中国経済新論:中国の経済改革

市場化改革の青写真を示した三中全会の「決定」

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

2013年11月9日~12日に中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が開催され、その場で審議・採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」(以下「決定」)は、習近平政権が進めようとする改革の青写真として、内外の注目を集めている(注1)。今回の「決定」には、「市場に資源配分における決定的役割を担わせる」ことをはじめ、新自由主義の政策綱領とされる「ワシントン・コンセンサス」を思わせる内容が多く含まれており、市場化改革を推進しようとする指導部の決意が伺われる。しかし、実行の段階において、既得権益集団の抵抗が予想され、改革の前途は依然として多難である。

資源配分の主役と位置付けられるようになった「市場」

中国では、1978年に改革開放に転換するとともに、計画経済から市場経済への移行が進み、1992年の中国共産党第14回全国代表大会において、「社会主義市場経済の確立」が経済体制改革の目標と定められた。

習近平総書記が指摘しているように、「20年余りの実践を経て、中国における社会主義市場経済体制は既にある程度確立したが、次のような問題がなお存在している。市場秩序がまだ規範化されておらず、不正な手段により経済利益を手に入れようとする現象が広く存在する。生産要素市場の発展が立ち遅れており、各要素が十分に活用されていない一方で、大量の有効需要が満たされていない状況が併存している。市場ルールが統一されておらず、部門保護主義と地方保護主義が多く存在する。市場競争が不十分であり、優勝劣敗と構造調整を阻害している」(習近平、「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」に関する説明、新華社、2013年11月15日)。

これらの問題を確実に解決しなければ、社会主義市場経済体制が完成できないという認識の下で、今回の「決定」は市場化改革の深化を軸にまとめられ、資源配分における市場の位置付けも、従来の「基礎的」から「決定的」に改められた。「決定」は、市場化改革の重要性について、次のように述べている。

「経済体制改革は改革の全面的深化の重点であり、核心的な問題は政府と市場の関係をうまく処理し、市場に資源配分における決定的役割を担わせ、政府の機能を一層発揮させることにある。市場による資源配分の決定は、市場経済の一般法則であり、社会主義市場経済体制を整備するには、この法則に従い、市場システムの不備、政府の過剰介入、監督管理の不行き届きという問題を重点的に解決しなければならない。

積極的かつ穏当に、広さと深さを以て市場化改革を推進し、政府による資源の直接配分を大幅に減らし、市場ルール、市場価格、市場競争に基づく資源配分によって、効果・利益の最大化と効率の最適化を図らなければならない。政府の職責と機能は主として、マクロ経済の安定を維持し、公共サービスの強化と最適化を図り、公平な競争を保障し、市場の監督管理を強化し、市場の秩序を守り、持続可能な発展を推進し、共に豊かになることを促進し、市場の失敗を補うことである」(第3条)。

市場に資源配分における「決定的」役割を担わせるために、「主に市場が価格を決定するメカニズムを整える。市場で価格形成可能なものはすべて市場に委ね、政府は不当な介入をしない。水、石油、天然ガス、電力、交通、通信などの分野の価格改革を推進し、競争的部門の価格を自由化する。政府が価格を決定する範囲は、主として、重要な公共事業、公益的サービス、ネットワーク型自然独占部門(注2)に限定し、透明性を高め、社会による監督を受けるようにする。農産物の価格形成のメカニズムを整え、市場の価格形成機能を重視する」(第10条)。

「ワシントン・コンセンサス」を思わせる改革案

市場化改革の深化を目指す今回の「決定」には、新自由主義が提唱する「ワシントン・コンセンサス」を思わせる内容が多く含まれている。「ワシントン・コンセンサス」は、米ピーターソン国際経済研究所のジョン・ウィリアムソン・シニアフェローによって次の10ヵ条にまとめられている(Williamson, 1990)。

1)財産権に対する保護
2)企業の参入と退出に対する規制緩和
3)国有企業の民営化
4)直接投資の自由化
5)貿易の自由化
6)金利の自由化
7)競争力のある為替レートの維持
8)規律的な財政運営
9)純粋な所得再分配支出の抑制と公共サービス支出の増加
10)タックスベースの拡大

ここで、この10ヵ条と照らし合わせながら、今回の三中全会の「決定」の内容を確認する。

1)財産権に対する保護

財産権に対する保護については、「財産権は所有制の核心である。帰属がはっきりし、権利・責任が明確で、保護が厳格で、流通が円滑な近代的財産権制度を整備する。公有制経済の財産権は不可侵で、非公有制経済の財産権も同様に不可侵である。国はさまざまな所有制経済の財産権と合法的利益を保護し、さまざまな所有制経済が法に基づいて生産要素を平等に使用し、公開かつ公平・公正に市場競争に参加し、法律による保護を同等に受けることを保証し、各種の所有制経済を法に基づいて監督管理する」(第5条)。

また、「農民により多くの財産権を付与する。農民集団経済組織メンバーの権利を保障し、農民の株式合作を積極的に発展させ、農民に集団資産持ち分の占有、収益、有償脱退権や抵当、担保、相続権を付与する。農家の宅地の占有、使用、収益に対する権利を保障し、農村の宅地制度を改革、整備し、いくつかの実験地を選んで、農民の住宅の財産権の抵当、担保、譲渡を慎重かつ穏当に進め、農民の資産所得を増やすルートを模索する。農村の財産権流通取引市場を作り、農村の財産権の流通・取引が公開で、公正にかつ規範にのっとって行われるようにする」(第21条)。

さらに、「知的財産権の運用と保護を強化し、技術イノベーションの激励メカニズムを整え、知的財産権裁判所の設立を模索する」(第13条)。

2)企業の参入と退出に対する規制緩和

企業の参入と退出に対する規制緩和について、「公平性、開放性、透明性のある市場ルールを作る。統一的な市場参入制度を確立し、ネガティブリストを作成した上で、各市場主体が法に基づきリスト外の分野に平等に参入できるようにする」、「市場の監督管理システムを改革し、統一的な市場監督管理を実施し、全国の統一的市場と公平な競争を妨げるさまざまな規定や方法を整理、廃止し、各種の違法な優遇政策を行うことを厳禁、処罰し、地方保護主義に反対し、独占と不正競争に反対する」、「優勝劣敗という市場原理に基づいた退出メカニズムを整え、企業破産制度を整備する」(以上は第9条)。

特に、「非公有制経済の健全な発展を支持する。非公有制経済は経済成長、革新の推進、雇用拡大、税収増加などで重要な役割を果たしている。権利の平等、機会の平等、ルールの平等を堅持し、非公有制経済に対するさまざまな形の不合理な規定を廃止し、さまざまな目に見えない障壁を取り除き、非公有制企業が特許経営(注3)分野に参入するための具体的ルールを制定する。非公有制企業が国有企業改革に参加することを奨励し、非公有資本が支配株主となっている混合所有制企業の発展を奨励し、条件を満たした私営企業が近代的企業制度を導入することを奨励する」(第8条)。

また、個別の分野については、「国有資本の投資プロジェクトへの、非国有資本の資本参加を認める」(第6条)、「金融業の対内対外開放を拡大し、監督管理の強化を前提に、条件を満たした民間資本が法に基づいて中小型銀行などの金融機関を設立することを認める」(第12条)、「預金保険制度を確立し、金融機関の市場原理に基づいた退出メカニズムを整える」(第12条)。

3)国有企業の民営化

「決定」では、国有企業の民営化について、直接の言及がないが、「混合所有制経済を積極的に発展させる」(第6条)ことと、「国有企業の機能を正確に区分する」(第7条)ことを通じて、国有企業のウェイトの低下を促すという方針が打ち出されている。

具体的に「国有資本、集団資本、非公有資本が株を持ち合い、相互に融合し合う混合所有制経済は、基本的経済制度の重要な実現形式であり、国有資本の機能拡大、価値の維持・増加、競争力の向上に有利であり、各種所有制の資本が長短相補い、互いに促進し、共に発展するのに有利である。より多くの国有経済とその他の所有制経済が混合所有制経済へと発展することを認める」(第6条)。

また、「国有資本は公益性企業への投入を増やし、公共サービスの提供により大きく貢献できるようにする。国有資本が引き続き株式保有と経営の面において支配する自然独占産業では、政府と企業の分離、政府と資本の分離、特許経営、政府による監督管理を主要な内容とする改革を実施し、各業種の特色に基づき整備部門と運営部門の分離を実施し、競争的業務を自由化し、公共資源配分の市場化を推し進める。各種形式の行政独占を更に打破する」(第7条)。

4)直接投資の自由化

直接投資の自由化については、「投資への参入を緩和する。内・外資の法律・法規を統一し、外資政策の安定性、透明性、予測可能性を維持する。金融、教育、文化、医療などのサービス業分野の秩序ある開放を進め、保育・養老、建築・設計、会計・監査、商業・貿易・物流、電子商取引などのサービス業分野への外資参入制限を撤廃し、一般製造業を更に開放する。税関の特別監督管理区域の再編・最適化を速める」(第24条)。また、2013年9月に発足した中国(上海)自由貿易試験区の経験を踏まえて、「条件の整ったいくつかの地域を選択し、自由貿易区を発展させる」(第24条)。

5)貿易の自由化

貿易の自由化については、「自由貿易圏建設を加速する。世界貿易体制のルールを堅持し、二国間、多国間、地域・サブ地域の開放・協力を堅持し、各国・地域との利益の合流点を拡大し、周辺を基礎に自由貿易圏戦略を加速する。市場参入、税関監督管理、検査・検疫などの管理体制を改革し、環境保護、投資保護、政府調達、電子商取引など新しい議題の交渉を速め、全世界を対象にした高水準の自由貿易圏ネットワークを形成する」(第25条)。

6)金利の自由化、7)競争力のある為替レートの維持

金利の自由化と競争力のある為替レートの維持については、「人民元為替レートの市場化メカニズムを整え、金利の市場化を加速し、市場の需給関係をより正確に反映した国債のイールドカーブの形成を促す」(第12条)。

中国は、金融開国に向けて、「人民元の変動相場制への移行」、「金利の自由化」、「資本取引の自由化」からなる三位一体改革を進めている。これにより、為替レートと金利の資源配分機能と、金利操作を中心とする金融政策の有効性が向上すると期待される。

8)規律的な財政運営

規律的な財政運営については、「予算管理制度を改善する」、「合理的な中央・地方政府の債務管理とリスク早期警戒のメカニズムを確立する」、「中央が支出増につながる政策を打ち出したことによる地方の財源不足は、原則として一般移転支出で調節する」(以上は第17条)、「現在の中央と地方の財源構造の全体的安定を維持しながら、税制改革に合わせ、各税目の属性を考慮して、中央と地方の収入の区分を一段と合理化する」(第19条)。

「分税制」と呼ばれる現行の財政・税制体制は、1994年の財政・税制改革によって構築された制度で、経済成長に大いに貢献した一方で、様々な問題も表面化している。まず、税収が中央政府に偏っており、地方政府は、支出が多いにもかかわらず、自身の財源確保手段が少ないため、財政赤字に苦しんでいた。また、中央政府と地方政府、地方政府各レベル間の支出責任が不明確で、階層数が多く、資金の利用効率が悪い。財力のある地方政府は良い公共サービスを提供できる一方、財力の乏しい地方政府はできず、その結果、地域格差が生じてしまった。中央と地方間の財源分配と支出面の役割分担を見直すという今回の「決定」は、地方政府の財政赤字と債務の解消を通じて、財政規律の向上につながると期待される。

9)純粋な所得再分配支出の抑制と公共サービス支出の増加

純粋な所得再分配支出の抑制と公共サービス支出の増加については、「所得分配制度を改革し、共に豊かになるようにし、社会分野の制度刷新を推進し、基本公共サービスの均等化を推進し、科学的で有効な社会ガバナンス体制の形成を加速し、活力に満ち、調和と秩序ある社会を確保する」(第2条)。また、「都市と農村のインフラ建設と地域社会建設を統一的に考え、都市と農村の基本公共サービスの均等化を進める」(第22条)。「都市・町の基本公共サービスが常住人口を全面的にカバーするよう着実に推進し、都会に定住した農民を都市・町の住宅・社会保障システムに完全に組み込み、農村で加入した年金保険や医療保険が規範にのっとって都市・町の社会保険システムに引き継がれるようにする」(第23条)。

10)タックスベースの拡大

タックスベースの拡大については、「税制を整備する。税制改革を深化し、地方税のシステムを整備し、直接税の割合を徐々に高める。増値税改革を推進し、適宜税率を簡略化する。消費税の課税範囲、段階、税率を見直し、高エネルギー消費、高汚染製品や一部の高級消費財を課税範囲に組み入れる。総合課税と分離課税を合わせた個人所得税制度を徐々に確立する。不動産税立法を加速するとともに適時に改革を進め、資源税改革を急ぎ、環境保護費の租税化を推進する」(第18条)。そのほか、「国有資本経営予算制度を整備し、国有資本収益の公共財政への納付比率を、2020年までに30%に引き上げて、民生の保障と改善により多く充当する」(第6条)ことで、政府の財源を拡大する。

「体制移行の罠」を乗り越えられるか

市場化を軸に改革の青写真を示した今回の三中全会の「決定」は、それを受けた中国の株式相場の大幅上昇に象徴されるように、高い評価を得ている。しかし、立派な改革案が策定されても、実施の段階になって骨抜きにされ、途中で挫折してしまうケースが過去にはしばしば見られた。

その一例は国有企業改革である。1999年9月の第15期四中全会における「国有企業改革と発展における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」において、すでに、国有経済が支配すべき業種や分野を「国の安全にかかわる産業、自然独占産業、重要な公共財とサービスを提供する産業、および基幹産業、ハイテク産業の重要な中核企業」に限定し、他の分野においては非公有制経済の発展を奨励する、という「国退民進」の方針が打ち出された。しかし、その後、国有企業改革は進展するどころか、近年の「国進民退」という現象に象徴されるように、むしろ後退する面も見られる。

これに対して、清華大学研究グループは、中国における市場化改革の停滞の原因を既得権益集団の抵抗に求め、中国が「体制移行の罠」に陥っているという仮説を提示している(清華大学研究グループ、2012年)。ここでいう「体制移行の罠」とは、計画経済から市場経済への移行過程で作り出された国有企業などの既得権益集団が、より一層の変革を阻止し、移行期の「混合型体制」をそのまま定着させようとする結果、経済社会の発展が歪められ、格差の拡大や環境破壊といった問題が深刻化していることである。

ロシアや東欧の国々が採った急進的な「ビッグバン・アプローチ」とは対照的に、中国が「石を探りながら河を渡る」といわれる「漸進的改革」を進めてきたことは、既得権益集団の形成に有利な環境を与えている。既得権益集団は、旧体制と新体制の要素を上手く組み合わせて、自分の利益を最大化しようとしており、国有企業による市場独占はその典型である。政治をはじめ、重要な分野において、改革が先延ばしされている。既得権益集団は、自分に不利な改革に反対する一方で自分に有利な改革だけは積極的に進め、その結果、大衆の改革に対する希望も支持も失われてきているという。

こうした認識を踏まえて、清華大学研究グループは、中国が「体制移行の罠」から抜け出すための方策として、次の三点を中心とする提案をしている。まず、市場経済、民主政治、法治社会といった普遍的価値を基礎とする世界文明の主流に乗らなければならない。第二に、権力を制約するメカニズムの形成をはじめ、政治体制改革を加速させなければならない。第三に、改革に関する意思決定を、これまでのように各地方政府や各政府部門に委ねるのではなく、中央政府の上層部によるグランド・デザイン(中国語で「頂層設計」)の下で進めるように改めなければならない。

今回の三中全会の「決定」において、三点目に当たる上層部によるグランド・デザインが強調されている。それを推進する組織として、改革の全体設計、統一的な企画・協調、全面的な推進、実施の督促の責任を負う「改革全面深化指導グループ」が設置されることになり、大きな期待が寄せられている。しかし、他の二点に関しては、これまでの議論と比べて大きな進展が見られず、「改革全面深化指導グループ」の力だけで、「体制移行の罠」が破られ、三中全会での提案通り、改革の加速が実現するかは、見極める必要がある。

2013年12月12日掲載

脚注
  1. ^ 「決定」は16章60条(序文と結語を含まず)から構成され、その内容は経済、政治、文化、社会、生態文明、国防・軍隊の6分野に及ぶ。経済関連の議論は、「基本的経済制度を堅持し、整備する」(第2章)、「近代的市場システムの整備を加速する」(第3章)、「政府の機能転換を加速する」(第4章)、「財税制改革を深化する」(第5章)、「都市・農村の一体化した発展の体制・メカニズムを整える」(第6章)、「開放型経済新体制を構築する」(第7章)の各章を中心に展開されている。
  2. ^ ここでいうネットワーク型自然独占部門は、電力、鉄道、通信などを指す。
  3. ^ 特許経営とは、公共サービス、インフラなど、官庁が特定の企業などに許可・特権を与える経営のことである。
文献
  • Williamson, J. (1990) "What Washington Means by Policy Reform," In J. Williamson ed., Latin American Adjustment: how much has happened? (pp. 5-20). Washington DC: Institute of International Economics
  • 清華大学研究グループ(2012)「『中所得国の罠』それとも『体制移行の罠』」『開放時代』第3期。
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2013年12月12日掲載