中国経済新論:中国の経済改革

「新型都市化」を目指す中国
― 経済発展と調和の取れた社会の実現に寄与 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、改革開放が始まってから30年余りを経て、都市化が著しい成果を収めている一方で、出稼ぎ農民(農民工)と都市住民からなる二重構造が形成されるなど、多くの問題が蓄積され、露呈し始めている。これを背景に、インフラなど、ハード面の建設を強調する従来の進め方を改めて、制度など、ソフト面の建設を中心とする「新型都市化」へと転換する必要性が広く認識されるようになった。それを目指すための政府方針を盛り込んだ「国家新型都市化計画(2014-2020年)」(以下では「計画」)が、中共中央・国務院により今年の3月16日に発表された。ここでは「計画」の主な内容について紹介する。

これまでの都市化の成果と課題

中国における都市化は、改革開放以降加速してきた。1978から2013年にかけて、都市部の常住人口は1.7億人から7.3億人に増え、それに基づいて算出される都市化率は17.9%から53.7%に、毎年1ポイントほど高められた。現在、北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの三大都市群は、わずか2.8%の国土面積に全人口の18%が集中し、国内総生産(GDP)の36%を創出するに至っている。しかし、その一方で、急速に進んできた都市化に伴う多くの矛盾と問題が顕在化している。

まず、現行の戸籍制度に制約され、大量な農民工やその家族は都市部に移住してからも多くの差別を受けており、「市民化」の進展が立ち遅れている。その表れとして、2013年の戸籍人口で見た都市化率は36.0%と、常住人口で見た場合より遥かに低い。農民工とその家族は、都市部の戸籍を持っていないゆえに、教育、就業、医療、介護、保障型住宅などの面で、都市部住民と同じ公共サービスを享受できていない。その結果、従来の農村vs.都市に加え、農民工vs.都市住民という二重構造が現れている。これは、農村部に残される児童、婦人、老人の問題とともに、社会の安定を脅かしている。

第二に、「土地の都市化」は「人口の都市化」よりスピードが速く、土地の利用効率が悪い。一部の都市では、広い道路、大きな広場が過度に追求され、新市街、開発区、工業団地の面積が広すぎることを反映して、人口密度が低水準にとどまっている。また、一部の地方では、都市建設に必要な資金を土地の売却収入と土地を担保にした融資に頼りすぎたため、大量の耕地が失われた。このことは、国の食糧安全保障と生態系に脅威をもたらしたばかりでなく、地方政府の債務の増加など財政金融リスクを拡大した。

第三に、都市部の地理的分布と規模的分布が歪んでおり、資源と環境の負荷能力と合っていない。西部ではまだ開発の余地が残っているが、東部では資源・環境問題は限界に近づいている。また、都市群内部の分業と協力だけでなく、産業集積も不十分である。一部の超大型都市の中心部では人口圧力が強すぎる一方で、中小都市では、産業と人口は充分に集まらず、公共サービスを提供する能力が弱く、潜在力を十分に発揮できていない。

第四に、都市管理のレベルが低く、「都市病」がますます深刻になっている。一部の都市では、無秩序な開発により、人口が過度に集中している。また、経済発展ばかりが重視され、環境保護が軽視されている。さらに、都市建設が強調される一方で、管理サービスが追いついていない。交通渋滞が深刻で、公共安全を脅かす事件が頻発し、汚水とゴミの処理能力が不十分で、大気、水、土壌などの環境汚染が深刻化している。そして、公共サービスの提供能力が不十分で、「城中村」(都市の中にある農民工など低所得者が集まって住んでいるスラム街)や都市と農村の隣接地域など農民工が集まる地域の住居環境が悪い。

第五に、自然・歴史文化遺産への保護が不十分で、都市建設において地域の特色が活かされていない。景観と地域の自然地理の特徴が調和していなかったり、みだりに規模を求め、外国の真似をし、自らの条件を省みずに国際的大都市を目指そうとする都市がある。これにより、都市の自然と文化的個性が破壊されている。また、一部の農村では、「新農村建設」の名の下で、従来の住宅が大規模に取り壊され、都市部の高級アパートをモデルにした住宅が建設されている。その結果、地元の伝統的家屋と田園風景が壊され、郷土の特色と民俗文化が失われている。

最後に、体制の不備が都市化の健全な発展を妨げている。現行の都市と農村を区別した戸籍管理、土地管理、社会保障、財政・金融、行政管理といった制度は、すでに形成された都市部と農村部の利益不均衡をさらに固定化し、農村からの移住者の市民化を制約し、都市と農村の一体化した発展を妨げる。

新型都市化の方針と目標

これらの問題の解決を目指すべく、「計画」では、今後、「新型都市化」の推進を謳っており、その際の基本方針として次の五つを挙げている。

①人間本位、公平な利益分配
人間を都市化の中心とし、人口の移動を合理的に誘導し、秩序よく農村からの移住者の都市化を推し進める。都市基本公共サービスの常住人口全員への提供を推進し、人口の質を高め、人間の全面的発達と社会の公平正義を促進させ、住民全員に現代化の成果を共有してもらう。それに向けて、まず、都市規模に応じて異なる戸籍政策を実施する。具体的に、中小都市の戸籍取得の自由化を推進する一方で、人口500万人以上の都市については人口規模を厳格にコントロールする。また、2020年までに1億人の農村からの移住者を市民化させる。さらに、住民カード制度を実施し、居住年数などの条件に基づき、公共サービスの提供をすべての住民が享受できるようにする。

②都市化、農業現代化、情報化、工業化の歩調の取れた発展、都市と農村の一体化
情報化と工業化の高度な融合、工業化と都市化の好循環、都市化と農業の現代化の調和を推進する。都市の発展、産業基盤の強化、流入人口の雇用の拡大、人口集中の歩調を合わせる。都市と農村の土地などの要素の平等交換と公共財とサービスの均等化を推し進め、工業発展と農業発展の好循環を定着させ、都市と農村が一体化した工業と農業、都市と農村の新しい関係を構築する。

③配置の最適化、集約化、効率化
資源環境の負荷能力を基に、科学的で合理的な都市と農村の全体配置を行う。総合的な交通ネットワークと情報ネットワークに基づき、都市群の計画と建設を行う。また、都市建設用地の規模を厳しく制限する一方で、一部の農地を「永久農地」として指定し、最低耕地面積の維持に努める。さらに、都市開発の対象範囲を合理的にコントロールし、都市内部の用途別土地構造を最適化し、国土の有効的な利用を促進する。

国土のバランスの取れた発展のために、成渝(成都と重慶)、中原(鄭州周辺)、長江中流、ハルビンと長春などの中西部の資源と環境に恵まれている地域で新しい都市群を育てる。また、「ランドブリッジ(ユーラシア大陸横断鉄道)ルート」、「長江沿いルート」を2本の横軸に、「沿海ルート」、「京哈(北京-ハルビン)と京広(北京-広州)ルート」、「包昆(包頭-昆明)ルート」を3本の縦軸にし、軸線上の都市群を発展の中心とする「両横三縦」の都市化戦略を実施する。さらに、特大都市への経済機能などの過度な集中を改めるため、中小都市の経済力、人口吸収能力を向上させる。

④エコ文明、グリーン・低炭素社会の推進
エコ文明という理念を都市化プロセスの全分野に組み入れ、グリーン型発展、循環型発展、低炭素型発展に力を入れる。水、土地、エネルギー等の資源の節約と有効利用、生態系の回復と環境対策を強化し、グリーンシティとスマートシティ作りに力を入れる。グリーン・低炭素の生産と生活様式と都市建設運営管理モデルを推進し、環境破壊を最小限に抑える。

⑤文化の伝承、都市個性の発揮
都市それぞれの自然・歴史・文化の特徴を活かし、差別化、多様化を目指す。歴史の記憶をとどめ、文化を伝承し、地域的特徴と民族的特色を持つ美しい都市作りに励み、現実に適い、各々特色のある都市化発展モデルを形成させる。

これらの方針に基づき、「計画」は2020年までに、常住人口に基づく都市化率が60%前後、戸籍人口に基づく都市化率が45%前後に達し、両者の差が2ポイント前後縮小することを目標としている。

期待される都市化の効果

都市化は、内需拡大、産業構造の高度化、三農問題の解決、地域間の格差の縮小、社会の進歩に寄与することが期待されている。

「計画」によれば、都市化は、内需拡大を通じて経済の持続的発展に貢献する。都市化が進めば、より多くの農民は都市部で就職するようになり、収入が増える上、農民が都市部の住民として公共サービスを享受するようになる。その結果、消費が拡大し、都市部のインフラ設備、公共サービス施設、住宅などに対する巨大な需要が発生する。

また、都市化は、産業構造の転換と高度化を加速させる重要なきっかけとなる。産業構造の転換と高度化は経済発展方式の転換のカギとなる。なかでも、サービス業のさらなる発展が欠かせない。まず、都市化によって、人口が集中し、ライフスタイルに変化が生じ、生活水準が向上し、生活関連サービスの需要拡大につながる。次に、生産要素の適正配置、サービス業の発展、社会分業の細分化は、生産性サービス需要の拡大をもたらす。そして、都市化は、知識や技術革新の伝播を促進し、伝統産業の高度化と新興産業の発展の原動力となる。

さらに、都市化は、三農(農業、農村、農民)問題を解決する重要な手段となる。中国の農村では、膨大な人口を抱えるにもかかわらず、農業用水や土地が不足している。都市と農村の二重構造の下では、農地の大規模化は実現しにくく、伝統的生産方式を変えることができない。これこそ「三農」問題の根本である。都市化が進めば、農村人口が都市部に移住し、農民の一人当たりの資源占有量が増える。このことは、農業の大規模化と機械化、ひいては農業の現代化と農民の生活水準の向上につながる。他方、都市部における工業の発展は、農村部の発展を促進することとなる。

そして、都市化は、地域間の調和された発展を推し進める強い力となる。現在、東部地域の常住人口の都市化率が62.2%に達しているのに対し、中部は48.5%、西部は44.8%しかない。「西部大開発」と「中部台頭」戦略が進むにつれて、産業の東部沿海地域から中西部への移転が進んでいる。これをきっかけに、中西部は、都市化と工業化、ひいては経済発展が加速しており、東部との格差が縮小傾向に転じている。

最後に、都市化は、現代化の象徴である。都市化は人類の文明の進歩の産物として、生産性を高めるだけでなく、農民を豊かにし、国民全体の生活レベルを向上させる。また、都市と農村の二重構造とともに、都市内部の二重構造の矛盾を緩和させ、現代文明の成果をすべての国民に共有させることができる。これは社会の公平と正義の実現と社会リスクの軽減にもつながるという。

このように、都市化は、経済発展と調和の取れた社会を目指す中国にとって、極めて重要な戦略であり、今回の「計画」は、その実現に向けたロードマップを提示していると言える。

2014年7月11日掲載

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