Special Report

集積の経済による成長戦略と出生率回復は相反するのか

近藤 恵介 研究員

はじめに

最近、地域活性化の議論が日本で再燃している。政府のいわゆる「骨太の方針2014」では、「50年後に1億人程度の安定した人口構造の保持」が明記され、また、地方創生と人口減少の克服に取り組むため、「まち・ひと・しごと創生本部」設立準備室が安倍政権下で設置された。この背景には、急速に進む少子高齢化や人口減少という日本特有の問題がある。

その数カ月前に公表された日本創生会議による「消滅可能性」のある地方自治体一覧は政府の判断に大きな影響を与えたかもしれない(注1)。また、7月に佐賀で開催された全国知事会においても同様の議論がなされ、「少子化非常事態宣言」が採択された。同宣言において、少子化対策は国家的な課題として取り組まれるべきだとされている。

総務省や国土交通省をはじめ、各省庁においても将来を見据えた対策が始まっている。経済産業省でも「グローバル経済圏」と「ローカル経済圏」という2つの経済圏を軸に、グローバル化する経済に対応しつつも、地域経済の活性化に向けた対策が始まっている。各省庁間の政策的な共通点としては、地域間で機能を分散しつつも、各地域内では機能をコンパクトに集約し、自立的・効率的な経済活動を形成するという考え方である。これは、局所的に集積を利用しつつもネットワークを通じて相互に依存しあう経済構造という視点であり、まさしく空間経済学が得意とする分野である。そこで本レポートでは、「空間」や「集積」という観点から、地域間の出生率の違いがなぜ起こるのか、今後どのような少子化対策と成長戦略がなされるべきかについて考えてみたい(注2)。

どこで出生率が低いのか

地域という視点から、どこで合計特殊出生率(Total Fertility Rate)が低いのかデータで確認してみよう(注3)。図1は市区町村別の合計特殊出生率を地図上にプロットしたものである。大雑把な傾向としては、都道府県間では西高東低という関係が見られ、北海道・東北地方より九州・沖縄地方において合計特殊出生率が平均的に高い。また、都道府県内では都市部ほど合計特殊出生率が低くなっている。図2は、市区町村別の人口密度をプロットしたものであり、東京、大阪、名古屋の三大都市圏をはじめ、主要な都市圏において人口密度が高い(注4)。これら2つの図から推測されるように、人口密度の高い地域ほど合計特殊出生率が低いという関係があり、図3はこれを示すものである。

図1:市区町村別の合計特殊出生率(平成20年~平成24年)
図1:市区町村別の合計特殊出生率(平成20年~平成24年)
注:市区町村を六分位階級に分類
出所:平成20~24年人口動態保健所・市区町村別統計より筆者作成。
図2:市区町村別の人口密度
図2:市区町村別の人口密度
注:市区町村を六分位階級に分類。空間的に平滑化した人口密度を計算。詳細は脚注4を参照。
出所:平成22年国勢調査より筆者作成。
図3:市区町村別の合計特殊出生率と人口密度の関係
図3:市区町村別の合計特殊出生率と人口密度の関係
出所:合計特殊出生率は平成20~24年人口動態保健所・市区町村別統計、人口密度(15歳以上人口)は平成22年国勢調査より筆者作成。

なぜ人口密度の高い地域で出生率が低いのか

ここまでは単純な相関関係であるが、人口密度の高い地域では出生を阻む要因があることが強く示唆される。では、なぜ人口密度の高い地域において出生率が低くなるのだろうか、その地域的要因の可能性について考えてみよう。たとえば、図4が示すように、文部科学省の「子供の学習費調査」は、人口規模が大きくなるほど学校外活動費が増加する傾向があると報告している。また、図5が示すように、総務省の「全国物価統計調査」による全国物価地域差指数をみても補習教育価格指数は都市部ほど高い。そして、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」によると、理想的な子供の数と比較して、実際その数だけ子供を持てない主要な理由として教育費の高さが報告されている。したがって、都市部ほど子供の教育などにかかる費用が高く、その結果として、子供の数が少なくなる傾向があると推察できる(注5)。

図4:人口規模別の公立学校に通う生徒の学校外活動費
図4:人口規模別の公立学校に通う生徒の学校外活動費
出所:文部科学省「子供の学習費調査」より筆者作成。
図5:市区町村別の人口密度と補習教育価格指数
図5:市区町村別の人口密度と補習教育価格指数
出所:補習教育価格指数(全国平均=100)は平成19年全国物価統計調査の全国物価地域差指数、人口密度(総人口)は平成17年と平成22年の国勢調査の平均値より筆者作成。

子供の養育費の上昇によって、家計が子供の数を減らすという価格効果は、古くはBecker (1960、1992)において分析されている(注6)。また、地域と集積の概念を導入したSato (2007)の分析から類推すれば、人口密度が子供の養育費の地理的な差異をもたらしており、それによって地域間の出生率の差がもたらされていると説明できるだろう。さらに、子供の養育に伴って仕事をあきらめるという機会費用が都市部ほど大きいことも少子化の要因として考えられる(注7)。このような機会費用による少子化の影響はWillis (1973)において分析されている。これだけを聞くと集積からの負の影響が大きいように思われるかも知れないが、総合的に見ると集積から得られる便益が費用を上回っており、その結果、都市への人口流入が起こっていると考えられている。

集積が本当に出生率を引き下げるのか

上の議論をさらに深めよう。集積が子供の(機会費用も含めた)養育費の上昇をもたらした結果、都市部で少子化が起こっているとどこまで言い切れるのだろうか。実際は、他にも多くの要素が影響しており、さまざまな仮説も同時に確かめられなければならない。たとえば、以下のような可能性が考えられる。

  • 都市に住む人ほど結婚後も子供を持たないような選好を持っているのかもしれない。
  • 地方ほど老後保障として子供の役割を重視しており、都市と比較して地方の出生率が相対的に高くなっているのかもしれない。
  • 都市に住む人ほど高等教育や就労を求める結果、晩婚・晩産化が進み、少子化が観測されるのかもしれない。

このような家計の選好・性質の地理的分布の仕方によって、あたかも人口集積が少子化をもたらしているように見えてしまう可能性が考えられる。この場合、集積自体が低出生率の直接の原因にはなっていないことに注意すべきである。

他にも、家計の内生的な居住地選択により、人口集積地における少子化がより過大に見えてしまうこともある。たとえば、以下のような可能性が考えられる。

  • 子供を多く持つ家計ほど都市から地方へ居住地を変更し、都市部には子供の少ない家計が残っているのかもしれない。
  • 子供の少ない家計ほど居住地の変更が容易で、地方から都市に移住する傾向があるのかもしれない。

このように、子供を持った後の事後的な行動によって、集積地ではより一層出生率が低く観測される可能性もある。この場合、集積が出生行動を直接抑制したというよりは、居住地選択に影響を与えている。したがって、子供を持ちたい・既に持っている家計が集積地から転出することによって、集積が出生行動を抑制している直接的な効果を過大に評価してしまう可能性がある(注8)。

ここで強調したいことは、人口集積自体が子供の数を減らすという因果性が本当に存在しているのか、もしくは、別の要因によって都市における少子化がもたらされているように見えているのか、両者を見極める必要があるということである。つまり、原因を正確に把握することこそが、適切な政策立案にとって重要なのである。よって、結果の頑健性を確かめ、もし集積が本当に少子化にとって問題なのだとしたら、どの程度の影響があるのか計測することが必要となる。エビデンスに基づく政策を立案するために、われわれ研究者が取り組まなければならない喫緊の課題である(注9)。

集積の経済による地域政策は出生率を引き下げる可能性も

少子高齢化・人口減少化社会においては、労働力を増やせないという制約がかかる。したがって、いかに労働力の質や全要素生産性を高めるのかが地域経済の活性化や経済成長にとって重要になってくる。それでは、どのようにしたら生産性を高めることができるのだろうか。その1つとして注目されているのが、集積の経済である。経済産業研究所においても、集積の経済に関連した書籍・ディスカッションペーパーがこれまでに多く発行されている(注10)。しかし、先に示したように、集積の経済による成長戦略は、更なる少子化を地域にもたらしかねないことに留意すべきであろう。

必要とされるのは、集積の経済による成長戦略と同時に、そこから生じる出生率低下の影響を補うための対策である。先ほども強調したように、具体的にどのような政策を行うべきかを議論するには、集積地で少子化が起こっている原因を正確に把握しなければならないが、ここでは例として考えうる2つの要因と対策について議論してみよう。

1つ目は、地域間の養育費・生計費の差異がもたらす出生率の地域間格差である。仮に所得が同一ならば、養育費・生計費の高い地域ほど財・サービスを需要できる量は少なくなる。つまり、名目的な所得は地域間で平等でも実質的な所得に不平等が生じている状態になる。このような場合、子供に対する給付額は全国一律ではなく、子供の年齢に応じながら地域間の養育費・生計費の差異を反映させた給付額にすることで出生行動の格差是正につながるかもしれない。2つ目は、地域間の待機児童の問題である。保育所の不足という直接的な問題だけでなく、人口が集積している地域ほど保育所に関するサーチ・マッチング費用が大きくなるという問題もある。仮に、その結果として出生率が低くなっているのならば、家計が速やかに保育サービスを利用できるような政策をより重視すべきであろう(注11)。このような視点は地域をベースに政策設計していることが特徴であり、集積の経済の下では有効な手段であると思われる。

当然のことながら、家計や企業を政策の対象として、ワークライフバランスや育児支援を行っていくことも必要である(注12)。特に、多様なライフサイクルを尊重した少子化対策を行うことが必要であると考える。都市と地方の大きな違いは、出産のタイミングである。図6は、出産のタイミングの都道府県間の違いを表している。特に注目するのは、東京圏に住む家計のライフサイクルにおいて、出産のタイミングは35~44歳にかけて地方よりも大きくなっていることである。つまり、早い段階で子供を持つのか、遅い段階で子供を持つのかという出産のタイミングが都市規模と関係しており、そうだとすれば地方に拠点都市を作った場合でも晩婚・晩産化が進む可能性が排除できない。各家計のライフサイクルを尊重し、完結出生児数を理想の子供の数に近づけられるような支援体制を提供していくことが重要になってくる(注13)。

図6:都道府県・年齢階級(5歳階級)別の出生率(女性人口千対)
図6:都道府県・年齢階級(5歳階級)別の出生率(女性人口千対)
注:都道府県を六分位階級に分類
出所:平成22年度人口動態統計特殊報告の第27表より筆者作成。

今後の成長戦略と少子化対策の両立に向けて

本レポートでは、補完的な少子化政策を伴わない場合、集積の経済による成長戦略はその地域の出生率をさらに引き下げてしまう可能性があることを議論した。地域活性化や経済成長を促進すると同時に、家計の多様なライフサイクルを尊重し、いかに少子化を防ぐのかが政策立案にとって重要な視点である。安易な人口の地方移転に関する議論は、人口減少社会では地方自治体間の不毛な人口争奪戦につながりかねず、ある地域の繁栄が他の地域の富を奪い取ることで成立するような政策は避けるべきである。

最後に、ここ最近話題になっている市町村の「消滅可能性」との関連で私的見解を述べたい。気を付けなければならないのは、家計や企業は、地方自治体の存続維持のために各地域に存在するのではないということである。地方自治体の在り方も同時に考えるべき時期であり、地域経済を支える家計や企業を政策的なターゲットとして捉えた上で適切な制度設計を行うという視点が重要である。

2014年8月15日

謝辞

本レポートの執筆に当たり、森川正之氏より貴重なコメントをいただいた。心より御礼申し上げる。当然ながら、残された誤りは筆者によるものである。

脚注
  1. ^ ここでの「消滅」という言葉遣いはいささか誤解を招く表現であるが、その言葉の定義は、2010年時点と比較して2040年時点における20~39歳の女性人口が5割以上減少することとされている。具体的には896自治体あると推計され、これら市区町村を「消滅可能性都市」と呼んでいる。
  2. ^ ここで用いる集積は、人口集積を意味し、人口の地理的分布や都市毎の人口規模を強調している。他方、産業集積は、産業の地域間分布や地域内の産業構造に焦点が当てられている。また、本レポートでは、出生率の「時系列的」な低下傾向を説明するのではなく、「空間的」な差異がなぜ見られるのかというのが主眼であることに注意されたい。厚生労働白書(厚生労働省,2005)の第1部第2章においても、このような「地域」という視点の重要性が述べられている。一方で、時系列で観測される出生率の低下は別に議論する必要があることに留意されたい。空間と時系列という2つの軸を区別して議論することは、少子化の原因を考察する上で重要な視点である。
  3. ^ 合計特殊出生率とは、15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率に分類される。詳細は、厚生労働省の説明を参照のこと。
    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/sankou01.html (2014/08/05確認)
  4. ^ 人口密度は行政区域の大小に強く依存することから、各市区町村の中心から30km圏内における空間的に平滑化した人口密度を計算している。
  5. ^ 当然ながら、保育サービスの充実度も影響しているだろう。人口が集積する地域では保育所を探す費用が高くなり、もしマッチしなければもう一度探し直す必要に迫られてしまう。
  6. ^ 家計の出生行動に関する経済学的サーベイに関してはHotz et al. (1997)を参照のこと。
  7. ^ 実際に、人口密度の高い地域ほど賃金が高いという関係は、労働者の個票データより森川(2014)の第5章において分析されている。
  8. ^ 現実には職住近接ではない場合があり、通勤時間も出生行動に影響を与えるはずである。したがって、間接的には集積による混雑費用が低出生率を引き起こしていると言えるだろう。
  9. ^ 現在、筆者は実証研究を進めており、草稿は今年度中に発行予定である。
  10. ^ たとえば、森川 (2014)や地域経済プログラムのプロジェクト成果を参照のこと。
  11. ^ 高学年の子供をより想定している家計ほど、このような全国一律の給付額の影響は大きくなるかもしれない。一方で、乳幼児期をより想定している家計ではむしろ保育サービスの充実が出生に大きな影響を与えているかもしれない。以上の点は、今後の研究調査が必要とされる。
  12. ^ このような視点は、時系列的に日本全国の平均的な出生率を引き上げるという意味でも重要である。
  13. ^ 完結出生児数の詳細に関しては国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」を参照のこと。
参考文献
  • Becker, Gary S. (1960) "An economic analysis of fertility," in Universities-National Bureau ed. Demographic and Economic Change in Developed Countries, New York: Columbia University Press, pp. 209-240.
  • Becker, Gary S. (1992) "Fertility and the economy," Journal of Population Economics 5(3), pp. 185-201.
  • Hotz, V. Joseph, Jacob Alex Klerman, and Robert J. Willis (1997) "The economics of fertility in developed countries," in Rosenzweig, Mark R. and Oded Stark eds. Handbook of Population and Family Economics Vol. 1A, Amsterdam: Elsevier, Chapter 7, pp. 275-347.
  • Sato, Yasuhiro (2007) "Economic geography, fertility and migration," Journal of Urban Economics 61(2), pp. 372-387.
  • Willis, Robert J. (1973) "A new approach to the economic theory of fertility behavior," Journal of Political Economy 81(2), pp. S14-S64.
  • 厚生労働省 (2005) 『厚生労働白書』, 厚生労働省, 東京.
  • 森川正之 (2014) 『サービス産業の生産性分析-ミクロデータによる実証』, 日本評論社, 東京.

2014年8月15日掲載

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