Special Report

外国人の目から見た中国人の生活スタイルの変化
−中国のイノベーションとビジネスモデル革命−

孟 健軍
客員研究員

もう一度シュンペーターの「技術創新と市場変革」および青木昌彦の「制度設計」というイノベーションの視点に戻ると、ネットワーク経済のさまざまな分野で最先頭に立つ中国は、製品や技術、資本を輸出するだけでなく、新しい市場と生活スタイルを創造しており、中国発のビジネスモデル革命は、一帯一路の構想のもとに世界に向けて発信し始めている。

http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0457.html

その重要な背景として2013年からの習近平政権一期目において、経済発展よりも「全面深化改革」が中心課題になったことが大きな特徴である。政府と市場の関係は透明性と制度化に基づき、市場は資源配置の中で決定的な役割を果たすとされている。中央政府はガバナンス能力を向上させ、経済構造の改革と行政規制の撤廃を加速させ、国内における市場メカニズムの形成と企業能力の向上に腐心してきた。

http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/14032001.html

1、自国に一番持ち帰りたい中国の生活スタイル

5月中旬の北京は賑やかだった。

習近平の一帯一路構想に沿って中国主導の国際協力サミットフォーラムが5月14と15日の両日に北京で開催されたのである。参加国は、29カ国の首脳と110カ国の代表団、61の国際機関の責任者を含む約1200人が参加した。アメリカも代表団を送り込んだ盛況ぶりであった。

それに合わせて数日前の5月9日に、北京外国語大学が留学生を対象とするインタビューを実施した。その質問は、「自国に一番持ち帰りたい中国の生活スタイルは何でしょうか?」という簡単なものだった。一帯一路沿線国20カ国の若者たちからは、高速鉄道、ネットショッピング、シェアリング自転車、自動車配車サービス、宅配便、出前アプリ、オンライン決済、4G通信などさまざまな答えが出た。古代中国に因む「新四大発明」として、現代中国人の生活スタイルを変貌させた代名詞ともいえる高速鉄道、スマホ決済のアリペイ(支付宝)、シェアリング自転車、ネットショッピングという順位を付けた。

インタビューを受けた外国人の若者達は、これらを母国に一番持ち帰りたい生活スタイルとして考え、その主な理由として高速鉄道の快適さ、財布を持たないスマホ決済の素早さ、シェアリング自転車の使い勝手の良さ、およびネットショッピングの便利さが挙げられた。

2、中国人の日常生活を大きく変貌させた「新四大発明」

この2、3年に中国人の生活スタイルが劇的に変わってきた。

外国人が最も母国に持ち帰りたい「中国の生活スタイル」の首位は、高速鉄道である。上海で朝食に小籠包、西安でお昼にロージャモ(中華風ハンバーガー)、夕食に蘭州風ラーメンといった夢のような光景は、7月1日に営業が開始された上海から蘭州までの約2100キロの高速鉄道の運行によって実現された。また、9月21日から時速350キロ運行の高速列車「復興号」が導入されることによって、北京から上海までの走行時間は5時間から4時間に短縮される。高速鉄道は2016年末、営業総距離がすでに2万2000キロを突破し、年間旅客数も14億4300万人に達した。また、2016年7月に改訂された「中長期鉄道網計画」によれば2025年までに総延長3万8000キロに拡大し、国土の「4縦4横」から格上げされた「8縦8横」の主要ルートを骨格とする地域連結路線でつながり、便利さと快適さを追求する高速鉄道網を構築する。

http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0407.html

中国の高速鉄道と日本の新幹線(2015年)
指標 中国高速鉄道 日本新幹線 中国対日本
開業日 2008年8月1日 1964年10月1日
営業距離(km) 19838 2997 6.62倍
年間旅客数(億人) 9.61 3.66 2.63倍
旅客運送量(億人・km) 3863.4 974.0 3.97倍
出所:中国統計年鑑2016年、国土交通省鉄道輸送統計年報平成27年度分

第2位に選ばれたのはアリババのアリペイ決済である。スマホ決済システムの分野ではアリペイやWeChat Paymentなどを始め多くの決済アプリがあるが、アリペイに軍配を上げている。アリペイを使うことは、もはや一般中国人の「日常茶飯事」となっている。多くの留学生はオンライン決済の便利さを中国で初めて知ったという。出前の注文や衣類のクリーニング、水道・光熱費の支払いなど、あらゆることをスマホ1台で済ませ、ショッピング、レストラン、映画館、タクシー手配と乗車券予約などでもスマホ決済が利用されている。スマホの普及とスマホ決済の浸透によって、街角の屋台にも決済用のQRコードを掲げられ、モバイル決済が急速に拡大している。

アリペイ決済の支付宝
アリペイ決済の支付宝

第3位のシェアリング自転車は大学発のベンチャービズネスであったが、2016年末から僅か半年の間に、一昔前の北京の風景が蘇って来たように都会部を中心に爆発的に普及している。スマホで二次元コードを読み込んで鍵を開け、利用後、好きな場所で施錠して乗り捨てれば自動的に決済は完了する。この事業の先駆者であるofo社の創業者によると、自社のある1台の自転車は、1日に28回も利用された記録があり、今年3月以降に毎日1000万回の利用も達成した。この量に到達するには、アリババのタオバオが8年間、配車サービスが3年半掛かったが、ofo社は2016年11月に北京市内でサービスを開始してからわずか4か月で達成したのである。目的地までを点と点で直接つなぐ交通機関としてシェアリング自転車は人々のニーズを満足させ、公共交通機関の利用も増えた。その利便性から自転車の台数や利用者数は急増し、新規参入する事業者が後を絶たない。また、海外への進出も急展開している。ofo社内部の目標では年内少なくとも20カ国200都市の市場を開拓し、毎日2000万回の利用を達成したいという。

シェアリング自転車のofo(黄色)とmobike(オレンジ色)
シェアリング自転車のofo(黄色)とmobike(オレンジ色)

便利なネットショッピングも留学生らの中国生活をより快適にしているゆえんで第4位に選ばれた。多くの留学生は、宅配の回転率の良さ、タオバオを始めとするネットショッピングシステム、およびアフターサービスシステムを高く評価している。国家統計局によると、2016年のネットショッピングの全国小売販売額は5兆1556億元(約85兆円)に達し、2015年より26.2%増え、日本の約6倍の規模に達した。

外国人に選ばれた「新四大発明」のようなイノベーションおよびビジネスモデルが現在の中国人の日常生活を大きく変貌させただけではなく、中国の経済発展を促す大きな原動力ともなっている。多くの外国人がこのような中国のビジネスモデルを活用し、自国の経済発展を促進したいと願っているに違いない。

3、止まらぬ魅惑的なイノベーションとビジネスモデル

中国ではスマホの普及によって多くの分野でイノベーションとビジネスモデル革命が涌き起こり個人のIDカードとスマホ1台さえ持てば、何処にでも行ける時代に突入している。7月中旬、内陸のフィールドワーク中に、ある小さな町の屋台で四川風ラーメンを食べた後、店主から「QRコードを自分でスキャンして」と言われ、現金派の筆者はこの波に乗ってスマホ決済を済ませたのは新鮮な体験であったが、人と人との新しい信用関係もそこで生まれたのではないか、とつくづくと感じている。

2017年2月時点のスマホ使用率
スマホ使用率(%) 人口(100万人)
日本 59.0 126.0
アメリカ 72.0 326.5
中国 79.0 1388.2
韓国 91.0 50.7
出所:AUN CONSULTING. Inc.

だが、タオバオと天猫(Tmall)のようなネットショッピングが一気に普及することによって多くの実店舗が閉鎖を余儀なくされた事態は社会問題になっている。そこで実店舗の反撃が始まり、多点(Dmall)というスマホ利用のセルフレジシステムが今年の6月から導入され、スーパーやコンビニなどを中心として急速に展開している。これはとくにネットショッピングが難しい生鮮食品や地域に密着する実店舗に大きな利便性を提供している。

8月11日、新エネルギー自動車を使用する中国のカーシェア企業である盼達用車(Pand Auto)は中信銀行とともに「盼達預金口座」を開設した。ユーザーは銀行口座からレンタル料を支払え、その口座に預けられた金額に応じた利息を毎日もらえる仕組みである。盼達用車は北京市と重慶市などの8都市で展開し、すでに100万人のユーザーを獲得したという。遠距離の高速鉄道移動、近距離のシェアリング自転車、さらに新しいスタイルのカーシェアなど中国では「交通革命」が巻き起こっている。近い将来、利用率の低い自家用車と自動車産業はどのような道をたどるか、大きな課題となってくるだろう。

モバイル決済の普及およびそのサポート体制の充実によって、無人コンビニなどの新たなサービスが中国に生まれた。これらの多くのビジネスモデルと関連テクノロジーなどは中国が発祥の地ではないが、それらの商品とサービスは急速に発展、普及し、人々により良い快適な生活体験を提供し、生活スタイルの変化をもたらしている。

8月21日、高速鉄道の最大級の駅の1つである武漢駅の32の改札口には一斉に顔認証のみで乗車できるシステムが導入され、初日に90%の乗客がそれを利用したという。また、2016年に9439.3万人が利用した北京首都空港は年内、ABC技術(AI、Big Data、Cloud Computing)を駆使する顔認証の全自動チェックインシステムを導入する予定である。スマホも要らない顔認証だけでの時代の到来を筆者は唯々恐ろしく感じている。

中国経済がすでに量的拡大から質的向上へと重点を移してきたいま、"改革は中国にとって最大のボーナス"という李総理の着任当初の言葉を思い出すと、過去数年の経済構造改革は、既に多くの分野で既存の利益構造を打破してきた。これが今日の中国発のイノベーションおよびビジネスモデル革命の土台を築いている。

http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0381.html

中国は、自らのイノベーションの進展およびビジネスモデルの変革、さらに産業技術高度化の進みを通じて世界に向かって強く発信していく。

2017年9月21日掲載