RIETI海外レポートシリーズ ハーバードAMPの現場から

第四回「チームビルディングを目指す」

細川 昌彦
上席研究員

リビング・グループの形成

AMPでは70名ずつの授業の他、8名ずつのリビング・グループを形成して、学習コミュニティーとして効果的に位置付けている。8人のメンバー構成は予めハーバード側で決めている。意識的に、国籍、職種、業種の全く異なるメンバーを組み合わせ、「多様性」を重視している(授業でも、同質な組織と多様性を持った組織のパフォーマンスの比較を行い、後者において異質な者をどうマネージするかを知れば、結果的に前者よりもパフォーマンスが高まることを学ぶ)。8人の部屋は各個室とグループ共有のリビングルームがワンユニットとなった造りになっている。物理的にも家族のような間柄になるように工夫されているわけである。グループのリーダーは1週間ごとの交代制である。毎晩この8人で二時間、翌日の授業の予習ディスカッションをリビングルームで深夜まで行う。さらに週末だけはキャンパスの外に出て外食をするが、この時もグループで出かけるのが常である。まさに9週間の間、寝食を共にする戦友なのである。AMPでは、このプロセス自体を重視しているのが大きな特色である。

最初はお互いにいい印象を与えようと礼儀正しい。衝突も殆どない。次第に自我を主張しだし、他のメンバーの意見・考えに影響を与えようとする。リーダーシップをとりたいと思うような連中が集まっているだけに、なおさらである。競争、衝突、緊張関係もしばしば見られる。この段階で仲たがいをして、グループが崩壊してしまったケースもあった。またどうしても自分のグループには馴染めず、他のグループに参加させてもらった人もいた。しかしこれらはごく少数派であり、大方は次の段階に進む。すなわち、それを超えるとお互いの違いを受け入れ、建設的に他のメンバーの意見を聞くようになる。さらに、連帯が深まり、精神的にも一体感と高揚を感じる。最終段階では、中にはお互いの仕事、人生についてコーチングし合える関係にもなる。それはおそらく今後生涯付き合っていくことになるだろうとの予感を感じさせる深みをもった人間関係である。

このような変化はお互いに深い理解が形成されていくダイナミックなプロセスといえる。それは、私の25年の社会人人生において初めて味わう体験であった。このプログラムに参加したことによって得た最も貴重な財産であろう。

野外演習活動の実施

このプロセスの初期の段階で、チーム・ビルディングを目的として、一日かけて野外演習が行われる。かの有名な米国のウエストポイントでも士官候補生にチームワークの重要性を印象的に植え付けるために数週間に渡って集中的にさまざまな野外演習を行っているという。我々の行った野外演習のいくつかをご紹介する。

第一は「くもの巣(spider web)」である。二本の木の間をロープでくもの巣状にしてあり、グループの各メンバーがそれぞれ異なるくもの巣の穴を選んで、身体がロープに触れずに反対側に全員通り抜けるようにトライする。全員で誰がどの穴をどのようにしてくぐり抜けるかの作戦を打ち合わせし、実行に移すのである。

第二は「壁登り(wall climb)」。4メートルの壁を一人ずつ順番に登り、グループで一人でも多く登るようにトライする。先に登って引っ張り上げる人、下から押し上げる人などの役割分担を打ち合わせし、実行に移す。

第三は「綱渡り(rope walk)」。木と木の間10メートルに吊るされた高さ8メートルのロープを綱渡りする。命綱をグループのメンバーが手に持っているとはいえ、恐怖心との戦いである。グループの仲間を信じて平常心を保てるかがポイントになる。

この他、全員目隠しして声を掛け合いながら、大きな輪になったロープで正五角形を作るといったゲーム(pentagon)、1つのシーソーの上に8人全員がバランスを保ちながら立って乗るゲームなど、さまざまなエクササイズを経験する。

それぞれの演習が終わると、その都度コンサルタント会社のファシリテーターと共にグループ全員で反省、評価が行われる。

第一にチームの目標・ゴールは明確で全員にシェアされていたか(Goals)。
第二にチームメンバーの役割・責任の分担に問題はなかったか(Roles)。
第三に作戦の意思決定のプロセスは円滑であったか。問題解決に向けたメンバー間のコミュニケーションはどうか(Process)。
第四に個人間の信頼関係はどうであったか。オープンで柔軟であったか(Interpersonal)。

これらの各々について各人項目ごとの評価を五段階で出し合い、具体的にどの場面でどういう問題があったかを議論し合うのである。これら4点の頭文字をとった「G・R・P・I」は一般にチーム活動を評価、改善するために有効なフレームワークとして用いられている。今後自分の組織におけるチームワークのチェックポイントとして活用できるものであろう。

野外演習においてはさまざまな種目の演習をこなしながら、このようなプロセスを繰り返して一日を過ごす。すると自然にチームワークの重要性を体感し、終わった頃には以前にはなかったグループの一体感さえ味わうことになる。このようなシステムは専用の野外施設を持ったコンサルタント会社がビジネスとして運営している。聞くと、欧米企業からの顧客ニーズが高いそうである。また、年齢層は決して若い層だけでなく、企業幹部による参加が多いことに驚かされる。組織の変革期には経営幹部間の上層部のチームワークが欠かせないというのである。

組織の変革とチームビルディング

組織の変革は、一人のトップ、リーダーによって成されるものではない。また、チームワークの重要性は皆、頭では理解している。しかしながら、自然に醸成されるものではない。したがって、このような野外演習も含めて、チームビルディングを目的とした具体的な試みに意識して取り組むことが重要になってくる。先に紹介したマイヤーズ・ブリッグス分析をチーム内で行うこともそのような観点から有効な方策となる。また、各人の個人史、たとえば生い立ち、経歴、背景を知り合うことも1つである。これらはチームメンバーの個人個人をよく知ることを目的としており、それがチームビルディングの前提となる。

また、典型的な手法としてしばしば行われるのが、10~15人の幹部がオフサイト(社外)で数日に渡り合宿ミーティングをすることである。ミーティングでは組織の抱える問題や今後の戦略などについて率直に意見を述べ合う。夕食の際には個人的な事柄について話し合って相互理解を深めることもプラスであろう。その際、先に紹介した野外演習を併せて行うことも効果的である。メンバーの異動によってメンバー構成が変わった場合は、その都度このような機会をもつアクションを取り続けることが重要となる。問題は幹部が多忙で、スケジュール調整が極めて困難であることであろう。しかしながら、それは根本的には、関係者が組織の変革が真に重要であると考えているか、そしてそのためにチームワークが必要と考えているか次第である。

従来、個人中心の欧米企業と比べて、日本企業ではチームプレーが重視されてきた。確かにこれまでの成長過程において、製造プロセスをはじめ、日本企業のチームワークが成果を挙げたのも事実であろう。しかしながら、ある種同質社会の甘えからか、徐々にチームワークのための手法を意識しなくなってきてはいないだろうか。

最近、日本企業は金融をはじめとして、生き残りをかけた産業再編の結果、合併が相次いでいる。また雇用の流動化に伴って、今後外部からの人材の登用も徐々に増える兆しを見せている。このような中で、先般のみずほ銀行のシステム故障の問題に見られるように、異なるカルチャーを有する幹部間のチームビルディングが極めて重要になってきている。そういう問題意識の下、今一度チームビルディングのための具体的取り組み、手法を考えてみてはどうだろうか。

リーダーシップ論で世界的に著名なジョン・コッター教授はさまざまな企業例をもとに次のように指摘する。「変革を推進する幹部による強力な連帯チームの形成なくしては、企業を変革する試みは挫折する」

2002年8月1日

2002年8月1日掲載

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