中国経済新論:実事求是

中国の中長期の成長制約となる労働力供給
― 「一人っ子政策」のツケはいつ回ってくるか ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

改革開放以来、中国経済は、年平均10%近くの高成長を遂げている。これを可能にした1つの要因は、無限といってよいほどの豊富な労働力の存在である。生産年齢(15-59歳)にあたる人口(労働人口)の全体に占める比率は高く、伸び率も1961-1990年で平均2.5%という高水準だった。しかし、80年代に入ってから人口抑制のために実施されている「一人っ子政策」の影響を受けて、労働力人口の伸びは次第に鈍化してきており、このままでは経済成長を供給面から制約する原因になりかねない。

中国では「一人っ子政策」を導入してから、出生率が1965-1970年平均の6.1%から次第に減少に転じ、1996-2000年には1.8%に低下した。この結果、人口増加率も1980年以降鈍化しており、1961-1980年の平均2.2%から1996-2000年には1%を下回る水準に低下した。国連の予測では、2035年には伸び率はゼロに達し、その後マイナスに転じる見込みである。15歳と59歳の間の年齢で構成される労働力人口は、これに多少のタイムラグをおいて伸びが鈍化を始めており、1996-2000年で平均1.2%を保っている。しかし、国連によると、今後2020年にゼロ成長に達し、その後マイナスに転落すると予想されている。これを受けて、総人口に占める労働力の比重も、足元の65%から2050年には55%を下回ると見られている。

労働力人口の伸び鈍化は、2つの面から経済成長を制約すると考えられる。第一に、直接的要因として、供給面における労働投入量の伸びの鈍化に結びつく。第二に、人口ピラミッドが急激に逆ピラミッド型に転じる中で、社会における高齢化の進展が、貯蓄率の低下に結びつく可能性が高い。貯蓄率の低下は、投資に向ける資金の減少を意味するため、間接的に経済成長率を引き下げる要因として働くだろう。以上2つの経路を通じて労働人口の伸び鈍化が経済成長を制約し始めるのは、労働人口比率が2010年にピークに達する時期以降ではないかと予想される。2020年以降、労働人口の伸び率がマイナスに転じることが加わり、中国の潜在成長力は一段と下がるであろう。

ただし、実際には中国は現在農村部に億人単位の余剰労働力を抱えており、完全雇用が達成されていない状態にある。これら農村部の余剰労働力が工業部門へ流入する動きが今後も当分続くならば、短期的には中国の経済成長が労働人口増加率の低下という形で制約されることはないであろう。

このように、人口要因から判断して、中国の高成長は当面持続可能である。しかし、10年、20年後には、これまで採ってきた一人っ子政策のツケが、高齢化と貯蓄率の低下という形で顕在化し、高度成長期は終焉を迎えるであろう。中国にとって、今後の20年間は先進国を目指す最後のチャンスになるかもしれない。

図 中国の労働人口比率
図 中国の労働人口比率
(注)労働人口比率=15-59歳人口/総人口
予測は国際連合による。
(出所)United Nations, World Population Prospects: The 2000 Revision.
図 減少する人口増加率
図 減少する人口増加率
(注)労働人口は15-59歳。グラフは5年平均成長率。
予測は国際連合。
(出所)United Nations, World Population Prospects: The 2000 Revision.

2002年3月1日掲載

2002年3月1日掲載