Special Report──RIETI政策シンポジウム「グローバル都市の盛衰-東京圏、日本、そしてアジアにとっての含意」直前企画

アジアとの協調関係が東京の発展の鍵

青山 やすし
明治大学公共政策大学院教授/元東京都副知事

昨今、東アジア全体が「世界の工場」としての地位を揺るぎないものとしつつあり、この地域の世界貿易・世界経済における重要性が急速な高まりを見せています。また、それと並行して、アジアにおいては大都市の集積が着実な成長を遂げてきています。都市集積の重要な点は、都市が「イノベーションの基地あるいは揺りかご」としての役割を果たしていることです。RIETI政策シンポジウム「グローバル都市の盛衰-東京圏、日本、そしてアジアにとっての含意」では、都市集積の成長の背景には広義の規模の経済が存在する中で、アジアを代表するワールド・シティである「東京圏」の現在のポジショニングは、21世紀を通じて不変なものであるのかといった問題意識を持ち、日本の都市、特に東京圏の役割を捉えます。本コーナーでは、シンポジウム開催直前企画として、シンポジウムの論点の見どころ等についてシリーズで紹介していきます。第1回目は東京都副知事として都政に深く関わり、『東京都市論』(かんき出版)、『石原都政副知事ノート』(平凡社新書)等の著者である青山やすし明治大学公共政策大学院教授/元東京副知事に、「東京」が世界から期待されている役割やシンポジウムに期待する議論といった点についてお話を伺いました。

RIETI編集部:
「東京」という都市をどう捉えていらっしゃいますでしょうか? 諸外国の都市に比べて足らない部分や魅力的な部分についてお聞かせ下さい。

青山:
不十分なのは道路です。都市計画道路の半分くらいしかできていません。
空港は成田に2本、羽田に3本の滑走路で、ニューヨークの9本に比べて不足しています。今、羽田にもう1本滑走路をつくることが決まっています。東京都は横田基地の滑走路も民間が使用できるようにするべきだと要求しています。鉄道は第1に駅数が500を超えている、第2に地下鉄と郊外線が相互直通運転を行っている、第3に本格的な環状線を2本持っているなど、世界に誇ることができる水準だと思います。

東京の魅力は、ひとことで表現すると混沌です。都心ビジネス街、近隣商業地、界隈性をもつ木造密集地、さらには山、川、海、そして島々と、東京にはなんでもあります。そういう多様性が東京の魅力でしょう。

RIETI編集部:
「東京」がワールドシティとして今後どういう役割を担っていくとお考えでしょうか?

青山:
GLA(大ロンドン市)は世界都市をロンドン、ニューヨーク、東京としています(「ロンドン・プラン」)。私がパリも世界都市ではないかと言ったら、近すぎると言いました。東京の強みは、これらの世界都市から離れていることです。しかし、急速に発展するアジアの諸都市と近すぎるので、これを強みとするか弱みになってしまうか、アジアとの協調関係が東京の発展の鍵となります。
東京は「もの」はなんでも受け入れてきました。しかし異邦人を受け入れる覚悟があるかどうか、それが問われています。ここでいう異邦人とは、外国人だけではありません。多様な考え方、多様な生き方、多様な文化を受け入れる覚悟があるかどうかということだと思います。

RIETI編集部:
東京の活性化には何が必要でしょうか?

青山:
日本は長い間、拠点主義ではなく均衡発展主義、地域特性尊重ではなく画一メニュー主義の国土政策をとってきました。これを転換して各地域の創意工夫を生かすとともに、首都東京にあと10年だけ重点投資をして情報化時代、成熟社会にふさわしい都市づくりをすることが大切だと思います。
関東平野は、従来、鉄道にしても道路にしても放射方向の都市施設整備に取り組んできました。これからは環状方向の交通ネットワークの整備に力を入れなくてはなりません。高度情報化時代に入って、人々の移動は都心と郊外の通勤移動ではなくもっとずっと複雑になっているからです。

RIETI編集部:
RIETI政策シンポジウムでどのような議論、政策提言がなされることを期待していらっしゃいますか?

青山:
持続可能性も時代のキーワードです。これを、単に地球環境だけでなく、経済的にも、そして人々の生活も持続可能な社会としていくにはどうしたらいいか、という議論を期待しています。20世紀の日本はものづくりで発展してきました。21世紀はこれに加えてまちづくりが大切です。特に住宅です。ものづくりを担ってきた人たちの住宅はまだまだ貧弱です。成熟社会にふさわしい住宅の質的向上が求められています。私は全国一律の容積率制度による建築規制から景観・デザインを重視したまちづくりへの転換を提案しています。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2005年3月4日

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2005年3月4日掲載

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