中国経済新論:中国の経済改革

制限から奨励に転換する中国における出生政策
― 「国家人口発展計画(2016-2030年)」の目標は実現可能か ―

関志雄 経済産業研究所

中国は人口の増加を抑制するために、1980年以降、一人っ子政策を実施していた。しかし、ここに来て、少子化に加え、高齢化も進み、生産年齢人口は減り始めている。その結果、これまで享受してきた「人口ボーナス」が「人口オーナス」となり、潜在成長率も低下してきている。少子高齢化は、一般的に先進国で見られる現象だが、中国は豊かにならないうちにこの段階を迎えるという厳しい試練に立ち向かわなければならない。

これに対して、政府は、出生政策の軸を「一人っ子政策」から「二人っ子政策」に転換した。出生政策が緩和されたことを踏まえて、国務院は2017年1月に発表した「国家人口発展計画(2016—2030年)」(以下「計画」)において、2030年までの中国における人口状況を展望している。「計画」は2030年の総人口が14.5億人前後に達するという目標を打ち出しているが、その実現は困難だと思われる。

中国における人口政策の推移

中国では、1949年に共産党政権が樹立されてから1970年代にかけて、政治運動が絶えない中で、出生政策を中心とする人口政策において、大きなブレが見られた。当初は、多産を奨励したため、人口が爆発的に増加した。1957年に、北京大学学長であった馬寅初は人口の急増による経済発展と国民生活への悪影響を憂慮し、産児制限策の必要性を訴えたが、毛沢東の反対に遭い、政府に受け入れられなかった。1969年に、中国の人口はついに8億人を突破し、産児制限策導入の緊急性は一層増した。1973年に「晩、稀、少」(晩婚・晩産、出産間隔を空ける、少なく生む)という産児制限策がようやく決定された。その後、出生率は次第に低下するようになった。

1980年代に入ってから、産児制限策はさらに強化され、強制力を持つ一人っ子政策が登場した。政府は、一人っ子の家庭に対する優遇奨励政策(例えば、補助金の支給、学費や医療費の減免)を進めると同時に、産児制限策に違反した家庭に対して、国家公務員の場合は行政処罰、一般の場合は罰金など、厳しい罰則を設けていた。ただし、都市部と農村部、漢民族と少数民族のそれぞれの事情を考慮した形で、一人っ子を原則としながらも例外を認め、出生数に対する規則は地域によって異なっていた。実際、農村部は都市部より、また少数民族は漢民族より制限が緩くなっていた。

2001年に採択された「人口・計画出産法」では、「公民の晩婚・晩産を奨励し、一組の夫婦が一人の子供を持つことを提唱する。法律が決める条件に合致する場合、第二子の出産を申請することができる」と定めていた。しかし、その頃から、一人っ子世代が結婚適齢期を迎え始めたことをきっかけに、上海をはじめとする一部の都市部においても、第二子の出産を認める条件が緩和され始めた。

2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議において、夫婦双方または片方が一人っ子である場合、第二子の出産を認めるという方針が決定された。続いて、2015年10月の中国共産党第18期中央委員会第五回全体会議において、一人っ子政策を撤廃し、一組の夫婦が二人の子供を産むことを可能にするという方針が決定され、「人口・計画出産法」の改定を経て、2016年1月1日から実施された。

少子高齢化の進行

中国では、1980年代の初めに一人っ子政策が採られてから、少子化が高齢化より先行する形で、生産年齢人口の割合が上昇することにより、経済成長に有利に働く「人口ボーナス」が発生した。しかし、ここに来て、高齢化が加速化している一方で、生産年齢人口の割合が低下し始めている。

1970年代後半から2010年代の前半にかけて、中国における人口増加率は1.54%から0.54%へと低下してきた(図1)。この期間において、死亡率が比較的に安定しており、人口増加率の低下は主に出生率が2.26%から1.24%に低下したことによるものである。

図1 中国における人口増加率、出生率、死亡率の推移
図1 中国における人口増加率、出生率、死亡率の推移
(注)予測は国際連合
(出所)国際連合, World Population Prospects: The 2015 Revisionより筆者作成

出生率の低下は、合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数、当該年の15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの)の低下を反映している。1970年代後半から2010年代前半にかけて、中国における合計特殊出生率は3.01から1.55へと、日本並みの低水準まで低下している(図2)。産児制限策の実施に加え、出産意欲の低下もそれに拍車をかけている。

図2 中国における合計特殊出生率の推移
―日本との比較―
図2 中国における合計特殊出生率の推移
(注)予測は国際連合
(出所)国際連合, World Population Prospects: The 2015 Revisionより野村資本市場研究所作成

産児制限策が実施されたことにより、人口が抑えられているだけでなく、その年齢構成も大きく変わってきた(図3)。国際連合が発表するWorld Population Prospects: The 2015 Revisionによると、1980年から2015年にかけて、年少人口の割合は36.2%から17.2%へ低下している一方で、60歳以上の高齢者人口の割合は逆に7.2%から15.2%に上昇している(注1)。年少人口の割合の落ち込み幅が、高齢者人口の割合の上昇幅を上回っていることを反映して、15歳から59歳までの生産年齢人口の割合は1980年の56.6%から2010年には70.2%に上昇したが、その後、高齢化の加速を背景に、2015年には67.6%に低下した(注2)。

図3 中国における人口の年齢別構造の変化
図3 中国における人口の年齢別構造の変化
(注)予測は国際連合
(出所)国際連合, World Population Prospects: The 2015 Revisionより筆者作成

少子高齢化の進行を反映して、中国の人口の中位数年齢は、1980年の21.7歳から2015年には37.0歳(1989年の日本に相当)に上昇しており、2030年には43.2歳(2005年の日本に相当)に達すると予想される(図4)。

図4 中国と日本の中位数年齢の比較
図4 中国と日本の中位数年齢の比較
(注)予測は国際連合
(出所)国際連合, World Population Prospects: The 2015 Revisionより筆者作成

課題と挑戦

2016年末現在、中国(台湾、香港、マカオを除く)は総人口が13億8,271万人に上り、今なお世界一の人口大国である(注3)。また、2016年の出生数は前年より131万人増の1,786万人と、1999年以来の高水準となっており、一人っ子政策の緩和による効果が一部現れたと言える(中国国家統計局、「2016年国民経済は第13次五カ年計画の好スタートを切った」、2017年1月20日)。しかし、「国家人口発展計画(2016—2030年)」で指摘されているように、今後15年間、中国は人口動態に関わる次のような挑戦に直面すると予想される。

まず、適度な出生率を保つことは厳しい。中国の合計特殊出生率は、長い間(人口の維持に必要な)人口置き換え水準を下回っており、二人っ子政策実施後、しばらくの間上昇すると見込まれるが、出産意欲の低下などの影響で、長期的には低下し続けかねない(注4)。

第二に、加速する高齢化の影響が顕著になる。高齢化の加速は、社会保障や公共サービスにとって大きな負担になり、人口ボーナスの減少と労働力不足をもたらし、社会の活力、イノベーション力や潜在成長率にもマイナス影響を与えるだろう。

第三に、都市と農村の間や地域間の人口の移動が、戸籍、財政、土地など改革が及んでいない制度に制約されている。このことは、「一帯一路」「北京・天津・河北協同発展」「長江流域経済圏」といった「国家重大地域戦略」の実施にとっては不利である。

第四に、21世紀前半まで、中国の総人口が13億人を上回る水準を維持すると予想され、食糧、水資源、エネルギー問題は依然として深刻である。

最後に、核家族化が進み、単身世帯、高齢者世帯が増えるにつれて、高齢者の介護、育児、看護、心のケアなど多くの問題が顕在化しつつある。また、出生時男女比が長い間不均衡であることは、無視できない社会問題になる可能性がある。

戦略方針

これらの問題の解決に向けて、「計画」では、以下の戦略方針が提示されている。

1)人口構造の改善を重視
人口政策の中心を、総人口のレベルを抑えることから、総人口のレベルの調整と人口構造の最適化及び質の向上を同時に進めるという方向に転換する。二人っ子政策の全面実施を通じて、人口数がピークに達してからの急減を避ける。歪められた出生時男女比の是正を図り、社会の男女平等を促進する。出生人口の質を向上させ、各年齢層の潜在力を発揮させ、人口ボーナスから人材ボーナスに切り替えるように取り組む。

2)人口と経済発展の相乗効果を重視
経済発展が人口変動に与える影響を的確に把握し、経済要因による出生率の低下などの人口問題を解決する。都市と農村の調和の取れた発展と技術・産業・公共サービス・雇用の分散化を目指して、人口を誘導する。経済成長に人的資本と内需の支えを提供するという人口の役割を発揮させ、積極的に高齢化対策を行い、経済成長に不利な要素を取り除くようにする。

3)人口と社会発展の調和を重視
出稼ぎ農民を含む都市住民が基本的な公共サービスを享受できるようにする。特別な配慮が必要な人々へのケアに注力し、養老サービスの多様化体制を構築する。女性、児童、障害者の権益を確保し、社会の公平と正義を促進する。

4)人口と資源・環境のバランスを重視
地域などの状況を考慮し、人口政策の差別化を図る。人口を重点開発地域に適切に集中させ、開発制限・禁止地域からの人口転出を奨励する。巨大都市の人口規模を厳しく制限する。環境保全に注力し、自然資源を持続的に利用可能にし、環境にやさしいライフスタイルを推奨し、人口受容力を向上させる。

2030年までの展望

一人っ子政策の撤廃に象徴される産児制限策の緩和を踏まえて、「計画」は、2030年の中国の人口について次のように展望している(表1)。

表1 中国における主要な人口関連指標
-2015 年実績と2020 年・2030 年の目標-
主要指標 単位 2015年(実績) 2020年(目標) 2030年(目標)
人口総量 総人口 億人 13.75 14.2 14.5
合計特殊出生率 1.5-1.6 1.8 1.8
人口構造 出生時男女比 113.5 ≦112 107
60歳以上の高齢者人口の割合 % 16.1 - 25
人口の質 予想平均寿命 76.3 77.3 79
生産年齢人口の平均教育年数 10.23 10.8 11.8
人口分布 都市化率
(常住人口ベース)
% 56.1 60 70
(出所)国務院「国家人口発展計画(2016-2030年)」(2017年1月25日発表)より筆 者作成

1)総人口
合計特殊出生率は2015年の1.5—1.6から、2020年に1.8という水準まで上がり、その後安定的に推移し、総人口は2020年には14.2億人前後、2030年には14.5億人前後に達することを目標としている。二人っ子政策の全面実施後、第13次五ヵ年計画(「十三五」、2016—2020年)期間中、出生数がやや増え、第14次五ヵ年計画(「十四五」、2021—2025年)期以降になると、出産適齢期女性の減少及び高齢化による死亡率の上昇が原因で、人口増加の勢いが弱まり、総人口は2030年前後をピークに減少していく。

2)出生時男女比
出生時男女比は2015年の113.5(女児の数を100とする)から次第に正常化に向かい、2020年には112以下、2030年には107までに低下することを目標としている。

3)高齢化の状況
今後15年間、少子高齢化は進む。「十三五」期間中、60歳以上の高齢者人口が徐々に増え、2021—2030年は加速し、2030年になると、総人口の約25%に達すると予想される。そのうち、80歳以上の高齢者数はさらに増え、0—14歳の年少人口の総人口に占める割合は減少し、2030年に約17%に下がる。生産年齢人口は「十三五」後半に一時的に小幅な回復を見せるが、2021—2030年に急速に減少すると予想される。労働力の高齢化も進む。

4)予想平均寿命
引き続き人口の健康水準と予想平均寿命の向上を目指す。2015年には76.3歳だった予想平均寿命は、2020年には77.3歳に、2030年には79歳になることを目標としている。

5)国民の教育水準
国民教育体制を整備し、2020年に高校教育と高等教育(入学率50%以上)の普及を目指す。生産年齢人口の平均教育年数を2015年の10.23年から2020年には10.8年、2030年には11.8年までに引き上げる。

6)都市化率
都市化率(常住人口ベース)を2015年の56.1%から、2020年までに60%、2030年までに70%に引き上げる。それに向けて、戸籍制度の改革を進め、都市に移住する農民が都市住民と同様な権利を享受できるようにする。

出生政策の行方

「計画」における総人口の目標は、合計特殊出生率が2015年の1.5—1.6から2020年以降1.8という水準に回復するという楽観的前提に基づいて算出されたものである。しかし、三人目以上の出産が今なお原則として認められていないことを考えると、その実現可能性を疑わざるを得ない(注5)。こうした中で、育児環境の改善、財政による育児支援など、出産意欲を高める政策の実施に加え、出生政策の更なる緩和を求める声が高まっている。

一人っ子政策の撤廃に合わせて改定された「人口・計画出産法」の第18条において、「公民の晩婚・晩産を奨励し」などの文言が削除されており、「一組の夫婦が一人の子どもを持つことを提唱」は「一組の夫婦が二人の子どもを持つことを奨励」に代わった。このように、産児制限から奨励へという政府の方針転換がすでに鮮明になってきており、産児制限策の全面緩和はもはや時間の問題であろう。

脚注
  1. ^ 国際連合が発表する2015年の中国の人口統計は予測値であるため、中国国家統計局が発表する実績値とは必ずしも一致しない。
  2. ^ 中国国家統計局が発表する年次のデータによると、15歳から59歳までの生産年齢人口は2011年をピークに低下し始めた。
  3. ^ 国際連合が発表するWorld Population Prospects: The 2015 Revisionは、インドの人口が2022年に中国を抜いて世界一になると予測している。
  4. ^ 日本の人口置き換え水準は2.07(2015年)と推計される(厚生労働省政策統括官「平成29年我が国の人口動態」、2017年3月)が、中国の場合、出生時男女比が日本より高いため、人口置き換え水準はそれを上回っていると見られる。
  5. ^ たとえば、易富賢、蘇剣「徹底的に見直すべき中国の人口政策」、『中国経済報告』2017年3月号、国務院発展研究センターを参照。
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2017年4月4日掲載