中国経済新論:実事求是

米中・日中間の貿易不均衡の実態
― 香港経由の中継貿易を考慮して ―

関志雄 経済産業研究所 コンサルティングフェロー

近年、対中貿易不均衡の拡大を理由に、米国をはじめ、先進国と中国との貿易摩擦が激化している。しかし、中国側の統計では、対米黒字幅は米国側の発表と比べて半分程度に留まっており、対日では中国はむしろ赤字になっている。ここでは、香港経由の中継貿易を合わせて、米中、日中間の貿易不均衡の実態を明らかにする。

米国側の統計によると、米国の対中貿易赤字が2004年の1619億ドルからさらに拡大し、2005年には2016億ドル(対中輸出は418億ドル、輸入は2435億ドル)に上っている。対中赤字は、貿易赤字全体(7668億ドル)の26.3%を占めており、2000年以来、6年連続、中国が米国の最大の貿易赤字相手国となっている。一方、中国側の統計では、2005年の対米黒字は1142億ドル(対米輸出は1629億ドル、対米輸入は487億ドル)と、米国側の数字を大幅に下回っている。

本来、概念的に、中国の対米輸出と対米輸入は、それぞれ米国の対中輸入と対中輸出に対応しており、中国の対米黒字幅も、米国の対中赤字幅に一致するはずである。しかし、双方の統計を比較してみると、中国の対米輸出は米国の対中輸入をはるかに下回っているのに対して、中国の対米輸入は米国の対中輸出を上回っている。これを反映して、中国の対米貿易黒字幅も、米国の対中赤字幅ほど大きくない。

同じような統計上の不突合は、日中貿易にも見られる。日本側の統計によると、2005年の対中輸出は804億ドル、対中輸入は1090億ドルを反映して、対中収支は286億ドルの赤字になっている。これに対して、中国側の統計では、対日輸出は840億ドル、対日輸入1005億ドルに上り、対日貿易収支は、165億ドルの赤字となっている。このように、日中両国は互いに相手国に対して赤字を記録しているという一見矛盾するような現象が起こっている。

計算方法の違いなどから、二国間の貿易統計に誤差が生じることは、止むを得ないことである。その原因の一つは、一般的に、通関統計では、輸出がFOBベースで申告しているのに対して、輸入がCIFベースで計上されることを反映して、輸入側の数字が輸出側より大きいことにある。しかし、それにしても、米中間、または日中間の統計のギャップはあまりにも大きく、それだけではまだ十分に説明できない。

この謎を解く鍵は、香港経由の中継貿易の扱いにある。米国や日本の統計では、中国向け輸出のうち、香港経由の一部は、輸出時に最終仕向け国が中国と知り得なかったため、対中輸出ではなく、対香港輸出として計上されている。その一方で、中国から輸入する分に関しては、香港経由の分をも含めて、すべて対中輸入として計上される。これに対して、中国の統計では、香港を経由した米国や日本などの第三国への輸出の一部は、輸出時に最終仕向け国が知り得なかったため、対香港輸出として計上されるが、香港経由の日本や米国などの第三国からの輸入は、すべて原産国からの輸入として計上される。

こうしたことから、米中、日中の二国間の実際の輸出入規模は、それぞれの国の輸入統計によって示された金額に近いと考えられる。これに従えば、2005年の米中間の貿易収支は、中国の対米輸入(487億ドル)と米国の対中輸入(2435億ドル)の差に当たり、中国側の1948億ドルに上る大幅な黒字(米国側の赤字)と推計される。同じように、2005年の日中間の貿易収支は、中国の対日輸入(1005億ドル)と日本の対中輸入(1090億ドル)の差に当たり、小幅ながら中国側の85億ドルの黒字(日本側の赤字)と推計される。

香港経由の中継貿易の重要性に加え、1997年の返還を経て香港は名実とも中国の一部になったことを考えれば、日米の対中不均衡を考えるときに、対中国本土だけでなく、対香港の分も合わせた対中華圏の規模が、より参考になるだろう。2005年、米国の対中華圏の赤字幅は1942億ドルと対中国本土の数字とほとんど変わらない。一方、日本の対中華圏の貿易収支は、対香港の黒字が対中国本土の赤字上回っていることを反映して、小幅ながらも59億ドルの黒字となっている。

このように、輸入側の統計に基づく試算と、香港を含む中華圏の数字のいずれも、米中間の貿易収支はおおむね米国側の発表の数字の通り中国側の大幅な黒字になっているが、日中間の貿易収支はほぼ均衡しているという実態を示している(図1、図2)。

図1 米国の対中貿易収支の推移
図1 米国の対中貿易収支の推移
(出所)米国と中国の通関統計より作成
図2 日本の対中貿易収支の推移
図2 日本の対中貿易収支の推移
(出所)日本と中国の通関統計より作成

2006年2月24日掲載

2006年2月24日掲載