Special Report

RIETIを振り返って

岡松 壯三郎
RIETI前理事長

2005年8月5日に退任なさった岡松壯三郎前理事長に、RIETIの目指していたもの、設立から現在にいたるまでのRIETIでの思い出等についてお話を伺いました。

RIETI編集部:
岡松理事長、4年半お疲れさまでした。まずは設立時に岡松理事長がRIETIをどのような組織として運営しようと目指されてきたのかについてお話いただけますでしょうか。

岡松:
RIETIの立ち上げ時は、「政策研究機関はどうあるべきか」が大きな課題でした。そこで、RIETIの中期目標を踏まえて、政策研究機関には何が必要で、他機関では出来ないことで我々がやらなければならないことは何かを考えました。

よくアメリカのブルッキングス研究所のような政策研究機関を日本でも作ろうという議論がなされましたが、ブルッキングスはアメリカの税額控除される寄付制度と、既存の大きな基金に支えられています。また、4年に1回大統領選があり、その際に政府の人材が入れ替わり、リボルディングドアで政策担当者とともに政策情報が外に出ていきます。外に出た人たちが次の選挙に向けて3~4年間政策を研究し、また政府に戻っていくという人材の流れがあります。しかし日本では、現実にはかなり多くの場合霞ヶ関の役人が政策立案者ですから、ブルッキングスのような研究所をといわれても、なかなか難しいのです。

そこで「フィランソロフィ-研究会」(通称)というものを立ち上げ議論した結果得た結論が、政策研究機関には1)資金があること、2)人材を確保すること、3)情報が的確に集められることが必須であるというものでした。

資金は幸い経済産業省からの運営費交付金が与えられることから、人材と情報が鍵だということです。人材については、RIETIは独立行政法人の利点を活かし、省内外さらに外国からも人を集めることを心掛けましたし、政策研究に必要な情報については、RIETIが霞ヶ関にあることに加え、経済産業省ばかりでなく、他省庁からフェロ-、コンサルティングフェロ-の参加が得られる環境にあることからこの3点を適えられると考え、政策研究は日本ではRIETIだからこそできることだと確信し取り組んできました。

RIETI編集部:
四年半を振り返り、RIETIの成果をどのように自己評価なさっていらっしゃいますか?

岡松:
まず、RIETIには外部評価委員会があり、そこで4年間連続でA評価という高い評価をつけていただけたことは非常に嬉しく思っています。個人的な評価ですが、新しい組織として、いろいろな人に集まっていただき、幅広い政策研究を展開できたことを誇りに思っています。

内部管理問題として人事評価制度の導入は試行から入りましたが、フェロ-、スタッフごとに制度が確立できたことは評価されます。

イベントでは20数回開かれた政策シンポジウムには、インハウスの研究者に加え内外の研究者の参加を得て活発な議論が行われましたし、延べ5500人位のオーディエンスに熱心に耳を傾けていただきました。また、日本でBBLを定着させたのはRIETIです。今では300回を超える回数を重ねたBBLですが、BBLでRIETIを知った人がかなり大勢いると聞き、狙い通りだったと思っています。RIETIのいわば「ショーウィンドウ」として、外部の人にRIETIはこういう組織でこういう研究をしているということを知ってもらう。また、RIETIの研究員にとっては、BBLが経済問題だけでなく政治の問題や社会の問題についてもカバーすることから、研究員のマインドや知識を広げることに大いに役立ったと思います。

こうしたシンポジウム等の成功は、研究員の方々や関係スタッフの方々の努力の賜だと思っています。この場をお借りして深く感謝したいと思います。

RIETI編集部:
RIETIという新しい試みの中でご苦労なさった点はございましたでしょうか?

岡松:
まったくゼロからのスタートで、仕事のすすめ方から内部規程まで一からルール作りをしなければならなかったのでいろいろと大変ではありましたが、RIETIにはいろいろなバックグラウンドを持った人が集まっていて、組織成員にバラエティがあることが新鮮な体験でした。一番苦労した点は、研究者とマネージメントとの関係をどう構築するかといった点だったと思います。研究者は当然自分の意見を持っていて、主張があります。また、そうでなければなりません。その一方で行政では1つの政策立案にあたっては、いろいろな利害関係などを調査し、調整し、1つの政策案にまとめ上げる。この過程には当然妥協もある。そうした中で、研究者とマネージメントとの関係をいかに構築するかは苦心したところです。

また、RIETIをどう広報していくかということもいろいろと悩みながらやりました。RIETIでは広報活動の柱としてウェブサイトを位置付けたわけです。2004年度の日本語サイトTOPページには約50万件のアクセスがあり、初年度より年々順調にアクセスを延ばしております。一方でインターネットをあまり使わない人々もいます。そこで今年からはウェブへ誘導する紙媒体「RIETI Highlight」をスタートさせました。また、RIETIの論文をポリシーメーカー、経済界の人々などにわかりやすく読んで貰うための工夫として、新しくPolicy Analysis Paper(政策分析論文・PAP)シリーズを創刊しました。

RIETI編集部:
RIETIで一番楽しかった思い出は何でしょうか?

岡松:
ゴーチョクトン首相に講演に来ていただいた事が印象深いですね。はじめ先方からはどこか他の場所でやりたいとの話があったのですが、RIETIの中でやるから意味があるのだと説明してRIETIで開催しました。ゴーチョクトン氏をはじめ、「ユニクロ」の柳井社長、新生銀行の八城氏、フレッド・バーグステン氏であるとか、さまざまな方々の話が直接聞けたことは良い思い出です。

また、政策シンポジウムの質疑応答の時間には、よその講演会とは違い、いつも多くの手があがり、時間が足りない状態になっていましたが、それを見ているのが嬉しかったです。政策シンポジウムの際、私は閉会の辞を述べさせてもらいましたが、ただの挨拶では意味がないので、毎回シンポジウムの内容について勉強し、丸一日耳を傾け自分なりのコメントを皆さんに聞いていただけたことが楽しかったですね。
とにかくこの4年半今まで他では得られなかった貴重な経験をさせていただけたことに感謝しています。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2005年9月16日
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2005年9月16日掲載

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