中国経済新論:実事求是

広州は「中国のデトロイト」にはならない
― バランスの取れた産業構造の高度化を目指して ―

関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー

この春、香港貿易発展局が主催する「香港/珠江デルタシンクタンク視察ミッション」に参加し広州(広東省の省政府の所在地)を訪れた際、張広寧市長と懇談する機会に恵まれた。席上、自動車産業の急成長を背景に広州は中国のデトロイトになるのではないかという話題が出た。これに対して、市長は、「デトロイトでは産業といえば自動車しかないが、広州は、自動車と並行して、多くの産業を発展させていきたい」と断った上、「広州は中国のデトロイトにはならない」と異論を唱えた。

「中国のデトロイト」と呼ぶかどうかは別として、確かに、近年、広州における自動車産業の発展には目を見張るものがある。2005年の広州の自動車産業(バイクや部品の生産を含む)の総生産は849億元と、工業生産の14.1%に上り(いずれも一定の規模以上の企業のみを対象)、電子・IT製品と石油化学とともに、同市の三大産業の一つになっている。その原動力は、日本のメーカーが、現地の主力企業と合弁会社を作る形で、相次いで進出していることである。広州ホンダが99年に、東風日産が03年に生産を始めたのに続き、広州トヨタも今年の5月から稼働したことにより、広州は東部がホンダ、北部が日産、南部がトヨタとその周辺に固まっている部品メーカーからなる自動車の一大生産地として浮上している。

広州を中心に、2005年の広東省の自動車生産台数は41.35万台に達している。そのうち、乗用車が40.74万台に上り、広東省はすでに上海(48.09万台)に次ぐ中国における乗用車の第二の生産地となっている(表1)。今後、トヨタが本格的生産に入ることや、韓国現代自動車が広州汽車集団と合弁で2007年から生産を開始し2010年に年間20万台の商業車の生産を目指すことを合わせて考えると、そう遠くない将来、広州が上海を抜いて中国における自動車の最大の生産地となろう。

表1 中国における地域別の乗用車生産台数
表1 中国における地域別の乗用車生産台数
(出所)国家統計局のデータに基づき作成

2004年に策定された「広東省自動車工業2005-2010発展規画」では、2010年に160万台の生産能力が見込まれ、その大半は広州に集中すると見られる。そのうち、乗用車が140万台(全国のマーケットシェアの15%以上)、輸出が生産の10%以上としている。さらに、2020年には、生産規模が300万台(うち、乗用車が250万台)とし、これが実現されれば、広州はデトロイトと豊田市に並ぶ世界有数の自動車の生産基地になる。

それでも、自動車産業は広東省の最大の産業にはならない。2005年に発表された「広東省工業九大産業2005-2010年発展規画」では、電子・IT製品、電気機械(機械と家電)、石油化学、繊維・アパレル、食料加工、建材、木材製品・紙、医薬、自動車からなる九大産業のうち、自動車産業は、伸びが年率25%と最も高いが、2010年に工業生産に占めるシェアはまだ5.4%と、上位の電子・IT製品、電気機械(機械と家電)、石油化学には遠く及ばない。2020年に、さらに生産台数を倍増しても、シェアは10%を超えないだろう。

広州は、中国経済の高成長という「天の時」、世界の工場の一翼を担う華南経済圏産業の中心であるという「地の利」、そして外資導入という「人の和」を活かして発展してきた。ここに来て、生産の拡大と所得の上昇という好循環も加わり、張市長の期待通り、広州は自動車と他の産業とのバランスを取りながら、産業の高度化を遂げていくだろう(表2)。

表2 広東省工業九大産業の展望
表2 広東省工業九大産業の展望
(注)対象は国有企業と年間売り上げが500万元以上の非国有企業に限る。
(出所)「広東省工業九大産業2005-2010年発展規画」、2005年2月

2006年8月23日掲載

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