中国経済新論:中国の経済改革

本格化する地方政府性債務問題への政策対応
― 目玉となる地方債発行の解禁 ―

関志雄
経済産業研究所

中国では、工業化と都市化の進行を背景に、地方政府によるインフラ建設関連の資金需要が急増してきたが、地方政府には規範化された資金調達チャネルが乏しいため、財源不足が深刻である。一部の地方政府は融資プラットフォーム会社を設立し、それを通じて資金調達を行ってきた。これは地方経済社会の発展に積極的な役割を果たした一面があるが、地方政府性債務(政府部門・機構に加え、融資プラットフォーム会社などの関連事業単位()の債務を含む)の規模が拡大するにつれて、債務の一部が不履行になるのではないかという懸念が高まっている。これに対して、指導部は、地方政府による地方債の自主発行を認め、融資プラットフォーム会社を整理するなど、規範化された地方政府の資金調達メカニズムの構築に乗り出している。

急増する地方政府性債務

近年、中国では、地方政府を中心に、政府性債務が増えている。審計署(日本の会計検査院に相当)が行った検査の結果によると、2013年6月末における全国の政府性債務は30.27兆元に達している(「全国政府性債務審計結果」、2013年12月30日)。その中で、地方政府の分は17.89兆元に上り、中央政府の12.38兆元を上回っている。前回の検査によると、地方政府性債務は2009年の61.9%に続き、2010年にも18.9%伸びた結果、2010年末にはすでに10.72兆元に達した(審計署「全国地方政府性債務審計結果」2011年6月27日)。今回の検査により、地方政府性債務の増勢がその後も衰えていないことが確認された。

2013年6月末の地方政府性債務の内、政府が直接返済責任を負う債務は10.89兆元(債務残高の60.8%)、残りの偶発債務に当たる政府の保証債務(政府が保証責任を負うもの)とその他の関連債務(政府が一定の支援責任を負う可能性のあるもの)はそれぞれ2.67兆元(同14.9%)と4.34兆元(同24.3%)に上っている(表1)。

表1 地方政府性債務の構成
政府が直接返済責任を負う債務
(億元)
偶発債務合計
(億元)
シェア
(%)
政府の保証債務
(億元)
その他の関連債務
(億元)
総額108,85926,65643,394178,909100.0
借入主体別地方政府融資プラットフォーム40,7568,83320,11669,70439.0
地方政府部門・機構30,9139,684040,59822.7
経費補助事業単位17,7621,0325,15723,95113.4
国有企業(独資・株式)11,5635,75414,03931,35617.5
自収自支事業単位3,4633782,1856,0253.4
公用事業単位1,2401441,8963,2811.8
その他の単位3,16383103,9942.2
政府レベル別17,78115,62818,53151,94029.0
48,4357,42417,04472,90240.7
39,5743,4887,35850,41928.2
郷鎮3,0701164613,6472.0
資金調達ルート別銀行貸出55,25219,08526,850101,18756.6
BT(build-transfer)12,1464652,15214,7648.3
債券発行11,6591,6745,12518,45710.3
内:地方政府債券6,14649006,6363.7
企業債券4,5908093,4298,8274.9
中期手形5753451,0201,9401.1
短期融資券12492233550.2
未払金7,782917028,5754.8
信託融資7,6202,5274,10514,2528.0
ローン(法人・個人)6,6795531,1598,3924.7
その他7,7202,2613,30113,2827.4
調達資金の使途別都市部のインフラ建設37,9355,26514,83058,03132.4
土地収用・備蓄16,8931,07882118,79210.5
交通運輸インフラ13,94313,18913,79540,92722.9
福祉住宅6,8521,4202,67610,9486.1
教育・科学・文化・衛生4,8797534,0949,7265.4
農林水利建設4,0865807685,4343.0
生態・環境保護3,2194358864,5402.5
工業・エネルギー1,2278052602,2931.3
その他12,1562,1102,55216,8189.4
未使用7,6701,0202,70911,4006.4
償還期限別2013年7月~12月24,9492,4735,52332,94418.4
2014年23,8264,3737,48235,68119.9
2015年18,5783,1985,99527,77115.5
2016年12,6092,6064,20719,42110.9
2017年8,4782,2993,51914,2958.0
2018年~20,42011,70716,66948,79627.3
(出所)審計署「全国政府性債務審計結果」、2013 年12 月30 日より作成

借入主体別でみると、融資プラットフォーム会社は6.97兆元(債務残高の39.0%)と、地方政府部門・機構の4.06兆元(同22.7%)を上回っている。

政府レベル別でみると、省レベルが5.19兆元(債務残高の29.0%)、市レベルが7.29兆元(同40.7%)、県レベルが5.04兆元(同28.2%)、郷・鎮レベルが0.37兆元(同2.0%)となっている。

資金調達ルート別でみると、銀行からの借入は10.11兆元と、依然として債務残高の半分を超える56.6%を占めている(前回の検査では、2010年末に8.47兆元、債務残高の79.0%)。その一方で、BT(build-transfer)、債券の発行や信託融資など、シャドーバンキングと呼ばれる銀行からの借入以外のルートの重要性は近年急速に高まっている。

資金の使途別でみると、都市部のインフラ建設は5.80兆元(債務残高の32.4%)、交通運輸は4.09兆元(同22.9%)、土地の収用・備蓄は1.88兆元(同10.5%)と、合わせて全体の約3分の2を占めている。

償還期限別でみると、2008年9月のリーマン・ショック後の大量の借入が満期を迎えることを反映して、2013年7月から12月の間が債務残高の18.4%、2014年が19.9%、2015年が15.5%と、合わせて全体の半分を超えている。

地方政府性債務が急増してきた背景には、次の要因がある。

まず、地方政府の収入と支出が非対称となっている。工業化と都市化が進む中、地方政府のインフラ建設関連の資金調達需要が急増してきた。しかし、1994年の分税制改革を経て、財源がむしろ中央政府に傾斜するようになった。中央政府から地方政府へ財源の一部を再分配する財政移転制度が実施されているが、規模が比較的に小さく、地方政府は常に財源不足の圧力に晒される結果となった。

また、拡大する公共財と公共サービスの需要と比べて供給が不足している。出稼ぎ農民とその家族の定住を目指す新型都市化を進めるに当たり、政府はそれ相応の公共財と公共サービスを提供しなければならない。しかし、地方政府の財源は限られており、これらの需要を満たすためには、借金をせざるを得ない。経済成長を至上命題とする一部の地方政府は実際の需要とかけ離れた公共投資を行った結果、負債がますます深刻化している。

さらに、政府の資金調達と債務管理の制度が未整備である。1995年に実施された「中華人民共和国予算法」と「中華人民共和国担保法」には、地方政府が起債権を持っていないことが明記されているが、一部の地方政府はこの規制を回避するために、融資プラットフォーム会社を設立して、資金調達を行うようになった。また、融資プラットフォーム会社に対し、法律に反して債務保証を与えている。その結果、融資プラットフォーム会社が債務を返済できなくなると、地方政府は代わりに返済義務を負うことになり、債務の負担が重くなった。

長い間、地方政府による主に融資プラットフォーム会社を通じた資金調達は、経済社会の発展に積極的な役割を果たした。しかし、地方政府性債務の増加に伴い、多くの問題が露呈してきた。まず、地方政府の資金調達は、透明性を欠いており、一部の地方では法律に違反する行為も見られている。また、借り入れた資金の多くは政府予算の管理下に置かれておらず、これに対する人民代表大会や社会による監督も不十分である。それ故に、地方政府が借りることばかりを考えてしまい、返済のことを疎かにしてしまうケースも見られる。さらに、一部の地方政府は主に融資プラットフォーム会社を通じて資金を調達し、政府の高い信用が生かされないため、高いコストを支払わなければならない。最後に、一部の地方では負債の増加スピードが速く、それに伴うリスクは無視できない。これらの問題が総合的に解決されなければ、局地的なリスクは経済全体に及ぶシステミックリスクへ発展していく恐れがある。

これに対して、審計署は、政府債務の対GDP比、対歳入比、返済滞納率などが国際的に見てまだ比較的に低いことから、政府債務のリスクがコントロール可能であるとの認識を示している。しかしながら、①地方政府が返済責任を負う債務の増加率が比較的に高いこと、②一部の地域と業種において債務の対歳入比が比較的に高いこと、③返済資金が土地譲渡金収入に大きく依存していること、④一部の地方政府とその事業単位が法律に反して資金を調達・使用していることから、政府が対策を講じ、リスクの発生を未然に防ぐべきであると提案している。

地方政府融資プラットフォーム会社の現状と課題

地方政府の借入の多くは、融資プラットフォーム会社を通じて行われてきた。ここでいう融資プラットフォーム会社とは、地方政府及び関連部門と機構、管轄内の事業所などを通じて、財政資金もしくは土地、株式などの資産を注入して設立した、政府公益性プロジェクトの資金調達機能と独立企業法人資格を持つ経済主体である(図1)。具体的に各種の総合型投資会社、例えば、建設投資会社や、建設開発会社、投資開発会社、投資持ち株会社、投資発展会社、投資グループ会社、国有資産運営会社、国有資本経営管理センターなど、また特定業界の投資会社、例えば交通投資会社などである(財政部・発展改革委員会・人民銀行・銀行業監督管理委員会「『国務院の地方政府融資プラットフォーム会社の管理強化に関する問題についての通知』の関連事項を貫くことに関する通知」、2010年7月30日)。

図1 地方政府融資プラットフォーム会社を中心とする地方政府の資金調達の仕組み図1 地方政府融資プラットフォーム会社を中心とする地方政府の資金調達の仕組み
(注)地方政府融資プラットフォーム会社は運営会社と一体化する場合がある。
(出所)各種資料より作成

融資プラットフォーム会社には、投資の対象となるインフラの建設と運営を自らが行うものと関連会社に委ねるものがあるが、前者の場合は直接的に、後者の場合は間接的に、営業収入、公共施設の使用料、そして財政資金を得て、それを債務返済の財源に充てる。

融資プラットフォーム会社が調達した資金の主な用途はインフラ建設など、公益性プロジェクトへの投資と運営である。これらのプロジェクトは、資金需要の規模が大きく、投資回収期間が長く、公益性が高く、採算性が悪いという特徴を持っている。具体的に、以下の四つのタイプに分類できる。

①都市道路建設、環境整備と水利建設
②水道、ガス、熱供給、公共交通
③電力、電力ネットワーク、高速道路、鉄道、港、空港
④各種の開発区、工業パーク、産業パーク

各タイプは、①から④の順で採算性が高くなる一方で、公益性が逆に低くなる。

融資プラットフォーム会社は主に次の四つの方法で資金を調達している。

①銀行融資。これは融資プラットフォーム会社の主な資金調達チャネルである。
②都市投資債券(中国語は「城投債」)などの企業債券の発行。この融資チャネルは通常、当局による審査が厳しく、手続きも規範化されている。
③信託融資。現在、中央による銀行融資及び都市投資債券に対する規制が厳しくなる中、多くの融資プラットフォーム会社は資金調達の手段を信託融資へ切り替えている。
④株式の発行。これは主に上場している融資プラットフォーム会社が使う資金調達の方法である。

融資プラットフォーム会社が資金を調達する際、多くの場合、次のように、政府による直接的または間接的な保証がついている。

①融資プラットフォーム会社の資金調達に保証証明書を発行する。
②融資プラットフォーム会社が返済困難の際、流動性支援を与え、一時返済資金の提供を約束する。
③融資プラットフォーム会社が返済不能の際、一部の返済責任を果たすことを約束する。
④融資プラットフォーム会社の返済資金を政府の予算の中に組み入れることを約束する。

融資プラットフォーム会社の第一号は1992年に設立された上海市城市建設投資開発総公司に遡るが、設立のブームを迎えたのは、2008年9月のリーマン・ショック以降のことである。世界的金融危機の影響を克服するために、中国政府はインフラ投資を中心に4兆元の景気刺激策を実施した。そのうち、中央政府は1.18兆元を負担したが、残りの部分は地方政府が独自の財源を以て賄わなければならなかった。この資金不足を補うために、当局は、「条件を満たした地方政府が融資プラットフォーム会社を設立し、企業債や中期手形といった調達手段を通じて、中央政府の投資プロジェクトをサポートする融資ルートを開拓することを支持する」という方針を発表した(人民銀行・銀行業監督管理委員会「貸付の更なる構造調整を進め、国民経済の安定的発展を促すことに関する指導意見」、2009年3月18日)。金融緩和の実施も加わり、全国の融資プラットフォーム会社の債務は急増し、財政リスクも高まっているのである。

これを背景に、融資プラットフォーム会社の経営に関わる問題も注目されるようになった。

まず、融資プラットフォーム会社の位置づけが不明確である。各種の融資プラットフォーム会社は基本的に、「会社法」の適用対象に当たる企業であるが、実質的には、政府・関連部門の付属機構であり、その幹部たちも関連部門から派遣された行政上の肩書を持つ公務員である。中には、母体と「同じ人員構成」であるにもかかわらず、「別々の看板」を掲げるケースもある。融資プラットフォーム会社は一体企業なのか、政府部門なのか、はっきりしていない。

また、資金の使い道が不透明である。借入主体と資金の利用主体は一致しないことがほとんどであるため、金融機関と当局が融資プラットフォーム会社の資金の用途と利用を監督管理するのは非常に難しく、資金が本来の目的以外に流用されるリスクが大きい。

そして、モラルハザードの問題が深刻である。中央集権型の財政制度を採っている中国では、地方政府は中央政府の管轄下にある。地方官僚は、在任中に業績を上げるために、融資プラットフォーム会社などを通じてできるだけ多くの資金を調達し、GDPの拡大を目指す。一方、ソフトな予算制約の下で、債権者は、融資プラットフォーム会社が破綻する際に中央政府に救済されるだろうという期待の下で、融資プラットフォーム会社に大量の資金を注ぎ込んでしまっている。また、ほとんどの金融機関は国有であるため、地方政府の圧力を受けて、リスクが高く、収益率の低いプロジェクトを対象に融資が行われてしまうことがしばしば起こっている。

最後に、返済能力は土地価格の変動に大きく左右される。融資プラットフォーム会社が取り組んでいる多くのプロジェクトは、土地譲渡金が返済の原資となる場合だけでなく、土地そのものが担保となっている場合もある。土地価格が下落すると、収入が大幅に減少し、融資プラットフォーム会社が返済困難に陥ってしまうことになる。債権者にとって、担保である土地を売却しても、融資の一部しか回収できなくなる。

日増しに高まる融資プラットフォーム会社のリスクに対し、当局は次々と政策を打ち出し、各地の融資プラットフォーム会社を対象に整理を行い、監督管理を強化してきた。

まず、2010年6月に公布された「国務院の地方政府融資プラットフォーム会社の管理強化に関する問題についての通知」には、「公益性プロジェクトの資金調達のみを担当し、しかも主に政府財政資金を以て債務を返済する融資プラットフォーム会社は、今後、資金調達を担当してはならない」、また「地方各レベルの政府及び関連部門、機構、経費補助事業単位は、融資プラットフォーム会社の借入に対して、財政収入、行政事業単位が所有する国有資産、また他のあらゆる直接的、もしくは間接的形式による保証を提供してはならない」と盛り込まれた。これらのことは、融資プラットフォーム会社の運営能力を高め、地方政府の財政への依存度を低減させることを通じて、その市場化への環境を作るという当局の意図を示している。

次に、2012年12月に公布された「地方政府による違法な資金調達行為の禁止に関する通知」(財政部・発展改革委員会・人民銀行・銀行業監督管理委員会)では「地方各レベルの政府は備蓄された土地を資産として融資プラットフォーム会社へ注入してはならない。備蓄された土地の譲渡によって得られると見込まれる収入を融資プラットフォーム会社の返済資金にしてはならない」と明記されている。その狙いは、土地価格の変動による融資プラットフォーム会社の返済能力への影響を抑えることである。

そして、2013年には、発展改革委員会が、企業債、特に都市投資債券の発行審査と監督に関する一連の新たな規定を発表した。

本格化する地方政府性債務問題への対策

深刻化しつつある地方政府を中心とする政府性債務問題の基本的な解決を目指すべく、指導部は2013年11月の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)において、「中央と地方政府の規範化された、合理的な債務管理とリスク警戒のメカニズムをつくる」必要性を訴えた(「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」、2013年11月12日)。

これを受けて、2014年3月の全国人民代表大会(全人代)における「政府活動報告」も「規範に則った地方政府の借入による資金調達の仕組みを構築し、地方政府債務を予算管理の対象とし、政府総合財務報告制度を実施し、債務のリスクを防ぎ、解消する」ことを政策の優先課題として挙げている。また、同年6月30日、中央政治局会議で審議・通過した「財税体制改革を深める全体方案」では地方政府性債務の監督管理に関する基本方針が盛り込まれた。さらに、同年8月31日、全人代常務委員会で審議・通過した「予算法」修正案には、地方政府の規範化された借入を認める規定が追加された。そして、国務院が2014年9月21日に決定(10月2日に公布)した「地方政府性債務管理に関する意見」(以下では「意見」)では、地方政府が「これから如何に借りるか」、「債務を如何に管理するか」、「債務を如何に返済するか」、「既存債務を如何に処理するか」に関する方針が体系的に打ち出されている。

まず、地方政府が「これから如何に借りるか」については、「意見」では、改正された予算法に従い、地方政府が法に基づき適度に借り入れることを認めると明記している。これにより、地方政府による一定範囲内の債券の自主発行が可能になった。地方政府の資金調達を確実に規範するために、「意見」は「借入主体の明確化」、「借入方式の規範化」、「借入の規模と借入のプロセスの厳格化」について次の対策を提示している。

「借入主体の明確化」については、省、自治区、直轄市の政府は国務院の許可を受ければ一定の範囲内で借金できる。市、県の場合、資金調達は、管轄する省、自治区、直轄市政府が代行する。地方政府の資金調達は政府とその関連部門のみが認められ、企業や事業単位などを経由してはならない。

その一環として、政府の財源を調達するという機能を融資プラットフォーム会社から切り離さなければならない。その具体的な進め方は、プロジェクトの性質によって、次の3つに分けられる(財政部弁公室「財政部責任者が地方政府性債務管理に関する問題について記者の質問に答える」、2014年10月8日)。まず、商業不動産開発などに関する経営型プロジェクトについては、政府と切り離し、完全な市場化を図る。債務も一般企業債務に変更する。また、水道や、ガス、ごみ処理など、民間資本の参入しやすい公益性プロジェクトについては、積極的に官民パートナーシップを推進する(BOX)。プロジェクト会社は市場化原則に基づき、資金を調達し、また返済する。政府は、事前の約束に則って特許経営権の付与や、財政手当の付与、合理的価格設定などの責任を果たすが、返済責任を負わない。さらに、民間資本の参入が難しい公益性プロジェクトの場合、政府が債券を発行し資金調達を行う。

「借入方式の規範化」については、地方政府の借入は政府債券の発行という形をとる。収益性のない公益事業のための借入は一般債務とみなし、一般債券を発行する。これは、主に、一般公共予算の収入で償還する。一定の収益のある公益事業のための借入は専項債務とみなし、専項債券を発行し、関連する政府性基金もしくは専項収入で返済する。同時に、官民パートナーシップを積極的に普及させ、民間資本に対し、公益性プロジェクトへの参加を誘致し、合理的なリターンを与える。

「借入の規模と借入のプロセスの厳格化」については、地方政府は国務院の許可範囲内、地域限度額内で起債することができるが、個別の案件については、該当レベルの人民代表大会もしくはその常務委員会の承認が必要である。

次に、「債務を如何に管理するか」については、借入規模の制限、借入資金の使途の限定、予算管理の厳格化が焦点となる。まず、借入規模の制限については、各地方政府は、国務院が決め、全国人民代表大会もしくはその常務委員会が批准した一般債務と専項債務の限度額を守らなければならない。また、借入資金の使途は、公益性の高いプロジェクトへの投資と既存債務への返済に限られ、経常支出の財源として使ってはならない。さらに、予算管理の厳格化については、将来の財政収入によって返済される債務を予算管理の対象とする。

そして、「債務を如何に返済するか」については、一部の地方では債務の返済責任が不明確で、借入主体の返済意識が弱いなど、返済メカニズムが不健全であることに対して、地方政府の返済行為を律するメカニズムを構築する方針である。具体的に、まず、債務返済責任を明確化する。融資プラットフォーム会社などの借入主体が破綻しても政府が救済しないこと(予算制約のハード化)を通じて、モラルハザードの発生を防止する。政府債務と企業債務の基準を明確化し、借入主体が自ら返済責任とリスクを負わなければならないこととする。また、リスク警戒システムを構築する。債務状況に基づいてリスクの高い地域のリストを作り、対象となった地域は、債務の返済に注力し、リスクを抑えなければならない。さらに、地方政府は債務返済できない場合に備えて、応急対策計画を策定し、責任追及メカニズムを構築する。

最後に、「既存債務を如何に処理するか」については、債務を整理・選別したうえ、地方政府及び関連部門の債務と企業・事業単位の債務の内、政府が返済すべき部分は、予算管理の対象とする。企業・事業単位の債務の内、政府が返済すべきでない部分については、市場のルールに従って処理するというものである。また、建設中のプロジェクトの継続資金を確保すると同時に、リスクも確実に防がなければならない。

今回の「意見」に盛り込まれている多くの方針の中で、地方政府による債券の自主発行が認められるようになったことは、最大の目玉となっている。

中国では、長い間、地方政府による債券の発行は原則として禁じられていたが、リーマン・ショックを受けた2009年に、4兆元に上る内需刺激策の財源を賄うために、2,000億元に上る財政部による地方債の代理発行が承認・実施された。また、2011年に経済発展が比較的に進んでいる上海市、浙江省、広東省、深圳市に対し、自主発行の試行が認められるようになり、2013年には江蘇省と山東省、2014年には北京市、青島市、寧夏回族自治区、江西省も、試行対象地域に加えられた。自主発行を認めるという方針が明確になったことで、今後、各地域の地方債の発行枠、ひいては発行額が大幅に増えるものと予想される。

地方政府による債券の自主発行のメリットとして、次の三つが期待される。

まず、政府の信用をバックに、資金調達コストを抑えることができる。実際、試行を実施している各地域では、地方債の発行金利は、流通市場における国債の金利との乖離が極めて小さく、これまでの融資プラットフォーム会社による企業債の発行金利を大幅に下回っている。

また、地方政府の債務の明確化・透明化と、中央政府による地方政府の債務リスクに対するコントロールの強化に役立つ。「正門を開き、裏門を閉める」ことで、各地方人民代表大会による地方政府への財政面での監督も容易になる。

さらに、インフラ投資のコストを負担する世代とその便益を享受する世代の間の不公平性の是正に役に立つ。地方政府はインフラ建設の担い手である。インフラの大きな特徴の一つは寿命が長く、現世代の資金で建てたものが次世代も利用できることである。この世代間の不公平問題を克服するために、地方債の発行を通じて現世代から建設のための資金を調達し、次の世代も債務の返済を通じてその費用の一部を負担してもらうことは有効である。

残された課題

このように、今回の「意見」が発表されたことをきっかけに、中国は地方政府の債務リスクの解消に向けて、大きな一歩を踏み出した。しかし、確実に成果を上げていくためには、次のハードルを乗り越えなければならない。

まず、地方政府が借金をしなくて済むように、税収が中央政府に傾斜しているこれまでの税制を改め、中央政府から地方政府への財政移転を増やしながら、税目の区分を調整することを通じて、両者の間の税収の配分比率を抜本的に見直さなければならない。

第二に、融資プラットフォーム会社の再編に当たり、各政府部門間の利益が必ずしも一致せず、抵抗が予想される。改革が骨抜きにされないかが懸念される。

第三に、今後、地方政府が返済すべき債務は予算管理の対象となるが、その監督責任を任せられた地方の人民代表大会が、人材などの面も含め、十分な能力を持っているかは疑問である。

第四に、今後、発行される地方債は、市場原理の下で消化されることが望ましいが、その大半が政府の意思に従う国有銀行によって購入・保有されることになれば、地方政府が抱えるモラルハザードの問題は解消されないだろう。

「意見」で述べられている方針を貫くためには、対症療法にとどまらずに、より広い視点から、関連問題の解決をも視野に入れたさらなる制度改革を進めなければならない。

BOX:本格化する民間資本による公共事業への参入
― 突破口となる官民パートナーシップの活用 ―

2014年10月24日に開催された国務院常務会議では、次のような重点分野における民間資本による投資の拡大を目指すことが決定された。

①水力発電、原子力発電事業、地域の枠を越えた送電施設、地域の主要幹線送電網、分散型電源の送電網接続、電気自動車充電施設の建設に民間資本を一層導入する。
②基礎的電気通信企業による民間戦略投資家誘致を支持し、民間資本によるブロードバンド接続ネットワーク建設・運営への投資、衛星ナビゲーション地上応用システムなど国家による民用空間施設の建設、商業リモートセンシング衛星の開発、打ち上げ、運営への参入を導く。
③民間資本を誘致する鉄道事業の実施を急ぎ、民間資本の港湾、河川水運施設およびハブ空港、幹線・支線空港建設への参入、都市部熱・水供給、汚水・ごみ処理、公共交通への投資を奨励する。都市インフラ施設の運営管理を民間資本に委託する。
④農民協同組合、家族農場などのエコ投資事業を支持する。民間資本による農業、水利施設投資を奨励し、国有、集団企業の投資と同じ優遇政策を享受できるようにする。環境汚染対策を第三者に委託し、環境監視業務を民間に委託する。
⑤支援政策を実行し、民間資本を教育、医療、高齢者ケア、スポーツ・フィットネス、文化施設などに誘致する。

その中には、多くの公共事業が含まれており、その実施に当たり、官民パートナーシップ(Public-Private Partnership, PPP)の活用が奨励されている。ここでいう官民パートナーシップとは、政府と民間がノウハウや資金を出し合って公共サービスを提供する仕組みのことである。その代表的なものとして、BTO(Build-Transfer-Operate:民間事業者が施設を建設、政府に所有権を移転した後、事業期間終了まで運営する)、BOT(Build-Operate-Transfer:民間事業者が施設を建設、所有したまま運営し、事業期間終了後に政府に所有権を移転する)など、民間事業者が資金と運営の両面において深くかかわるPFI(Private Finance Initiative)と呼ばれる手法が挙げられる。

2015年1月9日掲載

脚注
  • ^ 中国における事業単位とは、教育・科学技術・文化・衛生管理などの公益事業を行う団体である。日本の独立行政法人や特殊法人に相当する。
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2015年1月9日掲載