中国経済新論:中国の経済改革

税制改革の目玉となる営業税の増値税への統合

関志雄 経済産業研究所

中国では、これまで原則として物品には増値税、サービスには営業税が適用されているが、政府は営業税を撤廃し、これを増値税に統合することを目指す「増値税改革」を進めている。このプロセスは2012年以降、一部の地域と一部の業種を対象とする試行を経て、2016年5月から全面試行の段階に入る予定である(注1)。増値税改革は、今年の税制改革の最重要課題と位置付けられており、二重課税の排除と企業の税負担の軽減を通じて、経済活力を高めると期待される。

従来の増値税と営業税の仕組み

増値税と営業税は、中国における最も重要な流通税である。増値税は、一種の付加価値税で、物品の販売、加工・修理などのサービスの提供、貨物の輸入を対象とし、基本税率は17%で、糧食、食用植物油、水道、飼料、化学肥料、農薬、農機道具など一部の商品の税率は13%である。日本の消費税と同じように、納付額は、売上税額から仕入税額を控除した差額となる。一方、営業税は、サービスの提供、無形資産の譲渡、不動産の販売を対象とし、基本税率は3%または5%で、娯楽産業の税率は5%、10%、20%のいずれかである。増値税の税率は営業税の税率より高いが、仕入税額控除ができるため、税負担は仕入税額が多ければ減少する。

現行の分税制の区分では、増値税は中央政府と地方政府がシェアする共有税(中央は75%、地方は25%)であるのに対して、営業税は、一部を除けば、100%地方政府の収入となる。増値税が中央政府にとっての最大の税目であるのに対して、営業税は地方政府にとって最も重要な税目となっている。2015年の増値税収入は3兆1,109億元、営業税収入は1兆9,313億元と、合わせて全国税収の約4割に上る(財政部「2015年財政収支状況」、2016年1月29日)。

従増値税改革に伴う経済活力の向上効果

1994年から始まった現行の税制では、増値税と営業税の併存に象徴されるように、業種によって徴税基準が異なる。これは、導入当初の経済体制と徴収管理能力に見合っており、経済発展と財政収入の増加に重要な役割を果たしたが、市場経済化と経済発展が進むにつれて、このような税制の欠陥は徐々に表れるようになった(賈康「営業税から増値税への転換がなぜ必要か」『上海国資』、2012年第1期)。

仕入税額の控除を認める増値税と認めない営業税が併存する従来の税制では、企業の税負担が業種によって異なり、これによって、税の中立性と公平な競争環境が歪められてしまう。特に、第三次産業の大半が増値税の適用範囲外にあることは、サービス業の発展に不利である。現在、第三次産業には、売上の全額が課税の対象となる営業税が適用されるため、控除はなく二重課税されることになってしまう。例えば、他企業からサービスを購入する場合、購入価格に含まれている営業税が控除できず、企業は税金を節約するために、あえて自社内でサービスを調達するケースもある。しかし、サービス生産の内部化は、市場を通じた分業とアウトソーシングの発展に不利である。また、輸出の場合、国際的にゼロ税率が一般的であるが、中国ではサービス業は営業税の課税対象となり、輸出時に控除がないため、コストが割高になってしまう。サービス業に対しても中国の増値税に当たる付加価値税を適用する他国と比べると、国際競争力が弱いことは明らかである。

営業税と増値税の併存は管理上にも問題が生じている。現在、経営の多様化や新しいビジネスモデルが次々に現れ、例えば、商品とサービスを抱き合わせで販売するケースでは、商品とサービスが占める割合を算出することが困難である。また情報技術の発展によって従来の商品はサービス化され、商品とサービスの区分が曖昧になり、徴収すべきなのは増値税なのか、営業税なのかが分からなくなっている。

これらの問題を解決するために、増値税改革が求められる。海外においては、商品もサービスも付加価値税を徴収する国がほとんどである。増値税改革は国際ルールに合わせた措置であり、二重課税を排除し、税負担を軽減させることを通じて、企業の発展、サービス水準の向上、内需拡大、産業の高度化、生産パターンの転換など、経済活力の向上に寄与すると期待される。

部分試行から全面試行へ

増値税改革の試行は、2012年に上海市において交通運輸業(鉄道輸送を除く)と一部の現代的サービス業を対象に開始され、その後、徐々に全国と他の業種(放送・映画サービス、鉄道輸送サービスと郵政サービス、通信業)へと拡大されてきた。その締め括りとして、2016 年3月の第12期全国人民代表大会において行われた「政府活動報告」において、李克強首相は、2016 年5 月1 日から増値税改革の試行を全面的に実施し、その対象業種を残りの建築業、不動産業、金融業および生活サービス業まで拡大するとともに、新たな不動産の取得に係る増値税も仕入税額控除の対象とする方針を発表した。

それを受けて、増値税改革の試行の全面的な実施に関する方案は、2016 年3 月18 日の国務院常務会議において可決された。また、財政部と国家税務総局は2016 年3 月23 日に、「営業税に代えて増値税を徴収する試行の全面的な実施に関する通知」を公布した。その中には、すべての業種において増値税改革によって企業の税負担が増えないように、建築業と不動産業が11%、金融業と生活サービス業が6%など、業種によって異なる税率が定められている。

課題となる地方政府の財源確保

今回の増値税改革の試行の対象範囲がこれまでと比べてはるかに広く、その実施により、2016年の企業の税負担はさらに5,000 億元余り軽減されると見込まれている(前出の国務院常務会議)。その分、政府の税収も減ってしまうことになる。

特に、地方政府は、増値税収入が増えるものの、最大の税収源である営業税が撤廃されることになるため、重い負担を強いられることになる。それを軽減する方策として、増値税収入の中央と地方間の配分比率を従来の75%:25%から50%:50%に改めるという案が検討されていると伝えられている(「増値税は中央と地方で折半するか」『経済参考報』、2016年4月6日)。しかし、これだけでは地方政府の税収の減少を補うにはまだ不十分であり、中央から地方への財政移転を増やしながら、すべての税目を対象に両者の間の税収の配分比率を抜本的に見直すなどを通じて、地方政府への支援を強化しなければならない。

脚注
  1. ^ 増値税改革は試行が全面的に実施されてからも、公式的にはまだ「試行」の状態にある。これは、増値税の法案が制定され、営業税が撤廃されるまで、改革がまだ完成しないからであると楼継偉・財政部長が説明している(国務院発展研究センター主催「中国発展高層論壇2016年会」でのスピーチ、2016年3月20日)。
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2016年4月28日掲載