Special Report

国際標準化についてのコメント

清川 寛
上席研究員

1.はじめに

昨今、標準化、特に国際標準化が着目されている。昨年末に策定された「国際標準化総合戦略」および「知的財産推進計画2007」において、「国際標準化活動を強化する」と提唱されている。この背景には、いわゆるネットワーク経済の進展から、そして経済のグローバル化から国際標準が重要となってきたこと、またかつての公共財的な標準から特許等の知的財産権を取り込んだ標準が増えていること、このため国際標準化に乗れるか、特にその内容に自社技術を関与させられるか等が競争優位性に大いに影響してくるようになったこと、等が挙げられる。そしてこのような状況変化から欧米諸外国を始めとして、更に韓国や中国等でも国際標準化への取り組みを強化している。

たしかに自国(あるいは自社)の技術をもってそれを国際標準にできれば、先行者として国際競争上優位に立てる。しかもその標準に自己の知的財産権が絡めば他社への優位性は極めて強力なものとなろう*1

よってわが国としても国際標準化活動に積極的に取り組むことは当然とも言えよう*2

ただ冒頭に述べた日本政府の「戦略」や「計画」においては、いわゆる技術面が中心でその目標として「わが国技術を国際標準にすること」に非常に固執しているように感じる*3。たしかにそれが出来れば素晴らしいし、またそれに向けてのわが国企業・産業、国民への啓蒙や人材育成の取り組み等々は重要であり、その推進に反対するものではない。ただ「国際標準化」の重要性というかその持つ(場合もある)メリットに目がくらんでの「自国技術の優位性の強調」や「自国技術の国際標準化への固執」といった対応*4は、いずれ何らかの問題を引き起こさないか心配が残る*5

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2008年1月16日
脚注
  1. またそれに向けて行ってきた研究開発費も無駄なく使えたこととなり、効率的なR&Dないしイノベーションをしたこととなり経営的にもプラスとなる。
  2. 関連して我が国の標準化への取り組みを概観するに、電気製品等我が国得意分野では大概の大手がフォーラム等に積極的に参加し所謂日系主体の標準策定が出来ているが、コンピュータ、半導体電子デバイス等では米に一日の長があるようで、通信とかのルール作りでは、欧州の多数決に適わない面がある。
  3. その証左に特許付きを極めて気にしており、説明の際の事例も技術的なものが多い。
  4. 本件は「知財戦略本部」で取り扱われるが、近時の問題点が標準と知財関係であることから、その意味では順当といえよう。ただ知財の場合も、その排他権、いわゆるプロパテント面が強調されすぎややもすれば競争政策からのバランスが見失われた感があるが(筆者の感想)、この国際標準化についてもそのメリットが強調され、「何が何でも標準を採る」ような態度が先に立って冷静な見方が出来ていないのではないかと懸念される。即ち、結論でも述べるが、国際標準化も(知財も又同様)あくまで「経営戦略」の一要素にすぎないのだから、バランスした対応が必要であると思う。
  5. むしろISO等ではいわゆる技術以外の分野、たとえば品質保全、環境管理、金融関連等の標準化を進めており、その分野での我が国立ち後れが懸念される。ただ本稿では戦略も技術面を中心とするようなので、技術的標準を重点に論じることとしたい。

2008年1月16日掲載

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