中国経済新論:中国の経済改革

全人代で可決された行政改革案
― 重点となる政府の機構改革と機能転換 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

2013年3月に開催された第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議において、習近平国家主席と李克強首相をはじめとする政府のトップ人事とともに、審議を経て可決された行政改革案が注目を集めた。

全人代に提出された改革案では、行政改革の必要性について次のように説明されている(馬凱、2013)。すなわち、現行の行政体制は新しい情勢と任務に合わなくなってきており、政府(国務院)機構の機能の位置づけ、機構の設置、職責の分担、運営のメカニズムなどの面に多くの問題がある。具体的に、政府は、権限範囲外のことや干渉すべきでないことに干渉したり、権限範囲内のことを確実に実行できていないなど、権限と責任に整合性がないことや、権利争いや責任逃れなどの状況が依然として多く見られ、行政の効率が低いままである。また、機構重複、業務量を上回る職員配置などの問題が依然として存在している。さらに、行政の権力に対する制約・監督メカニズムが不完全であることから、権力の乱用による汚職・腐敗が深刻で、効果的に抑制できていない。これを改めていくために、政府機構改革と機能転換を急がなければならない。

政府機構改革

今回の政府機構改革の重点は、大部門制への改革推進で、鉄道部門の「政企分離」(行政と企業の機能分離)を実施し、医療と産児制限(中国語は「計画生育」)、食品と薬品、新聞出版とラジオ・映画・テレビ、海洋、エネルギーのそれぞれの分野を管轄する機関を統合する。

①鉄道部の鉄道発展計画・政策策定の行政機能を交通運輸部に移す。国家鉄道局(中国語は「国家鉄路局」)を新設し、交通運輸部の管理の下、鉄道部の他の行政機能を担う。中国鉄道総公司(中国語は「中国鉄路総公司」)を新設し、鉄道部の企業機能を担う。鉄道部は廃止する。2011年7月に浙江省で起きた高速鉄道事故や、鉄道部トップの劉志軍氏が収賄容疑で更迭されたことなどから、混在している行政と企業機能の分離を求める声が高まったことが今回の再編の背景にある。

②国家衛生・計画生育委員会を新設し、衛生部の機能と国家人口・計画生育委員会の産児制限の実施機能を統合する。国家人口・計画生育委員会の人口発展戦略、人口発展計画および人口政策の研究・策定機能を国家発展改革委員会に移す。国家中医薬管理局は国家衛生・計画生育委員会が管理する。衛生部と国家人口・計画生育委員会は廃止する。その狙いは、人口の資質と国民の健康のレベルを向上させることである。また、農村部における余剰労働力の解消と生産年齢人口の低下に伴う労働力不足を解消するために、これまで取られてきた一人っ子政策の見直しの機運が高まっており、今回の機構再編はそれに拍車をかけるだろう。

③国家食品薬品監督管理総局を新設し、国務院食品安全委員会弁公室(廃止)、国家食品薬品監督管理局(廃止)、国家品質監督検査検疫総局(中国語は「国家質量監督検験検疫総局」)の生産過程を対象とする食品安全監督管理機能、国家工商行政管理総局の流通過程を対象とする食品安全監督管理機能を統合する。その狙いは、監督機関を統合することを通じて、高まる食品と薬品への不安に対して、より有効な対策を実施することである。

④国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局(中国語は「国家新聞出版広電総局」)を新設し、国家ラジオ映画テレビ総局(中国語は「国家広播電影電視総局」)と国家新聞出版総署を廃止する。これにより、今まで分散していたメディア関係の監督機能が統合されることになる。

⑤政府の各部局に分散していた海洋管理機能を国土資源部が管理する国家海洋局に再編・統合し、海洋戦略に関するハイレベルの政策調整機関である国家海洋委員会を新設する。その狙いは、国策となった「海洋進出」を支援することである。

⑥国家電力監督管理委員会の機能を国家エネルギー局(中国語は「国家能源局」)に再編・統合し、国家発展改革委員会が管理する。国家電力監督管理委員会は廃止する。

これらの改革を通じて、国務院の部クラスの機関が4つ減少する。国務院弁公庁を除く国務院の構成部門は25部門になる。今回の改革は1998年以来最大規模の再編となる。

政府の機能転換

今回の改革の狙いは、政府の機能転換を加速することである。この点について、李克強首相は次のように説明している(李克強、2013)。「政府機構改革を政府内部権限の最適化というならば、政府の機能転換は政府と市場、政府と社会の関係整理といってよい。端的に言うと、市場ができることなら市場に多めにやってもらい、社会がうまくできることなら、社会に任せればよい。政府は管理すべきことをしっかりとやればよい。」

政府の機能転換に向けて、次の六つの分野での改革が強調されている。

①投資プロジェクト・生産経営活動の審査数を減らすことなどを通じて、資源分配における市場の基本的な役割を十分発揮させ、企業や個人経営者の積極性を引き出す。李克強首相は、現時点で、1,700以上に及ぶ政府機関の認可が必要な項目を、新政府の(今後5年間の)任期内で少なくとも3分の1を減らすと明言している(李克強、2013)。

②「社会管理」の面では、社会の力を積極的に発揮させ、業界団体を政府機関から分離させることを急ぐ。

③中央と地方の積極性を発揮させ、地方政府の優位勢をよりよく発揮させる。具体的には、一部の投資審査内容、生産経営活動審査事項を地方政府に任せ、中央政府から地方政府への財政移転の中で、使い道が国によって指定されている「専項転移支付」(日本の国庫支出金に相当)を削減する代わりに、地方政府が自由に使える「一般性転移支付」(日本の地方交付税交付金に相当)を増やす。

④機能配置を最適化し、内容が似通っている業務を行う機関を統合する。

⑤マクロコントロールを改善、強化する。具体的には、大局の観点から発展計画と体制改革を一括管理するなどの機能を強化する。社会管理能力を向上させ、社会管理の新しい方法を模索し、国務院各部門自身の改革を強化する。

⑥制度の構築と法に基づいた執政を強化する。

政府のあり方も改革の対象に

政府機構改革と政府の機能転換にとどまらず、政府のあり方も見直さなければならない。

李克強首相が強調しているように、①革新型政府の建設に取り組み、改革開放によって経済社会の活力を保つこと、②清廉な政治を行い、政府への信頼、実行力、効率を高めること、③法治によって現代的な経済、現代的な社会、現代的な政府を建設することは、新体制が直面している①経済の持続的な発展、②国民生活の絶え間ない改善、③社会の公正化の促進という三つの最優先課題を解決するために欠かせない保障である(李克強、2013)。それに向けて、政治改革を通じて、政府の権力を制約する仕組みを構築しなければならない。

2013年4月5日掲載

文献
  • 馬凱(2013)「国務院機構改革と機能転換に関する説明」、第12期全国人民代表大会第1回会議、3月10日
  • 李克強(2013)第12期全国人民代表大会第1回会議終了後の記者会見での発言、3月17日

2013年4月5日掲載