中国経済新論:中国の産業と企業

問われる中国のインターネット企業の海外上場の在り方
― VIEスキームの功罪を中心に ―

関志雄
経済産業研究所

はじめに

中国では、近年、インターネット産業は経済を牽引する新しいエンジンとして浮上しており、他の産業との融合を目指す「インターネットプラス」も政府の産業政策の重要な一環となっている。インターネット産業をリードしてきたバイドゥ(百度、Baidu)、アリババ(阿里巴巴、Alibaba)、テンセント(騰訊、Tencent)、京東(JD.com)は、すでに時価総額が、Google、Amazon.com、Facebookに迫る世界のトップ10企業にまで成長している(図1)。中国のインターネット企業の多くは、中国人によって創業され、経営陣も中国人が中心となっているが、海外で上場しており、その株の大半が外国投資家によって保有されるという意味において、中国にとって外資(外国資本)によって支配されている「外資企業」である(表1)。

図1 時価総額で世界インターネット企業のトップ10にランクインしている中国企業(2015年末)
図1 時価総額で世界インターネット企業のトップ10にランクインしている中国企業(2015年末)
(注)*は中国企業
(出所)Bloombergデータより作成
表1 2016年中国インターネット企業トップ10とその上場の状況
順位 企業名 主な業務 上場年 取引所 時価総額
(億ドル)(注)
1 アリババ (Alibaba) 電子商取引 2014 NYSE 2,400
2 テンセント (Tencent) インターネットサービス 2004 香港 2,478
3 バイドゥ (Baidu) 検索エンジン 2005 NASDAQ 608
4 京東 (JD.com) 電子商取引 2014 NASDAQ 367
5 奇虎360 (Qihoo 360) アンチウイルスソフトウェア 2011 NYSE 2016年7月18日
上場廃止
6 搜狐 (Sohu) インターネットサービス 2000 NASDAQ 15
7 網易 (NetEase) インターネットサービス 2000 NASDAQ 273
8 シートリップ (CTrip) 旅行・観光 2003 NASDAQ 189
9 唯品会 (VIP) 電子商取引 2012 NYSE 93
10 蘇寧雲商 (Suning) 電子商取引 2004 深圳 159
(注)2016年8月18日現在。
(出所)中国におけるインターネット企業トップ10は中国インターネット協会「2016中国インターネット企業トップ100ランキング」2016年7月12日、上場年、取引所、時価総額はWINDより作成

中国政府は、安全保障や国内産業の保護などを理由に、インターネット産業など、一部の産業分野を対象に、外国企業による直接投資や外国投資家による出資など、外資の参入を制限している。インターネット企業が外国投資家によって支配されているという実態は、一見、それとは矛盾しているが、これらの企業は、VIE(Variable Interest Entity=変動持分事業体)スキーム(契約支配型ストラクチャー)を採用することを通じて、外資参入規制を回避している。具体的に、当該企業が、①事業を行う内資運営会社と、②融資プラットフォームと海外上場の主体となる海外登記の持株会社に分割される上、外国投資家を含む持株会社の株主は、出資ではなく、子会社や一連の契約を通じて内資運営会社を支配し、その株主とほぼ同等の権利を享受しているのである。

中国では、VIEスキームに基づく資金調達と企業の海外上場は、インターネット産業にとどまらず、教育、出版など、外資の進出が禁止または制限されている産業分野において、広く使われてきた。しかし、VIEスキームへの規制が強化される一方で、外資参入規制が逆に緩和されることに加え、上場制度をはじめとする国内の証券市場改革が進むにつれ、海外上場している中国企業は、国内市場への回帰を模索し始めている。

規制回避のために考案されたVIEスキーム

中国では、国内の株式市場に上場するために、利益規模などに関する厳しい基準に基づいた当局の審査を通らなければならない(注1)。創業してから日が浅く、安定した収益がまだ確保できていないベンチャー企業にとって、ハードルが高い。これを背景に、多くの企業は、国内上場を諦め、海外上場を目指してきた。

中国企業が海外で上場する時に、国内登記の会社を香港やニューヨークなどで直接上場する(H株など)か、資産をケイマン諸島などのタックスヘイブンで設立される持株会社に移し、それを主体に(いわゆるレッドチップとして)間接上場するという二つのタイプに大別される(図2)。直接上場は国有企業が中心だが、間接上場には多くの民営企業も含まれている。直接上場する場合、2012年までは、当局が決める「四五六」(純資産4億元以上、過去1年の税引き利益が6,000万元以上、資金調達額が5,000万ドル以上)という基準を満たさなければならなかったが、これらの基準は間接上場によって回避することができた。

図2 中国企業の海外上場の類型
図2 中国企業の海外上場の類型
(出所)筆者作成

間接上場は、さらに、海外の上場主体と国内の運営主体との関係が、株式所有による支配か、それとも契約による支配かに分けることができる。一部の分野において、外資の参入が制限または禁止されているため、外資と見なされる海外での持株会社による株式の所有を通じた国内の運営会社への支配が認められず、これを回避するために、「外国投資家が、海外での持株会社などを通じて、外資参入規制の対象となる事業を行う国内の運営会社に対して資金を提供しながら、あえて禁じられている株の保有によらず、契約でそれを支配する」という「VIEスキーム」が考案された。その場合、中国当局の監督が届かない海外の持株会社は、資金調達のためのプラットフォームの役割を果たし、最終的に海外上場の主体となる。

VIEスキームは、特に、インターネット企業の間では広く使われている。

インターネット企業は、創業初期に、継続的で大量の投資が必要であるが、中国の資本市場は、このようなニーズに十分応えていない。国有銀行などは主に実績のある国有企業を対象に融資を行っているが、リスクと収益性の評価の難しいインターネット企業への融資には消極的である。民間資本も、産業の長期的発展という視野に欠けており、インターネット産業の成長という絶好の投資機会を見逃した。結局、中国におけるインターネット企業は、創業初期段階から、資金面において、外資の支援に依存せざるを得なかった。その一方で、中国市場の巨大な潜在力が発揮されることを見込んで、外国投資家は中国のインターネット企業に積極的に投資してきた。

しかし、国家安全及び国内産業の保護のために、海外のインターネット企業が中国市場へ参入する際のハードルは非常に高く、外資による同分野への出資も制限されてきた。具体的に、「外商投資産業指導目録(2015年改定版)」によると、インターネット関連の分野に関しては、「電信会社:付加価値電信業務(外資出資比率は50%を超えず、電子商取引を除く)、基礎電信業務(外資出資比率は49%を超えない)」は「制限類」、「ニュースサイト、インターネット出版サービス、インターネット視聴番組サービス、インターネット利用サービス営業拠点、インターネットコンテンツの運営(音楽を除く)」は「禁止類」に分類されている。なお、改定前の2011年版では、「電子商取引」も他の「付加価値電信業務」と同様に、外資参入規制(外資出資比率は50%を超えない)の対象だった。インターネットに限らず、教育・出版などの分野においても、外資参入規制を回避する手段として、VIEスキームが使われている。

VIEスキームの実態

VIEスキームは、変動持分事業体または契約支配型ストラクチャーとも呼ばれており、通常、次の階層構造を持つ(図3)。

図3 典型的VIEスキームの構造
図3 典型的VIEスキームの構造
(注1)実線は出資関係、点線は契約関係。
(注2)創業者やマネージメントチームがVIE株主を兼ねる場合は多い。
(出所)筆者作成
  1. 企業の創業者もしくはそのマネージメントチームが、VC/PEファンドなどの機関投資家とともに資金調達と上場の主体として設立するA社(ケイマン諸島などで登記)。上場を通じて一般投資家からの出資も受け入れる。
  2. 節税などのために、A社が100%出資し、香港など海外で設立するシェル・カンパニーB社
  3. B社が中国国内で外資独資会社(WFOE)として設立するC社
  4. 中国国内で事業を行い、国内投資家のみが出資する内資運営会社D社(VIE)

なお、各層における社数は1社とは限らず、複数の会社が併存する場合が多い。また、各層の間にさらにシェル・カンパニーが介在することもある。

VIEスキームにおいて、海外上場の主体となるA社は、内資運営会社D社との間には資本関係がないが、C社(WFOE)とD社(VIE)/D社の株主(VIE株主)との一連の契約を通じて、D社の経営活動を支配し、その利益を吸い上げることができる。

一般的に、WFOEとVIE/VIE株主の間に交わされる主な契約関係は次の通りである。

  • WFOEとVIE株主の間
    1. 融資契約(Loan Agreement)
      WFOEからVIE株主への無利息融資により、VIE株主はそれを資本金としてVIEへ出資する。
    2. コールオプション契約(Exclusive Call Option Agreement)
      WFOEはVIE株主からVIE株式を買い取る権利を有する。
    3. 委任契約(Proxy Agreement)
      VIE株主はWFOEが指名する者に対してVIEに係る権利行使を委任する。
    4. 株式担保契約(Equity Pledge Agreement)
      VIE株主はWFOEからの借入に係る担保としてVIE株式を提供する。
  • WFOEとVIEの間
    1. 包括技術支援契約(Exclusive Technical Services Agreement)
      WFOEによる技術支援の対価として、VIEは税前利益のほぼ全額をWFOEに支払う。

2000年にナスダック(NASDAQ)で上場した新浪(Sina)は、VIEスキームを採用した先駆けだが、2014年9月にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場したアリババをはじめ、バイドゥ、テンセント、Sohuなど海外で上場している中国のインターネット企業のほとんどは、VIEスキームを採用しており、これを通じて、海外から資金を調達し、また、海外上場を果たしている(アリババのVIEスキームについてはBOX参照)。

VIEスキームに伴うリスク

VIEスキームは、資金調達を容易にし、中国で数多くのハイテク企業を育ててきたが、同時にさまざまなリスクも抱えている。

米中経済安全保証調査委員会が議会に提出した「米国株式取引市場における中国インターネット企業のリスク」という報告書で指摘されているように、VIEスキームを通じて米国の取引所でIPOを行うことは、米国国内では合法ではあるが、法律がまだ整備されていない中国で違法と見なされる恐れがある(Rosier, Kevin, "The Risks of China's Internet Companies on U.S. Stock Exchanges," US-China Economic and Security Review Commission Staff Report、June 18, 2014, addendum added: September 12, 2014)。中国政府はこれまでVIEスキームに関する具体的な法律などは発表していないため、VIEスキームはずっと「合法と違法の間」というグレーゾーンにある。米国の監督当局は、「VIEの目的とその複雑さから、米国の投資家に大きなリスクをもたらす恐れがある」ことを懸念しており、VIEスキームという形で上場を申請する企業に対して、目論見書でそれに関するリスクについて説明することを義務付けている。

例えば、アリババの上場目論見書には、VIEスキームを巡るリスクについて、「もし中国政府が弊社のVIE関連契約は中国政府による外資規制に矛盾すると判断する場合、もしくは該当法律やそれに関する解釈が変更になる場合、弊社は処罰やVIE利益放棄に直面する可能性がある」、「弊社のストラクチャーは現在の慣習に適合しており、中国の同業者にも多く利用されているとはいえ、中国政府はそれが中国の関連規定や登録などの監督管理基準を満たしていない、もしくは今後の政策や規定に反すると判断する可能性がある」、「しかも、中国における今後のVIEスキームに関する法律の作成、詳細内容、日程などについて、現段階では不明である。もし弊社、弊社の如何なるVIEが現行もしくは今後の法規制に反することになり、必要とする許可を維持、取得できない場合、中国の関連監督管理部門はどのような処罰を与えるかについて大きな自由裁量権限を持つ。例えば、中国の子会社もしくはVIEの実質運営会社の営業免許や経営許可証が取り上げられ、関連業務の中止や制限がかけられ、ウェブサイトが遮断され、業務再編成を強いられる可能性がある」と明記されている(注2)。

また、アリババの上場目論見書でも指摘されているように、投資家にとって、VIEスキームは直接出資ほど経営への支配力が強くない。VIEスキームでは、海外上場会社とその株主は、中国国内の運営会社に直接出資せず、外資独資会社を通じて、内資運営会社(VIE)及びその株主(VIE株主)との間で合意した契約書に基づき、内資運営会社を支配しようとするが、内資運営会社もしくはその株主が違約する場合、大きな打撃を受けてしまう恐れがある。

VIEスキームに伴う違約リスクは2011年に起きたアリペイ事件で露呈された。アリババが子会社を通じてVIE契約で傘下に収めていたアリペイ(支付宝)が、アリババ・グループ取締役会の決議のないまま馬雲(ジャック・マー)会長の支配下にある別の会社に安い価格で売却された。馬会長は、これが第三者決済許可証を当局から得るために行った止むを得ない措置だと説明したが、アリババ・グループの大株主であるヤフーとソフトバンク(当時、現ソフトバンクグループ)が異議を唱えた。協議の結果、アリペイが上場するまで利潤の一部をアリババに支払い続けることと、また上場する際の利益の一部をアリババに還元することで和解が成立したが、投資家の間では、VIEスキームへの懸念は残ったままである。

国内市場への回帰に向けて

VIEスキームに伴うリスクが表面化するにつれて、中国当局もそれに対する規制を強化しようとしている。国内市場と比べて海外市場で上場している中国企業の株価の低迷、外資参入規制の緩和、中国系のベンチャーキャピタルの台頭、そして国内の資本市場改革の進展も加わり、インターネット分野を中心に、海外での上場を廃止し、中国の国内市場への上場を目指す中国企業が増えている。

海外で上場しているインターネット企業にとって、国内への回帰を考えるきっかけの一つは、当局によるVIEスキームへの監督管理の強化というリスクが高まっていることである。2015年1月19日に、中国商務部が「中華人民共和国外国投資法(草案の意見募集稿)」を発表した。そのうち、第149条の「法律回避の法的責任」には、「外国投資家及び外国投資企業が名義借り、信託、マルチレベル再投資、リース、請負、融資アレンジ、VIEスキーム、国外取引その他何らかの方式をもって本法の規定を回避し、実施禁止目録に明記された分野において投資し、実施制限目録に明記された分野において無許可で投資し、または本法所定の情報報告義務に違反した場合」処罰を与えるとしている。また草案の意見募集稿に関する公式の説明には、「意見募集稿はVIEスキームを外国投資の一種であると見なし、本法案が発効後、VIEスキームで投資を行う場合、当法案が適用される」と明記されている。同法律は、まだ草案の意見募集段階にあり、最終的にVIEスキームに対する認定や扱いが変更される可能性があるが、VIEスキームに対する規制が強化されることは間違いないだろう。

また、株価の評価の面において、海外市場と比べて、国内市場がますます有利になっている。実際、一般的に、中国の新興企業は、海外市場よりも、国内市場におけるPER(株価収益率)が遥かに高い。また、近年、深圳総合指数と(米国上場の中国株で構成される)ブルームバーグ米国上場中国株価指数の推移を比較しても分かるように、中国の新興企業の株価は、海外市場において低迷しているのに対して、国内市場においては、大きく振れながらも、大幅に上昇している(図4)。

図4 海外を上回る国内市場での株価の上昇
図4 海外を上回る国内市場での株価の上昇
(注)月中平均
(出所)Bloombergより作成

そして、外資参入規制は緩和されつつある。特に、2015年6月19日に、「オンラインデータ処理及び取引業務(経営類電子商取引)に関する外資持株規制緩和の通知」が中国工業情報化部によって発表された。それにより、電子商取引の分野において、外資による100%出資、ひいては外資企業もVIEスキームを通じることなく、直接国内で上場することが可能になった。今後、外資参入規制の緩和がさらに進み、外資に対して開放する分野がさらに広がれば、規制回避のために生まれたVIEスキームの存在意義はなくなるだろう。

さらに、長い間、中国では、エンジェル、VC、PEなど、新興企業を支援するベンチャーファイナンスの中心が外貨投資(外国資本)だったが、近年、人民元投資(国内資本)に変わってきている(図5)。実際、その規模は2010年以降逆転している。国内投資家は、中国企業が海外上場を廃止し、国内市場に回帰する際に、外国投資家に代わる株主として積極的に出資するだろう。

図5 中国におけるベンチャーファイナンス市場の規模
-人民元投資Vs.外貨投資-
図5 中国におけるベンチャーファイナンス市場の規模
(注)エンジェル、VC、PEを含む
(出所)清科研究センター「2016年上半期中国におけるベンチャーファイナンス市場の回顧」、2016年7月より作成

最後に、国内の資本市場改革が加速している。特に、国務院が2015年6月16日に発表した「大衆による創業、万人による革新の若干の政策措置のさらなる推進に関する意見」において、黒字転換前のインターネット企業とハイテク企業の創業板への上場制度と(VIEなど)「特殊なエクイティ構造」を持つベンチャー企業による国内での上場における制度的障害の解決を研究すると明記されている。それに加え、創業期の小型企業を対象とする一種の店頭市場である「全国中小企業株式譲渡システム」(いわゆる「新三板」)の一層の発展や、上場の認可制から登録制への移行、上場の要件の緩和も、海外で上場している中国企業の国内への回帰を促すであろう。

BOX アリババのVIEスキーム

図3で描かれているVIEスキームの構造に沿って言えば、アリババの場合、ケイマン諸島で登記したAlibaba Group Holdingが上場の主体(A社)に、Taobao Holding (ケイマン諸島)、Taobao China Holding(香港)、Alibaba.com(ケイマン諸島)、Alibaba.com Investment Holding(BVI)が節税などのために設立するシェル・カンパニー(B社)に、Taobao(中国)ソフトウェア、浙江Tmallテクノロジー、杭州Alimamaテクノロジー、Alibaba(中国)テクノロジー、Aliソフトは中国国内での外資独資会社(WFOE、C社)に、浙江Taobaoネットワーク、浙江Tmallネットワーク、杭州Alibabaテクノロジー、杭州Aliアドバタイジング、Alibabaクラウドコンピューティングが事業を行う内資運営会社(D社)に当たる(図)。上場の主体であるAlibaba Group Holding(A社)は、これらの内資運営会社(D社)には法律上、出資していないことになっているが、VIE関連の諸契約を通じて、全額出資の株主とほぼ同じ権利を享受できるのである。

図 VIEスキームから見たアリババ・グループの構造
図 VIEスキームから見たアリババ・グループの構造
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(注1)実線は出資関係。
(注2)点線の契約関係は包括技術支援契約のほか、WFOEと馬雲会長、謝世煌副社長との間に融資契約、コールオプション契約、委任契約、株式担保契約などが存在する。
(注3)Alibaba Group Holdingはほかにも中国国内外に多くの子会社を持っているが、単純化のために、ここでは省略されている。
(出所)アリババの上場目論見書(2014年8月12日)より作成

1999年に創業したアリババは2014年9月に世界史上最大のIPOとしてニューヨーク証券取引所に上場し、250億ドルを調達した。それまでは、日本のソフトバンク(当時、現ソフトバンクグループ)、米国のヤフーをはじめ、外国投資家から多くの資金を調達していた。上場前のAlibaba Group Holdingの株主構成は、ソフトバンクが34.3%、ヤフーが22.5%であり、創業者で会長でもある馬雲(ジャック・マー)の8.9%と蔡崇信副会長の3.6%を大きく上回っていた(アリババ・グループの上場目論見書、2014年8月12日)。このような外国投資家を中心とする株主構成は、中国籍の馬雲会長と謝世煌副社長が合わせて100%所有する内資運営会社の株主構成とは対照的である。

アリババの上場目論見書に「アリババは中国に上場するための法律や法規などの条件を満たしていないが、将来中国で上場することも可能である」と書かれているが、最大のネックになっているのは、まさに外国投資家がVIEスキームを通じて外資の出資が禁じられている分野における内資運営会社を支配していることである。

脚注
  1. ^ メインボードの場合、直近3年の純利益が黒字かつ累計で3,000万元以上、直近3年のキャッシュフローの累計が5,000万元を超えていること、あるいは直近3年の営業収入が累計で3億元を超えていること。創業板の場合、純利益が直近2年連続黒字で直近2年間の純利益が累計1,000万元を下回らず、または直近1年間の純利益が500万元を下回らず、直近1年間の営業収入が5,000万元を下回らず、かつ直近2年間の営業収入の増加率が30%を下回らないこと。
  2. ^アリババの法律顧問を務めるFangda(方達)弁護士事務所はアリババのVIEスキームについて以下の意見を述べている(アリババの上場目論見書、2014年8月12日)。
    1. VIEの所有権ストラクチャーは中国の法律に違反していない。
    2. 外資独資会社、VIE、VIE株主の間で交わされた各種の契約は中国の法律に反してない。それぞれの項目及び中国関連法律は有効であり、拘束力と執行力を有する。
    3. 中国関連法律に対する理解と解釈、また中国の将来の関連立法が不確定であり、中国の政府部門とFangdaがVIEの有効性と合法性について同じ見解を持つ保証はない。
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2016年9月14日掲載