14.7%に達している(注5)。

「インターネット・プラス」行動計画の策定へ

インターネット産業の更なる発展を目指すべく、2015年3月に開催された第12期全国人民代表大会第3回会議の「政府活動報告」において、李克強首相は、「『インターネット・プラス』行動計画を策定し、モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、モノのインターネット(Internet of Things, IoT)などと現代製造業との結合を推進し、電子商取引、工業インターネット、インターネット金融の健全な発展を促進し、インターネット企業を国際市場の開拓・拡大へと導く。」という方針を明らかにした。

「インターネット・プラス」は、元々インターネット大手のテンセントのCEOで、全国人民代表大会の代表でもある馬化騰氏が提唱した概念である。馬氏によると、「インターネット・プラス」はインターネットと従来型産業との融合である。たとえば、「インターネット+小売」は「ネット通販」となる。インターネットの普及はかつての電気のように、多くの産業に革命的変化をもたらしている。その対象は、小売、家電、通信、メディアにとどまらず、金融、交通、医療、教育、環境保護といった分野にも広がりつつある。各産業とインターネットの融合とそれに伴うイノベーションは、産業の高度化に寄与するだけでなく、大衆による起業を促し、国民の生活をより便利なものにしているという(孫氷「インターネットが従来型産業と深く融合」、『中国経済週刊』、2015年第9号)。

「インターネット・プラス」行動計画に加え、その「インターネット+工業版」ともいうべき「メイド・イン・チャイナ2025」計画(工業情報化部が策定中)においても、インターネットを中心とする情報通信技術に大きな期待が寄せられている。具体的に「イノベーション主導、スマート化へのモデルチェンジ、基礎の強化、(環境に配慮した)グリーンな発展を堅持しつつ、製造業大国から強国への転換を加速していく」ことを目指して、「工業化と情報化の深いレベルの融合を促進し、ネットワーク化、デジタル化、スマート化などの技術を駆使し、重要分野で機先を制し、飛躍を実現すべく尽力する」ことが強調されている(前掲、全人代における「政府活動報告」)(注6)。

中国では、近年、インターネット産業の発展は、民間主導で急速に進んでいるが、今後、政府による「インターネット・プラス」の行動計画と「メイド・イン・チャイナ2025」計画の実施にも促され、他の産業を巻き込む形で、中国経済に新たな活力をもたらすだろう。

2015年4月8日掲載

脚注
  1. ^ ここでいうiGDPは支出法によって計られ、インターネットの創造と使用にかかわるすべての活動をカバーしている。具体的に、個人消費(ソフトウェアとハードウェア、インターネットとeコマース〔電子商取引〕の利用を含む)、公共支出(インフラ投資を含む)、民間によるインターネット技術への投資、インターネット関連の財とサービスの純輸出を合わせたものである。
  2. ^ もっとも、都市部と農村部の間では普及率に大きな格差があり、都市部では62.8%に達しているのに対して、農村部では28.8%にとどまっている(中国インターネット情報センター(CNNIC)「第35回中国インターネット発展状況統計報告」、2015年1月)。
  3. ^ 中国のeコマースが引き続き急速に成長している。商務部の試算によると、2014年中国のeコマースの規模(B2Bやネット通販を含む)は、前年比25%増の約13兆元に達した(商務部定例記者会見、2015年1月21日)。
  4. ^ 中国では、1990年代以降、若者の間で、1が4つ並ぶ11月11日を「独身の日」として祝う習慣が定着している。2009年から中国最大のネット通販サイトであるアリババがこの日を特売日と決めたことをきっかけに、毎年11月11日は、米国の感謝祭の翌週の月曜日の「サイバー・マンデー」と同じように、ネット通販の売り上げが最も大きい日となった。
  5. ^ 中国の第三者決済機関は、ネット決済口座の滞留資金を一種のMMFで運用してくれるサービスを提供している。アリババの関連会社である蟻金融服務集団(アント・ファイナンシャル)が運営する「余額宝」は業界最大のシェアを誇っており、2014年末の口座数は1.85億、預かり資産が5,789億元に達している(天弘基金管理有限公司「天弘増利宝貨幣市場基金2014年年度報告」、2015年3月26日)。
  6. ^ 2015年3月25日に開催された国務院常務会議において、策定中の「メイド・イン・チャイナ2025」計画の方針として、①次世代情報技術、②ハイレベルのCNC工作機械とロボット、③航空・宇宙設備、④海洋工学設備とハイテク船舶、⑤先進的な軌道交通設備、⑥省エネ・新エネ車、⑦電力設備、⑧新材料、⑨バイオ医薬品と高性能医療機器、⑩農業機械設備の10分野を重点的に発展させることが挙げられている。
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2015年4月8日掲載